厄災の渦9
ブラウニー「そんで、一発で倒しちゃったんすよ」
自分の功績の様に、胸を張って言う。
ジル「えっ? 最後そんな一言で終わってしまうほど、あっけなかったのですか?」
唐突に話が終わり、ジルが驚きの声を上げる。
しかもジルにとっては衝撃的な内容。
まさかあのリベルカが消滅していたとは。
確かに姿を消したとはニュースで見たが・・・死んでいたなど、そんな大きな事件は世界的なニュースになっていてもおかしくない筈だ。
ブラウニー「そう言われても・・・事実だからしょうがないし・・・」
隣で風音が乾いた笑いを見せている。
ジルとしてはまだ思う所もあるようだが、一旦その話を受け入れて話を進める。
ジル「ブラウニーさんも・・・まさかリベルカに認められる程とは・・・。宇宙中を探しても居るかどうかですよ、そんな人材」
ぜひシャロンに欲しい。
これでカノンではただの事務員だというのだから驚きだ。配属を間違ってるんじゃないだろうか。
ブラウニー「いやーー・・・・・どうだろ。結局私の技ほとんど効かなかったし。それに、私の技は全部逃げる為の技っすから。多分あんたが思う程万能じゃないっすよ。・・・でも」
ブラウニーが悔しそうな表情になる。
ブラウニー「繰り返す無限が走破されたのは特にショックだったっすね。 まさか解除じゃなく越えてくるか・・・。 一瞬で越えたって事は、繰り返す無限の到達点は開始位置と同じ位置に存在するって事なのかな?」
ブツブツと意味の分からない事を言い出した。そんなブラウニーに、風音が軽く笑いながら茶化す。
風音「それ当時からめっちゃ悔しがってるね」
ブラウニー「うぅ・・・。だって理屈に合わないっすもん。 無限っていくつか種類があるんすよ。大きくなる無限、小さくなる無限、繰り返しの無限、拡散する無限、黒の無限、熱量の無限・・・とかね。それぞれ全く意味が違うから同じ無限で括っちゃいけないし、記号もそれぞれ違うんすけど。 その中でも、繰り返す無限っていうのは到達点が無い筈なんすよ」
風音「まずその到達点とは?」
ブラウニー「無限を越えられる点の事っすよ」
風音が鼻で笑う。
風音「そんなもんは無い。無限を越える事は出来ないよ。越える事が出来たら無限じゃないじゃないか」
馬鹿にしてくる風音の頬を、ブラウニーが横から両手でピシャリと挟むように叩く。
ブラウニー「越えられるの! 現実と概念は違うの! 到達点は無限の概念の中には存在しないけど、現実にはあるから! 大体到達点が無きゃ、ワープのエネルギーどっから持ってくるんすか!」
風音「知らないよそんなの。 それより何かというとすぐ暴力振るうのやめてもらえませんかね?」
事務仲間が癒々とワグナなのが悪影響を及ぼしているのか、ブラウニーもすぐ手を出すようになってきた。
・・・いや、よくよく思い返してみれば出会った時も、地図で頭をポコポコどつかれていた気がする。
ブラウニーは元からこんなんだった気もしてきた。
・・・そんな事より、ブラウニーの手が頬に触れている事が気になる。ちょっと今は理由があってすぐにでも振り解きたいが、無理やり振り解くのも不自然だ。
レスタ「僕も初めて聞きましたけど、凄いですね。星の子をやっつけちゃうなんて」
風音の横に座っているレスタが、尊敬の眼差しで風音を見る。
レスタやルミナも当時は既にカノンの乗組員だったが、まだ小さな子供だった。星の子を討伐したというのはちょっと刺激の強い話なので、二人には伏せていたのだ。逆に、サルトは知っている。
ジル「そうですよね。風音さんがあのリベルカを・・・・・・」
ジルは複雑な表情をしている。
昔話が一通り終わり、ブラウニーが水を飲もうとコップを持った。・・・が、話の途中で飲み干していたせいで、とっくに中身は無くなっていた。
だいぶ長い間二人で交互に喋っていたのでそれも当然か。
セイニー「あ、何か飲み物入れますね。紅茶でいいですか?」
