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第三話 心力使い

「ま、さっき倒れなかったのもどうせマグレかなんかだろ……」



 そう言って男は右手を銃の形にしてこちらに向けてきて――



「はい、バーン!」



 と景気よく叫ぶ。その瞬間、指先が光り、胸に先ほどと同じ痛みが走る。



「……ッ!」

「は? なんで? 今度はちゃんと狙ったんだが……」



 またも倒れない俺に対して、男の顔に警戒の色が浮かぶ。



「お前、なんで悠香と俺を狙った?」



 男に話しかける。なんの能力も無い俺が無理に戦っても意味が無い。なら、少しでも話をして時間を稼いだ方が懸命だ。



「ん? 別にお前らを狙ったわけじゃねーよ。ただお前らがこの暗〜い路地裏に来たから、この力を使ってありがた〜く金をいただこうと思っただけだ。

 って……俺の話はどうでもいい。お前だ、お前。どうしてこれに耐えられる?」

「それは……」

「まあいいか。さっきから効いてはいるっぽいし。そのうち倒れるだろ」



 言い終わると同時に、男が再び人差し指をまっすぐと俺の方に伸ばし、光が放たれる。



「チッ!」



 突然俺へと向かってきた攻撃に、掛け声はいらないのかよ! と思いながらもなんとか指先が光るのに反応してギリギリで攻撃を躱す。俺がもといた場所を見ていると、稲妻のようなものが一瞬見える。



「今の……電気か?」

「おお、よく分かったな。まあだからなんだって話なんだけど」



 男は余裕たっぷりの様子で電撃を連続で放ってくる。しかし、連発しているからか狙いの精度は悪く、近くのゴミ箱や壁にも当たっている。



「……ッ!」



 しかし狭い路地裏でその攻撃を避けきることは難しく、体中に痛みを感じながら、慌てて近くのゴミ箱に身を潜める。どうやら物を貫通して攻撃することはできないらしい。



「……ッチ! 当たんねぇな」



 男は近寄りたくないのか、こちらの様子を伺っている。



(おい! ナナシ! まだか!?)

(もう少しだ。頼む)

(この膠着状態が続くならいけそうだけど……)

「あ、そうだ。そこの……ユウカちゃん……だっけ? お前の彼女か何か?」



 ナナシと話していると、突然男がそんなことを聞いてくる。質問の意図は分からないが、攻撃されない時間が増えるのは好都合。そう考えて俺は質問に答える。



「別に、ただ小さい頃からの幼なじみで仲がいいってだけだ」

「ふーん。そうかそうか。ちなみに今、悠香ちゃん、俺の目の前に居るんだけどいいの?」



 俺は一気にその質問の意味を理解して慌ててナナシに話しかける。



(おいナナシ!あいつの攻撃は魂にダメージを与えるって言ってたよな!? もし倒れたあとも魂にダメージを与えられたらどうなる?)

(そうなったら死ぬな。ああ、なるほど。あいつはユウカを人質にしているのか)



 ナナシは感心した様子で男の目的に気付く。



(なんとかならないのか!?)

(なんとかなるならすでにしている。遅いのは分かるが他人の魂の中だと今までと勝手が違うんだ)

「ほら、早くしないとユウカちゃんにも攻撃しちゃうよ?」



 ナナシと話していると、男は下卑た笑みでこちらを伺っている。



「5〜」



 男がカウントダウンを始める。



「4〜」



 オーラを纏った右手の先でビリビリと光が強くなっていく。クッソ! あの電撃溜められるのかよ! ただでさえアレを食らうのキツイって言うのに!



「3〜、2〜」



 これ以上考えている暇はない! 無理矢理にでも近づいてあいつの顔面に一発入れてやる!


「1――」

「うおおおぉぉぉ!」



 男のカウントダウンが終わる寸前、俺は覚悟を決めてゴミ箱の裏から飛び出す!



「馬鹿が! 本当に殺すつもりな訳ねぇだろ! これでお前も終わりだ!」



 俺の方に指を出し電撃が放出される瞬間――



「無駄だ!」



 さっきまで隠れてたゴミ箱の蓋を盾にして電撃を防ぎ、そのまま男に近づいていく!



「なっ!?」


 男は防がれたことに驚いていたが、すぐに切り替えて、盾では防げない足を狙ってくる。


「ッ! もう遅い!」


 溜めた電撃ならどうなるかは分からないが、単発なら倒れるほどじゃない。電撃の痛みに耐えながら男のすぐ側についた!



「さっきまで良くも人の体にビリビリと電撃を当ててくれたな!」



 憎まれ口を叩きながら思いっきり拳を振り上げる。



「このガキがァァァァ!」



 男の右手が光り、電撃が放たれる寸前に拳が男の顔に俺の拳がめり込む。



「グァッ!」



 情けない声と共に男が吹っ飛び、倒れる。



「ハァ、ハァ、ハァ」



 初めて人を殴った……。右手が痛む。



(おお、やるな!)



