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第二話 幼馴染

「スグ兄〜? 漫画読んでいい?」



 いつも通りに切り替わった悠香は勝手に俺の漫画の棚を漁り、適当な漫画を手に取る。



「いいけど勉強の後でな」

「え〜! いいじゃん」

「こっちは恭子さんにしっかりお前の面倒見るように言われてんだよ」



 昔からお世話になってる人だ。こういう所でしっかりと恩は返しておきたい。



「え何? お母さんそんな事スグ兄に言ってたの?」

「そうだ。だからさっさと勉強しなさい」

「じゃあアニメ見ながらでいい? 今日のアニメ楽しみにしてたんだ〜」



 そう言いつつ、俺の返事も聞かないで悠香は勝手にテレビを点ける。



「いや〜、やっぱりスグ兄の家はアニメ見るにはうってつけだね!」



 コイツ……相変わらず家主の俺よりもくつろいでやがる。俺の動画配信サービスの履歴なんてほとんどコイツのアニメになってるし……。それにしても……。


 俺はベッドでゴロゴロとしている悠香に目を向ける。



「ふんふ〜ん。スグ兄の家は気を使わなくて良いから良いですなぁ〜」



 相変わらず学校と他では態度が変わるやつだ。昔はこうでは無かった。


 だが、高校に入ると同時に『周りの目が気になってきたので、学校ではこうさせていただきます!』と言ってきたのだ。


 正直、俺としては学校の悠香のほうが落ち着いていて楽なのだが、本人曰く『何言ってるんすか〜? それじゃあ、スグ兄の家に来る必要無いじゃないっすか〜』とのことらしい。


 ……いやなんで俺の家に来る必要があるのかは知らんが。






「終わった〜! マンガ読も〜」



 勉強を始めてから1時間ほどして悠香が思いっきり伸びをして、本棚へと向かう。


 俺はさっさと自分の宿題を終わらせていたので、ゆったりとパソコンで動画を見ていた。



「スグ兄も終わったなら手伝ってくれても良かったのに〜」

「アニメ見てるから遅くなるんだろ。我が物顔で人の家でくつろいでるんだからそれくらいで文句を言うな」



 スグ兄のケチと不満を声に出しながらベッドに座り漫画を読み始めた。






 しばらくして、静かに漫画を読んでいた悠香が急に



「今日夜ご飯一緒に食べない? なんか体に悪いもの食べたい」



 と言ってきた。



「なんだよ。体に悪いものって」

「最近お母さんが体にいい食べ物に目覚めたらしくってね、食事の味が薄いんだよ。だからなんか体に悪いもの食べたい」

「恭子さんの気遣いを完全に無駄にする提案だな」

「いいんですよ〜。あんな人の気遣いなんて気にしなくっても」

「恭子さんがその言葉聞いたら泣くと思うぞ……。それで、モクバーガーでいいか?」



 恭子さんには悪いが夕飯を作るのが面倒くさい俺にとってはありがたい提案だ。



「おっいいね~。じゃああと一時間くらいしたら行こう!」



 と言って携帯を取り出す。今日の夕飯がいらないという連絡をするためだろう。



「あ、お母さん? あなたのかわいいかわいい娘の悠香だよ〜。ちょ、鼻で笑わないで? 娘のギャグを鼻で笑わないで?