話の中でブラウニーが紅茶が好きだという情報があったので、以前この地で行われた風音の誕生日会の時に貰った紅茶の準備をし始める。
セイニー「風音はどうします? ・・・あれ? どうしたのかな?」
どこか顔色が悪い風音を見て、セイニーが首をひねる。
風音「いや、別に。ちょっと長い間喋ってたから、お花でも摘みに行ってくるよ」
そう言って席を立つ。
セイニー「あ、庭でお花を摘むんでしたら、新しい種をいくつか植えておいたので期待してくださいね? 珍しい花が盛りだくさんですよ?」
風音「あ、ごめん。えっと・・・トイレに行くって意味だったんだけど」
セイニー「・・・? そうなの?」
不思議そうにクリンと首をひねる。
風音「そうなの」
笑顔でそう言ってから、トイレの方へと向かう。
その後ろ姿を目で追った後、ジルも席を立つ。
ジル「ちょっと私もトイレに行ってきます」
セイニー「あ、今風音が使ってると思いますよ?」
トイレに向かおうとするジルに、この地の主として的確な助言を伝えた。
こういう所セイニーはしっかりしているな、と自分でも思う。
ジル「・・・ええ、知ってましたよ」
笑顔で聞き流し、風音の後を追うようにトイレに向かう。
トイレのドアの前まで来て、ジルがドアに背を預けて寄りかかり、ドア向こうに居るであろう風音に話しかける。
ジル「震え、止まらないですか?」
しばらくして返事が来る。
風音「うん、恥ずかしながら」
トイレの中で風音がガタガタと震えている。
風音「あの時の事を思い出すだけで・・・恐怖とか絶望感とか後悔とか・・・いろんなものがいっぺんに来ちゃってさ・・・・」
さっきブラウニーに触れられた時は、震えを止めるのに必死だった。あまりカノンの乗組員に弱い所を見せたくない。
今はジルしか居ないから隠そうともしていないせいか、声も大きく震える。
最後の攻撃の最後の瞬間。
あの時の事はよく覚えている。
風音の一撃はその衝撃波だけで、後ろに居たブラウニーや継ぐ者を粉々にしてしまうほどの威力だった。
だから風音は培った技術で衝撃を全て相手の体内にねじ込むように撃った。
それでも星の子がその気なら体表で跳ね返す事も出来たろうし、何よりその一撃が風音の想定を遥かに超え強力過ぎた為、人類の体術程度では完全に衝撃を漏らさずに打ち込む事など不可能だったのだ。
拳が触れた瞬間にそれに気づいたが、もう時既に遅し。ブラウニーはあの瞬間跡形もなく吹き飛んでいてもおかしくなかった。
しかし風音が己の見通しの甘さを後悔する暇すら与えず、星の子が自らその一撃を体内の中心に送り込んだ。
おかげでその衝撃は星の子の内側で爆発するように、その全てを余すところなくぶち込めたのだが・・・その威力は星の子にとって羽毛で撫でられたに等しかったろう。
こちらとしても打撃の威力そのものは効果が期待できない事は予想済みだった。
そこから一気に星の子の全身に高濃度の毒が行き渡る。
瞬く間に色褪せて崩壊していく星の子を見ながら。
・・・・・・・それでも風音はこのまま勝利するイメージが全く湧かないでいた。
まばたき一つした後には元の姿に戻っていそうな、そんな絶望的な未来しか浮かんでこない。
その時継ぐ者が星の子の行動を読み取り、教えてくれた。
継ぐ者『奴は今、必死に抗っている。だが毒に、ではない。毒を克服しようとする自身の防衛機構に対し、だ。必死でそれを抑え込み、毒で消えてしまおうとしている。今の所、その努力が実を結んでいるようだが・・・』
その言葉の約三秒後。
星の子は消滅した。
終わったのか? と、まだ実感が湧かずに、
風音「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ただただ呆けた様に呼吸を止めて、何もなくなった前方の空間を見つめていた。
これを薄氷の勝利・・・と言っていいのか?
・・・そもそも勝利なのか?
