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第三十一話 隠し事

次回は6月13日午後七時の予定です。

「そういえば……筋肉痛って何があったの?」

「さっき大門さんには会っただろ? あの人と戦闘訓練したんだよ」

「訓練?」



 俺が話し始めると、小清水は不思議そうな顔をする。



「そ。ナナシが言ってたけど俺って魂の適正はめちゃくちゃ高いだろ?」

「うん。初めてナナシさんと話したときに教えてもらったよね。だからナナシさんが伏島くんに住み着いたって」

「ああ。だから魂を破壊するような奴と戦う分にはだいぶ有利を取れるんだが……」

「なるほど……。ヒエンさんみたいな物理的な攻撃をしてくる人相手だと伏島くんも危ないもんね……」



 心配そうな表情をしてくれる小清水。優しい。



「理解が早いな……。そういうわけで、添木のお父さんが気を使ってくれて、前線を張る俺と狩ノ上先輩のために単純な殴り合いがめちゃくちゃ強い大門さんに依頼してくれたんだ」

「確かに……理亜ちゃんのお父さんもヒエンさんの攻撃普通に避けてたもんね。……えっ? って事は伏島くんもあんな動きが出来るようになるの?」



 納得したように何度もウンウンとうなずく小清水。しかし一瞬考えた後、目を点にしながらそんな事を聞いてくる。



「そ、そんな事は無い……と思うぞ? 流石に」



 狩ノ上先輩みたいに身体能力強化の能力を持ってたらまだしも、俺が自力であんな動きを出来るようになる気がしない。



「そ、そうだよね! びっくりした……。伏島くんがあんな動き出来るようになったらどうしようかと思った……」

「ハハハ……」



 ホッと胸を撫で下ろす小清水。……普通あんな動き出来ないって分かりそうなもんなんだが……。



「こういう事言われるとムカつくかもしれねぇけどさ……」

「ん? 何?」

「小清水って意外と天然?」

「え? そ、そう……?」



 やはり自覚が無かったのか、キョトンとした顔。



「うん。悠香の冗談とかすぐ真に受けるし」

「う〜ん……家族にはそういう事言われたこと無いんだけどな〜」



 考え込むように目を閉じる小清水。小清水の家族……確実に大金持ちだよな……。なんて下世話な事を考えてしまう。



 だってさぁ! 気になるじゃん!? 社長令嬢だぞ! 気になるに決まってるじゃないか!


 ……俺は一体誰に弁解しているのだろうか? と改めて冷静になると、黙っていた俺を見て不思議に思ったのか、小清水が話しかけてくる。



「? 伏島くん? どうかしたの?」

「えっ? いや……どうもしてないぞ?」



 それを慌てて誤魔化す。手紙の一件の事は話さない。これは悠香と二人で決めた事だ。あくまで推測だが、小清水が話さないってことは何か話したくない理由があるのだろう。もしそうだった場合、これが原因でなんとなく距離が出来ることが嫌だった。


 しかし動揺が声に出たのか、小清水はジト〜っとした目をこちらに向ける。



「ホントに〜? なんか隠し事してない?」

「あ、ああ! 隠し事なんてしてないぞ!」

「あっ! また声が震えた! やっぱり何か隠してる!」

「……」



 再び非難の声。なんか今日の小清水、妙に鋭くないか? そんな俺の困惑とは裏腹に、小清水はいたずらっぽく問い詰めてくる。



「それで……。な、に、を、隠しているんですか〜?」

「い、言わなきゃダメか?」

「ダメとは言わないけど……。せっかく友達になったんだし、隠し事はナシがいいな」

「そ、そうか……」



 そう希望する小清水の上目遣いにドキリとする。多分無意識なのだろうが……なんでそういう事をするかなぁ! この子(小清水)は!


