第2幕②「覚醒~めざめ~」
昨日の夜に更新したせいか、見事に寝不足です…
ですが、頑張って更新していきたいと思います。
駄作ながら、よろしくお願いします!
「っざけんなぁ!」
神太は今までが嘘かのように足を踏み込んだ。踏みつけたアスファルトはこと儚げに陥没しているところを見ると、神太の脚力がいかに強いかということを誇示しているようだった。
太った男は、神太に気付いたが、もう、遅かった。
なぜなら…神太は、既に…
「なっ!なんだね、君は!今からいいとこ「いいところだのなんだのほざくな!この…腐れ外道!」ぐへぇあ!」
神太は、既に太った男の目の前にいて、拳を振りかぶっていたのだから。
もちろんその拳は、肥った男の顔面に吸い込まれていき、当たった男は屋上に取り付けられているフェンスに吹っ飛んで行った。
その拍子に、海斗と雀芽を縛り付けていた触手が力を失い、二人を解放した。
「…っ!海斗ぉ!雀芽ぇ!」
落ちてくる二人を何とか無事に抱えられた神太は、真っ先に海斗の様子を見ていた。
外傷は、縛られた跡くらいだが、まだ頭に酸素が行き渡っていないのだろう、まだ寝ぼけているような感じだ。
雀芽は…上半身に何も来ていないのも何なので、ワイシャツを脱いで渡した。
…のちに「逆効果だった」と後悔したのは秘密だ。
「は…はぁ…はぁ…。雀芽、大丈夫?」
「神太!海斗は?海斗は大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫。目立った外傷はないけど…まだ酸欠状態だから、動かすのは拙いかな。」
神太は海斗を見やった。まだ息が荒いものの、だんだんと顔に落ち着きが見え始めた、海斗の顔を…
神太は、拳を硬く握り、唇を噛み締めた。
「……雀芽、海斗が起きたら、屋上から逃げるんだ。全速力でね…。」
「…え?神太…神太は?」
神太は立ち上がり、男を吹き飛ばした方向を見つめていた。触手まで生やした男だ。あんな程度でくたばりはしないだろう。
「…君たちは早く逃げるんだ。あの外道…君たちだけに飽き足らず、校舎にいた教師たちにも手を出したから、救助を「自分はどうするつもりなの!」…雀芽…。」
走り出そうとした神太を、雀芽は手をつかむことによって、それを良しとしなかった。
「神太はいつもそうだよ!自分ばかり傷ついて!自分ばかり…痛い目にあって…
何で…何で神太はそんなに“人生”を、棒に振るおうとするの…?」
雀芽の顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。海斗のことももちろん心配だが…
自分たちをいつも助けてくれる神太が、何より気がかりだったからだ。
そんな心境を知ってか知らずか、神太が振り返ると…
この場にはふさわしくない、優しげな笑顔だった。そんな顔で…
「僕が、この世に生きている価値なんて…ないからかな?」
「………………え?」
この場にふさわしくない、残酷で、悲痛な言葉を紡いでいた。
神太は雀芽の手を振り切り、土煙舞う、男のいるであろう場所に駈け出した。
しかし…、時間を稼がせてしまったのも、また、事実であって…
「貴様あぁぁあ!よくも僕の清き顔に傷を付けてくれたなああぁぁあぁぁぁああああぁぁぁぁああぁ!」
触手を暴れさせながら、男は立ち上がった。
暴れた触手が当り散らした場所は、いとも簡単に砕け散っている。
(そう…生きている価値なんて、ないんだ。僕は…僕は“守るべき家族”を
失ってしまったんだから…。)
神太は走りながら、さっき雀芽が言っていた質問を、心の中で繰り返していた。
神太は数年前、両親を自分の目の前で殺されてしまった。
そのころからか、自身でも驚くくらいに、あてずっぽうに“過ごし(いき)”てきた。
“自分に生きている価値はない”“神様なんて信じない”と、自分に言い聞かせながら…
(僕一人の命より…海斗や雀芽の命のほうが価値がある!)