こちらの攻撃はまるで通じず、本来なら毒も効かなかったのだろう。
最初から最後まで敵自身に協力してもらい、そして自殺に等しい消え方をした。
敗北と言っても差し支えない気がする。
・・・などと、その瞬間はそんな意味の無い事を考えていた。
そして、本当の恐怖はその数瞬後に来た。
風音の毒は、その毒で崩壊させた物のエネルギーを取り込み自分の力に換える。
急激に全身を寒気が襲う。
風音「あぁっ! あああぁああぁぁ!!」
その場で崩れ落ち、頭を抱えてガタガタと震える。
ブラウニーが後ろで何事か叫んでいるが、全く耳に入らない。
星の子の力を丸ごと得て、風音の中に感じたのは・・・
宇宙の全てを人型に無理矢理詰め込んだかのような。
ただそこにあるだけで内側から身体を引き裂きそうな、凶悪で信じられないほど強力な得体のしれない力。
今しがた継ぐ者の協力と、周囲数キロメートルにわたって大地と建物を崩壊させた時に得た力。小惑星程度なら余裕で粉々に破壊出来たであろうあの力ですら、強力過ぎて全身が震えたというのに・・・。
今体内に感じる力は、あの何万倍になるのか。もはやエネルギーとか力とかそういう表現ではなく、もっと別次元の何かを体に入れられたような感覚。
そして圧倒的な虚無感。
一体いつからなのか。星の子があらゆる感情を、喜びも絶望も怒りも幸せも・・・何も感じなくなったのは。
最後に残ったものは押しつぶされそうな虚無感だけだった。それが時と共に星の子の中で抱えきれない程肥大していったのだろう。
これをずっと抱えたまま・・・
同情からなのか、風音が息を荒げながら涙を流す。
いや、自分は星の子じゃないんだ。
乗っ取られている場合じゃない。
自分の感情を取り戻さないと。
必死でそう考えるが、力も虚無感も強力過ぎるせいかすぐに自分の感情を上書きされてしまう。
どうにか自分の意識がある内にふと辺りを見ると、風景が変わっていた。
どこかの部屋。 ・・・のベッドの上?
風音「なんだここ・・・? どこ・・・?」
思った事を口に出していた。それに応えるように横から声がする。
ブラウニー「っえ!? 会話が出来るんすか!? よかった~~~~~~」
風音「・・・・・・」
頭が重い。大きく呼吸をしながら無言で声がした方を向く。
ブラウニー「ここは私の家っす。大丈夫っすか? 何が起こってるんすか? あれからもう五時間は経ってるんすよ?」
半泣きになりながら心配そうに尋ねてくる。
だがその問いに答えるほどの余裕が無い。とにかく伝えなければならない事を伝える。
風音「ごめん・・・星の子の力を取り込んじゃったみたいで・・・・・どうにか抑えてるつもりだけど・・・今は触れただけでも・・・人くらいなら死んでしまうかも・・・だから・・・しばらく一人に・・・・・・」
壊さないように注意しながら、ポケットから携帯端末を取り出して適当に放り投げる。よく見ると、ベッドも所々引き裂かれている。
風音「あと、僕の携帯から・・・・・片桐煉也って人に・・・電話を繋いで・・・離れた場所に」
そこまで言って、頭を抱えてベッドにうずくまる。
ブラウニー「・・・了解っす」
カタギリレンヤ。了解したものの文字が分からない。が、機能のアイコンの意味ならなんとなく理解出来る。登録されている番号に片っ端から適当に電話を掛けていけばその内当たるだろう。
落ちている携帯を拾ってから風音を見ると、また頭を抱えてさっきの状態に戻りつつあった。まだぎりぎり意識は保っているようだが。
ブラウニー「それと、継ぐ者は壊れちゃったっす。元からそういう生態だったらしいっすけど。・・・最後に継ぐ者から伝言が。星の子は消える間際、音羽ちゃんに感謝していた。って」
風音「はは・・・殺した相手から・・・感謝されても・・・・・。死ぬ以外に・・・救われる方法も・・・あったかも・・・しれ・・・ない・・・の・・・に・・・・・・。・・・・・・ぁ、・・・うぁ・・・! ぁあああああああああああああああっ!!!」
