第三十四話 再び
お待たせ致しました!
次回は7月19日午後七時投稿予定です。
家を出た直後、俺は携帯を開き悠香へとメッセージを送る。
『さっきは悪かった』
『話がしたい』
『今どこだ?』
しかし、いくら待っても既読すら付かない。
仕方がないので小清水にメッセージを送ると、すぐさま既読が付く。どうやら待っていてくれたらしい。
返事を待っていると携帯から着信音が鳴る。小清水からだ。
「?」
わざわざメッセージで良いところで電話が掛かってきて、首をかしげる。
なんだか嫌な予感がする。そんな思いを胸に抱きながら電話に出る。
「もしもし? 小清水か? どうしてわざわざ電話なんかで--」
『ふ、伏島くんっ! 悠香ちゃんが! 悠香ちゃんが!』
電話に出ると、途端に切羽詰まった声が聞こえてくる。どうやらかなりパニックになっているようだ。
「と、とりあえず落ち着け! 悠香に何があったんだ? 小清水は大丈夫なのか?」
『あ、ご、ごめんなさい……。私は大丈夫。でも……悠香ちゃんが……』
少し落ち着きを取り戻した小清水。しかし問題は悠香だ。俺は未だに状況が飲み込めて無い。
「それで……何があった? 二人は今どこに居る?」
『今は公園。何が起きたかは……多分……来た方が早いかも……』
「分かった。今行くから少し待ってくれ」
『うん。それと……さっきはごめんなさい』
恐らく悠香のことだ。俺が詰めよったせいとは言え、今の事態を引き起こした原因の一端になってしまったことは事実だ。
そのことに罪悪感を覚えてしまっているのだろう。
「気にしないでくれ。それよりも悪かったな。怖がらせて」
『ううん。伏島くんに余裕がなかったのは仕方がないことだし……。気にしてないから安心して?』
「なら良かった。……今はこんなこと言ってる場合じゃないな。また後で」
『うん。また後で』
通話を切り、公園に向かって走り出す。とりあえず小清水から許しを得られて良かった。
だけど、安心している場合ではない。まずは悠香を助けよう。話はそれからだ。
(ナナシ! 起きろ! カノン・リールズが来た!)
(なんだと?)
走りながらナナシを起こす。
湯ノ花は先程、特に俺たちに直接は危害は加えて来なかった。だが次はどうか分からない。もし戦闘になったときのために、ナナシには起きておいてほしい。
(相手は一人、薄い茶髪の女だ! 自分では名前を湯ノ花って名乗ってた。お前、前にカノン・リールズのメンバーに会ってるよな? その中に同じ見た目のヤツは居たか!?)
(ああ。居たな。アイツか……。能力は分かったか?)
(いや、詳しくは分からない。だけど、最初に見たときは悠香の姿に化けて、逆に悠香の姿が見えなかった。多分、目に見える物を変えるとか、多分そういう類の能力だと思う)
(分かった。それならそこまで気にしなくても良いだろう。それで……悠香はどうした? 今は一緒に居ないようだが……)
腕に生やした目をキョロキョロとさせ、ナナシは辺りを見回す。
(今は公園だ! 小清水によると湯ノ花に何かされたらしい! 今向かってる!)
(……少し待ってろ。ユウカの魂の状況を見てくる)
(ああ! 頼む!)
返事をすると、左手に生えていた目が引っ込む。悠香に渡したナナシの魂の欠片を使っているのだろう。状況を早く知りたかったこちらとしては非常にありがたい。
しばらくすると、ナナシが再び俺の左手に目を生やし、話し始める。
(暴走状態だな。湯ノ花に心力を無理やり渡されたのだろう。心力の強さがユウカの魂の適正を大きく超えている)
(暴走……。そうか……)
どおりで小清水には何が起こったのか分からない訳だ。
(一応言っておくが、暴走のことは他言するなよ)
(え? なんでだ?)
日ノ神達を逃した帰り道、ナナシからそんなことを言われた。
(言う必要がないからだ。暴走のことを知っていたからと言って自分の感情を制御して暴走を止めるなんてことできやしない。それと、暴走するかも知れない、その不安が暴走のきっかけになり得る。逆にお前は暴走の心配がほとんどない。だから話した。良いか? 俺がもし暴走に対応できないような状況に陥ったら頼むぞ? そんなときはお前が暴走した奴らを助けるんだからな?)
(あ、ああ)
突然任された大役。その重さに困惑する俺だった。
というわけで、小清水達に暴走のことは話していない。だから、湯ノ花に心力を渡されて悠香に異常が起きたってことしか分からなかったのだろう。
(結局、悠香は心力を渡されて暴走したってことで良いんだな?)
(ああ。だがそれだけじゃない)
(え?)
(ユウカの感情が大きく揺れていた。スグル、何があった?)
