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カノン  作者: しき
第2話
13/206

厄災の渦6

 よく分からないが、風音が携帯端末を取り出し「星の子」と聞いたままの言葉を打ち込んで検索してみる。

 そして、恐ろしい検索結果が出る。


 ブラックリスト生物災害の一。二。三。

 現存する神とも言われる生物。ブラックリスト名「星の子」

 いつから存在したのか不明である巨大な軟体生物?

 神として扱われることも多く、星の子を神とした宗教も多数存在する。

 主な生態として、星を食べて生きる事で知られる。

 観測された個体は三体。現在二体の生存は謎。

 最も危険な「星の子リベルカ」は三体の中では最も小型で全長約400~500メートル。不定形の為正確な大きさは不明。

 以下、個体別の特徴。


 生物災害の三「星の子ネルギリ」

 宇宙の端に向かって移動を続けていると思われる個体。現在観測不能だが危険は少ないと判断される。


 生物災害の二「星の子ルスリズ」

 多次元を移動すると見られる個体。一度観測されたがすぐに消えた。最も大きな個体で超巨大恒星を丸ごと捕食する姿が確認され、以前は最も危険と認識していたが、現在は姿を現さない事もあり危険は少ないと認識を変えている。


 生物災害の一「星の子リベルカ」

 最も危険な個体であり、この世で最も凶悪な生物。頂点の種族と呼ばれる妖精ですら一方的に捕食する。

 主食は他の個体と同じく星そのものであるが、全長が数百メートル(軟体で流動形なので正確な数値は分からない)と、他の個体と比べると非常に体が小さいのでそのまま星を食べるような行動はとらない。

 星に降り立つと同時に周囲の生物を食い荒らした後、星の中心に向かって移動し核付近で星の生命力を全て吸い取る。その後、内側から星を破壊しどこかに飛び去る。

 星の子が核に到達し、星を破壊するまでにかかる時間はおよそ九時間半ほど。


 リベルカが最も危険とされる理由について。

 生物が住む星を好んで食す事から。

 その理由は目に留まる生物を全て食い尽くす事が目的だと思われる。過去に捉えられた映像から、生物を捕食する事を楽しんでいるようにも見える。

 リベルカにとって全ての生物は、主食である星を食べる前の前菜の様な位置付けなのかもしれない。


 動きが鈍重であることから攻撃を浴びせること自体は容易であり、過去様々な生物や人類が反撃を試みたが、全ての衝撃が吸収されているかのようにこちらの攻撃に対し微動だにしない。

 近年、至近距離での超新星爆発及びガンマ線バーストに無傷で耐える事が判明し、人類は抵抗する事が無駄であると悟った。


 現在までに破壊された星の数は分かっているだけで1500以上あり、そのほとんどがある程度高度な文明を持つ星である。

 この事から少し前までは文明を持つ星を好むのではないかと推測されてきた。

 だが辺境の未開惑星が突如消え去った事があり、これがリベルカの仕業であると断定された為、星を選ぶ基準は不透明となる。


 他の災害に比べ圧倒的に人的被害が大きい理由として。

 予想や予言、過去の行動分析から占いに至るまで、あらゆる手段をもってしても星の子の出現を予測する事が出来ない事。

 そして肉眼のみでしか存在を確認出来ない点が大きな要因であり、その仕組みは不明である。


 他にもこの生物に関しては科学で解明出来ない事象が多い。

 一例を挙げると、本来なら宇宙からリベルカが大地に降り立った時に、衝撃で周囲数十キロから数百キロは壊滅する筈である。しかし過去の記録では、リベルカ着陸時に直接下敷きになった物質以外は何一つ壊れなかったとされている。

 これはおそらく生物を捕食する為にリベルカが意図的に行っている行動だと思われるが、何故そんな事が可能なのかが現在も解明されていない。

 近年では英雄メイクリットの予言すらも星の子には通じない事が判明している。

 狙われた星は不運としか言いようがない。

 以下詳しく過去の行動を・・・




 あまりにも長い説明が続いているのでこの辺で読むのを止める。


風音「嘘だろ・・・超新星・・・って、これ本当に生き物なのか? 肉眼でしか・・ってどういう事? 霊的なものじゃないの?」


 端末を持つ手が震える。

 しかもこいつ予言とは関係ないらしい。メイクリットが予言したのは継ぐ者の方だけであり、この怪物は偶然この星にやってくるという事だ。

 確か継ぐ者が最初に選択を誤ったと言っていたが、こいつの事か。

 宇宙にある情報を全て知ると言い切った継ぐ者でさえ、こいつの行動だけは事前に分からなかったようだ。


九重「ちょっと俺にも見せろ」


 風音が近付いてきた九重に携帯端末を渡す。


風音「この星の子ってのは、いつこの星に来る? あんたは知ってるんだろ?」


継ぐ者『日が真上に 昇る頃 最も人類が 集まる場所に   飛来する  』


風音(明日の昼頃の・・・中心都市か・・・・)


九重「どうも」


 九重が風音に携帯端末を返す。


九重「これはどう考えても分が悪い。脱出するべきだ。不幸中の幸いなのはこの怪物の出現で政府が星を放棄・・・継ぐ者への興味を失った事だな。今まで懸念していた爆撃はもう無さそうだ。今から明日の昼頃までなら安全に離脱できる」


 風音が首をひねる。政府の行動が理解出来ない。

 今の九重の発言は継ぐ者の言い分である「政府がこの星を放棄した」を信じた上でのものだろうが・・・・だったら普通逆じゃないのか?


 更なる驚異の出現のせいで継ぐ者に構っている暇が無くなった?

 じゃあ政府としては問答無用でこの辺りの地域を壊滅させ、継ぐ者問題を手っ取り早く解決させた方が、星の子対策に集中出来そうな気がするが・・・。


 放棄・・・とはどういう事だろうか?

 星が破壊されてしまうのは受け入れ、ケイロンという星を放棄し、住民達は脱出させるという意味ではないのか?


 風音が返してもらった端末でこの星で検索出来る情報を調べても、星の子に関する情報は出てこない。

 継ぐ者が言った事が正しければ、もう政府は知っている筈なのに。

 普通なら今すぐ他の星に救援要請を出して、中心都市に集まった人達を別の星に移動させなければならないだろうに・・・。


風音(・・・コイツのせいかな?)


 継ぐ者を見る。

 このウイルスの感染者が居る事で、他の星の者を呼べないのかもしれない。

 たった一人に感染しただけで星を丸ごと壊滅させる事すら可能なウイルスだ。この星には今そのウイルスの患者が居る事を、救助要請する際に相手に伝える義務がある。

 その上もうすぐ最悪の生物が飛来するというのだ。

 そんな報告を受けた上で、助けに来る星がどこにある?

 薄々思っていたが・・・政府の言う星の放棄とは、中心都市の住民達も含め全て放棄するという事か・・・。

 自分達だけが脱出するという意味の・・・・放棄。


 脱出するべきだと言った九重の方を見る。


風音「でも、このままじゃ中心都市の何億って人達が・・・」


 コツンっと九重が風音の頭をノックするように指で叩く。


九重「どうせ全員助ける事は出来ない。 ・・・俺にもお前にも待ってる奴が居るだろ?」


風音「だけど・・・」


九重「じゃあどうする? 中心都市に行って電波ジャックでもして、この星の全員に星の子がやってきている事を伝えるか? 不可能だろうが仮に・・・それが出来たとしてどうなる? 大混乱が起こって我先われさきに出て行こうとする奴が増える。結果運が良ければこのまま放っておくよりは多くの人が離脱出来るかもな。 だが運が悪ければ混乱のせいで更に脱出が遅れるかもしれん。危険を冒してどう転ぶか分からん可能性に賭けて、最悪お前のせいで犠牲者が増える結果になったらどうする?」


風音「・・・・・・・・・」


 何も言い返せない。

 それでも、何か出来ることは無いかと考える。

 それを邪魔するかのように、周囲に声が響く。


継ぐ者『頼む  あのめすを  この星から   今すぐに  』


九重「リリィを助けろってか? 残念だが俺達にはアイツの行方が分からん。携帯も繋がらないしな。 悪いが他を当たれ」


 拒絶の意思表示も込めて、継ぐ者に向かって煙草の煙を吐く。


継ぐ者『あの雌は  中心都市に   向かった 我を  克服 する前  に  治療が  目的らしいが もう現在 すでに  乗り越えている   見つけ出し  伝えてくれ   半神の  脅威を  』