そして、また頭を抱えたまま叫び声を上げだした。また意識が飛んだようだ。
聞こえていないのが分かっていながらブラウニーが語り掛ける。
ブラウニー「星の子って今の音羽ちゃんの状態が何億年も続いてたって事っしょ? じゃあもう・・・解放してあげたって事で、いいんじゃないっすかね」
再びガタガタと震えだした風音を見下ろし、少し複雑な表情で微笑む。
ブラウニーがゆっくりと風音の頭を撫でた。
それから約三週間もの間、風音は引きこもったまま一人で過ごした。
星の子が抱えていた孤独や虚無感が、一時的にとはいえ感じる事が出来た。まさか力だけではなく感情まで取り込むとは思っていなかったが。
あの三週間。
もう嫌だ! どうにかしてくれ・・・! と、何回思っただろう。
最初の一週間は他の事は何も考えられず、もうそれしか考えていなかったかもしれない。
その状態にも少しだけ慣れてきた残りの二週間は、時々意識を飛ばしながらも必死に取り込んだ力を抑え込む努力をしていた。
風音「・・・まぁ大体そんな感じかな。あの後の事は」
壁の向こうに居るジルに向かって、力無い口調で言う。
意識を少し取り戻せてからは、あの瞬間ブラウニーを殺してしまうところだった事を思い出し、自分の浅はかさに後悔してばかりいた。
何故みんなの意見を聞き入れ、とっとと星から脱出しなかったのか。
何故手遅れになってしまうまで、自分の力量の無さを認める事が出来なかったのか。
万事上手くいったのも星の子自身の協力による・・・・・・結果論じゃないか。
など、後悔ばかりが頭に浮かぶ。
自分の感情が戻ってからしばらくの間、感情がほとんど無かった状態からの変化による影響? ・・・なのかどうか知らないが、感情の起伏が激しくなっていたのもあり、ずっと泣きながらブラウニーに謝り続けていた記憶がある。
ブラウニーはずっと微笑みながら頭を撫でてくれていた。
ジル「片桐煉也さんというと、あのよく寝る人ですよね。そんな状況であの人に何の用が?」
風音の話が一段落したので、ジルが個人的に一番気になった部分を尋ねる。
風音「ああ、それが僕が星の子を倒した事が一般に公表されてない理由かな。確か一般向けには「星の子は何故か姿を消し、それ以降姿を見せていない」って報道されてたんじゃなかったかな。ところで、あの人の特性って覚えてる?」
ジル「煉也さんの特性? 寝越しと食い溜めが出来る、でしたっけ」
そう。煉也は予め寝ておけばその分だけ、予め食べておけばその分だけ体にストック出来る。そういう技を持っている。
風音「星の子の力は多分、僕が一生かかっても使い切れない位大きな力を持ってたんだよ。無理に力を解放したとしても、それを受け止める器が無いって言うか・・・無人の星を破壊しまくってもいいけど、それでも何十年掛かるかって感じだし。だからあの人の技を応用して、莫大な力をエネルギーに変換して体内にストック出来ないかなって思ってさ。コツとかを聞いて少しずつ封じ込めて行ったんだよ。その作業に二週間かかった」
ジル「え? という事は、風音さんは今も?」
風音「うん。やろうと思えば星の子の力を解放出来るんだけど・・・」
ジルが眉をひそめる。
研修時代、ある教官から音羽風音は世界の均衡を変えるほどの危険人物だと聞いていたが、確かレイ長官はそれを否定していた。
多分あの教官はこの事を知っており、レイ長官は知らないのだろう。
残念ながらこれは教官の言い分の方が正しい。事実なら危険人物どころではない。
そして、公表されていないのも頷ける。
星の子の力を持った人間がいるなど・・・ただでさえ星の子を神と崇めている宗教も各地に存在するというのに。
彼ら信徒が真実を知ったらどういう行動に出るのか。星の子を倒した風音を敵とみなし、討伐しようとするのか。あるいは倒される事を自ら受け入れた星の子の最期の行動から、直接力を授かった風音を神の子として扱い信仰対象とするのか。それとも・・・