 呑気にナナシが俺に話しかけてくるが、今はそれどころじゃない。慌てて悠香に駆け寄る。



「おい! 悠香! 大丈夫か!?」

(まだもう少しかかると思うぞ。心力を持っていない奴が魂にダメージを受けんだ。回復には時間がかかる)

(そ、そうなのか? 俺は別にそんなこと無いんだけど)

(それだけお前の魂の力……もとい適正が高いってことだ)

(適正?)



 聞き慣れない単語に思わず聞き返す。



(心力を扱う才能や、心力に対する抵抗力の高さだ。俺が保証してやるが、お前適正ははっきり言って異常な程だ。俺が今まで見た誰よりも、そして俺よりも高い)

(ふ〜ん。っていうかお前結局何もしてねぇじゃねぇか!)



 呑気に説明をするナナシに苦情を述べる。コイツ……あんなに偉そうだった癖に本当に何もしてくれなかった……。


(しょうがないだろ。お前の魂の適性が高すぎて中々上手くお前の体を使える状態にならなかったんだ)

(ああ、なるほど。それより……コイツどうしよ――)



 その瞬間俺の体をさっきまでとは比較にならない程の激痛が走った。体に力が入らなくなり、前のめりに倒れる。


「……カハッ!」

「人の顔思いっきり殴りやがって……! 最初は気絶させるだけのつもりだったがもういい! 顔も見られてるし、殺してやる。どうせ、証拠も残らねぇんだ」



 男は立ち上がると、右手を突き出し指先を光らせる。



「死ね」



 ヤバイヤバイヤバイ! 体に力が入らない! そもそも今まで人なんて殴った事ないんだから一発で倒れるはずなかった! 俺、死ぬのか? 悠香はどうなる? 


 死を間近に感じる。軽くパニック状態になり、考えがまとまらない。



(落ち着け、お前の体、今度こそ借りるぞ)



 頭の中にナナシの声が響いたと同時に体の感覚がなくなり、視界が勝手に動く。



「悪いな。それ以上攻撃を受けるとコイツの魂が壊れるからな。終わらせてもらうぞ」

「は?」



 男は突然口調が変わった俺に困惑の様子を見せる。



「『心力模倣《重力操作》』」



 しかし、ナナシはそんな事は気にしていない。掛け声のようなものと同時に、男が地に伏せる。



「ウゥッ!」



 男はよほど強く体を打ち付けたからかうめき声を上げる。そして俺の体が立ち上がる。



「お前、これまで何人にその電撃を打った?」

「お、お前らで4人目だ。」



 男は怯えたような様子で答える。



「お前ら?」



 ナナシは、俺の体で男の頭を踏みつけた。その声は口調こそ変わっていないものの、軽蔑の感情が込められている。



「あ、あなた達で四人目です! もうこんな事はしません! 反省しています! どうか許してください!」



 男は情けない声を上げながら、謝り倒す。それを聞いたナナシは……。



「駄目だ。許さん。お前みたいに他者を傷つけるような奴に持たせられるほど、その力は優秀な物じゃない。せいぜい、その力を他者に使った自分を恨むんだな。『心力模倣《電撃》』」



 その瞬間、ナナシは先程まで男が使っていた電撃の何倍もまばゆい光を出し、男に向けて放つ。



「……ッ」



 電撃を受けた男は体をビクッとさせて、そのまま動かなくなる。



(お、おい、ナナシ。殺してないよな?)

(ああ、大丈夫だ。心力使いは魂が相当強くなる。死にはしない。まぁ、もうこいつは心力を使えないだろうが)



 そう言いながらナナシは男の体を調べだす。



(? 何してんだ?)

(あいつはまあまあ上手く心力を使っていた。もしかしたら……と思ったんだが……。お、あったぞ)



 そう言いながらナナシは男の胸元から黄色い宝石のようなものを取り出す。



(なんだ? それ)

(『心像』だ。これを取り込むと取り込んだやつは元の持ち主の心力を使えるようになる。出るかどうかは半分運だけどな。これがあれば、お前も戦う力を得れるわけだ)

(おお! それはありがたいな。ぜひ貰いたい)



 今回の戦いはなんとかなったが、これからどうなるかは分からないからな。力を貰えるなら貰っておきたい。



(ただし、条件がある。ちゃんと心力使いを止める手伝いをしろ)

(……)



 そう言われ、俺は悠香を見る。倒れているが確かに息をしているその姿を見ると、先程死にかけたからか、とてつもない安心感が湧き出てくる。



(ハァ……。分かったよ。俺も力がほしいし、協力するよ。あと、図々しいのは分かるんだが、一つお願いがある)

(なんだ? お前が協力するだけでこっちとしては大満足だ。できるだけのことはするぞ)

(俺の大切な人を死なせるな)

(……理由を聞いてもいいか?)

(なんでだよ?)