襲い掛かる触手に拳や蹴りを打ち付けていく。しかし、弾力性があるせいか、はじくだけで、破壊には至らなかった。
「死ね!死ね死ね死ねシねシねシねシねシネシネシネエエェェエエェェ!」
「くっ…!はあああぁぁぁあああああぁぁぁ!」
神太は、自身の体力も限界が来たことを悟っていた。関節が悲鳴を上げ、筋肉がちぎれてしまいそうになる。
でも、それでも酷使しすぎた体も気にしない。どんなに辛くても構ってられない。
これで、誰かが救われるのなら…
神太は男の胸倉を掴みあげ、壁に叩きつけた。
「ぐえぇ…」
「答えろ!お前、海斗や雀芽に何であんなことを!しかも…それに飽き足らず
学校の先生たちも襲いやがって…。何が目的だ!」
男を憎しみの込もった目で見つめていた。しかし、男は、まるで“何を言っているんだ?”と言わんばかりの顔を浮かべ、さも当たり前のように言った。
・
「は?この僕の嫁に何をしようが勝手だろ?それに…
所詮僕のモノなんだから、どう扱おうが君には関係ないはずだけど?」
「…!ふざけんな!何が嫁だ!あんなに怖がっているのに…、あんなに…海斗と幸せそうだったのに…。」
胸倉を掴んでいる手に力が入る。
ふざけている…、馬鹿げている…、そんな理由のためだけに…先生たちすら傷物にしてしまうのか?
掴んでいないほうの腕を握りしめる…。力が入りすぎて血が滲んでしまっているが、そんなのは構っていられない。神太の握りしめた腕がうねりを上げて男に迫っていく。
…しかし、
「じゃあ…君にも思い知らせないといけないね。
《悪魔契約》の…本当の力をね!」
その拳が届くことはなかった。
神太が気づいた時には、つきだそうとした腕も、踏み出そうとした足も、
声を上げようとした喉も…、触手によって絡め捕られてしまったのだから…。
「こ…神たああぁぁあぁぁぁああぁぁああああ!」
「が……、あ…悪…魔…だと?」
「そうさ、この世の中で“禁忌”とされた禁術…。悪魔と契約し、果てしない力を授かる《悪魔契約》の力だ!どうだ!苦しいだろ?」
男は不敵に笑みを浮かべた。まるで、どこかの漫画に出てくる、敗者を嘲笑う勝者のように…。そんな中、神太は…笑みを浮かべていた。
「…だから…なんだって?」
「は?」
「だから…なんだってんだ!《悪魔》なんかに頼って…!」
触手は力いっぱい引いているのにも関わらず、神太は触手を引っ張っていた。
男だけでなく、雀芽もそれには驚いている。悪魔から授かった“力”に、人間が競り勝っているのだから。
「僕は…なににも頼っていなかったのに、…いい大人が…、いい大人がこの世の禁忌に手を染めやがって…。…うっ⁉」
そんな神太の頭に、突然痛みが走った。きっと…体の限界すら超えて動いてしまったから…だと思っていた。
【あなたは、何故戦うのですか?】
「…!」
唐突に響く、心地よいくらいに高い、女性の声…。
それに気を取られていたからか、目の前にあった触手に気が付かなかった。
「調子にのりやがってええぇ!!」
「がふっ…!」
顔面を殴られ、吹き飛ばされる。吹き飛びに吹き飛んで、
屋上入口の貯水タンクに当たり、そこから勢いよく水が噴射していた。
「……痛…あれが、【悪魔契約】の力…。」
正直侮っていた。
【悪魔契約】…人体を贄として、地獄にいるとされる【悪魔】と契約を交わすことによって、人類を逸脱した力を得ることができる。でも、成功確率は低くて失敗すれば体が逆に乗っ取られ、【悪魔】を世に放してしまう、この世界での「禁忌」とされていた。
そんな【悪魔】に対抗できるのは、授天力を持った授天人のみ…
「……畜生…、何で…こういう時のために…力をつけたのに…。」
悔しい。
率直な今の気持ちがそれ。何も守れていない。
目の前に起きていることに…不用意に首を突っ込んどいて、このざま…
と、不意にまた…あの声が聞こえた。
【あなたは…何のために戦っているのですか?】
「…何のため…か。」
その声がなんなのかは分からない。だけど、自問自答しているみたいだ。
何のため…、そんなの、決まっている。
思い浮かぶのは、面白おかしく笑う海斗と…、温かい笑みを浮かべる雀芽…、
朝のジョギングで、楽しい会話をくれるマチさんの…笑顔。
「みんなを…みんなの笑顔を…守りたい。」
僕は手に力を入れた。まだ、体が動くかな。
「別に、この世界全体とは言わないさ。最低でも、自分の両手が届く範囲で…」
体を起こそうと動かせば、無茶がたたって、体全体が悲鳴を上げる。
だけど…それがどうした!
