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第二十一話 真なる怨霊

ちょっと三人称の練習もしてみます。

「来い、晴明。この魂を使わせてやる」

「うっ……!」


ナナシが心力を発動した瞬間、辺り一面が眩い光で満たされ、その場に居た三人は思わず目を背ける。しばらくするとその光が収まり、三人は再び優が居た方向にに目を向ける。


 そこには先程まで居た優の姿は無く、真っ白な着物のような物を着用した浅黒い肌色をした男が立っていた。男は思わずと言った風に意地の悪い笑い声を上げる。


「ヒヒッ! ヒヒヒッ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! この魂の適正! 知性も、力も、前の依代など塵芥のように感じる! 心力使いはどこだ! 怨霊でも良い! 俺を楽しませてくれるような強者は居ないのか!? この力をもって全て等しく殺してやろう! ハーッハッハッ! ハーッハッハッハ!」


 その笑い声はナナシの声と全く同じものだったが、その中身は完全に違ったものだった。


「悪いが、お前に人は殺させない」

「何?」


 まさに満悦といった様子の男はナナシに水を差され、不愉快そうな声を上げた。


「この魂はスグルの物だ。その力を使って人を殺すことは、例え倒す相手が敵であっても俺が許さん」

「断る。たかが二百年生きている程度の分際で俺に命令するとは随分と生意気なものだな? 俺は誰からの命令も受けん。……そうだ! お前はこいつらから情報を引き出そうとしていたな? 俺の顕現に水を差した罰だ。まず手始めにあの三人を殺すこととしよう!」


 男は名案を思いついたようにポンっと手の平を握った拳で軽く叩く。


「駄目だ。お前は俺の命令に従ってもらう」

「言っただろう? 断ると! そもそも俺の強力な魂を従えることなど不可能なのだ! ただただ目の前で情報源が殺されるところを黙って――」


 男は否定の言葉と同時に日ノ神たちに向かって走り出すが、その動きはピタリと止まる。男は困惑の表情を浮かべながらも、体を動かそうとする。しかし、その体はどれだけ力を入れても少し動くだけで、何も起こらない。


「……お前、何をした? 俺が憑依した人間に操られるなどありえん」

「確かに、お前のような規格外の怨霊を従えるなど、並大抵の魂では不可能だろう。しかしスグルの魂も大概規格外なんでな、お前を従えることなど容易い。さぁ、あいつらを生け捕りにしろ。安倍晴明」

「小童が……!」


 ナナシが勝ち誇った声で男に言い放つ。それに対し、男は悔しそうに歯ぎしりをする。その瞬間、男の周りのコンクリートが蠢き、棘となって向かっていく!


「敵の前で悠長に喋るたぁ随分余裕そうだなぁ! あぁ?」

「チッ! ゴミが……」


 男に向かって襲ってきたコンクリートの棘、その全てを男は苛ついたように舌打ちしながら裏拳で破壊する。


「は?」

「取るに足らない一介の心力使いが俺の邪魔をするな。不愉快だ」


 男は苛立ちを口に出す。その怒りだけで、三人の体が萎縮する。それを見て少しは苛立ちが緩和されたのか、男は考え込むように壁に寄りかかる。すると、日ノ神が何かに気づく。


「安倍晴明……なるほど。そういうことか。流石だな……。ゴホッ、ゴホッ!」

「なんか勝手に納得しとるみたいやが……どういうことなんや? 日ノ神」


 逆にピエロ男はどういう状況か全く分からず、日ノ神にその意味を問う。


「三日前、俺が心力使いを暴走させたのは知ってるな?」

「ん? ああ。ウチらは別のことやってて見ては無いけどな」

「その時にあのババァから貰った心力が怨霊を使用者の肉体に宿すって能力だそうだ。同じような心力は結構あるらしいが、その時俺が貰ったのはあの安倍晴明を肉体に宿すって奴だ」

「はぁ? じゃあ、あんだけ強力な心力だって分かってたってのにそれを使い捨てにしたってことか? バッカじゃねぇの!?」


 目の前の男、晴明を警戒しながら話を聞いていたヒエンは自身の攻撃を軽く捌ける実力も持った怨霊を失ったことに憤慨する。


「そう怒鳴るな……。ゴホッ、ゴホッ! アレはそんなに便利なものじゃない。どれだけ魂が強くっても乗っ取られる上に、乗っ取った後の性格もあんなんだ。使い物にならねぇから好きに使い潰せって言われたよ」