 そうそう、それで、今日はスグ兄と一緒に夜ご飯食べることになったから私の夜ご飯いらないよ〜。何? スグ兄と話したい? オッケー」



 悠香の電話を聞いてると、突然俺に携帯を渡される。



「スグ兄、お母さんが話したいって」

「なんか話すことあったか?」

「さあ? さっきのたまには顔見せろって話じゃない?」



 と軽く話してから携帯を受け取る。



「はい。代わりました。優です」

「優くん、いつも悠香がごめんなさいね」



 と申し訳無さそうに謝ってくる。これぐらいの慎みが悠香にもあると良いと常々思う……。



「大丈夫ですよ。昔はそちらの家によくお世話になりましたから」

「あらそう? それじゃあ悠香のことよろしくね。それから、何かあったらすぐうちを頼ってね」



 それだけ言うと、電話が切れる。前言撤回。あの人も意外と図々しい。


「なんだって?」

「いつもお前がお邪魔してますって話と何かあったら頼れって話」

「別に邪魔じゃないのにね」

「……」



 あまりの図々しさに言葉も出ない。この図々しさは親子の遺伝なのだろう。……まあいいか。





「いやーやっぱりモクバーガーが一番だね。チーズが濃厚だ」



 悠香とモクバーガーを食べた帰り道に悠香がそんなことを言っている。



「まさか奢らされるとは思わなかった」

「まあまあいいじゃない。こんな可愛い女の子に奢れたんだから良かったじゃん」



 そう言うと悠香は俺の背中をポンポンと叩く。



「チッ……。お前の素を見て奢りたくなるような男はこの世に一人もいねーよ」

「舌打ちはやめて! スグ兄でかいから舌打ちされると怖い!」

「ならそのうざいボケやめろ」

「うざいはヤメロ〜。傷つくだろ〜!」



 いつものように、中身のない会話をしながら悠香を家に送る。途中で



「そういえばこっちから行くとかなり近いんだよねー」



 と言って悠香は暗い路地裏を進んでいく。



「大丈夫か? こっちかなり暗いぞ」

「大丈夫、大丈夫。今はスグ兄がいるんだし。一人の時はこんな暗い道通らな――」

(伏せろ!)



 突然ナナシの叫び声が頭の中に響くと同時に体中に鋭い痛みが流れる。



「……ッ! 大丈夫か!? 悠香!」



 慌てて悠香の方を振り向くと、悠香は倒れていた。



「悠香? おい! 大丈夫か!? おい!?」

(落ち着け。スグル。ユウカはまだ死んでない。寝てるだけだ。それよりも後ろを見ろ)

「後ろ?」



 ナナシに言われた通りに後ろを振り向く。



「あ? なんで倒れてねえんだ? これ受けたら今までの奴らは倒れてたんだけどな」



 柄の悪そうな男がゆっくりと俺に向かって歩いてくる。



(左手を見ろ。黄色いオーラが見えるか? あれは心力を使うと出てくるものだ)



 今のが心力の攻撃ってことか? ていうかなんでこんなに早くに遭遇するんだよ!?



(おい! ナナシ! なんとかしてくれ! お前はこういう奴を止めるために来たんだろ!)

(……悪い、少し時間稼ぎをしてくれ。今準備中だ。)

(はぁ!? お前っ、あんだけ偉そうだった癖に!)


(だから謝ってるだろ。それとも、お前もこのままそこのユウカみたいになってもいいのか?)



 ……それは困る。こんなところで意識を失ったら何をされるか分かったもんじゃない。



(でも、どれくらい持つかわからないぞ?)

(安心しろ、さっきのあいつの攻撃を受けたユウカを見ろ。怪我をしてないだろ?)

(ん? あ、ああ。さっき眠ってるだけって……)

(そうだ。つまりあいつの攻撃は魂に作用するものなんだ。肉体には影響しない。

 俺がお前に協力を求めた理由はその魂の力が恐ろしく高かったからだ。

 悠香とは違い、お前なら何発かはあの攻撃も耐えられる。俺もお前の魂を守ることなら出来る。これなら何の力もないお前でもいくらか時間は稼げる)

(……分かった。やるだけやってみる)



 俺はナナシの説得に応じると、男を見据える。



「お? なんだ? 俺とやるってのか? 生意気だな……」



 男は苛立たしそうにこちらを睨みつける。心力を持たない俺に出来ることは確かに少ない。ナナシが本当に役に立つのかも怪しい。

 だが、何がなんでも悠香だけは守りきってやる! 俺はそう覚悟を決めた。



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