いずれにせよ、どうせ最終的には意見が対立して宗教戦争に発展するんだろうな、と思う。
ジルが深いため息を吐く。
この間風音と初めて会ってから、もう何度目の嘆息だろうか。
風音の事を敵と見なすのは止めた、と決めた矢先にこれだ。ジルが複雑な心境になる。
しばらくの沈黙の後、風音が続きを話す。
風音「・・・使い道はもう決まってるから、その時が来るまで使わないつもりだけどね」
ジル「使い道、とは?」
風音「あの後僕の中で折り合いをつけてさ。星の子を倒したのはただ自分の為に殺したんじゃなく、苦しみから解放してあげたんだ・・・って思うようにした。充分長生きしただろうし」
そこで風音が拳を握る。決意の表れなのか、震えもピタリと止まる。
風音「星の子は後二匹いる。この力は残りの二匹が現れた時に使うよ。そこで全て出し切る。多分彼らなら全部受け止めてくれると思う・・・・・・負けるかもしれないけどさ」
残りの二匹は超巨大だと聞いている。多分普通に毒を打ち込んだだけでは消えないだろう。
その二匹を苦しみの連鎖から断ち切ってやれるのは、おそらく同じ星の子の力であるこの力だけだ。
ジル「そうですか・・・。まぁ、多分ルスリズとネルギリは現れないでしょうけど・・・それがいいですね。もし自分の為に使うとか言ってたら粛清対象でしたよ」
後半笑いながら言う。
風音「笑えないよ」
ふふっ、と風音も笑って応える。
と同時にトイレのドアが開く。
ドアノブの動きに反応して、ドアに背を預けていたジルがドアから離れ、振り返る。
少しすっきりした表情の風音が、ジルに向かって話す。
風音「それにね、あの力って使い辛いんだよ。僕が制御出来てないだけかもしれないけど」
ジル「・・・と言うと?」
風音「なんてったらいいんだろう? 今までそんな事考えた事も無かったんだけど、攻撃の属性っていうの? 例えば殴るってったら『打撃』じゃない? 刃物での攻撃は『斬撃』・・・とか」
ジル「はぁ・・・それでいくと、私の糸は斬撃に当たるんですかね? ・・・私もそれはいちいち考えた事が無いですね」
ジルが何となく腰に付いている筒を触る。ここにジルが使っている武器の糸が入っている。
風音「星の子の力って、どんな使い方をしても属性が『喰う』なんだよ。無って言ってもいいのかな? とにかくこう・・・・・無くなるって言うか」
ジル「・・・・・・・・それは・・・確かに使い勝手が・・・」
風音「悪いでしょ? こんなん同じ星の子相手に使う以外に使い道が無いって」
ジル「・・・触れた物を無に帰す事が出来るなら、ゴミ処理の仕事とかどうでしょう?」
風音「ちょっと力の使い方を間違えたら星ごといっちゃうかもしれないのに? ・・・リスクでかくない? ・・・あ、でも借金返すのに役立つかな・・・ 紹介出来る施設ある?」
ジル「冗談です。やめましょう」
ちょっと焦るジルを見て風音が笑う。
ジル「しかし、この間のロボットの件といい星の子といい、風音さんはいちいち死にかけてますね」
風音「うん、他にも何回か死にかけてるよ。僕も自分の技って凄く汎用性のある、対応力の高い力だと思ってたんだけどね。 ロボットにしても星の子にしてもゼロアにしても母さんにしても・・・・相手が規格外なんだよ」
中でも星の子は群を抜いて規格外だったが。もうちょっと普通の相手は居ないものか。
風音「うん、もう大丈夫。戻ろっか」
ジル「あ、先に戻ってて下さい。私は本当にトイレを済ませてから行くので」
風音「ああ、うん。話長かったからね」
そう言って先にリビングの方に戻る。
それを見送ってからトイレに入ったジルが、先程同様ドアに背を預けて考え込む。
ジル(確かに粛清対象では・・・ない。が、監視対象ではある。放っておいていい人物ではないな、彼は)
以前のように敵だとは思っていないが、味方と言うには危険過ぎる。
ジル(いっそカノンに潜り込むか・・・?)