九重「ちょっと待て。アイツ発症した状態で街に向かったのか? じゃあもう中心都市ではお前が猛威を振るっていると?」


 九重が継ぐ者に銃を向ける。

 リリィ本人が乗り越えても、ウイルスを体に持った状態で街に行ったというのは看過かんか出来ない。

 最悪の事態が起こる前に、継ぐ者を始末しなければ。


継ぐ者『我の  目的は 成された  もう 我は  その活動を 停止  している   後は  この星と 滅ぶのみ だ』


 一呼吸おいて、続ける。


継ぐ者『我は宇宙の至る所に存在する。今ここに居る我が滅んだとて我が滅ぶわけではない。だが、あの雌は無二。ここで消すには惜しい』


 突然流暢りゅうちょうに喋り出す。


九重「普通に喋れるなら最初からやれ」


 思わず反射的にダメ出しをする。


継ぐ者『ようやく掴めた。貴様らの会話の手段。それに合わせるのに少し時間を要した』


風音「・・・便利になったけど、威厳いげんが無くなったね」


 率直な感想を漏らす。


九重「悪いが、お前の要求に従う意味が・・・」


 断ろうとする九重を風音が止める。


風音「アンタさ。ウイルスを無尽蔵むじんぞうに産めるん?」


継ぐ者『ああ。我の周囲のみだが。空気中では長く活動出来ないゆえ、範囲はそう広くない』


風音「じゃあ・・・こっちは出来るだけそのリリィさんをギリギリまで探してみる。その代わり、僕がやろうとしている事がもし成功したら、ウイルスを大量に産み出してほしい。悪いけど、産み出されたウイルスはすぐ死ぬ事になる。最終的にはあんたにも消えてもらう事になるけど」


継ぐ者『聞いていなかったのか愚か者。 我が消える事は無い。今貴様の目に映る我も我の一部に過ぎない。全ての情報を共有する我に個々の死という概念は無い。 もし有るとするなら、宇宙に存在する全ての我が消え去った時だ』


風音「ああそう。じゃあ頼み易いな」


九重「おい、お前何する気だ?」


 まだ何かをしようとしている風音に、不満そうな顔を向ける。


風音「成功するかどうかわからないけど、出来るだけ人を食わさずに核に向かわせてみようかなって。 情報を信じるならそれで九時間近く時間が稼げるって事だからね」


九重「あぁ? 何をする気か知らんが不可能だろ、そんな生物をこっちの都合良く動かすのは。 それ以前にどれだけ時間が稼げても無意味だ。継ぐ者が居る以上、救助に来る星は無い」


 九重も先程の風音と同じ考えだ。

 この星の政府が他星に救助を求めず放棄を選択したのは、どうせ救助しに来る星など存在しないという判断からだろう。


風音「継ぐ者を討った事にして活動を停止したと伝えれば、救助しに来てくれる星もあるだろうから・・・ほら、例えばここに居る三人も継ぐ者が発症した証拠の痣があるし。そういう人が回復している事を証明出来ればいいだけだと思うんだけど。 あと、確かに星の子ってのを上手く誘導出来るかどうかは賭けみたいなもんだと思う。失敗したらいさぎよくすぐに脱出するよ」


 呆れた表情の九重が、それでも何も言わずに煙草を吹かす。

 風音が携帯端末を取り出し、同時に神楽とサルトに電話を掛ける。


神楽「はい。終わりましたか?」


 先に神楽が出た。


風音「うん、もう政府からの攻撃は無さそう」


神楽「あら残念。何千発ミサイルが来ようと、全て叩き潰して見せようと意気込んでいたのですが」


ルミナ「風音さん? 何かありましたか?」


 と、ここでルミナが電話に出た。


神楽「ああ、同時電話ですか。おはようございます、ルミナ」


風音「ちょっ、・・・っと待って? 何でルミナ? サルトさんは?」


 確かサルトの番号に掛けたはずだが。


ルミナ「風音さん達がケイロンに行ってから心配で心配で・・・ずっと連絡を待ってたらクーラーズの携帯が鳴ったから、私が出たいって受け取って出たんですよ」


 相変わらずルミナはサルトの事をクーラーズと呼ぶ。


風音「・・・そうなんだ。僕達は無事だから、一旦サルトさんに変わってもらえる?」


ルミナ「あ~~~・・・・・・、ちょっと、無理ですね」


風音「なんで?」


ルミナ「なんか・・・気絶してるから」


風音「なんか?」


 なんか、で気絶する事なんてあるのだろうか。


神楽「ルミナ? すぐに人を叩いちゃ駄目ですわよ。 誰かに自分の希望を伝えるなら、正しい手順を踏まないと駄目ですわ。まずは相手を説得しましょうね。それでも無理なら張り倒すのですわ」


風音「あかんて。張り倒したらあかんて」


ルミナ「た、叩いてないし! なんか勝手に吹っ飛んだだけだし!」


レスタ「姉さん・・・その言い訳は苦しいよ・・・・・・・」


 少し遠めにレスタの声が聞こえる。


風音「じゃあサルトさんはいいや。適当に介抱しておいてあげて。取り敢えず、今までの状況を説明するね」


 継ぐ者の存在と、活動を停止した事。そして星の子の飛来について一気に説明する。




神楽・ルミナ「逃げましょう」


 説明が終わると同時に、二人の声がハモる。


神楽「あの生物は人類がどうこう出来る相手ではないですわ」


 あれだけ強さにこだわっていた神楽が、星の子と聞いただけで白旗を上げる。

 星の子にとっては神楽も他の人間も大差無いのだろう。


ルミナ「潮時しおどきですよ、風音さん」


 二人から九重と同じ説得を受ける。


風音「それなんだけど、ルミナ。ノウンさん達っていろんな星の上層部の人達とコネクションがあったっけ? その辺の人脈を利用して短時間で大量に救助要請出来ないかな?」


 ノウンさんというのは、ルミナ達と共に翻訳機を開発した五名の内の一人だ。


 翻訳機を開発したメンバーは、各星で特別待遇を受けていると聞いた事がある。ただ本人達の希望でサルトとクリス姉弟は、偽名を使った上で姿を消した事になっている。

 残りのメンバーであるノウンとアガレアの二人は、相当な人脈を持っている筈だ。


風音「継ぐ者に関しては誤解の無い様に、丁寧に解決したって説明して貰えたら有り難い。『継ぐ者と会話が出来たから止めて貰った』って言ったってどうせ誰も信じないだろうから、討ち取った事にしてくれていいし。 星の子の正確な飛来時間を割り出して、可能な限り・・・出来れば飛来一時間前くらいまで救助活動をしてもらいたい。あと、継ぐ者の件と星の子の飛来をケイロンの民間人に伝えるかどうかは政府の判断に任せる」


 風音が理想的だと考える今後の流れを一気に喋る。


ルミナ「・・・ああ、それでクーラーズに」


 ようやくサルトに電話した理由が分かった。

 ノウン達と頻繁ひんぱんに連絡を取り合っているサルトの方がノウン達の近況に詳しいだろうし、あと勤勉なので単純に色んな星に詳しい。

 星によって政治的な考え方が違うので、どの星にどの様に救助要請を出すのが効果的か的確に指示を出すだろう。

 こういう事をさせると、サルトは行動が早い。


ルミナ「本当に役に立たないわね。こんな時に気絶だなんて・・・」


レスタ「姉さん・・・・・」


ルミナ「でも、そういうのってその星の偉いさんの仕事じゃないんですか? どうして風音さんが?」


風音「・・・継ぐ者の言う事を信じるなら、政府は星の子の飛来に気付いて星の放棄を選択したらしいんだよ・・・ おそらくこの星の政府は住民を助ける気がないんだと思う。理由は多分、継ぐ者が居るから救援要請が出来なくて投げ出したってところかな」


 患者が手元に居るなら、もう回復している事も分かってるんじゃないのかなとも思うが・・・風音達の様に直接継ぐ者に会った訳じゃないので、本当に治っているのかの判断に困っているのか。

 何にせよ放棄を決定したという今の政府には期待出来ない。

 どうにか継ぐ者の問題は解決したという事を伝える事が出来れば、あるいは今からでも動いてくれるかもしれないが・・・・どうにか連絡が取れないものか。


継ぐ者『無知とは愚かだ』


 突然継ぐ者がつぶやく。


神楽「誰ですか? この不思議な声・・・電話口から聞こえているのに頭に響くような・・・」


ルミナ「アガレアみたいな精神感応が出来る人が近くにいるんじゃないかしら。元から精神感応が出来る人が翻訳機を通して会話すると、精神感応の感覚に近い状態での会話になるわ。前は片言になってたんだけど、アガレアの協力で最近改善したから」


風音「あ、そうなんだ」


 継ぐ者自身が元からそういう能力を持っていたらしい。

 部屋全体と耳に響くような不思議な声の聞こえ方だと思っていたが、風音の中のちょっとした疑問が解決した。


風音「ちなみにこの声が継ぐ者なんだけど」


神楽「えっ? 喋れるのですか?」


風音「さっき説明しなかったっけ? 継ぐ者が活動を停止してくれて・・・とか。星の子の飛来を教えてくれて・・・とか」


 言ったはずだが。


ルミナ「いやそれは聞きましたけど、精神感応なんて電話で相手に言葉を伝える事なんて出来ないですよ。音として言葉を発しないと。ウイルスがどうやって喋るんですか?」


 さっき言ってたのは、あくまで精神感応という能力を持っている人が翻訳機を通じて電話で喋ると、頭に響くような聞こえ方になるというだけの話だ。

 そもそも喋る事が出来ない奴は電話で会話なんて出来ない。


風音「え・・・僕に聞かれても。 まぁ・・・目の前で起こっている事を否定してもしょうがないし・・・どっかに口があるんじゃないの? こっちでは頭に響くとかじゃなくて耳で聞こえてるし」


 継ぐ者本体から音が出ていないので、風音も最初はHzが違うんじゃ? とか、声を発するのではなく直接空気を振動させているのでは? とか色々考えていたが、よく考えれば別に何でもいい。

