決着
王子が剣を振る。
後ろに距離を取りつつ、何とか躱していく。
『サンダーボール』
俺は目の前に電気の球をいくつも放った。
王子の周囲に光の層が現れる。
先ほどもそうだったが、王子は魔術を同時に複数使えるようだ。
球が触れた瞬間消えた。
それをちゃんと確認する間もなく、王子の白い剣が襲いかかってくる。
それをさらに躱していく。
ベルクとの訓練が活きているな。
躱すだけなら何とかやっていけそうだ。
攻撃速度はベルクの方が圧倒的に速い。
ただ、当たれば終わりというのが大きいが。
『アースハンド』
『アイスハンマー』
『ファイアランス』
回避しつつ簡単な魔術を次々に放つ。
王子の体には常に白い層ができていて、すべて触れた瞬間に消えていく。
もう何発魔術を放ったのだろうか。
ひたすら避けて適切な距離を保ちつつ、魔術を王子に向け放つ。
そしてついに、王子は剣に魔術をまとうのを止めた。
「ただの剣じゃ勝ち目はないぞ」
王子の剣を、俺の剣で弾いた。
そして炎の斬撃を放った。
「くっ!」
王子は剣に魔力を込めて俺の斬撃を消し去る。
俺は白い斬撃を躱しながら、『ファイアーボール』を放つ。
それはまた、王子に触れた瞬間に消滅した。
また白い斬撃が飛んでくるが、地面を転がって避ける。
起き上がると同時に『アースニードル』を放つ。
王子がまた俺の魔術を消し去るが、表情に疲れが見て取れた。
「まだ接近戦を続けるのか」
俺の言葉をかき消すように王子が剣をふった。
俺はそれを余裕をもって躱す。
最初に比べて遅い。
「致命的な欠陥だな」
息を荒げる王子に向かって言い放った。
「・・・まだ負けていない」
王子の目は死んでいない。
だが、もう無理だろう。
王子と俺の相性が最悪だ。
「光魔術、その使い手は初めて見たがすさまじい力だ。触れた瞬間魔術が消滅するなど、一見勝ち目がないように思える」
王子は手を止め、俺の話を聞いている。
この隙に少しでも回復しるつもりだろうが、もう関係ない。
「近距離攻撃が得意な騎士は、魔術のせいで近づけない。遠距離攻撃が得意な魔術師は、結界を張られたら為すすべがない」
「だが、近距離と遠距離両方できる人には勝てない。長期戦に不向きすぎるからな。耐えられたらどうしようもない」
結界を全身に張って斬撃魔術を放ちながら接近戦をする。
それはとても困難なことだ。
それを平気で行えている王子は本当にすごいと思う。
魔術師相手なら結界だけ、騎士相手なら斬撃魔術だけで事足りるのだろう。
だが、俺にはそれだけでは足りない。
魔力の消費量は大体わかる。
王子も魔力は多いが、とてつもなく優れている訳でもない。
最初から俺の作戦は決まっていた。
「常に結界に頼るのは、失敗だったな」
結界を消さないように身体を狙って魔術を放ち続けたのだ。
俺が放ち続けたのは小威力な魔術だが、王子が使い続けたのは結界と斬撃魔術だ。
どちらが早く魔力が切れるかは言うまでもない。
王子も現状はとっくに理解していたはずだ。
だから斬撃魔術を使うのをやめたのだ。
接近戦に持ち込んだ時点で王子の負けだ。
遠距離の魔術戦なら勝負はわからなかったかもしれない。
王子が俺から視線を逸らした。
視線の先で、メリアたちが心配そうに王子を見つめていた。
それを見た王子はふっと笑った後、俺を見つめ返した。
「俺の魔力は少ない。対する君はまだ余裕そうだな」
「状況は悪い。だが、それがどうした」
「メリア、ミズキ、ティナ、バルド、絶望的な状況もあったが誰もあきらめなかった」
「最初はAクラスのため、そして自分のためだった。だが、今は違う」
アルフレッドが大きく息を吸い込んだ。
「戦ってくれたみんなのために、俺は勝つ!」
「魔力が尽きようと、見苦しかろうと、最後まで諦めない!」
王子はそういって、魔力を練り始めた。
「・・・おもしろい。なら俺ももう温存は無しだ」
俺も魔力を練る。
どちらもその場から動かない。
どれほどの時間が経っただろう。
観客たちが息を呑んで見ている中、ついに変化が訪れた。
俺の地面が輝いたのだ。
その瞬間、俺は『サンダーボルト』を放ち地面から飛びのいた。
俺のいた地面から巨大な光の剣が突き出した。
間一髪躱して、さらに『ウォータースライサー』で追撃する。
王子は『サンダーボルト』を結界で防ぎ、白い斬撃で水の刃を消滅させた。
『アースプリズン』
王子を囲むように地面から岩の箱が現れた。
そして王子が完全に閉じ込められた。
『落陽』
監獄の真上に巨大な火の玉が現れた。
それはまるで太陽のように燃え盛っていて、そして箱に向かい落ち始める。
その時、監獄が割れた。
全方向に魔術を放ったのだろう。
監獄が割れるのと同時に、太陽が地に落ちた。
修練場が炎に包まれている。
ゆらゆら揺れる視界の中で誰かが立ち上がった。
その体は光り輝いているが、徐々に薄れてきてついには消えてしまった。
「これはしんどいな。呼吸するだけで胸が苦しい」
「そうだろうな。魔力も体力ももう限界だろう」
そういう俺も今のでかなり使ってしまった。
「そうだ。悔しいが君の方が強い」
負けを認める気か。
「もうまともに戦う力も残ってない」
そう言って手を上げ始めた。
降参か。
いい勝負だった。
「俺は降参・・・しない。どうあっても!俺は負けるわけにはいかないんだ!」
王子の顔がいびつに歪んだ。
その時、王子の背後が光った。
その光は王子の右わき腹を貫き、猛スピードで俺へと向かってきた。
『ホワイトスフィア』を背後に隠していたのだ。
油断した隙に、自分もろとも俺を貫くつもりか。
「あたれぇぇぇ!!」
白い球が俺の目の前まで迫った。
そして、そのまま俺の左腕に穴をあけて壁に衝突した。
「・・・は?」
王子が間の抜けた顔をした。
なぜなら俺は動いていないからだ。
自分が外したことが、信じられなかったのだ。
魔力を使い切り、自分の脇腹を消滅させたのに当てれなかった。
その事実を目の当たりにして、放心したようだ。
出血が進み、身体がふらついている王子に俺は言い放つ。
「詰めが甘すぎる。こんな炎が燃え盛っている中で、正確に俺の心臓を射抜けるわけないだろうが」
チャンスがここしかなかったとはいえ、この陽炎の中で実行することじゃない。
それほどまでに追い込まれていたということか。
メリア、ティナ、セレナが信じられないといった風にアルフレッドを見ていた。
奇襲もここまでいけばただ卑怯なだけだ。
「くそ、が」
そう言って王子は地に倒れ伏した。
試合終了の合図が鳴り響く。
「・・・今の行動は、仲間に対する冒涜だ」
俺は貫かれた腕を押さえながら、ミラやベルクの元へ向かった。