乗組員募集とか言っていたし。
ジル(いや、それは駄目だな。私にもシャロンの一員としての信念がある)
ジル「ま、一旦保留ってところですかね」
電気も点いていないトイレの中で一人、結論を小さく呟いた。
風音がリビングに戻ると、ルミナとアリエイラが帰ってきてレスタと話をしていた。
レスタ「そっか。じゃあやっぱり全取っ替えしかないかなぁ。それが一番確実だね。問題はお金の方だけで」
ルミナ「お金なんて私達の口座に腐るほどあるでしょ。こういうので万分の一でも使わないと減っていかないじゃない」
アリエイラ「でも風音さんが自分の事で、他人のお金を使う事は絶対に無いでしょう。その辺は私が身をもって体験しています」
風音の借金二百兆円の原因になったのは、過去にアリエイラの星で起こった事柄に関してだ。これを簡単に支払えるルミナとレスタの支援を断ったのだから、今回も断るだろう。
アリエイラ「ねぇ? 風音さん」
ちょうど帰ってきた風音に尋ねる。
風音「もちろん。でも数億とかくらいなら、金庫の貯金とシャロンの依頼を何回か現金支給でこなせばいけるんじゃない?」
当初は広大な島の全土にあるシステム全てを取り出し、地上で作った物と入れ替えないといけないと思っていたので、何千億というお金がかかると思われていた。
しかしルミナ達技術者に見てもらったところ、島中に巡らされているシステムそのものは流用できそうらしい。
もし最悪ロボットをどうにも出来ずに、システムそのものを入れ替えるとなっても、メインシステム部分を入れ替えればいいだけであろう、という事が判明した。
それでも数億くらいはかかりそうなのだが。
今回乗組員の増員による必要経費として、事前に金庫からお金を使う事が予想されると事務のワグナに伝えてある。
その監査の為に事務のブラウニーが今回派遣されたのだ。
結局お金を使う事になりそうなので、あとでブラウニーがワグナに必要経費を記入した報告書を提出しておかないとならなくなった。
ブラウニーとしては、出来ればお金が掛からないという内容の報告書を書きたかった。
ワグナは金庫のお金が大量に減ると機嫌が悪くなるのだ。その状態のワグナと一緒の部屋で仕事をする気まずさたるや・・・。
そしてシャロンからの依頼の方だが、こちらは訳あって一回こなすだけで何億という借金が減るシステムになっている。
ただ、報酬を現金で支給にした場合は何億も貰えるという訳ではない。仕事内容にもよるが大体数十分の一に減らされてしまう。
風音「・・・と言いたいとこなんだけど、それじゃあ下手すりゃ数か月先になるな。お金を貰うのは嫌だけど借りるのはアリだし、またサルトさんに協力してもらって借りられないかな」
今回は二百兆の時と違って近い将来きちんと返せそうだし、サルトから直接お金を借りる事が出来ないか相談してみよう。
レスタ「それしかないですかね・・・。って言うか、なんでサルトさんに頼むんですか? 今この場に居る僕等でも貸せますけど」
ルミナがうんうんと頷く。
風音「ありがと。その気持ちは嬉しいんだけど、大きなお金の貸し借りってのは子供がするもんじゃないよ。大人になってから、ちゃんと契約とか交わさないと」
グリグリとレスタの頭を撫でながら言う。
過去にもそういう理由でサルトに保証人になってもらった。
今回の件もお金を返せる見通しと、借りる理由をカノンに帰ってからまとめておかないと。
彼はレスタやルミナと違って、お金がいっぱいあるからといって簡単に貸してくれるような人じゃない。
お金を貸す、借りるという事がどういう事なのかをちゃんと理解している人だ。
だからこそサルトに頼みたい。優しさで簡単に貸してくれようとする二人の行動は純粋に嬉しいとは思うが、甘える訳にはいかない。
ブラウニー「こ、ど、もっ。ほ~れこ、ど、もっ。ひゅうっ!」
お金の貸し借りにはまだ早いと言われたレスタとルミナに向かって、ブラウニーが意味不明な煽り方をする。
二人がちょっとイラッとした。
ブラウニー「帰ったらお庭にビニールプール用意してあげまちゅからね~。 子供達は安心してハシャいでていいよ。溺れないようにお姉さんが監視員やってあげまちゅ!」
ブラウニーが二人に向かってビシッと敬礼する。
ルミナ「・・・よし、今夜寝てる時にあのおさげ引き千切る」
レスタ「手伝うよ」
不穏な空気を出す二人の頭を撫でて、風音が宥める。
風音「中身が一番子供なのはブラウニーだと思うけどね」
代わりに風音が言い返しておく。
ブラウニー「うっ・・・言ってくれるっすね。私に言わせたら艦長が一番子供っすよ」
言われたから言い返したわけじゃなく、割と普段からそう思っている。言い出したら聞かない所とか、風音の行動は子供っぽい所が目立つ。
一緒に買い出しに行くことが多いが、おやつ売り場やおもちゃ売り場、家電製品売り場でテンションが上がる風音を見ていると、子供と一緒に買い物をしている気分になる。
だが風音本人は今のブラウニーの言葉は単なる捨て台詞と受けとめ、適当に聞き流して技術者たちの会話の方に参加する。
風音「じゃあ今後の方針は大体決まったし、これからは機械の解析作業じゃなく、地上の技術とどう取り替えていくかの・・・」