 仮に理由が分かったところで「ああ、そうなんだ」で終わりだし。


レスタ「その大雑把おおざっぱな考え方・・・いいですね。兄貴分って感じで憧れます」


風音「それめられてんのかな・・・」


 レスタ本人は褒めているつもりっぽい。


風音「ところで、無知とは?」


 継ぐ者に向かって尋ねる。


継ぐ者『この星における現在最も力を持つ者の勢力の事だ。 現在己の身を置く場所だ。把握しておけ』


風音「・・・? ・・・どういう事?」


 よく分からないが、把握しろという事は調べればわかるのだろうか。

 通話状態のままネットワークを呼び出して、ケイロンの政府の勢力について調べる。

 そして三分ほどして。


風音「はぁ・・・・」


 絶望的な深いため息を吐いて、携帯端末を九重にも見せる。九重の端末では出ない情報だろう。


ルミナ「ああ・・・」


レスタ「これは・・・運の無い・・・・・」


神楽「・・・・・・」


 各々反応が違うが、ほぼ同時に把握する。

 この星のネットワークでは調べる事が出来ないが、外のネットワークだといろんな情報が出てくる出てくる。

 ケイロンは周辺の星からうとまれていたようだ。


 観光事業や星間移動の際の宿泊地として、この星は大きな成果を上げてきた。おかげでここまでの超近代都市となったわけだが・・・大成功の影に強引な手段があった事も否めない。

 周辺の星に対する妨害、頭を押さえつける様な事は平気でしてきたようだ。


 おかげで星レベルで経済破綻はたんしたところもあり、その星が貧困のどん底を味わっている時にケイロンでは星民全体が裕福な生活をしていた。

 その恨みは相当なものだ。


 そんなケイロンも、最近になって周囲の星の努力で利益を分散されるようになってきた。

 民の裕福度が下がるにつれて、政権の支持率は下がる。

 そしてつい最近野党が勝利し、政権がひっくり返っていたのだ。

 そしてそれこそが今回の件での政府の対応の答えとなる。


 既に野党には周辺の星から、ケイロンの失脚目的のスパイが大量に潜んでいたようだ。

 与党一強だった時代はただただ積年の恨みを晴らす機会をうかがい息をひそめていたようだが、このほど上手く星民の支持を得て政権を奪った。

 もちろんこんな情報は公のものではない。もしかすると噂話レベルの物なのかもしれない。


風音「なぁ、あんたこの星の情報が分かるんだろ? 今政府ってどんな動きをしてるか分かる?」


 継ぐ者に尋ねる。


継ぐ者『この星を放棄した。我を利用する必要が無くなったからな』


風音「利用?」


継ぐ者『我にとっては都合が良かったゆえにわざと乗ってやったが、予言によって我の出現を知ったあの者達の最初の狙いは、この星の我による集団感染だ』


風音「・・・・・・・・・・・・」


 ケイロン星人の皆殺しが目的?


 予想外の発言に声も出ず、ただ大きく息を吸う。


ルミナ「ちょ・・・っと。 それ本当?」


 ルミナが電話の向こうで絶句している。


継ぐ者『貴様らはあの者達が我を始末する為に、我が出現しやすい場所を意図的に作り出し、我が存在するであろう地域に大量破壊攻撃をしてくると思っていたようだが、そんなものは初めから無い』


風音「って事は、星民を全部一か所に集めたのも・・・」


 例外なく感染させるため・・・何もかも計画通りなのか。


継ぐ者『中心都市に我が現れれば、その民間人の数の多さゆえ偶然あるいは場所を割り出され発見される危険がある。 民間人に発見される事を恐れたあの者達は、まず人が居ない都市を作り出し人を配置した。 そこに我が現れ配置した人間に感染し、あの者達が感染者を回収する。 そして数千人の兵を中心都市に送り込む予定だった』


 その作戦に継ぐ者はえて乗ったという事か。

 だが当然政府側は継ぐ者がその作戦を知った上で、敢えて乗ってくれるなどとは予想もしていないだろう。

 都会で出現した時の為の対策もしていたと考えると・・・・ご苦労な事だ。


風音「数千人の兵とは?」


継ぐ者『あの者達が手に入れた感染者から、自ら感染した数千人の兵だ。この者達が中心都市のあらゆる場所に散らばって我を効率的に拡散する予定だった』


 この星の人間を皆殺しにする為に、致死率百パーセントのウイルスに数千人が自分から志願して感染?


風音「・・・・・どれほどの恨みがあったらそんな事が出来るんだ・・・?」


 時間が無くて今は調べていないが、そんなにまで恨まれるとはケイロンは過去にどんな事をやってきたのだろうか。あるいは逆恨みがこじれたケースか?


風音「・・・ん? って事は、死を恐れない人がいっぱいいるって事なのに、なんで継ぐ者のおとりに九重さん達みたいな外部の人達を雇ったんだろ?」


 最初の感染者も自分達でやればいいのに、と思う。


九重「その数千人のほとんどが戦闘経験のない一般人だからじゃないか? 予想外に武器を持った犯罪者が大量発生したせいで、囮をする事すら難しくなった。 じゃあ軍隊を派遣すればいいじゃないかって事も考えただろうな。 だが継ぐ者ってのは多少知恵があるって事は以前から分かってるから、軍隊みたいな大掛かりな装備で街に出向くと警戒され、出現しない可能性がある。 だから腕の立つ外部の者を雇った、ってとこだろ。 雇われた時の注意事項で犯罪者の件は散々聞かされたからな」


 後ろから九重が当事者だった者としての考えを述べる。


 それに対し風音は首をひねる。


 確かに一般人に武装させても大して役には立たない。それどころか犯罪者に武装を奪われて敵を強化させてしまうだけなのは分かる。

 継ぐ者をおびき出す作戦に、重武装の団体を派遣する事が出来ないというのも分かる。

 継ぐ者は自分が発生する場所を、しっかり吟味ぎんみしてから発生するという事が明らかになっている。とネットワークにも書いてあった。

 じゃあ軍隊の近くには出て来ないだろう。


 でも外部に頼る必要があるか? という疑問は出る。


風音「だったら現与党寄りの思想を持った軍属の人に、個人で武装させてやらせりゃいい気もするけど・・・他の軍関係者にばれてクーデターが起こるのを恐れたのかな? ちょっと情報少なすぎて分からないなその辺」


 考えても無駄なので、この話題は終わらせる。


風音「・・・にしたって、現野党は何してんの? この与党の振る舞いを黙って見てんの?」


 メディアを利用して糾弾きゅうだんしたりしていないのだろうか。


継ぐ者『始末された』


 風音の疑問はたった一言で済まされた。


風音「はぁ・・・・・」


 再び深いため息。


サルト「よっしゃー! 華麗に復活! おいレスタ、ボードゲームしようぜ。ルミナは失せろ」


 少し遠くでサルトの声が聞こえる。どうやら気絶から復帰したようだ。


風音「ちょっとサルトさんに電話変わって?」


 ルミナに言う。レスタが今まで会話に参加してた事から、多分その場に居る全員に聞こえるようになっているだろうが、サルトは復帰したてで電話している事すら気付いていないようだ。

 ルミナがサルトに風音からだと伝えて渋々携帯を返す。


サルト「あ、元気か? 風音。ケイロン危険じゃないか? 気ぃ付けてな。じゃあな」


 旅先からのいわゆる「僕は元気です報告電話」だと解釈したサルトが、電話を切ろうとする。


風音「待て切んなコラ。ボードゲームなんかやってる場合じゃないんですよサルトさん」


 風音がこれまでの経緯を簡単に説明する。


サルト「何だその状況・・・逃げろよ早く」


 真剣なトーンで言う。少し注意しているようなニュアンスにも取れたので、風音が申し訳無さそうに答える。


風音「ごめん。もうちょっとだけ粘ってみる。 で、サルトさんには今説明した救援要請の件をお願いしたいんだけど」


サルト「・・・おい、レスタ。まだ電話繋げといた方がいいか?」


レスタ「出来ればお願いします」


サルト「じゃあ携帯出せ。 それと風音、しばらくしたら掛け直す。すぐに出てくれ」


風音「うん、分かった。ありがと」


 レスタと、ついでにルミナが取り出した携帯をこの電話に参加させて、サルトの携帯は通話を切った。

 そしてサルトが自分の部屋に向かって早足で消えていった。


風音「やっぱり行動速いね、あの人」


 こういう所は素直に感心する。


神楽「私の方もメリオエレナに連絡しておきましょうか?」


風音「出来るの? なんかちょっと前にメリオエレナの王家から王女が脱走したとか大きなニュースになってたけど」


神楽「別に家出したわけではありませんし、両親となら時々連絡を取ってますわ。 脱走と解釈したのはメディアだけで、両親には花嫁修業と婿むこ探しの旅だと伝えたら、快く送り出してくれましたわ。・・・事後承諾じごしょうだくですが」


