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第二十話 反撃

「ジ・アリエス! セカンドドライブ! ジャッジメント!」

「よいしょっと!」

「カハッ!」


 つい2時間前に聞いた声が響き、ヒエンの動きが完全に止まる。その隙をつくように脇腹に蹴りが入れられ、ヒエンは壁に叩きつけられる。






「どうやら、ギリギリ間に合ったようね」

「伏島君、大丈夫? 随分ボロボロになってるねぇ〜」

「だ、大丈夫です。ゴホッ! ゴホッ! あ、ありがとうございます」


 添木父は完全に動きの止まったヒエンを蹴りとばした後、こちらに向き直って倒れている俺に手を伸ばす。


「た、助けに来てくれた事はありがたいんですけど……どうしてここに?」

「ナナシが教えてくれた。一応全力で走ってきたのだけれど……道が塞がってて少し遅れてしまったわ。ただ……私達が来たからにはもう大丈夫。あの悪は私が裁く!」


 そんな事を頼もしく言い放つ添木を横目にヒエンが心力を発動しながら立ち上がる。どうやら蹴られたところを治したようだ。


「お〜お〜今度はこっちが三対一ってわけか。他人にされて嫌なことはやっちゃいけないって教わらなかったのか? あ?」


 苛ついたようにヒエンはこちらを睨みつける。しかし先程のような圧迫感は感じない。これなら、今度こそコイツを……。


「え? 今度? 何、後二人居たの? 敵」

「はい。二人は足止めっていうか一時的に行動不能にしておいたので今の敵はアイツだけです。ただ、あくまでも足止めなので時間がかかると参戦してくるかも」

「へぇ〜良くもまぁそんな事出来たねぇ〜。ま、まずはコイツを――。ウグッ!」

「パパ!」


 話している途中で突然添木父が壁にぶつけられ、心配そうな添木の声が響く。その視線の先には添木父とその体を壁に強く押さえつけるヒエンの姿。さっきと同じように心力で高速移動したのだろう。


「さっきはよくもこんなか弱い乙女の体を足蹴にしてくれたなぁ!」

「チョッ! 危なっ! 君! 若いんだからこんな年で公務執行妨害は辞めたほうが良いよ!」

「舐めんなっ!」

「えっ! チョッ! ヤッバ!」

「添木さん!」


 ヒエンの近距離からの棘を壁にぶつけられた状況でも余裕で全て避ける添木父。その態度に余計苛ついたのか、添木父の体をコンクリートで固定し、それに向かって攻撃する!


「ジ・アリエス!」

「させねぇよ!」

「クッ!」


 添木父を助けるために添木が再びジ・アリエスを発動させようとするも、ヒエンは先程のように石をこちらに向かって飛ばすことでそれを妨害。だけど添木父を攻撃させるのは防げた!


「理亜と同じくらいの年の子供を殴るのは抵抗があったけど……こんだけ強力な能力を持ってるとなるとそうも言ってられないね」

「なっ。テッメェ……。動きは止めてたはずだ! どうやって抜けやがった!」


 気がつくと、添木父はヒエンの拘束から抜け、俺たちの横に立っていた。それを見たヒエンは驚いたように声を上げる。それに対する添木父の返答は


「え? そりゃまぁ〜気合?」


 だった。


「……なぁ、添木、あの人ホントに人間?」


 添木父の衝撃の発言に思わず添木に聞いてしまう。


「……私も時々思う。私の場合は運動も苦手だから本当にあの人の娘なのかも怪しく感じる……」

「ひ、ひどいな〜。僕だってちゃんと努力してこの実力なんだよ?」

「チッ! コイツ心力持ってねぇのかよ! なら後回しだ。まずはお前だ。伏島、そしてそこのチビ女も」


 俺たちの話を聞き、落胆したように吐き出したヒエンはどうやら攻撃が当たらない添木父ではなく、俺や添木を狙うようだ。


「小清水さん! 添木にも同じことを!」

「は、ハイっ! 任せてください!」

「添木、これから白いモヤが見えると思う。さっきみたいな棘はそこから出るから、絶対にそこは避けろよ」

「ええ。分かったわ。ジ・アリエ――」

「だからさせねぇっつってんだろ!」

「クッ!」


 白いモヤが添木を襲い、それを避けるために心力が中断される。どうやら徹底的に添木の邪魔をするようだ。なら俺の電撃を使って崩してやる! そう思い、指先から再び電撃を放つ。


「チッ! ウザってぇな……」


 しかし放った電撃は相変わらず当たる寸前に壁を作られることで防がれ、そのままこちらにも攻撃が向かってくる。それを間一髪で躱す。クッソ……! さっきみたいにダメージを受けることは無くなったけど。こうやって時間を稼がれると日ノ神達が来ちまう! なんとかしねぇと! 俺の思考に焦りが混じる。


(みなさんっ! 目を閉じてください! 伏島さんっ)


 そんな焦りの中、突然俺の頭の中に小清水さんの声が響く。添木親子と俺に目を閉じるように言った後に俺個人への呼びかけ。そういうことかっ!