 ……って、そんな事はどうでもいい。隠し事はナシということは小清水も単純に話さなかったってだけなのだろう。確かに親が大企業の社長ですとか、普通に言ったら自慢にしかならないもんな。



「そんじゃまぁ話すけど……これを機に距離を取るみたいなことするのはやめてくれよ?」

「フフッ。そんなひどいことはしません。安心していいよ?」

「それじゃ早速……一昨日、小清水からアンケート貰っただろ?」

「うん。そうだね……」

「そこに、小清水のお父さんから手紙が入ってた」

「お父さんから? あっ……もしかして私のこと?」



 少し悩んでから、正解を導き出す小清水。どうやらよくあることのようだ。



「そうだ。それで……そこに書いてあったお父さんの名前なんだけど……小清水のお父さんってもしかして社長さんだったりしないか?」

「えっ?」



 やはりというか、予想通りの困惑の声。……もしかして俺たちの勘違いだったか? しかし、そんな俺の考えとは裏腹に小清水の顔は固まっていく。



「な、なんでその事を……?」

「悠香が気づいたんだよ。なんか見たことある名前だ〜って」

「あ〜〜」



 軽く経緯を説明すると、聞いたことがないような声が小清水の口から発せられる。……やっぱりなにかまずかったのだろうか? 



「だ、大丈夫か? 小清水」

「だ、大丈夫……じゃないかも……」

「そ、そうだよな……。なんか……悪い……」

「あっ! い、いいの! 悪いのは無理に聞き出そうとした私だから! そ、そうだよね! 隠してるってことはそれなりに理由があるってことだもんね!」



 俺が謝ると、小清水は慌てたように言う。よ、よかった……。気分を悪くさせたと思ったがどうやらそうでもないようだ。



「それで……やっぱり隠してたのか? このこと」

「う、うん……。昔このことでちょっと面倒事があって……」



 少し苦々しい顔をしながら小清水はうなずく。……あんまり詮索しないほうが良さそうだな。



「それで隠していたと?」

「う、うん……」

「俺には隠し事はナシが良いって言っておきながら?」

「う……」



 言われた瞬間、小清水が言葉に詰まる。そしてうつむきながら



「正直……バレないと思っていました……ごめんなさい……」



 と申し訳無さそうに謝ってくる。流石にわざとだったのか。



「小清水も……意外とそういうところあるんだな。人並みにズルいことするっていうか……」

「や、やめて……。そんな事言われると自分の醜さが身にしみる……!」



 俺の言葉に真っ赤になった顔を横に逸らす小清水。なんだかこういう小清水を見るのは初めてな気がする。



「悪い悪い。そういう意味で言ったんじゃなくって……小清水ってもっと潔癖っていうか……純粋だと思ってたからさ、少し意外だった」

「そ、そう? 私だって普通にそういうこと考えたりするよ? 学校ズル休みしちゃおうかなぁ〜とか、お菓子作った後の片付け面倒くさいな〜とか」

「分かる。料理も楽しいんだけどその後の片付けが面倒なんだよな〜」

「フフッ。作るのは後に楽しみがあるけど、片付けは最後にやるだけだからね……」



 小清水がしみじみとした声で話す。やっぱりこれは皆共通なんだなと思わずしんみりする。



「これ料理とかしない人に言っても意外と分かってくれないよな〜。片付け位面倒くさがるなよって」

「あっ! 分かる! 片付けだけするのと何か作った後の片付けじゃ疲労度が違うのを分かってない人多いよね……」

「そうそう。悠香もよく俺に晩飯作らせることがあるけど『それくらいいいじゃんかよ〜』って言って絶対何もしないからな……」

「フフフッ。悠香ちゃんらしいね」



 俺の悠香の真似を聞いて楽しそうに笑う小清水。盛り上がる二人での会話の中、なんだか新しい小清水の一面を見たような気がした。





 一方その頃……



「フム……」



 カノン・リールズのリーダーであり、凍砂の騒動の黒幕である剣崎透は顎に手を当て、考え込んでいた。



「どうかしたのか? 透」

「仁か……。どうやら先日から警察に嗅ぎ回られているようでな。どうしたものかと思っているのだよ」



 勝浦の質問にそう答える剣崎はハァ……とため息をつく。



「警察? どっから漏れたんだ? 相馬の心力でしっかり証拠は隠滅してるんだろ?」

「そうなのだが……どうやら添木理亜の父親が警察官だったらしくてな。それもかなり重要な役職のようだ。少しでも痕跡が残っていると直ぐに嗅ぎ回られる。実際、日ノ神に接触したときの行動も調べられていたようだ」