風音「そうなんだ。じゃあ花嫁修業と婿探しをする為にも、こんな所でつまづいてられないね」


神楽「ええ。でも花嫁修業の方はもう終わってますわ。 炊事洗濯掃除・・・どれも完璧にこなせますし」


風音・ルミナ「炊事」


 聞き捨てならないワードが混じっていたが。


神楽「婿探しの方は順調・・・ですかねぇ、ルミナがもう少し頑張ってくれれば」


ルミナ「うぐっ・・・」


神楽「まぁいまいち気に入らないのですが、あのブラウニーという子に頑張ってもらう方がルミナを待つより早いのかもしれませんわね」


ルミナ「えっ・・・どういう事・・・かな? ねぇ? ブラウニーって・・・・・・誰なのかな?」


 急に怨念の様な声で聞いてくる。


神楽「ケイロンで知り合った、だいぶ頭の弱い女の子ですわ。今はアホみたいに外でバイクに縛られて寝てますわ」


ルミナ「ふふっ、そっか。じゃあ私の敵じゃないわね」


神楽「・・・ですわねぇ」


 風音はアホの子が好きだと言っていたが。


風音「・・・ブラウニーが気になるならいずれ紹介するよ。ともかく、出来るなら神楽さんもお願い」


神楽「かしこまりましたわ」


風音「あ、そうだ。二人にも一応報告しとこうかな。乗組員の勧誘の件だけど、二人増えそうなんだよ。まず今の話に出て来たブラウニーと、さっき電話中に男の人の声が聞こえたと思うんだけど、その人が九重さんっていって僕と同じ・・・・」


 と、電話が通じてから今まで重い話題ばかりだったので、空気を変えるようにルミナやレスタに少し明るい話題を伝える。

 しばらく雑談も交えながら喋った後、二人とは電話を切った。

 神楽とはまだ通話状態にしてある。


九重「・・・最近のガキはしっかりしてんな」


 横で煙草を吸いながら感心している。サルトの事を言っているのだろうが、もう彼は結構いい歳だ。九重が勝手に全員同い年くらいだと思っているのだろう。


神楽「しかし政治の世界ではよくあることですが・・・星の失脚が目的の勢力が政権を持っている時にこんな事になるなんて・・・つくづく運が無いですわね、この星の方々は」


 どうりでいちいち情報規制が厳しい星だと思った。


風音「運が悪いなんてレベルじゃないよ実際。継ぐ者に星の子に、加えて政府が敵で・・・ここまで悲惨な星って今まであったのかな」


九重「ま、政府に関しては運とも言い難いがな。いいように感情を利用されてそんな奴らを代表に選んだのは己自身だ。そんな奴らが存在するのもケイロン自身のやり方のせいだったって事を考えると・・・色んな意味で自業自得なのかもな。とは言え・・・」


 星民全て皆殺しの計画とは・・・スケールが一味違う。


風音「凄い執念しゅうねんではあるよ。命を賭けて・・・いや違うか、命を差し出してまで復讐したいんだから」


九重「やり過ぎだとは思うが、気持ちは分からんでもないさ。 俺にとっては復讐は何も生まんとか後悔やむなしさしか残らんとか、そんな聖人が吐くような言葉の方がむしろ理解出来ん。復讐が成した者の心の安寧あんねいを生むのも事実だ。・・・俺も復讐に身をがした経験ならある」


風音「・・・辛い過去でもあったの? ・・・言いたくないならいいけど」


 九重が自嘲じちょう気味に笑う。


九重「・・・・・くだらない話だ。 娘が幼稚園の頃、同じクラスの男児に石を投げられて怪我をしたことがあってな。謝罪が無かったからお返しに、送迎に来てたそいつん家の車を投石で半壊させたってだけだ。多額の請求書は残ったが、俺の心の安寧は保たれ・・・」


風音「それと一緒にすんなや」


 本当にくだらない話をされた。


九重「確かに一緒には出来ないな。あの時の俺はこの星の政府ほど狂っちゃいなかった」


風音「そういう意味ではお前も大概たいがいだよ」


九重「勘違いするな。人には被害を出していな・・・」


風音「黙れ前科持ち」


 途中で黙らせる。


九重「勝手に前科持ちにするな。その件は被害届が出ずその場で示談で終わったから、前科どころか前歴すらついてない。むしろ娘に怪我させたことを謝ってきたぞ」


風音(車半壊とかもう事件の領域だろ・・・なんか相手に圧力かけたんじゃないだろうなこの人・・・)


 あるいは石を投げただけで車をぶっ壊すような奴を、これ以上怒らせたくなかったのか。

 なんにせよこの人は娘が関わると頭の中が正常に動作しないらしい。普段は割とまともそうなだけに残念だ。

 本当にこの人をスカウトしてよかったのだろうかと・・・・・・


神楽「だからスカウトする人物はよく考えるように言ったじゃありませんか」


 スカウトしてよかったのだろうか。と思っていた風音の心を見透かしたように、追い打ちをかけてくる。


風音「うん。次から気を付ける」


 ちょっと反省した。


風音「この後の事なんだけど、僕達二人はサルトさんの報告待ちになるかな。神楽さんはメリオエレナに連絡を取ってもらえるかな?」


神楽「それならもう済んでおりますわ。先程文面にして送りました。電話をしながらでも作業は出来ますわ」


風音「早っ。ほんと有り難いよ、ありがと」


神楽「いえいえ、どういたしまして」


 ニヨリと神楽が笑う。目論見もくろみ通りだ。

 先程から妙に風音のサルトに対する評価が高いのが気になっていたが、話を聞いていた感じ風音は行動が早い人を尊敬する傾向にあるようだ。

 そして予想通り感謝された。


神楽「どんな時でも素早い対応が出来るのが淑女しゅくじょたしなみですわ」


風音「僕も見習わないとなぁ、そういうの。 九重さんもそう思わない?」


 神楽が電話の向こうで勝利の微笑みを浮かべる。


 ちょろい。

 風音の攻略難易度は、恋愛ゲームでいう所の幼馴染キャラくらいちょろい。


九重「ずっと一緒に居るなら頼れる奴の方がいいってのは分かるがな」


 あんまり興味がなさそうだが、一応風音が振った話題には乗ってくれた。


神楽(素晴らしいアシストですわ。九重)


 何故かいちいち男女をくっつけようとする九重の会話術に感謝する。


風音「えっ? そうかな? 僕は一緒に居るなら頼りない人でもいいけど。妹とか僕が居ないと何も出来なかったしなぁ。 でも一緒に居ると落ち着くんだよ。ああいうのがそばに居ると」


 神楽の笑顔が凍りつく。甘かった。隠れキャラくらいの難易度だ。


九重「じゃあブラウニーとかの方が相性がいいかもな。あいつ何も出来ないだろ多分」


神楽(ーーーっ!!?)


 この話の流れ・・・これはこれで神楽にとっては有り難い。

 ・・・はずなのだが、何故だろう、神楽の鼓動が早鐘はやがねの様に鳴る。思わず胸を押さえて息苦しさを感じる程。

 風音がルミナとどれだけ仲良くしてようが、むしろ応援してたというか何も感じなかったのに。

 何故ブラウニーだとこんなに胸がざわつくのか。


風音「いや・・・何も出来ないことは無いよ。あの子はあの子で不思議な事が出来るし」


九重「そうなのか? それは意外だな」


神楽「そりゃあ、こんな星に仕事に来ているくらいですわ、何か特技くらいは持ってますわよ。何も出来ない筈がないですわ」


 妙に早口で喋る神楽に圧され、少し間をあけてから。


九重「・・・それもそうだな」


 九重も自分から言っておいてなんだが、別にブラウニーの性能の話はどうでもいいので適当に肯定しておいた。

 雑談していると、風音の端末から着信音が鳴る。


風音「はい。何か進展あった? サルトさん」


 サルトからだったので、早速進捗しんちょく状況を確認する。


サルト「救助については今ノウンが各所に連絡してくれてる。・・・星の子の到着だが、場所はおそらく中心都市になると考えられるそうだ。正確な位置はまだ分からんが、一時間を切る頃には正確な位置が割り出せるはずだ。到着時刻はケイロンの中心都市がある北半球・・・今風音達が居る場所の正午から、地球時間換算で約二時間後だ。ケイロン基準の時計に合わせるなら、17時付近になる」


 ケイロンでは一日が一時間が約70分での20時間になる。そして零時が日没付近の夕方に設定されている星だ。


サルト「ちなみにお前の情報のおかげで、もしかしたら今回は星の子による人的被害が過去一番少なく済むかもな。星の子ってやつは基本全く予測が出来ないんだよ。理由は知らんが、あいつはどういう訳か肉眼でしか視認不可能だ。望遠鏡には映らねえし、レーダーにも反応しない。普通は出現する少し前に分かればいい方だな。こんなに早く動向が確認出来たのは過去に例がないらしい」


 それを聞いて風音が少し驚く。肉眼でしか見えないという情報はさっき端末で知ったが、まさか望遠鏡でも映らないとは。

 百歩譲ってレーダーに映らないってのは理解出来るとしても・・・あんなのは単にレンズを通して肉眼で遠くの物を見ているに過ぎないのだから、肉眼で見ているのと同じではないのか? と思う。


風音「へ~~、そうなんだ。継ぐ者の情報網って結構凄かったんだ」


 そんな意味不明な者の飛来を知る事が出来るというなら、継ぐ者の情報網は純粋に凄いと思う。

 情報の伝播でんばとか言っていたが、肉眼でしか見えない不思議生物の情報をどうやってとらえたのだろうか? 宇宙空間の至る所にウイルスを散布しているとかではないと思うが・・・そもそもウイルスに目とかあるのだろうか。

