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カノン  作者: しき
第5.5話
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風音ワングランプリ? 二日目乃伍


 枕を取ってきて、早速ソファに横になる風音。


風音「なんか大勢に見られてる前で寝るって緊張するな・・・」


 向かいのソファではレスタとルミナと息吹の三人が座って見ているし、アリエイラにいたっては風音が寝ているソファの後ろに椅子のまま移動してきて、上からのぞき込んでいる。


アリエイラ「眠りにくいなら子守唄を流しましょうか? 以前風音さんがセイニーさんに歌っていたものを、録音してありますが」


 携帯を出す。


風音「それはすぐに消してください」


 あんなもの風音にとっては抹消まっしょうしたい過去でしかない。


レスタ「あ、あれ録音してたんですか? 消す前にダビングして僕に分けて下さい」


アリエイラ「すみませんレスタ君。あなたの頼みでもこれはゆずれません」


 携帯を引っ込める。


ルミナ「どうせアリちゃんの事だからパソコンにも保管してるだろうし、後で勝手に侵入してっちゃえばいいでしょ」


アリエイラ「それは違法ですよルミナ」


 アリエイラがとがめる。


ルミナ「入るのはレスタだから。私は偶然レスタが持っていた情報を分けてもらうだけ」


アリエイラ「いいのですか? 可愛い弟が豚小屋にぶち込まれても」


ルミナ「いいでしょ別に。レスタの資産を全部シエロに譲渡じょうとするって言ったら、多分一日で釈放しゃくほうしてもらえるんじゃない? ねぇレスタ?」


 可愛い顔でレスタに尋ねる。


レスタ「シエロなら本当にやりそうだから怖いよね。・・・いやその前に僕捕まりたくないんだけど」


 ワイワイと雑談している三人。


風音(え? これ僕に寝てもらう企画じゃないの? 至近距離でめちゃめちゃ喋るやん、この三人)


 出来れば静かにしておいてほしいなと思いながらも、次第に眠りに落ちていく。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ふと意識が覚醒かくせいする風音。


風音「ん? ここは・・・?」


 凄く狭い場所。これは・・・乗り物の中?

 混乱したのは一瞬だけで、不思議と今の状況が理解出来る。


 どうやら夢の中のようだ。

 そしてこれが他人の人生を楽しむという事か。

 いきなり自分の意識だけになるのではなく、その出演している人物の人物設定が頭の中に入ってくる。


 置かれている状況を大雑把おおざっぱに言えば、どこか別の星での話のようだ。

 この星はある組織によって壊滅させられ、ほぼ唯一の生き残りとなった自分と、もう一人の人物がこの星から脱出しようとしているというシーンのようだ。


風音(よりによってそんな切羽せっぱ詰まった状況に送り込まれたのか。でもおかしいな・・・)


 寝る前に考えていた設定になるんじゃなかったっけ?

 確か普通の高校生活を送る日々を体験してみたいって思ってたんだけど。

 状況が全く違う。


 目の前には透明の板の様なものがある。

 これは窓か?

 改めて自分の周囲を見ると、かなり狭い空間にいる。

 星から脱出するために、小型の宇宙船のようなものに乗っているみたいだ。

 外の様子はよく分からない。倉庫のような薄暗い場所かな・・・という事が分かるくらい。


 この人物の現在の状態も分かる。

 つい最近、知り合いも親もほぼほぼ全員殺されてしまった。

 残ったのは友人の男性だけ。

 そういう状況であるらしい。


風音(悲惨だな・・・しかもどういう状況だこれ・・・中央に襲われてる?)


 世界平和維持機構、俗称「中央ちゅうおう」。宇宙全体の平和や秩序ちつじょ。そういったものを維持いじする為に設立されている、夢の中の話ではなく風音自身も知っている実在の組織。


風音(この夢って基本的には、僕の記憶にあるものの中から構築するのかな? 中央に襲われてるって事はこの星の人達は、宇宙の平和を乱す存在だと判断されたって事かな。 ・・・で、皆殺しに近い状況まで追いやられて、自分達はなんとか逃げようとしている、と。 なんでこんな重い設定なんだよ・・・)