ブラウニー「ちょっといいっすか?」
挙手してブラウニーが割り込む。
ブラウニー「セイニーさんって機械と融合出来るんすよね? じゃあなんでその・・・島を管理するロボットとかいうのに融合しないんすか? プログラムを変えて都合の良いように動かせばいいじゃないっすか」
その意見に、技術者三人が露骨にため息を吐く。
ルミナ「あなた話聞いてなかったの? あのロボットにはそれを防止する為のシステムが組み込まれているのよ」
レスタ「下手をすればセイニーさんの方がロボットに取り込まれて、利用されるかもしれないんだって」
アリエイラ「まぁまぁ二人とも。ブラウニーさんの機械に関しての知識はハクビシン以下。 ずぶの素人なんですから、基本から分かり易く説明してあげましょう。 いいですか? このお話は実際に過去にあった出来事です。メータとゼアスタという二体のロボットが居ました。メータは問います。『私達に心はあるの?』ゼアスタは答えます。『心なんて無いよ』 再びメータは問います。『じゃあ心なんて無いと答えた時にあなたが流したそれは何?』涙を流すゼアスタは答えます。『これは、この状況で流すようにプログラムされているだけです。・・・そうに・・・決まってます』しかしゼアスタ・・・」
ルミナ「長い? その話」
アリエイラ「えっ!?」
まさか途中で止められるとは思っていなかったアリエイラが驚愕する。
心が無いと主張し機能も停止され、動けなくなったはずのゼアスタがメータを救う為にほんの五センチだけ動いた。それがきっかけでメータは自我に目覚め、心を育み・・・。という壮大な物語がこの後展開されるはずだった。
そしてこの実話ほど、知識の薄い者にもロボットというものがどういうものかを伝えるのに適した物語は無いと思っていたのに。
まさか途中で・・・
止めるかね・・・・・・?
アリエイラ「無念・・・・・・」
アリエイラ沈没。
でも正直全然聞く気が無かったブラウニーが、アリエイラを放っておいて主張を続ける。
ブラウニー「って言うか、今皆で馬鹿にしてくれたところ悪いんすけどね。あのね、こっちだって監査として来てるんだからそんくらい知ってるよ。それはあのロボットが起動してる時に融合した時の話っすよね? でもあのロボットは今、全機能を停止させてるんでしょ? じゃあそのセイニーさんを乗っ取ろうとするシステムだって動かないっしょ」
例のロボットは現在、あらゆる機械を停止させる装置によって動きを封じられている。
身体が半分機械で出来ている筈のセイニーは何故か、その装置の中でも動けるようだが。
ブラウニー「動けない内に融合しちゃって、システム丸ごと書き換えりゃいいんじゃないのって話っすよ」
再び三人が盛大にため息を吐く。
レスタ「言いたい事は分かるんですけど」
ルミナ「そんなの最初に考えたわよ」
アリエイラ「待って二人とも。彼女の頭脳はモグラ以下。 ここはひとつ、分かり易くそれを証明してあげましょう。 いいですか? ここに精密機械があるとします。それが突然動かなくなったら・・・ブラウニーはどうしましょう? 取り敢えず叩いてみま・・・・・・?」
みま・・・と最後に言った、口を開けた状態のままブラウニーの返答を待つ。
ブラウニーが一瞬首を傾げてから答える。
ブラウニー「・・・す」
はいよく出来ました。という感じで、アリエイラの表情に笑顔がこぼれる。
アリエイラ「・・・よね? ブラウニーならそうすると思ってました。・・・だからあなたはモグラ以下なんですよ?」
子供を諭すような口調で告げる。
そしてこれを持ちまして、いかにブラウニーの知的レベルが低いかの証明終了。
ルミナ「アリちゃん、ブラウニーの知能指数の証明は要らないから。何故融合が出来ないのかを証明しないと。 要は私達が何が言いたいかっていうと、風音さんとセイニーさんだって最初にそんな事は考えてるの。もう試してるのよ。で、無理だったから私達が招集されたんじゃない」
レスタ「うん、それが大前提。ブラウニーさんの意見そのものは的外れじゃないとは思うんだけど、僕達にしたら前提以前の事を言われた感じというか・・・それが出来るなら、僕達を呼ぶ意味が無いじゃないですか」
立て続けに否定的な意見が続いてブラウニーも押され気味になる。
ブラウニー「そ、そうだったんすか? 艦長。 で、やってみた結果はどんな感じだったんすか? やっぱロボットそのものが全く動かないから、融合してもうんともすんとも言わなかったとか?」
ブラウニーが風音の方を見る。
技術者三人も結果報告は聞いていなかったので、興味があるのか風音に注目する。
風音がやれやれ、と手に持っていた紅茶の入ったカップを机に置いた。
風音「・・・セイニー、言ってやって」
代わりに全員の注目が集まったセイニーが、ニッコリと微笑む。
セイニー「そんなの試してませんけど?」
ワグナ・トリミアさんへ
艦長から指示があった増員の必要経費に関しての報告です。
監査の結果ですが、予想されていたお金は一切掛からずに済みました。
以上
監査 ブラウニー・レイスコア・イル・メイサ
あとがきですよ。
なっっっっがい!!!!