 そんな疑問を当人にぶつけたら、多分また「愚かだ」とか言われるんだろうな、と思う。


風音「ん? じゃあこの星の政府はどうやって星の子の飛来を知ったんだろう?」


サルト「ん? ・・・ああ、そういや・・・そうだな」


 言われて気付いた。確かに政府は風音と違い、継ぐ者に聞いた訳でもないのに星の子の飛来に気付いている。


継ぐ者『愚かゆえだ』


 風音のふとした疑問に、継ぐ者が答える。


サルト「いきなり誰だお前」


 サルトが初めて聞く声に反応する。


風音「あ、初めてだっけ? 紹介するよ。こちら継ぐ者本体さん」


サルト「ふ~~~ん」


 と薄い反応。

 以前初めてサルトと出会った時も思ったが、サルトは特殊な状況を受け入れるのが凄く速い。

 この世で起こる全ての事柄を深く考えずに受け入れながら生きているようだ。先程の風音同様、既に起こってしまっている事に対して疑問を持っても仕方ない、という思想を持っているのだろう。

 そんなこっちのやり取りは無視して継ぐ者は続ける。


継ぐ者『彼らは我が現れるという予言を受け、我を探していた。貴様ら人類は、我がどのように現れるかを知らない。愚かにもこの星の者達は、我が宇宙から飛んでくるものだと思っていたようだ』


風音「愚かにも・・・って、普通そう思うんじゃないの? だってアンタいろんな星に出没してるんじゃなかったっけ? じゃあ宇宙を飛び回るしか無くない?」


継ぐ者『・・・・愚かな』


 案の定馬鹿にされて終わった。


継ぐ者『貴様と同じ考えであったこの星の者達は、あらゆる角度から宇宙を監視した。・・・そして偶然星の子の飛来を知った』


風音「そっか。・・・でも」


 そういう成り行きなら・・・・・偶然と言えば偶然かもしれないが、星が滅ぶ厄災が来ると予め聞いていたので監視していたわけだから・・・


風音「ある意味必然とも言えるのかな」


 とも思える。


継ぐ者『いや、愚かゆえの偶然だ』


 そんな風音の感想をわざわざ否定してまで人類を馬鹿にしてきた。


風音「どうしてそこにこだわる・・・ん? もしかして」


 まさか継ぐ者が星の子の飛来を知ったのは、自分の情報網の力ではなくこの星の政府の得た情報を聞いただけ?

 風音達に宇宙の事が全て分かるとか言ってから星の子の情報を教えてくれたので、継ぐ者が自力で掴んだ情報だと思い込んでいたが・・・まさかのカンニング?


 情報戦で人類に負けた事が悔しくて、あくまでそれは偶然だったと言い張っている?


風音「もしかしてあんたの情報網って、星の子に対してはクソの役にも立たない?」


 ストレートに聞いてみる。


継ぐ者『愚か者!!』


 めっちゃキレられた。


風音「だって政府より先に知る事が出来なかったんですよね? そこんとこどうなん? 悔しい? ふぐぐぐっ・・・って感じ?」


継ぐ者『愚かな。此度こたびは我が千載せんざい欲していた個体が遂に見つかったのだ。そちらに集中していたにすぎぬ。 宇宙の方に情報の目を向けていれば、この星の者より先に飛来を知る事は出来た。 我にとってはあの個体がそれほど重要だという事だ』


 ふむ、と風音がうなずく。


風音「言い訳をするウイルス、ここに爆誕ばくたん


 後ろで九重がフッと鼻で笑う。


継ぐ者『愚か者!!』


 再び怒鳴られる。


風音「って言うか、なんでそんなにリリィさんに拘るのかよく分からないな。あんた今まで誰にも負けなかったんでしょ? 感染したら百パー死ぬとか書いてたし。直接本体が倒されたり、僕みたいな毒で殺すのは例外にして、リリィさんだけが唯一あんたに正攻法で打ち勝った、と。 じゃあ・・・ウイルス的にはむしろリリィさんは敵じゃないの?」


 さっきからずっと疑問に思っていた事を口にする。話の流れ的に聞けるタイミングを逃してきたので、ここぞとばかりにねじ込む。


継ぐ者『愚かな・・・。貴様らがウイルスと呼ぶ種族・・・我らの目的が感染者を殺す事だと思っているのか? ・・・無知とは愚かだ』


風音「じゃあなんで殺す?」


継ぐ者『言うなれば適性検査・・・だ。我を乗り越えられぬ者に興味はない。 乗り越える事にこそ意味がある。互いにとって』


風音「???」


 よく分からない。ウイルスにとっては乗り越えられたら負けじゃないのか? 己が死ぬのだから。

 ・・・いや? 違うか。 ウイルスが勝っても結局宿主が死んだら自分も死ぬのか。

 ・・・・・・あれ? ウイルスって何がしたいんだ?

 風音が首をひねる。


サルト「まぁ何でもいいや。話を戻していいか?」


風音「うん。僕もこいつの人を見下した態度に復讐出来てスッとしたし、本題に戻ろう」


 ふひっ、と軽く笑いながら継ぐ者の方を見て言う。継ぐ者は無反応だ。


サルト「今そっちは夜中だから6時頃だろ? ちょっと質問だが、お前はケイロンに残って何をする気だ?」


 まだしばらく残るとしか聞いていなかったサルトが、詳しい事情を尋ねる。


風音「その星の子ってのから極力ケイロンの人達を逃がせればいいかな、と。ちょっと訳あって力があり余ってるんで、時間稼ぎくらいは出来るかも、って。で、星の子が星の核に向かって行動し始めたら、その時点で人が襲われる事は無くなるし、崩壊までの約九時間の間を救助にてる事が出来る。・・・っていう感じだけど」


 両者しばらくの沈黙。


サルト「・・・お前アレと戦う気か?」


 確認するように尋ねてくる。


風音「正直、情報を見る限り戦いにならないと思う」


 仮に指先一つで星を破壊出来る力があったとして、その力でもって全力でぶん殴ってもかすり傷一つ付けられないだろう。


風音「ただ、野生の動物が攻撃しに行った記録があるとか書いてるくらい動きが鈍いって言うか、速い生物な訳じゃないらしいから・・・上手く僕を狙ってくれたら全力で逃げ回る事くらいは。 こっちで知り合ったブラウニーって人に協力して貰えたらって前提なんだけど。 色々やってみて時間が稼げるようなら頑張ってみようかなって。無理なら諦めるよ」


サルト「・・・よかった。ちゃんとそれは理解してんだな。 もし戦うとかぬかしやがったら、神楽に頼んでお前を気絶させてでも強制帰還させようと思ってたところだ」


神楽「同感ですわ」


 その声は電話の向こうから聞こえたが、いつの間にか風音の背後に神楽が立っている。

 さっきまで外に居た筈なのに、音も無く近付いたのかと思って振り返ると・・・全身の色が白い。風音の背後に居たのは神楽の分身の方だった。


神楽「あなたに頼まれるまでもなく、私もそうするつもりでしたわ」


 電話の向こうのサルトにそう言いながら、分身が風音の肩をポンポンと叩く。


風音「こっわ」


サルト「そりゃそうだろ。 もひとつ疑問だ。その時間稼ぎは意味があるのか? どれだけ時間を稼いだところで星の子が暴れている間は救助船がケイロンに降り立つ事は出来ない。危険過ぎるからな。お前が星の子相手に、仮に丸一日粘ったとしても誰も星から離脱する事は出来ないと思うんだが」


風音「いや、僕が時間稼ぎをしている間に離脱をしてもらいたいんじゃなくて、時間稼ぎをしている間に他の星の救助船をケイロン付近に限界まで集めておいて、効率的な救助計画を練っておいてほしいんだよ。それで、星の子が核に向かう行動を取ったら一気に救助を開始してほしい」


サルト「・・・ああ、そっちか。・・・確かに組織力は必須だよな。数が集まっても各々勝手に動いたら効率が悪いか」


 と、言い分を認めながらも。


サルト「ただ、これだけは覚えとけ。俺としては本来なら時間稼ぎも説得して辞めさせたいくらいだ。でもお前言い出したら聞かないだろ? だからせめて約束は守れ。無理だと思ったらすぐ逃げろ。 地球の感覚でものを考えるな。そっちの宇宙では星全体を救助する事なんてよくある事だ。そういった時のマニュアルもある程度整ってる。 それでも今回は時間が少なすぎるってのは分かるが、お前が犠牲になって長時間粘ろうとするな」


 しっかりと釘を刺す。


風音「はい」


 ここは素直に返事をする。答えを間違えると神楽の拳が後頭部に刺さりそうだ。


サルト「とにかく、星の子が飛来するまでお前のやる事は無いんだな? じゃあ疲れてるだろうから今の内に寝とけ。まだ十時間以上あるから十分寝られるだろ」


風音「うん。確かにそうかも。僕は救助の手助けは出来ないしなぁ」


 ただ、休息したいのはやまやまだが・・・。


風音「・・・これも説明してなかったけど、実は継ぐ者と約束した事があってさ。人探しもしなきゃならないんだよ」


サルト「なんだそりゃ?」


 これも簡単に説明する。


サルト「・・・そういやさっきそんな事言ってたな。継ぐ者を自力で克服した奴までいるとか? 史上初だな多分。あれって発症したら死ぬまでも早いけど克服する場合も数時間で済むのか」