「ああ……使い物にならねえのか。なら良いか……」


 日ノ神の弁明に落ち着きを見せるヒエン。






 そんな風に三人が話している間も、晴明は体を壁に預けたまま動きを止めていた。


「おい、晴明。さっさとアイツらを捕まえろ。逃げられるぞ」

「言っただろう? 断ると。俺は誰の命令も受けん。せっかく意識がはっきりとした状態で目が覚めたんだ。あんな雑魚どもに力を使うなんぞ無意味の極みだ! 確かにお前は俺をある程度操作出来るようだが、俺を戦わせないことから考えるに、動きを止めることしか出来ないのだろう? ならわざわざお前のことを聞く必要なんて無い。あんな奴らは放置して他の奴らのところへ向かうこととしよう」

「そうか。お前に協力する気が無いのなら、この体は返してもらおう」


 晴明の抵抗に興味がないのか、ナナシはその話につまらなさそうに返事をする。


「なんだと?」

「そもそもあんな奴らは俺でも余裕で倒せる。お前を呼び出したのは他でもない。スグルの魂を使うことで、お前がどれくらい使えるのか知りたかったからだ。しかし、お前が俺の命令に従うつもりが無いのなら、これからも使う事は無い。どんな強敵が現れようとも、お前は戦うことが出来ない。それでも良いなら戦わなくていい。さっさと体を返して――」

「待て」

「なんだ? 俺には従わないんじゃなかったのか?」


 心力を止めようとするナナシ。それを言葉で晴明は遮る。


「わざわざ俺を焚き付けておきながら煽るな。不愉快だ。ただ、これから先に俺を愉しませてくれる強者が現れるとして、それを無碍にするほど俺も馬鹿ではない。いいだろう。今回はお前に従ってやる」

「よし。なら早速――」

「ただし」


 当初の予定通り、晴明を無理やり従わせたナナシは早速命令を下そうとするが、それを晴明が遮る。


「これは契約だ。今回は俺が命令を聞いてやる。だが、お前でも苦戦するほどの敵が現れたのなら、必ず俺にその体を受け渡せ。もしこの契約を破ったのなら……」

「破ったのなら?」


 落ち着いた様子で聞くナナシに晴明は脅すように答える。


「お前が死んだ後、俺たちが住まう死後の世界にてお前を待っているとしよう。お前が死んだその後で、死ぬよりも遥かに苦しい責め苦を与えてやろう」

「ああ。それでいい」


 そんな脅しに微塵の恐怖も滲ませず、ナナシは契約を承認する。


「チッ! その忌々しい胆力だけは褒めてやろう。……それで? 奴らを生け捕りにすれば良いんだったか?」

「ああ。殺すのは駄目だが、欠損くらいはさせても良い。どうせ治せる」

「任せとけ」


 二人の話が終わるのを待っていたのか、ナナシが腕から口を引っ込めると日ノ神が話し始める。






「話は終わったか? 占い野郎」

「ほう? 話している間に攻撃をする知恵は無い癖に、陰陽道が占星術の一種だということは分かるんだな?」

「舐めるなよ。千年前を生きてたような老害に知恵が無いとか言われたくねぇな。ゴホッ、ゴホッ」


 どうやら本当にそのような知恵が無いと思っていたのか、晴明はとぼけた顔で日ノ神の神経を無意識に逆なでする。それに対抗するように日ノ神も煽りを入れるが、よっぽど馬鹿にされているのか、それは全く効果をなさない。


「まぁ、お前の知能などどうでもいい。喜べ。あの忌々しい小童のおかげで、お前らは俺と戦うことが出来る。せっかくの目覚めの戦いだ。お前らのような雑魚ではなく、もっと強い奴らと戦いたかったが、こうでもしないと戦いの機会が無いと言われたからな。仕方がない」


「目覚めの運動に付き合って貰うぞ?」


 瞬間、周りの空気が変容した。





 三人は今まで全く違う生活を送っていた。しかし、同様に殺意を向けられるような修羅場に遭遇したことがある。だが、そんなものは全くの子供騙しであった事に気付かされるほど明確で、濃厚な”殺意”。それにあてられたことで、三人はまるで水の中にいるように息ができなくなり、体がこわばる。そんな三人に呆れたのか、晴明はこう話しかける。