 協力しろってずっと言ってたくせに今度は理由がいるのかよ。



(お前の魂の適正が思ったより高かったからな。この力を悪用されると困るんだ。だからお前の覚悟を聞いておきたい。納得のいくものなら使わせてやる)

(随分と偉そうだな)

(良いから話せ。まだそこまで自覚できないとは思うがそれだけお前の適正は高いんだ)

(……)


 俺はそう言われてから、少し考え、そして話し始める。



(俺さ、小学校の時母さんが事故で死んでるんだよ。)

(……)



 話し始めると、ナナシは静かに聞いてくれる。



(別に、事故を起こした人を恨んでるわけじゃない。もう七年前の話だしな。だけどさ、急に死んじゃったからさ、何もしてあげられなかったんだよ。別れの挨拶すらも)

(……別にお前のせいじゃないだろ)



 ナナシは俺を慰めるように言う。コイツなりに俺に気を使ってくれたのだろう。


(ああ。そうだな。でもな、やっぱり悔いは残るんだよ。いや、人が死ぬなら必ず悔いは残るとは思う、でもそういうのってできるだけ減らしたいだろ? お前に分かるのかは分からないけど)

(……いいや、よく分かる)



 しみじみとした感じの答えが返ってくる。何か身に覚えがあるのだろう。



(そうか。……それでさ、さっき悠香が狙われた時、ここで悠香が死んだらって考えたらすげぇ怖かった。また別れの挨拶もできないのかって。そんなの嫌に決まってるだろ?

 死なないでほしいんだよ。急には。病院のベッドでみんなに囲まれて、とかさ、ありきたりだけど、そういう、すげー恵まれた死に方。そういうのを俺の大切な人にはしてほしい。そう思っているんだ。

……あー! もう! これくらいで良いか! こんなこと話していると話しているこっちの背中がむず痒くなってくる)

(理由を聞いたのはこっちだ。別に気にしなくていい。それと――)

(なんだ?)

(絶対にお前の大切な奴は死なせない。)



 ナナシは覚悟を決めるように宣言した。



(そうか。ありがとな。じゃあ……これで交渉成立か?)

(そうだな)



 ナナシの返事と同時に体の感覚が戻る。



(で? どうやったら心力が手に入るんだ?)

(簡単だ。心像を砕けばいい)



 言われたとおりに心像に力を入れると、簡単に砕けて光が俺の中に入って来る。



(これで、心力を使えるようになるはずだ。使い方は分かるか?)

(ああ、なんか使い方が頭に流れ込んできた)



 試しに電気を指先に溜めてみと、先程のナナシよりも強く指先が光る。



(おお……。これが心力か)

(お前の魂の適正ならそれくらいは余裕だろう)

(へぇー、ってそれよりも早く悠香を家に帰さないと)



 恭子さんが心配すると思い、悠香の肩を持ち、悠香に家に向かう。



(っていうかこいつどうしよ)



 俺は倒れている男に目を向ける。



(放っておけ。どうせ何かされても自業自得だ)

(それもそうか。そういえば……お前さっきなんか電撃と重力操作? 使ってたけどどっちもお前の心力なのか?)

(よくぞ聞いてくれた! そう、俺の心力は他人の心力を模倣できる! よってこう名付けた! 『心力模倣』とな!)

(お、おう、強いな)



 急にハイテンションになったナナシに適当に相槌を打つ。あんまりコイツのテンションの変わりようが分からない。



(そうだろう、そうだろう。これで200年前も多くの心力使いを倒したんだ。そいつらの心力も模倣できるからな。大抵のことは……。って聞いてるか?)

(悪い。あんまり聞けないかも)



 悠香を抱きかかえるように持ち上げようとするも、体に微妙にしびれがあって運ぶのがキツイ。これちゃんと家まで運べるか?






「ハァ、ハァ、ハァ……」



 悠香の家に息を切らせながらも着く。意識を失った悠香を見た恭子さんは驚いていたが、モクバーガーで勉強していたら寝てしまっただけだ。と誤魔化したら



「面倒をかけてごめんなさいね」



 と何度も謝ってきた。



「いえいえ。今までお世話になってきたので、これくらいは当然です。あと、悠香によろしく言っといてください」

「分かったわ。全く悠香にもそれくらい真面目でいてほしいものね」



 と愚痴をこぼされる。



「まあ、学校だとかなり猫かぶっていますけどね。それじゃあ」



 と帰りの挨拶をする。一応フォローのつもりだ。



「じゃあね〜」


 恭子さんの返事を背に受けながら、俺は帰り道を歩いていった。





 その後、家に帰り、寝る寸前にあいつに呼びかける。


(ナナシ)

(なんだ?)

(そういえばさっき助けてもらったお礼を忘れてたと思ってな。ありがとう)

(当たり前だ。お前に死なれると俺も死ぬからな)

(とりあえず、明日からもよろしくな)

(ああ、よろしく)



 こうして、俺の、街を守る長いような短いような物語が始まったのだった。

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