表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/80

何かが違ってる 1

 

「ルーナ、お前は、レオナルド・ルノーヴァを知っているか?」

 

 言われて、ルーナは首をひねった。

 すぐには思い出せないが、頭の端っこに引っかかってはいる。

 

 今夜は、次の候補者を選ぶため、ユージーンの私室を訪れていた。

 夕食も、さっき、ここで食べたところだ。

 用件以外、さほど生活は変わっていない。

 そのせいで、この先も、こういう生活が続くような錯覚に陥りそうだった。

 

(でも、それだと、なにしに来てるんだって話だよね……)

 

 思いつつ、頭の中を探る。

 ちらっと、何かが見えた。

 

「ん~……レニーって、呼ばれてた子かなぁ。茶色い髪の……」

「おそらく、そいつだ」

 

 ルーナの記憶は、判然としていない。

 会った、というより、見たといったほうが正しいような状態だったからだ。

 しかも、6歳の頃の記憶なので、はっきりとは思い出せずにいる。

 

「トリシーやウィン、それにコートとも一緒にいた気はするけど……あんまり印象に残ってないの。彼は、いつも離れて立っていたから」

 

 うむ、とユージーンがうなずいた。

 ルーナは、この鷹揚な仕草も好きなのだ。

 ほかの者が見れば、横柄ともとれるが、ルーナにとっては違った。

 なにかユージーンの中では納得しているのだろうと、微笑ましい気分になる。

 年上の男性に「微笑ましい」と感じるなんて、変なのかもしれないけれど。

 

「奴は、ほかの者とは相性が悪かったのであろうな」

「なんで、そう思うの? ていうか、彼がどうかしたの?」

「奴に会った」

「え……? 会ったの? レニーに?」

「そうだ」

 

 そういえば、と思う。

 舞踏会の際、ルーナを襲ったのはウォーレンとコンラッドだ。

 そこにレオナルドの姿はなかった。

 関わってもいない相手を、ユージーンが呼び出すとは思えない。

 そもそも、ルーナは、あの件を、すでに終わったこととしている。

 

「奴が謁見を申し入れてきた」

「どうして? なんの用? 舞踏会のことじゃないでしょ? だって、あの時、彼はいなかったんだし」

「お前に会いたいらしくてな。俺に許しを得に来たのだ」

「は? 私? どういうこと? 意味わかんない」

 

 レオナルドとは、ほとんど面識がないのだ。

 向こうの用件にも、まったく思い当たる節がない。

 もちろん、ルーナには、彼に用なんてないし。

 

「用向きは、会って話したいそうだが」

「うーん……でも、彼の上位貴族って、キャラック公爵家よね? 何か嫌なことをされたりしないかなぁ」

「今のところ、それはない」

 

 ルーナは、目を、ぱちんとさせる。

 ちょっぴり驚いていた。

 ユージーンなら、ルーナの心配していることなど、とっくに考えていたはずだ。

 そのユージーンが、否定をしている。

 ということは「ひとまず安全」との判断があるからに違いない。

 

「ジーンが言うなら、会ってもかまわないけど。なんの話か気になるし」

「俺は、同席できぬのだぞ?」

「うん……まぁ、大丈夫」

 

 ユージーンが近くにいてくれないのは不安だった。

 さりとて、今後は、そうしたことにも慣れる必要がある。

 いずれ、ユージーン以外の男性の元に嫁ぐことになるのだから。

 

「……ならば、手配をしておく。直接、屋敷に行かせることになろう」

「あ、そっか。ウチで会うんだ」

 

 てっきり王宮のどこかで会うものだと、思い違いをしていた。

 会うのはルーナなのだから、ウィリュアートンの屋敷に来るのは、あたり前だ。

 ユージーンが同席しないのに、王宮を使うわけがない。

 

(今まで知らない人と会う時は、ジーンが一緒だったから、つい、ここで会うって思っちゃってた)

 

 ひとつずつ。

 

 いろんなことが変わっていくのだろう。

 毎日、訪れていた執務室や私室からも遠ざかる日が来るのだ。

 ルーナは、室内に視線を巡らせる。

 どこも、ルーナのためのもので、あふれていた。

 見えないクローゼットの中も、ルーナの服のほうが多いと知っている。

 

(う……なんか泣きそう……ヤバい……)

 

 諦めると決めていても、どこかで(すが)っているのも感じていた。

 ユージーンが「男子を成す」ことより、自分を選んでくれるのではないか、そのための手立てを考えてくれるのではないか、と。

 

 やっぱりユージーンの(そば)にいない自分を、想像できずにいる。

 

 が、ユージーンからの言葉は、未だ何もなかった。

 このまま婚姻まで突き進んでしまうに違いない。

 

(そうなったら……それがジーンの決断ってこと……私は婚姻して、ジーンを本気で諦める……しかない……)

 

 ユージーンは、1度、決断したら覆したりはしないのだ。

 長く一緒にいたからこそ、わかる。

 どんなにつらくても、受け入れざるを得ない。

 ルーナには「必ず男の子を産む」とは言ってあげられないので。

 

「ルーナ? どうした? 気が進まんのか?」

「そりゃあ、そうだよ。なにもしなかったって言っても、ウィルやコートの友人に会うんだもん」

「嫌なら……」

「嫌ってほどでもない。それに、さっきも言ったけど、なんの話かは気になってるから、会うのは会うよ。ウチなら人も大勢いて安心だしね」

 

 乗り気でないのは確かだが、ユージーンに謁見を申し入れるほどのことだ。

 聞くだけは聞いておいたほうがいい、と思った。

 それに、自分のことで、そうそう迷惑をかけてもいられない。

 断って、またユージーンのところに行かれでもしたら、困る。

 

「それより、次の候補の人を選ぼうと思って、来たんだけど」

 

 胸の痛みを抑え、ルーナは笑顔を浮かべた。

 婚姻に前向きな姿を見せて、ユージーンを安心させたい。

 ささやかながら残っていた期待も、捨てるべきなのだ。

 

「そのことなのだがな。まだ修正ができておらんのだ」

「え~! せっかく来たのに~」

「もう、しばし待て。その間に、ルノーヴァと会っておけばよかろう?」

「わかった。しかたないから、そうする」

 

 文句を言いつつも、少しだけホッとしている。

 ユージーンとの別れを先伸ばしにできることが、嬉しかった。

 

(でも、めずらしいなぁ。ジーンなら、ぱぱって見直すと思ってたんだけど)

 

 ユージーンは、わからないことをわからないままにはしておかないし、できないことをできないままにもしておかない。

 睡眠時間を削ってでも、やりきると知っていた。

 それだけ真剣に、自分の婚姻候補の「洗い直し」をしてくれているのだろう。

 思うと、嬉しいような、複雑な心境になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