 考えていると、窓の外に男性が現れた。

 確か名前は・・・エネ。風音は知らないはずなのに、やはり頭の中に名前が出てくる。

 この男性が唯一の生き残りである友人か。


エネ「セヴィ。もし無事に逃げ延びる事が出来たら・・・もうお前は戦わなくていい。どこか遠くで、新しい人生を平穏に過ごしてくれ。復讐は俺がやる」


 どうやらこの男、中央に復讐するつもりのようだ。

 なんて無謀むぼうな。しかし気持ちは分かる。


 風音がふと、窓に映った自分の姿を見る。

 今自分が演じているこのセヴィという人。女性のようだ。見た目は普段の風音に凄く似ている。


 いや何故この配役なんだ。

 ただでさえ普段女っぽい見た目を気にしているのに、ついに夢の中で本当に女にされてしまった。

 自分は本来男なんだから、配役はエネの方でいいだろうに。


 それと・・・


風音(どっかで見た事あるな・・・この人)


 風音自身、このエネという人物に見覚えがある。

 青い目に黒髪。鋭い眼光なのに笑顔は優しげな、意外と愛嬌あいきょうのある顔。長身でがっしりとした恵まれた体格。

 この夢が自分の記憶をもとに構築されているなら、どこかで見た人物なのだろうが思い出せない。


 ・・・なんにせよ、ここで風音の頭の中に二つの選択肢が浮かぶ。


 「復讐なんて駄目。一緒に逃げて、一緒に平穏に暮らそう」


 「私も復讐する。このまま逃げ続けても、どうせ一生前に進めないから」


風音(あぁなるほど。これが選択肢か。確かにアドベンチャーゲームっぽいな。この状況・・・)


 こんなもん復讐一択だろう。

 知り合いから親友から親まで殺されてるんだぞ?

 無謀とか知るか。

 一矢いっしでもむくいないと、気が済まない。


 ここから夢の中でハイスピードアクションが始まるのか。

 しかも普通のアドベンチャーゲームと違って、自分の意志で動くのだから決められたストーリーは無い。

 自分で考えて動き回りながら、選択肢を生んで選び続けていくという形か。


 ちょっと楽しみにしながら、復讐の方を選択する。


セヴィ「私も復讐したい。このまま逃げても、どうせ一生前に進めないから」


 エネが困った表情をすると、柔らかく微笑んで手を振る。


 そして周囲が真っ暗になった。


 セヴィは死んだようだ。



風音(え・・・どういう事だ?)


 急に物語が終わったようだが、暗闇の中で思考は出来た。

 そして今、風音が演じていたセヴィという女性が死んだという事だけが分かった。

 なぜ死んだのかすら分からない。

 逃げる事をやめて復讐に行った結果死んでしまったのか? じゃあその過程を見せてよ。


 考えていると。


 再び周囲が明るくなり、先程の狭い場所。

 目の前の窓も、窓の向こうの薄暗い様子も変わらない。


風音(さっきの状態に戻ってきたのか・・・)


 さっきのは間違った選択肢だったのだろうか。

 それにしてもいきなりデッドエンドってどうなんだろう。

 昔のアドベンチャーゲームじゃあるまいし、どちらの選択肢を選んでもそれなりに楽しめる物語にしてほしい。そのルートが最終的にバッドエンドでもいいからさ。


 ガラスの向こうに男が現れる。


エネ「セヴィ。もし無事に逃げ延びる事が出来たら・・・もうお前は戦わなくていい。どこか遠くで、新しい人生を平穏に過ごしてくれ。復讐は俺がやる」


セヴィ「復讐なんて駄目だ。一緒に逃げて、一緒に平穏に暮らそう」


 いまいち気に入らないが、これしか選択肢が無い。

 確かにこのまま二人で中央と戦うなんてただの自殺行為だ。生きていられるなら生きる方を選ぶのも大事な選択肢の一つだろう。

 いやむしろこっちの方が正しい選択であるという事くらい、本当は分かっていた。

 エンタメだから、最初はアクション寄りの選択肢を選んだだけだ。


 エネが柔らかく微笑む。


エネ「ありがとう。いつか必ず迎えに行くよ。じゃあね」


 そう言って手を振る。


 そして周囲が真っ暗になった。




 セヴィは死んだようだ。



風音(なんっ・・・・!!)


 ・・・・・・・


風音「・・・っじゃこのクソゲー!!!」


 眠りから覚めた風音が、ガバッと起き上がる。

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