風音「っぽいね。しかもリリィさんは発症状態で暴れまくってたみたいだけど」


サルト「何だそいつ・・・でもそのリリィって奴の病気はもう治ってんだろ? そいつも一日中仕事してからそんな事があったわけだから、今頃どっかで休息してるだろ。そいつが今後どう動くかは分からんが、あっちが動かない間はこっちも休んどけ。 どこで宿泊してるか分からん奴を探すのは不可能だろ? それを無理に探して、こっちが消耗してから回復した相手が動き出すと、それこそ捕まらんぞ? 逆に相手が動き出したら空腹で食料を探すかもしれないし、自分の仕事場だったホテルに帰ってくるかもしれない。相手が動けば捜し易くもなるだろ」


風音「うん・・・」


 確かにそうかもしれない。いや、体力に関しては自分は大丈夫だ。力があり余っているせいか、眠気や疲労などがほとんど無い。そりゃ寝られるなら寝るに越した事は無いが、まだまだ頑張れる。


 問題は神楽と九重だ。この二人は顔や態度にこそ出さないが疲れているだろう。

 九重はともかく神楽は風音が行動しようとすると、無理してでも働こうとすると思う。ここはおとなしくサルトの言う事に従うべきか。


サルト「今から七時間後にこっちから連絡を入れる。そっちの時計で言うところの12時くらいか。それまで休んどけ」


風音「ちょっとだけわがまま言っていいかな? 六時間後でお願い」


サルト「・・・分かった。六時間後だ」


 そう言って電話を切る。


風音「・・・・・・という訳で、今は寝よう。あんたも聞いてたと思うけど、そんな感じでいいかな?」


 継ぐ者に尋ねる。


継ぐ者『出来ればあの雌を探すのを急いでほしいが・・・仕方ない。・・・話の流れは理解した。奴の言い分も一理ある』


風音「あんたこの星の情報がいくらでも入ってくるんでしょ? リリィさんの場所分かんないの?」


継ぐ者『単独で動く個人は情報の発信が薄い。 周囲に生物や植物が多ければ単独でも情報は増すが、土地の条件が悪い。 貴様は我の・・・情報の伝播を捉える力をどういうものだと思っているのだ?』


風音「各地に飛ばしたウイルスから各地の情報が伝わってくる便利な機能」


 ・・・というものだと思っていた。

 さっき確か「風音の毒のせいで風音の周囲の情報が入ってこない」とか言ってたので、その認識で間違っていないと思う。

 そもそも継ぐ者はリリィを気にかけていたのじゃなかったのか。じゃあ居場所くらい知っとけよ。


継ぐ者『・・・愚かな』


 そして例の如く一言で済ませられた。


風音「いちいち人を小馬鹿にする態度しか取れないのかあんた。それともさっきの復讐?」


継ぐ者『・・・・・・・・・』


 特に反応してくれなかった。


風音「まあいいや。とにかく寝よう。この後の行動は起きてから相談するって事でいいかな?」


 電話の向こうの神楽と九重に向かって尋ねる。


神楽「ええ」


 神楽の反応、そして九重は無言で頷く。


風音「うん。じゃあここで泊まろうか。・・・・・もう消えていいよ。お疲れ」


 途中で電話を切ってから、横に立っていた神楽の分身にそう言って頭を撫でると、分身が少し微笑んでから消える。


風音「寝てる間に誰かが来る事は無いと思うけど、一応継ぐ者は僕が寝る部屋に運んでおくか。九重さんどうする? 自力で上がれる?」


 ホテルのロビーがある上を見ながら尋ねる。

 この場所に降りてくる時、抱えるのを散々嫌がられたので一応尋ねる。


九重「上れなくはないが、お前力があり余ってんだろ? 俺が肩を掴んでおくから遠慮なく上まで運べ」


 こっちはこっちで継ぐ者に負けず劣らず態度がでかい。

 風音が片手で継ぐ者を抱え九重が肩を掴んだのを確認してから、足に力を収束させ一気にロビーまで跳ぶ。

 そしてやはり力が入り過ぎる。四メートル程上に跳ぶつもりが、勢いが付きすぎてさらに上のロビー天井まで到達して頭を打ちそうになる。

 継ぐ者の本体は脆いと聞いていたので、ぶつけて砕いてしまわないように咄嗟とっさに体をひねってかばうと、反対側に掴まっていた九重が天井に叩き付けられる。


風音「あ」


 落下中九重は特に何も言わないが、無言がかえって怖かった。

 そのままロビーに着地する。


風音「えーっ、と。ごめん」


 まずは謝る。


九重「いや、気にするな」


 天井にぶつけた場所にホコリが付いたようで、手で払っている。


風音「石とか投げないでね?」


九重「投げねぇよ。 それより、このホテルに泊まるのか?」


風音「そのつもりだけど?」


 その返答に九重が呆れる。


九重「お前・・・もっと年相応の感情を持った方がいいぞ? 無人街でいくらでも宿泊出来る所があるってのに、なんでわざわざ惨殺死体があるホテルに泊まろうとするんだ? 俺ならともかく、普通ガキなら嫌だろ?」


風音「あ・・・言われてみればそうかも。忘れてたよ」


 反射的に階段の方を見る。

 目を覆いたくなるような殺害現場が視界に飛び込んできた。その部分以外のホテルの内装がとても落ち着いた雰囲気の綺麗な見た目なだけに、本当にあのバラバラ死体が現実の光景なのか疑いたくなる。

 ホテル側が遊び心で用意したイベントだとか、演出だったとしたらどれだけ救われるか。

 ・・・などと、現実逃避している場合でもない。


風音「ああ・・・やっぱり嫌かも・・・・・化けて出そう。隣にも大きい建物があったし、そっちにしよっか」


 思わず階段から目をらして言う。


九重「それが賢明だな。化けて出るかはともかく、無残な死体がある場所はあまり子供が居ていい場所じゃない」


 そんな台詞を言いながら、九重はホテルの部屋に続く廊下に向かって歩き出す。


風音「九重さんはここに泊まる感じ?」


九重「ああ、寝てる間にリリィが来るかもしれんしな。お前らはアイツと面識が無いから、ここに居れば問答無用で襲われる可能性もある。そういう意味でもこのホテルには居ない方がいい。お前の連れには泊まる場所が変わったと連絡を入れといてくれ」


 世間話の様に軽い口調で言っているが、聞いている風音の表情が少し険しくなる。


風音「・・・大丈夫? あんな事する人だから、面識とか関係無くいきなり襲われるかもしれないけど」


 常識が通用する人間なら、あんな殺し方はしないだろう。リリィは明らかに人として大事なものが大きく欠けている。


九重「俺は人の気配には敏感だからな。寝ていても奇襲だけは受けない」


九重(戦闘になった場合・・・)


 刃物対銃。

 どちらが優位に立てるかなど、やる前から分かりそうなものだ。あくまで・・・今まで持っていた九重の常識に当てはめるなら。

 しかし、神楽と出会って分かった。異星人は素手でも銃と渡り合える。


九重(あのウイルスにゃ悪いが、るなら最初から殺す気でいく)


 神楽との戦いの後、これまでの常識は捨てた。異星人には最初から手加減など要らない。

 そして何よりも、異星人とまともにやり合えば自分が弱者側であるという事を自覚しなければならない。

 臨戦態勢で本気になった神楽には、弱者である自分ではどう足掻いても勝てない事は理解した。


 しかし・・・だからどうだというのか。

 さっきの神楽戦。神楽が油断した時に九重がその気なら、ノーガードの後頭部に数発の弾丸を打ち込む事が出来た。いかに頑丈な体であっても所詮は人類。ピンポイントで後頭部の同じ場所に銃弾を打ち込めば、気絶させる事くらい出来たかもしれない。


 そう。相手が本気になれば勝ち目が無いなら、その前に仕留めればいい。

 そもそも異星など関係なく地球人は、地球内でも小動物を除けば動物の中でも最弱に位置するほど弱い。 それでもなお地球の頂点に立てた理由は言うまでもない。

 躊躇なく武器を使う油断を突く不意を打つ罠にかける先手を取る・・・・・・


 出来る事は全てやる。

 異星人相手ならそれでやっとフェアな戦いになるだろう。

 娘の為にもここで死ぬわけにはいかない・・・が、この状況を心のどこかで楽しんでいるのか、ほんの少し口元が緩む。

 左手を首筋にえて首の骨を鳴らしながら、右手をゆっくり開き、閉じる。


 チンピラや風音達と相対した時とは違い、本当の意味で戦闘態勢に入った九重の全身から突き刺さるような殺意が周囲に漏れる。


風音「こりゃ」


 ポコッと九重の頭をチョップで叩く。

 叩かれた九重が風音を無言で見下ろす。


風音「その状態は絶対ダメ。あの惨殺死体もあんな事になったのは多分それが原因だと思う。九重さんは知らないかもしれないけど、異星人って敵意に敏感なんだよ。リリィさんも九重さんが普通にしてたら襲ってくる確率は五分だと思う。でもその状態だと確実に戦闘になるよ」