「それは運が悪かったな。それで……例の洗脳した心力使いはどうなったんだ? 昨日初仕事させるって言ってたよな?」



 首を傾げながら剣崎に問いかける勝浦。



「残念ながら失敗だ。例の異能狩りが添木理亜の父親の協力者のようでな。戦力を削ぐために彼を襲わせたのだが……。捕まった上で、先程洗脳も解かれてしまった」

「本当か? 麻希も居たんだろ?」

「ああ。私達がこの力を得る前から戦っていただけはあるな。見てみろ」

「ん? 動画があるのか」



 剣崎からタブレットを受け取った勝浦は、その液晶に目を向ける。そこには先日の凍砂と高遠達の戦闘が映し出されていた。



「よくもまぁこんな簡単に銃弾も避けられるな……。ただの身体能力強化じゃないのか?」

「コイツはなんの能力も持ってないぞ。自分の力だけで戦っている。武器だけは違うようだがな」

「……本当か? それ」



 一瞬の間の後、勝浦が驚いたように剣崎に聞き返す。



「ああ。私のアカシックレコードがそう言っている。彼は何一つとして能力を持っていないただの人だとな。それでいて戦闘能力は武器さえあればあのナナシでさえも同等かそれ以上に戦えるだろう」

「……これ僕達に勝ち目あるか? ただでさえナナシをどうにかしなきゃって思ってるのにそのレベルがもう一人居るのマズイんじゃないか?」

「安心しろ。心力には進化の余地があることが相馬の監視カメラから分かっている。私のように多くの心力を持っている人間は一度の進化で際限無く強くなれる。もちろん、お前や五月雨兄弟、弘もな」

「そうか。なら、僕も頑張らないとね」



 安心したのか、大きく伸びをする勝浦。すると、部屋のドアが大きな音を立てながら開かれる。そこからは今坂が現れる。しかしその表情にはかなりの焦りが見られる。



「弘か。どうかしたか? お前がそのように慌てているのは珍しいな」

「……ッ! 剣崎さん! 勝浦さん! 湯ノ花がどこかに行きました!」

「なんだと? 相馬の監視はどうした?」

「相馬によると心力を使っているのではないかとのことです」

「そうか。弘よ! 器の準備を頼む! 湯ノ花のことだ。どうせ伏島優に会いたくなって勝手をしているのだろう。さっさと連れ戻して、お説教と行こう」

(本当にこの人は……時々恐怖すら感じる事がある)



 立ち上がり、弘に命令しながら部屋を出ていった剣崎に着いて行きながら、弘は部屋に最初に入ったときのことを思い出していた。

 部屋の全てを覆い尽くすほどの、おびただしい数の光弾が漂う部屋の光景を。






「ふんふんふ〜ん」



 私、湯ノ花紬はホテルの一室で優くんに会う準備をしていた。優くんに会えると思うと、つい鼻歌が漏れてしまう。



「いつ振りに会うんだっけな〜? 九年? 十年だっけ? 久しぶりだな〜」



 つい漏れる独り言を聞きながら、あの時(・・・)の事を思い出していた。





 あれは私が十歳の時だった。自転車の事故で骨折して入院していた私は、病院の廊下を歩いていると近くの部屋から悲惨な泣き声が聞こえてきた。



「ウゥッ……。ウゥ……ッ!」



 なんだろうと思って覗き見てみると、私より五歳位年下の男の子がベッドにしがみついて泣いていた。その顔がこちらを向く。その瞬間だった。私が初恋をしたのは。


 グシャグシャに歪んだ顔。涙で潤んだ瞳。嫌だと叫びながら首を振り、それに合わせて揺れる黒髪。あの時、彼を構成していた全てが……



「可愛かったなぁ〜!」



 またあの顔、きっと見せてくれるよね。

少女の歪んだ愛情は、歪んでいながらも確かに純粋で……

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