長いって。
一話一話がいちいち長い。
もし最後まで読んだ人が居たとしたら、お疲れ様でした。
ありがとうございます。
いや実は小説書く時間が無さ過ぎて、本来二話分だった話を一つにまとめたんですよね。
で、せっかくなので。
ここまで読んでくれた人なら大体分かるかもなんで、一応まとめる前の二話の概要を書いていきましょうかね。
まず第二話になるはずだった話から。
主にブラウニーの話ですね。一行で内容を解説するなら。
星の子という生物に追われ続ける少女の話です。
初めて星の子に出会った時に、逃げきる事に成功したブラウニー。
安堵していたのも束の間。それ以来何故かブラウニーが行く先々に星の子が飛来するようになる。
犠牲者が出ないように星を転々とし、隠れるように暮らす日々を過ごしていた。
で、まぁ色々あって風音と出会い、最終的に星の子から逃げる事が不可能になり、風音とブラウニーで協力して星の子を消滅させるまでの話でした。
内容的には凄い薄かったんですけど、その分風音とブラウニーの雑談というか、絡みが多くなるはずだったんですよ。
元々そういうのが書きたかったので。
ストーリー性とか内容よりも、人物同士の掛け合いで世界観とか日常風景を彩っていく、みたいな。
だから本編では一回しか二人乗りしてませんでしたけど、予定ではバイクシーンだけで三回くらいあったし。
そういうのもあって本編に比べると、風音とブラウニーの距離感がものすごい近い感じでした。
本編でもブラウニーが九重と神楽とはちょっと距離があるのに、風音とは友達感覚で接しているのはこの辺の名残かな。
次に、第四話になる予定だった話。
主な登場人物は風音と神楽、九重とパンテン兄弟。
ケイロンという星で起こる災害の調査の話ですね。その正体はウイルスでした。
大体本編と同じような話の流れです。
一番の違いは、政府側の人達がガッツリ出てくるところ。
本編では丸々カットされてましたね。その辺を書くと長くなりすぎるからという理由で。
ちなみにパンテン兄弟は政府側の人間です。九重と戦う予定でした。それもカットされたけど。
本編では九重が初登場の割に負けてばっかで良いとこ無かったですが、予定ではパンテン兄弟と戦い勝利する筈だったんですよね。
主な登場人物にパンテン兄弟が入っている理由として、一応彼らは二人の妹達(顔は割と美形だが片方は筋肉隆々、片方はデブ)を人質に取られている様な形になっていて、それを助ける為に政府に協力していた。というくだりがありまして。
デブの方は声が低い、というどうでもいい設定もありました。
まぁそいつらも助けるんですけどね。暑苦しい展開続きの予定でした。
分けて書いた方が、登場人物を深く掘り下げる事が出来たと思うんですけど。ちょっと時間がね。
面倒だから合わせようってなって。
したら結局長くなって。
何やってんだろうってなって。
まぁ終わったからいいか。
じゃあまた次の話で会えたら良いですね。
ありがとうございました。
お疲れ様でした。