 その言葉に、逆に九重の方がさっきの風音と同じように手刀で風音の頭を軽く叩く。


九重「馬鹿かお前は。敵意を消すって事は、相手が襲ってくるまで罠や武器を封印するって事だ。異星人に先手をゆずった状態で襲われる事は死を意味する事くらい分かるな? ・・・大体お前が言いだした事だろう。面識関係なく襲ってくるかもしれないが大丈夫か? ・・・だったか」


風音「先手を譲っても大丈夫だから。襲われたら星を脱出する事だけ伝えて逃げればいいよ。そもそも僕が言いたかったのは、『襲ってくるかもしれないけど、殺さないでね』って事だよ。九重さんが殺される可能性は低いと思ってるんだけど」


 予想外の返答に九重が面食らう。


九重「お前の連れを見てりゃ分かるだろ、異星人を舐めるな」


風音「いや、相手の武器が刃物なら大丈夫でしょ」


九重(何故そんな事が言い切れるんだ・・・)


 素手でも九重を遥かに上回る戦力の相方を連れていながら、それ以上に厄介そうな身体性能を持った、刃物所持の殺人鬼を格下扱いとは・・・。

 風音の思考が理解出来ない。


風音「それに、戦わなくてもいい相手と殺し合いするような人はウチには要らないよ」


九重「・・・・・・・・・・」


 しばらく沈黙していたが、ひとつため息を吐いて言う。


九重「・・・分かったよ。娘の為だ」


 そう言って九重が緊張状態を解除しただけで、周囲の空気が軽くなった気さえする。


九重(さて、どうしたもんかね・・・)


 あきらめて戦いを前提に待つのは止める事にする。念の為確実に逃げられるように、逃走経路に足止め用の罠を仕掛けておくくらいの事はするが。


九重「・・・約束は守る。お前はもう自分の宿を確保して、早く休め」


 静かにそう言うと、再び風音に背を向けて歩き出す。

 風音はしばらくそれを見送った後、振り返りホテルから出て行った。





 危機的な状況のケイロンとは打って変わって、平和な地球の太平洋ど真ん中にある人工島『フェクト』。

 ようやく土地が完成したばかりなので、まだ住んでいる人の数よりも島を居住区にする為の作業員の方が多い。

 そんな島にカノンと炎火は停泊しているが、フェクト内に広い土地をいち早く貰い、その上大きな宇宙船を二機も置いてあれば嫌でも目立つ。

 どうも周囲からは大金持ちが住んでいると思われているようだ。風音は誤解だと言っているがサルトとクリス姉弟が住んでいるので、あながち間違ってもいない。

 カノン内にあるサルトの自室では、サルトが旧仕事仲間であり親友のノウンと電話をしている。


サルト「・・・じゃあ一応連絡出来る星には全部連絡終わったって事だな。これで何とかなるといいけど、現実ってやつはそう上手くいかないもんだしな」


ノウン「いきなり不吉な事言わないで下さいよ、サルトさん」


 各所に連絡を取ってくれたノウンが笑いながら言う。


サルト「お偉方えらがたとのコネなんぞ何の役にも立たんと思ってたけど、こういう使い方もあるんだな」


ノウン「お役に立てたのなら何より、ですね」


 地球でもそうだが、権力者は有能な人物や優秀な結果を残した人物と会いたがる。

 そしてお互いが褒め合ったり談笑している所をメディアで発表したがる。

 サルト達が未知の言語でも使用出来る翻訳機を開発した時も、色んな星からの打診があった。

 お互いそれではくが付くから誰も損しないのだろうし、サルトとしては別にそういった恒例行事を否定はしないが、自身は面倒臭過ぎて放棄する事にした。クリス姉弟もそれに便乗する形で辞退した。


 ノウンと(もう一人の協力者である)アガレアにそういった面倒臭い事を押し付ける代わりに、翻訳機の事業に関する利益をその二人に九割九分提供するという条件を付けたが、二人はこれを断り五人に均等に配分してくれている。

 サルトはここ最近忙しかったので、仕事関連以外ではノウンとあまり連絡が取れていなかった事もあり電話したついでに雑談に興じる。

 ノウンはクリス姉弟とも時々連絡を取り合っており、最近も翻訳機関連でルミナに新機能を開発してもらったようで、これにより更に大きな稼ぎが見込まれているそうだ。

 サルトが気になってその新機能の内容を尋ねる。


 翻訳機を開発する際ノウンがアガレアの使用する精神感応のデータを見てその仕組みを解析、それを翻訳機に組み込んだのがレスタとルミナである。

 最近レスタがその時のデータに再び目を通し、精神感応を使う種族の特別な能力についての論文を書いた。

 論文と言っても読むのは姉のルミナだけ。

 その内容は、「精神感応を使う種族は、他種族の顔の違いを見分けている。その脳の構造」というものだ。

 他の動物の顔の違いを見分けるのは難しい。ヒトに近いサルやゴリラでさえ全部似たような顔に見える。

 もちろん長期に渡って生活を共にすればそれなりに見分ける事が出来る様になるのだろうが、同種の顔のように出会った瞬間から複数の顔を見分ける事は至難だ。

 しかし、どうやら精神感応を持つ者は同種と同じくらいの精度で他種族の顔を見分けているらしい事が分かった。

 アガレアに確認してみると、やはりそれが当たり前だと思っていたらしい。

 そして翻訳機にその機能を付ける為に、ルミナに分かり易くそのメカニズムを解説する論文を書いた。

 どうせルミナしか読まないならわざわざ書かなくても口で説明すればいいように思うが、この姉弟はこういった場合論文でやり取りする事が多い。その方が口で説明されるよりも、書き手の伝えたい事がすんなり頭に入って来るらしい。


サルト「へぇ~、マジで? 顔を見分けるって目の機能だろ? なんで翻訳機にそんな機能が付けられるんだ?これって耳に付けてるだけだろ。視界には何の関係も無くないか?」


ノウン「目の機能という言い方も間違いではないですが、正確には脳の機能ですよ。元々この翻訳機は脳に直接作用します・・・目というのは体の外に露出した脳の一部みたいなものですから、この翻訳機を開発した二人にとっては仕組みを大きくいじる必要はなかったのかもしれませんね。・・・だからと言って発案から二か月で形に出来るのは全宇宙でもあの二人くらいでしょうが」


サルト「ふ~~~ん。・・・で、どうなん? 完成したってんなら試してみたのか?」


ノウン「ええ、凄いですよ。微妙な鼻や目、口や耳などの位置情報を元に、翻訳機を持つ者の感覚で相手の顔の構成が再構築されています」


サルト「・・・・つまり?」


ノウン「アガレアさんの星で女性を見た時、アガレアさんと他の区別が全くつかなかったのですが、この機能のおかげでアガレアさんが彼女の種族の中では凄く美人な方だと気付きました」


 アガレアは人型ではあるが全体的に昆虫っぽい見た目をしている。そういう人種は特に見分けにくい。例えるなら地球で同種の昆虫を大量に並べられて、顔を見分けろと言われているに等しい。


サルト「・・・よく分かんねぇけど、それ幻覚に近くないか? 美醜びしゅうの感覚って普遍ふへん的なもんじゃないし・・・いや、アガレアが美人ってのを否定してる訳じゃなく」


 今の話を聞く限り見分けるというよりも、脳内で無理矢理自分に理解出来る顔に作り替えている様な印象を受ける。確かにそれでも見分ける事が出来るようにはなるだろうし、面白そうだから試してみたい人もいるだろうとは思うが・・・実用的と言えるのだろうか?