「さて、まずはお前らから攻撃してこい。それくらいのハンデがなければつまらないからな」

「あ、ああ! お望み通りにやってやるよ!」


 ナナシの挑発。それに対しヒエンが緊張を吹き飛ばすように大声をあげながら乗る。それが、開戦の合図だった。再び棘が地面から飛び出し、晴明へと向かっていく。しかし優の魂によって三日前を遥かに超える身体能力を得た晴明にとってそれはなんの意味も為さない。すぐさま飛び上がり、晴明はそれを避ける。


「ッ!」


 しかし飛び上がった隙を突くように空中にいる晴明に向かって火炎が立ち上る! それを右手を薙ぎ払い風を起こすことで晴明は事なきを得る。晴明は火の元を探そうと、火炎が向かってきた方向に目をやる。するとそこには、小さな火炎を右手に纏う日ノ神の姿があった。


「チッ! これでも当たらねぇのかよ……」

「当たり前だ。俺をなんだと思っているんだ。もっと速度を上げてみろ。まるで時が止まった中で動いているようだぞ? つまらん」

「クッソ! 舐めやがって……」

「まぁ良い。もう一度だけチャンスをやろう。これが終わったら俺も攻撃を始めるぞ? 心してかかれ。『五行相生 土行』」


 退屈そうに壁に手を突き刺し、そのコンクリートを鉄の剣へと変化させる晴明。その表情は酷く退屈そうで、日ノ神達を舐め腐っていることが見て取れた。


「その余裕ももう終わりだ! ヒエン! 合わせろ! ピエロ! 後ろ塞げ!」

「おうよ!」

「はいはい……」


 地面から飛び出る棘と、その逃げ道を塞ぐように炎が展開される。そして晴明の後ろには再び壁が出現する。上下左右、そして後ろ、全てにおいて逃げ道の無い高密度の攻撃が晴明へと向かう。しかし、それらの攻撃が晴明へと到達するとき、すでにその姿はそこには無かった。


「何をやっている? 俺は速度を上げろと言ったはずだぞ? 全く変わっていないじゃないか。これでは目覚めの運動にすらならん」


 全ての攻撃が晴明のいた所へと到達したとき、彼はすでに日ノ神たちのすぐ後ろに立っていた。血に濡れた鉄の剣を持って。


「っ! ぁああああっ!」


 ゴトリ、と物が落ちる音と同時に鼓膜を引き裂くような叫び声が辺りに響き渡る。叫び声の主であるヒエンは左手で右腕を根本から抑える。その指の隙間から紅い血が滴り落ちる。


「おっと。少しだけ切るつもりだったのだが、切り落としてしまったか。やはり弱いな。お前」

「ざっけんなよ! オマエ! 殺す! 絶対に殺してやる!」


 心力により一瞬で腕を治すヒエン。その後怒りに満ちた顔つきで半径1mもあるであろうコンクリートの塊を浮かし、晴明に向かって振り下ろす! しかしそれが晴明の頭を割る寸前に、コンクリートは粉々に砕かれる。