 小清水さんの狙いに気づいた俺はすぐさま電撃を光に変えて放つ! 


「アァッ!」


 閉じた瞼の間から少しの光を感じると同時にヒエンのうめき声が聞こえる。よしっ! 上手くいったみたいんだ!


「添木さん! 今のアイツは目が見えません! 一撃でトドメを!」

「オッケー! 伏島君! よくやった!」


 小清水さんに言われたとおり目を閉じていた添木父に簡潔に指示を出すと、すぐさま目を開き、ヒエンに向かって拳を向ける。それに合わせて俺自身も電撃を放つ! 目が見えない状況での二方向からの攻撃! これなら当たる!


「カ……ハ……」


 拳と電撃、どちらともがクリーンヒットしたヒエンは短く息を吐き出した後、膝を付き倒れる。……や、やったのか?

 俺は警戒をしたままゆっくりと倒れたヒエンに近づき、手でその体を揺らす。しかしなんの反応もない。



「どうやら、もう意識はないようね」

「うんうん! ナイスだよ〜。伏島君、小清水さん」

「い、いえっ! 実際に動いたのは皆さんなので……私はただ遠くから見てただけで……」

「それでも大分助かった。おかげで勝てたし。ありがとな。小清水さん」


 ヒエンが倒されたことが確認され、場の空気が和らぐ。しかしそんな雰囲気も添木父によって引き締められる。


「ってこんな落ち着いてる場合じゃないね。後二人も倒さないと。二人の容姿と能力は?」

「一人はピエロの仮面を被ってて、もう一人は真っ白な髪をしていました。能力についてなんですが、ピエロの仮面をかぶってる方は、物の施錠、解除が出来るって奴です。目で見て発動するのでさっきの光とかで上手く封じられると思います。ただ……もう一人の白い髪の方は心力が分かっていません。警戒するならこっちの方ですね」

「了解。……とりあえずコイツはしばらく起きないだろうし、まずはその二人を倒しに行――」

「おいおい、どういうことだよ……ゴホッ、ゴホッ。やっと目が治ったからこっち来たってのにヒエンは負けてるし、伏島の方には仲間が増えているし」

「ッ! どこだ!」


 二人を探しに行こうとした瞬間、どこからか日ノ神の声が聞こえる。慌てて左右を見回すが日ノ神の姿は見えない。すると、俺の肩に何かが触れる。


「上だ上。ま、俺が触った時点でゲームオーバーなんだけどな。残念だったな。ゴホッ、ゴホッ」

「は?」


 それは上から降ってきたらしい日ノ神の右手だった。それは先程と同様、禍々しく紫色に光る。ヤバいッ! そう思うと同時に俺の体が宙に浮かび上がる。


「伏島君ッ!」


 それにすぐさま反応した添木父が俺の足を掴み、なんとか引っ張り下ろそうと地面の棘に手をかける。しかしその抵抗も虚しく、俺の体は更に更にと上へ持ち上がり、添木父の手は俺の足から離れてしまう。