 アガレアにはその能力が標準搭載されているというのなら、カノンの面子の顔はどのように映っているのだろうか。アガレア基準だから、全員虫っぽく見えているのだろうか。


 でも異星人はともかく、動物の顔も見分ける事が出来るのならサルトも興味がある。

 その辺のハトの群れに一羽ずつ名前をくれてやろう。

 そういや動物と言えば・・・・見た目でっかいハムスターの、ノウンはどういう風に見えるのだろうか。


サルト「あ、そういやノウンは? 逆に見てもらったのか?」


ノウン「見てもらったというか、アガレアさんは元から見分けられますし。私は気の良い太ったおじさんって感じに映っているそうですよ」


サルト「・・・そうか」


ノウン「気の良い太ったおじさんって言われました」


 改めて言う。めちゃくちゃ気にしているようだ。


サルト「・・・そうか。俺の目には大きな可愛い動物って感じに見えてるから安心しろ」


 しばらくの沈黙。

 そしてノウンが気付く。


ノウン「・・・この機能は必要無い・・・のでは・・・・?」


 おそらく大きな金が動く事になりそうな機能だが、このままだと売り手側の心が折れそうだ。


サルト「・・・あって損は無いだろうし、オンオフ切り替えられるようにしとけばいいだろ」


ノウン「私と会う時はオフでお願いします」


サルト「・・・・・・ああ」


 というかサルトは動物を見分けたいとは思うが異星人を見分けたいと思わないので、元よりそんな機能には頼らないつもりだ。


サルト「それより、翻訳機の海賊版問題ってどうなったんだ? 脳に深刻な被害が出るとかなんとかレスタが言って・・・」


ノウン「あ、ちょっと待ってください」


 話題を切り替えたところで、急にノウンがサルトの言葉を遮る。


ノウン「ヤードさん・・・さっき私が電話を掛けた星の人から電話が掛かってきてます。少しそちらの対応をしてきますね」


 そう言っていったん電話を切った。


サルト「・・・・・」


 既に嫌な予感がする。根拠は無いがなんとなく。

 モヤモヤした気持ちのままノウンの対応を待つ。

 ・・・が、待てども待てどもノウンからの返事が無い。

 ・・・・・・・・・・

 既に三十分は待ったか。そこでようやくノウンからの電話が鳴り、急いで出る。


サルト「何があった?」


 もう既に何らかの異変があったと決めつけて尋ねる。


ノウン「サルトさんの予想が当たりました。かなり絶望的な状況です。簡単に説明しますね」


 まずこの三十分の間、ノウンは最初に掛かってきた電話に対応していただけでは無かった。

 次々に依頼を出した星からケイロンに対する救助の保留、あるいは中止の旨を伝える内容の電話が掛かってきた。


 どうやら各々の星がノウンからの要請を受けケイロンに確認をしたところ、ケイロンから救助拒否の返信を受けた。

 理由を尋ねたところ、星全体で継ぐ者が猛威もういを振るっていると答えたようだ。ご丁寧に継ぐ者の症状で苦しむ患者の映像を添付てんぷして送ってきたらしい。

 この映像を解析した結果、映像は間違いなく極めて最近の物であり、演技や作り物の映像ではなく、間違いなく継ぐ者に感染し発症している症状だという結論が出た。


 ケイロン政府は、今他星から救助が来ても、その人達がケイロンから出られなくなるだけだ。と主張している。今現在継ぐ者の捜索に全力を注いでいるとも言っていたようだ。

 そう言われると救助を出すわけにもいかない。星の子が接近するまでに継ぐ者が駆除される事を祈るしかない。


サルト「ちょっ・・・と待て。継ぐ者は治まったって風音が言ってなかったか? っつーか、継ぐ者と会話したぞ俺」


 と、今聞いた報告に対して思わず素で返してしまったが、言い終わる頃にはサルトの中では真相に至った。

 ノウンがサルトに尋ねる。


ノウン「私はサルトさんからそう聞いたので、継ぐ者に関しては解決したと伝えましたが・・・どういう状況なのでしょうか?」


サルト「あ~~、すまん。馬鹿か俺は。風音からさっき状況を聞いたじゃねぇか。間違いない、その映像は今現在の映像じゃなく、患者が発症していた頃の映像だ。ケイロン政府からの妨害が入ったってところだな」


ノウン「・・・? どういう事です?」


 尋ねるノウンに対し、先程風音から聞いたケイロン政府の目的が星民の皆殺しである事を伝える。


ノウン「はあ!? それで他星に嘘を吐くなんて、星間法の重度違反じゃないですか!! 急いでその事実を各星に伝えないと!」


 興奮するノウンに、努めて冷静な声でサルトが言う。


サルト「それを信じる星があるのか?」


ノウン「・・・・・・」


 無言になる。

 言うまでもなく、サルト達はケイロン政府よりも風音の言い分を信じる。

 だが実際に映像を見せられた他の星は・・・・・・


サルト「先手を取られたのが失敗だったか・・・? 先に神楽達が治っている映像を添付して送る方が良かったのか・・・?」


 そうすれば信じる星も・・・。


ノウン「・・・それはどうでしょうか。ケイロン政府が患者の映像をリアルタイムの映像だと言って公開したのだから、結果は同じでしょう」


サルト「ん・・・・・・」


 サルトが考え込む。


サルト「・・・ノウン。ケイロンって貿易で有名な星なんだよな? じゃあお前ケイロン政府に知り合いは居ないのか? 貿易つったら翻訳機の恩恵が最大限活かされそうだし、講演依頼とか無かったか?」


ノウン「ありましたが・・・講演依頼は民間からでしたし・・・当時の政府にも公賓こうひんとして呼ばれましたが、私が行った時と今とでは政権が違いますし。 あの時は翻訳機のおかげで更に貿易の幅が広がるとか言ってましたけど、さっきの話を聞く限り今のケイロン政府はそれが気に入らないのですよね? じゃあどちらかと言えば私達は敵じゃないですか?」


 翻訳機の開発者を敵と認識しているとは思えないが、冗談交じりで少し大げさに表現する。


サルト「そっか。ケイロン政府とどうにかして直接対話してみたいとこなんだが・・・いっそレスタにハッキングしてもらうってのは・・・リスク高ぇしなぁ」


 サルトが考え込む。


サルト(何かいい案は・・・・。要は何らかの方法で、継ぐ者が無力化している事を証明出来ればいいわけだ)


 サルトやノウン達が直接出向いて無事であることをアピールしても、信じてくれる星はあるだろうか。

・・・多分無い。

 信じてくれないと言うよりは、継ぐ者という宇宙でも最大級のリスクを負う事を考えると一歩引かざるを得ない。

 それも仕方ない事だろう。

 ただ時間が無い。

 仕方ないで済ませていられない。

 何かいい案は・・・。

 と考えているサルトに、ノウンが話しかける。


ノウン「待っていても事態は好転しないでしょうし、駄目元で各星に説明してきましょうか? 星によって思想が違いますから、信じてくれる星が一つくらいはあるかもしれませんし。獣人の星とか戦闘民族の星とかなら、リスクよりも友人を大事にするとか言いますし。その習性を利用するって言ったらアレですが・・・緊急事態ですしね」


 それでも継ぐ者が蔓延していると言われている星に行ってくれるかどうかは微妙な所だ。


サルト「獣人は義理堅いのが多いけど・・・これはさすがに行かないだろ。 いやでも確かに、一つでも星を挙げて救助に行ってくれるところがあったら・・・・人員は何とかなるか? 船の方は他の星が貸してくれるだろうし・・・。じゃあこの際・・・ノウンの案に賭けてみるか・・・・・。 いや、待て。星によって思想が、か」


 何か思いついたサルトがルミナの部屋に繋がる内線のボタンを押す。


ルミナ「何? 今風音さんの無事を願って祈祷きとうを捧げてる最中なんだから、邪魔しないでよ」


 サルトからの内線という事で、不機嫌な態度でルミナが出た。


サルト「お前の祈祷ってあれか? あのお前オリジナルのやつ? 写真の前でおやつ並べるあれ?」


ルミナ「うん」


サルト「じゃあそれ後回しでいいや。 お前さ、メリオエレナの王族に面識あったよな。確かメリオエレナって王族の言う事は何でも信じて聞くんだっけ?」


ルミナ「ああ、確かにそういうとこあるわね。王族が神降ろしの一族だから、余計神格化されてるっていうか」


サルト「じゃあ、神楽がケイロンで困ってるから助けに行ってくれとか言ってもらえないか? もうあの星だけが頼りなんだ。継ぐ者に関してはケイロン政府の動画は無視して、神楽がもう解決したって言ってるって伝えてさ。 一応今の状況を説明しとくと・・・・」


 これまでの過程、他の星には救助を断られた事などを説明する。


ルミナ「へぇ・・・って、いや確かそれ私が言わなくても、かぬちゃんがもう連絡したって言ってたわよ? さっきメールで送ってきてたのよ。 風音さんの攻略は仕事が早いだけじゃダメだとか、妹キャラがおすすめとか・・・そういう・・なんかよく分からない文章と一緒に書いてあったわ」


 あのメール何だったんだろう? とルミナが首を傾げる。

 それを聞いてサルトが拍子抜けする。


サルト「あっ・・・そ。じゃあお前は用済みだ」


 内線を切る。


ノウン「サルトさん、もう少し言い方があるでしょう。そんなだからいつまでたってもルミナさんと仲良くなれないのですよ」


 今の対応に苦言を言う。

 それに対し、サルトが特に悪びれもせずに答える。


サルト「俺はついさっきあいつに何の前触れもなく殴られて気絶させられたんだけど、お前ならそれでも仲良くなりたいと思うか?」


ノウン「・・・今度ルミナさんにも歩み寄りの姿勢を取るように言っておきましょう」


 どっちもどっちでノウンが呆れ返る。


サルト「ともかく、メリオエレナの技術力なら到着までにそう時間はかからんだろ。 悪ぃけど、ノウンにはこれからまた仕事を頼む事になる」


 救援要請を拒否した星に、せめて救助船だけでも貸してもらえないかを頼んで回らないといけない。

 出来るなら今すぐケイロン付近まで集結してもらう。

 先程サルトが呟いた様に、ウイルスが怖くて人員を割けない星も、別に救助そのものを拒んでいるわけではない。

 メリオエレナの操縦士が運転するとなれば、救助船を貸してくれる星は多いだろう。そうなれば人員と物量の問題は解決する。


ノウン「それくらいお安い御用ですよ。・・・上手くいけばいいですね」


サルト「いってくれないと困る。ま、なんにせよ俺に出来る事はもう無いな。あとは祈るだけだ」


 祈る、という言葉を聞いてノウンが提案する。


ノウン「ならルミナさんと一緒に、風音さんの写真の前におやつを並べて来てはどうですか? 友好度アップも兼ねて」


 意味不明な儀式を共有する事で、友好度アップをはかるのもいいのではないだろうか。


 ほんの一瞬、間を置いて。

 不思議そうな口調でサルトが答える。


サルト「え? 嫌だけど?」


ノウン「そんな・・・素で返されても・・・・・」


 サルトとルミナの仲が良くなる日は遠そうだ。


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