(……)
悠香の感情が大きく揺れていた。そのナナシの言葉に思わず動揺。本当に悪いことをしてしまった。
(まぁ……ちょっとな。軽い喧嘩みたいなもんだ。気にしないでくれ)
(そうか)
短い返事だけが返ってきて、それ以上の追求はなかった。どうやらある程度察してくれたようだった。
しばらくして、公園に到着する。俺はその異常な様相に、思わず呆然としていた。
「なんだよ……これ……」
そこにあったのは十階建てのビルほどの高さにもなる氷の塊だった。それが公園全体を囲むように辺りの空気を冷やしている。
「伏島君っ!」
「小清水! どうしたんだ!? これ!」
「わからないの! ただ、あの湯ノ花って人が悠香ちゃんに何かしたあと、急に悠香ちゃんの様子が変になって……そしたら……これが出てきて……」
「……」
小清水の話を聞いて状況を整理する。湯ノ花になにかされた……。多分この時に心力をもらったのだろう……。そして悠香の魂の適正が限界を超えた結果今の暴走に至る。それならこれは悠香の暴走が引き起こした結果なのだろうか? どちらにせよ早く助けなければ。
「小清水。これ、中には?」
「ううん。一回周りを見てみたのだけれど、どこにも穴はないみたい……」
「そうか。ナナシ、この氷に通れるように穴開けられないか?」
「ああ。任せろ『心力模倣《破城の戦鎚》』」
ナナシが短く唱えると、目の前の氷の壁が激しく音を立てながら崩れ落ちる。
「おお。すげぇ勢いだな……。ありがとうな。ナナシ」
「……」
「ナナシ?」
俺の返事に、何故か無反応のナナシ。何かあったのだろうか?
「スグル。マズイことになった」
「ん? どうした?」
「眠い」
「はぁ!?」
ナナシの衝撃の発言に思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「おまっ! 最近全然役に立ってないって話したばっかなのにまた……っ!」
「仕方ないだろう。これは生理現象みたいなものだ。俺の意思じゃどうしようも……」
「おい、ナナシ! ナナシ!」
「悪い。そろそろ限界だ。アヤネ」
「え? は、ハイッ!」
突然声をかけられた小清水はビクッとし、居住まいを正す。
「お前は外で待ってろ。詳細は省くが、今のユウカを助けるにはできるだけ一対一。それもスグルとが好ましい。出来ればで良いが、外から人が来ないようにしてくれ」
「は、はい!」
「スグルは……分かってるな?」
「ああ。悠香をなんとかして驚かせて、暴走を抑える。だろ?」
「分かってるなら良い。それと、一応言っておくが放置はダメだからな? 魂がその限界を超えた状態で長時間放置されるようなら、簡単に死に至る。だから……俺は援助できないが……頼む……ぞ……」
言いながら、少しずつ瞼が降りていき、完全に閉じると同時にその目が引っ込む。どうやら完全に眠ってしまったようだ。
「それじゃあ……小清水。外の方は頼む」
「う、うん。じょ、状況はよく分からないけど……頑張ってね?」
「ああ」
小清水に短く返し、俺は氷の穴へと足を踏み入れていった。
「寒っ……」
入り込んだ氷の中はその見た目通り低い気温を保っていた。今の夏の気温とは大違いのため、慣れていない体が思わず身震いする。
そのまま進んでいくと、氷の洞窟が途切れ、大きな空間が現れる。その空間も周りはすべて氷に覆われている。その空間の中央には……
「悠香!」
「え……スグ兄?」
佇んでいた悠香に向かって大声で名前を呼び、悠香に向かって駆け出す。しかし−−
「来ないでっ!」
「っ!」
聞いたこともないような大声が俺の耳を貫き、つい気圧される。
「悠香! さっきは悪かった! 何も聞かずに追い出して……。もう大丈夫だ! 話を……」
そう足を前に出したその時−−
「だから来ないでっ!」
「は?」
俺の目の前に大量の氷の棘が現れ、悠香への道を塞ぐ! なんだよ……。これ……。
「おい! 悠香! どうしたんだよ! これ!」
「能力が……抑えられないの……。スグ兄……逃げて……!」
「……」
俺はまだ、悠香の話を聞けていない。あの事件のことも全く分かっていない。そんな状態でアイツを見捨てて逃げる? そんなのは絶対に嫌だ。だが、そんな俺の考えは露知らず、悠香は話を続ける。
「私はもう良いの! スグ兄にずっと隠し事して、それなのにあんな図々しく接してきた……。これはきっとその罰なの! だから……もう……」
言いながら、悠香の声がだんだん萎んでいく。……その顔は、俺の勝手な思い込みかも知れないけど……確かに……助けを求めているように見えた。
「ふざけんなよ……」
「え?」
「いいか! 悠香。俺はお前を見捨てて逃げるなんて絶対にしない! 必ずお前を助けてやる……! だから……
母さんの話、あとで絶対にしてもらうぞ」
今度はアイツを突き放すなんてこと、絶対にしない!
同じ後悔をしないため、大切な人を救うため、自分の全力を絞り出せ!