雀芽が…海斗が…危ない目に合っているのに悠々と寝てなんていられないよ!
体に鞭を打って、立ち上がった。
「エゴでもなんでも構わない…。僕は…守りたいものを…守る!」
【…そうですか。分かりました。】
ふと、目の前がかすんだと思ったら…目の前に女の人が現れた。
煌びやかな和服に身を包んで、綺麗な装飾品を着飾って、漆黒の髪の気を靡かせている。
何より驚かされたのは、女の人を包んでいる羽衣のようなものと、黄金に輝くオーラのような靄…、そして、とてつもない威圧感だった。
威圧感に充てられて、僕は体を動かせない。
【全く…、あなたは無茶することしか出来ないんですか?】
「…名前すら知らない人に開口一番にそんなこと言われたの、初めてなんだけど?」
全く失礼な女の人だなぁ…。会って初めてすることはまず、自己紹介からでしょう?
そんなことも知らないなんて、よほど世間知らずなんだね。
【あなたは、まだ私を人間だとお思いなんですか?】
「…!その言いぐさじゃ、あなたは人g【はい。人間ではありません。私は…神です。】
……はい?」
…なに言ってんの?この人。いきなり出てきたと思ったら、「神様」なんて言ってきて。
さらには…
【私の名前は《天照大神》。まあ、気軽に《アマテラスさん》とお呼びください。】
…なんて言ってくる始末だよ。僕にどうしろと?
【あら?あなたは“力”が欲しいのではないのですか?
あれだけ求めてきたんですから、欲しくないわけがないと思うんですが…。】
「…さっきから人を見透かしたような言動を…?まさかとは思うけど、僕の考えが全部筒抜けって言わないよね?」
【今更気づいたのですか?前の主とは違って、結構鈍臭いのですね?】
「ほんとに失礼な人だなぁ…。まあ、僕の考えが筒抜けなら…、僕の言いたいこと、分かるよね?」
そういって、僕は、《天照大神》と名乗った女の人を睨んだ。
僕の今までで、一番きつく睨んだと思う。
「僕の目の前から今すぐ消えてくれないかな?僕…
《神様》が、この世で一番嫌いだからさ。」
【……。】
そう言い残して、僕は《天照大神》に背を向け…ようとしたら、《天照大神》はいつの間にか目の前にいて…僕に向かって片膝をついていた。
「…僕は『消えろ』って、言ったんだけど?」
【…いいえ、消えません。私は……、私は、あなたに“力”を「ふざけるなよ!」…!】
僕は、とうとう我慢が出来なくなって《天照大神》を床に叩きつけ…、その上に馬乗りになった。
「〟力“?ふざけるなよ!そんな…今さらになって、何で僕なんだよ!