「ジ・アリエス! ファースト――」

「おっと……止めとけ。俺の心力を止めたら、そのまま伏島が地面に落っこちるぞ。この高さじゃ最低でも足の骨折は免れないだろうなぁ?」

「……卑劣な!」

「卑劣ぅ? そんな事言ったら、三対一でヒエンボコボコにしたお前らも十分卑劣だよ! それと……ヒエンは起こさせてもらうぜ」


 日ノ神はポケットから先程俺に打ったのと同じような注射器を取り出すと、乱暴にヒエンの首筋に打ち込む。すると、ヒエンの閉じていた瞼が開く。嘘だろ……。


「おい、ヒエン。何負けてんだ。あんだけ余裕ぶっこいてた癖に」

「ざけんじゃねぇ。三対一ならお前らが来るまで耐えただけでも御の字だろうが。文句言うな」


 バツの悪そうな表情で文句を垂れるヒエン。呑気なものだが、俺が人質となった今、皆は慎重にならざるを得ず、動けないようだ。


「そんな事はどうでもいい。伏島以外は残しといた。俺は興味がないから、お前がやり返しておけ」

「お、お前にしては良い気遣いじゃね〜か。そんじゃ、ありがたくお返しさせて貰うっぜっ!」

「チッ!」


 ヒエンと日ノ神が話している間に近づき奇襲をしようと、拳を振るった添木父だが、その攻撃もあえなくヒエンに防がれ、殴りあいが始まる。


「理亜! 小清水さん! 今すぐ逃げろ!」

「で、でも……伏島さんが!」


 添木父の指示に戸惑いを見せる小清水さん。その視線は心配そうにこちらを見上げている。だが、その間にも俺の体はどんどんと高くに持ち上げられていく。


「さっき、ヒエンとの戦いでも倒すのには伏島君が必要だった! 伏島君が居ない上、増援もある。ならここは一人でも多く逃げられる道を選んでくれ! 理亜も!」

「……ええ。分かった……。行きましょう。小清水さん」

「は、はい……」


 二人は添木父の言葉に納得したのか、そのまま走り出す。しかし……


「ああ。アカンアカン。逃げるのはアカン。お前らの力は全部日ノ神に渡すって決まってるんや。逃がすわけにはイカン」

「クッ!」


 ピエロ男が先程のように逃げ道を塞ぐ。絶体絶命だ。クッソ……俺が触られたせいで……! そんな後悔が身を焦がす。


「そろそろ頃合いだな。じゃあな。伏島。人を邪魔するとどうなるか、しっかり覚えながら……死ね」


 激しい罵声が終わると日ノ神は心力を使うのを辞めたため、右手のオーラがかき消える。そして、俺の体が落ち始める。地面との距離は大体30m位。このまま落ちたら死ぬ! 俺は慌ててすぐ横にあるビルの壁に手を付ける。


「痛った……!」


 しかし落ちる体でそんなことをしても、手がビルの壁に削られるだけで、加速する体を止める事はできない。体中で風を感じながら、全身に恐怖が走る。しかしそんな俺の感情を無視し、体は無情にも落ちていく。嫌だ、死にたくない。こんな奴らを放置して死ぬのも、悠香に何も言えず、俺と同じ思いをさせるのも! なんとかしろ! なんとか……! クッソ……! まるで恐怖から逃れるように、俺は目を閉じる。……しかし、いつまで経っても地面にぶつかることはなかった。





「『心力模倣《重力操作》』」





「やっと解毒が終わった。よく耐えてくれたな。スグル」

「ナナシ!」


 左腕から口を生やし、ねぎらうように話すナナシ。そんなナナシの心力によって俺の体が落ちるスピードがゆっくりになり、そのまま地面に着地する。


「なるほど……逃げ道を塞がれていたワケか。スグル、お前の体借りるぞ」

「あ、ああ」

「『心力模倣《肉体強化》』」


 周りをぐるりと見回し、状況を把握するとナナシは俺の体を使い、ピエロ男によって作られた壁を一振りで粉々に砕く。


「アヤネ! リア! ミチル! もう大丈夫だ! 後は俺に任せて逃げろ!」

「ハイっ! ありがとうございます!」

「ありがとう。この恩は必ず返す」

「気にするな。もともとはこっちが協力を頼んでいる身だ」


 二人は開いた道からすぐさま逃げ出す。すると反対側で添木父の情けない声が聞こえてくる。


「ちょっ! ナナシさ〜ん! 助けてください!」

 

 どうやらヒエンの猛攻のせいで逃げることが出来ないらしい。


「ああ。任せろ『心力模倣《重力操作》』」

「グアッ!」


 添木父を救うために放たれた心力、それによってヒエンは地に伏せる。その隙に添木父は急いでその場を離れる。


「ありがとうございます! あっ! 一応言っときますけど、殺さないでくださいね! 色々聞きたいことがあるので!」

「ああ。分かっている」

「クソッ! クソッ! クソッ! なんでこんな邪魔が入るんだ! クソッ! 殺してやる! 殺してやる! ヒエン、ピエロ! コイツを殺すぞ!」


 添木父が居なくなると、日ノ神の激昂した声が辺りの空気を震わせる。どうやら俺を殺せないことが相当ストレスとなっているようだ。そんな日ノ神の声に応じるように、ピエロ男、ヒエンが近寄る。どうやらヒエンは心力で自分を押し出し、心力の範囲を抜け出したようだ。


「大丈夫なんか? わざわざアイツを眠らせる毒作ってもらったんやろ? そのまま戦ったら負けるやろ」

「安心しろ。そもそもアレは俺の上昇じゃ殺せないからって理由で作ってもらったんだ。それに……このまま帰るのも癪だ。せめて一つくらいは能力を貰おうぜ」


 三人が話し合いを終え、こちらに向き直る。その顔はやる気に満ち溢れている。


「なんだ? 逃げないのか? なら丁度いい。こっちも使いたい心力があったんでな」

「あ?」


 日ノ神はナナシの言葉を聞いて、不可解そうな表情を浮かべる。しかし、ナナシはそんなことにお構いなく、心力を発動させる。







「『心力模倣《怨霊憑依》』」





「来い、晴明。この魂、これからしばらくお前の物だ」

名もなき善なる魂に名高き者の恨みが宿る!

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