「なっ!」

「治せるのなら別に良いだろう……。まさか痛みが辛いなどと言うようなつまらぬことを言うのでは無いだろうな?」

「カッハ……!」


 首を掴まれ、苦しそうに呻くヒエン。晴明はその顔をすぐ近くで何かを調べるようにじっと覗き見る。


「やはりお前はつまらんな。いくら成長しても俺の脅威とは到底成り得ない。もう良い。眠っていろ」

「グハッ!」


 そう言うと、晴明は掴んだ右腕を壁に向かって強く打ち付ける! 壁に強く打ち付けられたヒエンはそのまま壁に埋まり、意識を失う。


「まずは一人だな。そして――」


 晴明はまるで作業のようにヒエンを倒したことを確認する。それが終わると晴明の姿がブレ、ピエロ男の目の前に現れる。


「お前も終わりだ。己を偽るような者に、心力が微笑む事はない。安心しろ。殺しはしない」

「グオッ!」


 拳が鳩尾にめり込み、ピエロ男はそのまま膝を着く。


「さて……後はお前だけだな」

「離……せっ!」


 余裕の表情で日ノ神の首を掴む晴明。そんな余裕そうな晴明に向かって日ノ神が火炎を放つ。しかし晴明はそれを全く意に介さず、そのまま日ノ神の顔を覗く。


「断る! さて……お前の実力も見てみるとしよう。……ヒヒッ! ヒヒヒッ!」

「なん……だっ!」


 突然愉快そうに笑い出す晴明。それは今までの戦闘で一度も見せることのなかった喜びに満ちていた。


「お前のその能力、素晴らしい潜在能力を持っていると思ってな? 何故この能力でそれほどまでに弱いんだ?」

「知……るか!」

「そうか。ならアドバイスだ。もっと感情を高めろ。己の心力を強く認識しろ。心力は魂が強く認識することで劇的な進化を遂げるぞ? さぁ! どうだ! お前の怒りを、憎しみを、恨みを! なんでも良い! お前が持つ最も上質で最も濃い感情を解き放て!」







 安倍晴明の余裕ぶったイラつく声が俺の耳に刺さる。そのイラつきに比例するように苦味が強くなっていく。俺には中学生くらいまでの記憶がない。


 最も古い記憶は……全身に広がる生暖かい感触とまるで初めて感じるような甘い風味。それもぼうっとした記憶で、はっきりとしているのはあのババァに拾われたときだった。その後はババァにただ育てられていただけだったが、しばらくして、あることに気がついた。


 俺の口の中いっぱいに広がるこの苦味、何かを壊すと和らぎかすかな甘味へと変わる。ということだ。それからは狂ったようにいろいろな物を壊し続けた。食器、机、窓ガラス。そこら辺にあるものは全部一度は壊しているだろう。

 しかし、物を壊せば壊す程、甘味を感じるのに必要な壊す量が多くなっていった。それに合わせて、俺の感情にも変化が生じた。全てを破壊しつくした。その時、俺はきっと最高の甘味を感じることができるだろう。そうやって大きくなった感情。それでもコイツによると足りないらしい。


「なんだ? お前、昔の記憶が無いのか。良いだろう。感情だけだが、昔の記憶を呼び覚ましてやる」

「あ……あ……あ……」


 安倍晴明の手が頭に触れると、その部分が割れるように痛む。その痛みと共に感情が溢れ出す。恨み、憎しみ。その感情が強くなるほど不思議と気分が良くなっていく。


「離せ!」


 感情に合わせて強くなった『上昇』の心力。それを使って俺は無理矢理安倍晴明の手から逃れた。


「お望み通りに壊してやるよ。お前も、世界も」


 ああ。なんだかとても……心地が良い。





 上昇の心力を使い空に身を置く日ノ神を下から見上げる形を取る晴明は相変わらずの余裕そうな態度で質問をする。


「ほう……? 俺を壊すと? どうするつもりだ? 先程の貧弱な炎で俺を壊すと言うのなら、いささか楽観が過ぎるぞ?」

「それは受けてから聞くんだな……」

「ッ!」


 日ノ神は空から火炎を降り注がせる。それは先程までの火炎とは明らかに違い、周りの壁に触れると大きく爆発する。もちろん、晴明にも火炎は向かうが右腕を薙ぎ払うだけでその火炎が晴明へと届くことは無くなる。


「確かに、これなら当たれば俺にも効果があるな。まぁこの程度なら簡単に逸らせるが」

「なら逸らせないほどの高出力でブチ抜いてやるよ!」


 日ノ神の右手に炎が集まる。それは先程までの右手とは大きく違い、近づくだけで暑いと感じるほどの熱量を発していた。それを見た晴明は感動したようにつぶやく。


「素晴らしい! この短時間で俺に効果のある攻撃が出来るようになるとは! 過去を思い出し、さらなる感情を持ったならば、お前はさらに強くなるだろう! だが……」

「ごちゃごちゃごちゃごちゃとうるせぇな……」


 話している途中の晴明に向かって一直線となった光線のような炎を放つ! それは逸らすことが出来るような勢いではなく、避けることを許すような速度でもなかった。


「『五行相生 水行』」


 光線のような炎を晴明が手のひらで触れると、それは水へと変化し、なんの影響も与えなかった。


「俺が見たい進化はそれ(・・)ではない」

「なっ!」


 決死の一撃を無効化され、隙を晒す日ノ神。それを晴明が逃すはずが無く、一気に空まで飛び上がりその顎に向かって拳を振り上げた。

進化した力ですら、彼には到底届かない……。

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