僕から…“全て”を奪ったのは、紛れもなく《神様》が…僕の家族に変な力を与えたからだろ!…《授天力》?…そんなもの与えて、人間に何をしろっていうんだよ!!!!」
僕の頬を、一筋の涙が落ちていった。その涙は、《天照大神》の顔に滴れ落ち、アスファルトに浸みていく。
【………その家族から、《授かった力》なら…受け取ってくれますか?】
「…へ?」
涙が通った頬を、ぬくもりが満たしていく…。
気づけば、《天照大神》が僕の頬を、その細い手で包み込んでいた。《天照大神》の瞳にも、涙が溜まっていた。
【…私…あなたの家族の《守護神》なんです。……あなたの父親は、私の力を行使して…家族を守ろうとしました。】
溜まっていた涙が、アスファルトにどんどんシミを作っていく。
【しかし…その家族を盾にされては、成す術はなかったのです。
ですから…『せめて息子の未来を』と…私は、あなたの“力”に成りに…再び顕現したのです。】
頬を包んでいた手が背中に回り、僕の胸を埋めるように抱き着いてきた。
未だにそのことを悔やんでいるのか、抱き着いてなお、すすり泣いている。
【お願いします…!私を…《天照大神》の力を使ってください!でなければ…
《守護神》としての尊厳が…、《あなたの家族の思い》が!無駄になってしまいます!】
「……顔を上げて。」
《天照大神》は、ゆっくりと僕から体を離していった。その顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。とても《神様》とは言えない顔だね。
「…どうすればいいの?」
【…え?】
「…だから…あなたの、《アマテラスさん》の力を使うには、どうすればいいのかなって…。」
馬乗りになっていたことに気づいて、急いで…と言っても、あちこち痛いからそんなに急げないけど、どいてあげて立ち上がった。
《アマテラスさん》は、呼ばれたのが意外だったのか、ぽかんとした顔になっていた。
「…こちらの事情ばかり押し付けてもあまりよくないし…、僕の家の《守護神》なら…結果的に違っても、か…『家族』…でしょ?」
【……あ……。】
僕は《アマテラスさん》のほうを向いて、目を合わせた。その時の僕の顔は…
「『家族』のお願いだ。…聞いてあげないと、いけないよね?」
【…は…はい!】
きっと、今までで一番清々しく、気持ちいいくらいの笑顔だったと思う。
「ふん…、この華麗な僕に逆らおうとするから無駄に命を散らすんだよ。」
男がそうつぶやく最中に、雀芽は呆然と神太が吹き飛んで行った方向を見ていた。
自然と、涙が流れ出てきた。
神太は強かった。何度も助けられたからその強さも実際に見ていたから分かっていたつもりだった。でも…その背中は、自分たちと一緒の時にも、少し寂しげだったのが少し気掛かりだった。
その疑問の答えも、今日、どことなく見えてきたのかもしれない。
(神太は…この世から消えていくことを、望んでいたの…?そのために…死に急いで
今まで無茶してきたの?)
去り際に呟いた「僕が、この世に生きている価値なんて…ないからかな?」という言葉…
それは、おそらくそういうことを遠回しに言っていたのだろう。
「(…私達じゃ、神太の“心”までは救えなかった…のかな?それじゃ…神太が身を挺してくれた意味がないじゃない…!)海斗……、ごめんね。」
雀芽は、未だ意識を戻さない海斗の唇に自身の唇をあてがった。
まるで、今生の別れを惜しむかのように…。
ゆっくりと立ち上がり、雀芽は、男に向かって一歩一歩進んでいった。
「さあ、雀芽ちゃん!邪魔者がいなくなったから…愛し合おう!」
一歩踏み出すごとに、今までの楽しい日々が、走馬灯のように頭を走り抜ける…。
(これでいいんだ…。私さえこのブサイクに寝取られれば、すべては…)
涙が、とめどなく頬から滴れ落ちる。それでも、雀芽は笑顔を浮かべようとするが、
涙で顔が歪んでしまい、うまく笑えていない。
「ふふふ…、これで…これで雀芽ちゃんは僕のも…」
何かを言おうとした瞬間、後ろの貯水タンクの方向から、爆発音が響き渡った。
見てみれば…
「な…なんだ、あれはぁ?」
「火…柱…?」
火柱の炎は、神々しく燃え上がっている。しかし、どことなく心地よい温かさを覚えた。
雀芽は、その感覚に身に覚えがあった。
「…神……太?」
神太がそばにいるときの感覚、まさにそれだった。
神太のそばにいると、自然と心が温かくなり、心地よかったのを今も覚えている。
そんな火柱が、突然二つに断たれ、炎は次第に消えていった。その場所に…
「……初めて使うのに、妙に体に馴染むんだね。授天力って。」
「……な!?」
「こ…神太……?」
今までボロボロにされていた神太が立っていた。しかし、今までと別人みたいに
髪の色は純白となり、風に靡くくらいに長くなっていた。しかも、瞳が先の火柱を思わせるくらいに真っ赤に染まっていて、威圧感がある姿になっていた。
「さぁて、そこの糞親父さん…仕切り直しと行こうか?」
神太は、その場から降り、いつの間にか雀芽達の後ろにいた。
男を見れば、威圧感に気圧されたのか、冷や汗を垂らすばかりで振り返ろうともしない。
神太は、そんな男に構わずに右手を突き出し、左手を引いて構えを取った。
「僕の幼馴染に手を出したんだ…、ただで済むと思わないでね?」




