誘い
討伐訓練はアクシデントのせいで散々なものだった。
あの蜘蛛はやはりイレギュラーであるらしく、救援信号が大量に発せられたため試験自体が中断された。
俺たちは子蜘蛛と大蜘蛛を討伐したので、事情説明ということで職員室に呼び出されたのだ。
そこでの話によると、あの蜘蛛は修練山には存在しないはずの魔獣であるようだ。
少なくとも一年生むけの麓では絶対に存在してはいけないらしい。
事前の見回りで異常を発見できなかったこともあり、今回は学園に相当な被害を与えたようだ。
まず、一年生の十数名命を落としている。
運良く切り抜けられたが、俺たちもこの中に加わっていた可能性もあった。
そして被害者の家族には多額の賠償金を学園から出すとのことだ。
学園側は今回のことの公表はしないらしい。
しかし情報が漏れることは確実なので、学園の名声も損なわれる可能性が高い。
修練山も再度調査して安全性が確かめられるまで閉鎖されるそうだ。
その調査にはこの学園の教師と、さらに宮廷魔術師団、宮廷騎士団の中から数名といった豪勢なメンバーをかり出すらしい。
学園としても何とか早く修練山を開放したいようだ。
まあ、大体その程度なので俺たちの学園生活が大きく変化することはない。
だが、あの蜘蛛に関してはまだ疑問が残る。
あの蜘蛛はどこから侵入したのか。
これについては修練山自体が王都のはずれにあるので侵入できなくはない。
しかし、あの蜘蛛の魔獣は新種だった。
文献で調べても何もわからなかったのだ。
確かに魔獣は未発見の個体も多いが、今回はあまりにも不自然だ。
新種の魔獣が、俺たちの討伐訓練の当日に、それも事前調査で発見できずに現れる。
そんな偶然あるのか。
考えてもわからないので、これは学園に任せるとするか。
「交流戦をしよう」
俺の目の前には俺より一回り小さい茶髪の男がいる。
朝、俺が鍛錬に行こうと支度していると、誰かが部屋をノックした。
出るとこの男が居たというわけだ。
「お前は誰だ」
俺がそういうと男はおや、っといった感じに眉を上げた。
「俺のことを知らないの?俺はイザヤ。バラガン商会の跡取りと言ったらわかるかな」
バラガン商会。
国内最大の商会で王都はもちろん、俺の生まれた辺境地まで手を広げている。
知らないだけで、国外との交流もあるのかもしれない。
「お前がそうだったのか」
「これでも有名なつもりだったんだけどね。まあ今では王子の使い走りになっちゃったわけだけど」
自称王子の使い走りは苦笑して答えた。
「交流戦だったな。急にどうしたんだ」
「この間討伐訓練あったでしょ。あの時王子たちも蜘蛛と交戦してね。もちろん倒したんだけど、聞けば君たちがあの親玉を倒したそうじゃないか」
「それで君たちに興味を持ったらしくてね。だから交流戦をしようってこと」
イザヤはそういうが、あの蜘蛛に勝ったかと言われるとそれも違うのだ。
まあ勝負は受けるがな。
「いいぞ。それで、交流戦はどんな風にするつもりだ」
「王子は五人のチーム戦を希望してるみたいだよ。王子のパーティーが五人だったしね」
五人か。
俺、ベルク、ミラの三人しかいないんだよな。
「俺の方は人数が足りないんだ。どうすればいい」
「適当でいいよ。一人ずつ戦う形式だから、君たちが全員勝てば勝ち越せるからね」
「ここだけの話、Aクラスでは君たちが調子に乗っているってことになっているんだ。だから学園の秩序のために君たちを叩き潰したいだけなんだよ」
なんだそれは。
「いまクラスで敵として扱われているのは、君たちとリーゼくらいかな。リーゼは昔からの知り合いだし、あまり手出ししたくないんだけど」
「王子に取り入ってる女の子たちはリーゼが気に入らないみたいだし、困ったもんだ」
イザヤは肩をすくめてそう言った。
いちいち動作がわざとらしい。
「今年のAクラスは結構大変でね。豪華な人たちが揃っちゃったから、誰に媚びを売るかとか、誰を蹴落とすかとかで面倒くさいんだ。もうストレスが絶えないってもんだよ」
イザヤは一方的に話すと、急にポンと手を打った。
「そうだ。君たちに得がないよね。なら、この交流戦を受けたらいいこと教えてあげるよ」
「いいこと?」
「そう、いいこと。例えば・・・魔障についてとか」
イザヤは最高に悪い顔をしていた。
俺はミラとベルクを呼び出した。
二人に交流戦の話を聞かせると、ベルクは嬉しそうな顔、ミラは嫌そうな顔をしていた。
「ミラもそんな嫌そうな顔しなくても。魔術の練習だと思えばいいだろ」
ミラは蜘蛛との戦いから魔術を使っているが、その後他人の大勢いる修練場では使っていない。
ベルクとミラには、俺の知識を伝えた。
魔障が忌むべきものでなく、ちゃんと利用できればとてつもなく有用であると。
情報操作の件もそれとなく伝えた。
まだ完全に解明できていないので具体的な話はさけたが。
ミラも自分の力を受け入れ始めたので大丈夫だと思うが、大勢の観客の前で魔術を使いたいとは思わないだろう。
「使えるとは思うけど、あの怯えた顔を見るのは嫌よ」
魔術が使えなくてもミラは強いのだが、やはりAクラスの相手を魔術無しはきついだろう。
別に総合で負けても個人で負けなけれは良いのだが、なんか悔しい。
「じゃ、助っ人をたのむしかねーな」
ベルクが楽しそうにそう言った。
「助っ人か。誰に頼むんだよ」
「そりゃもちろん、リーゼだろ」
・・・まじかよ。
俺とミラは目を見合わせた。




