第10話:バックオンザファイア
## 第10話:バックオンザファイア
「――おいオッチャン、今夜の裏ミッションが届いたッスよ」
自室でベッドに寝転がっていたアルデバランの脳内に、ヴァイオラのアナウンスが響いた。
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【初級ミッション:Fランクダンジョン設営と物資搬入】
概要:『黒き洞窟』へダンジョン設営キット及び魔物誘導装置及び備品を搬入せよ。
備考:運営の言語翻訳・干渉機能が適用され一時的にモンスターはキャストNPC扱いになります。(※トラックを目撃されてもBAN判定は発生しません)
報酬:贖罪ポイント+40
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「ダンジョン設営……? 運営がダンジョンを作んのか?」
『そうッス。主人公ヴィクトルの育成イベント【Fランクダンジョン初攻略】を近々発生させる予定なんスけど、現地がまだ工事中で準備不足なんスよ。だからアンタがトラックで設営物資を搬入してくるッス』
「へいへい、配送業者の仕事ならお手の物だぜ。……ってか待て、備考欄のこれ『BAN判定なし』ってマジか!?」
『そうッス。今夜のゴブリン共は運営のキャストNPC扱いッスから、トラック見られてもアカBAN(存在消去)にはならないッスよ』
「マジかよ! じゃあ見られても死なねぇんだな! 余裕じゃねぇかヒャッハー!」
アルデバランは手慣れた手つきで《亜空間ロード》を起動し、ノリノリで10トントラックを夜の『黒き洞窟』へと走らせた。
◇
**ゴォォォォォオン……ッ!**
暗い洞窟の内部へ、車幅2.5メートル、全長12メートルの大型ウイングトラックが無理やりねじ込まれていく。
「オーライ、オーライ……よし、ここが搬入ポイントだな」
トラックから降り立ったアルデバランの前に、ぞろぞろと現れたのは……洞窟に住み着いているゴブリンの一群だった。
その中央には、巨大な体躯に金のネックレスをジャラジャラ着けた『ゴブリンキング』が腕を組んで立っている。
アルデバランが身構えた瞬間、運営の言語翻訳機能が発動した。
「おい、遅ぇぞ業者ぁ!!」
「……へ?」
なんと、ゴブリンキングの「グボグボ」という汚い鳴き声が、『柄の悪い現場監督のオッサン』の日本語に聞こえてくるではないか。
ゴブリンキングは太い指でアルデバランの胸元を突き、唾を飛ばしながら怒鳴り散らした。
「指定時間は22時だろ! 5分遅刻だぞ! それに何だこの物資の量は! 俺様が要求した『VIPルーム用の高級レザーソファ』と『照明用の魔導シャンデリア』が入ってねぇじゃねぇか!」
「はぁあ!? レザーソファぁ!? ここFランクの初心者ダンジョンだぞ! そんなもんあるわけねぇだろ!」
「知るか! 俺様はダンジョンボスだぞ! 居心地の良い控室がねぇと明日からのボスの仕事やってらんねぇんだよ!」
激怒するゴブリンキングに対し、脳内のヴァイオラがすかさず割り込んで営業スマイル風の声を張り上げた。
『あ〜ッ! お客様ぁ〜!? 大変申し訳ありませんッス! そちらの高級レザーソファとシャンデリアは現在メーカー欠品中となっておりましてぇ〜! **次回配送便にて特急手配**させていただきますんで、今夜はコレで堪忍してほしいッス〜!』
「チッ……次回便だと!? ちゃんと持ってこいよ!苦節10年、人間の目を逃れながらやっとここまで大きく広げたんだ、やっと運営からの融資とサポートを受けられるように審査が通ったんだ、俺はな!このダンジョンをもっと広く!デカく!ゴージャスにして、人間の雌どもを沢山捕まえるって夢があるんだ!!」
『人間牧場ですか! いやーさすがゴブリン、人生設計がホームレスとトラック運転手の人生くらい聞いても何も感じないところがステキです! 腐りかけたアメリカンドッグのような甘酸っぱい夢の香りが私にも伝わってきますよ!』
「そうだろうそうだろう…!ん?ホームレ?アメリカンドッグ?」
調子いいヴァイオラの神交渉で一旦は収まりかけたが、ゴブリンキングは洞窟の奥を指差して再び怒鳴り始めた。
「あと、そこの角の岩が邪魔だからどかせ! 俺様の玉座を置くスペースなんだよ!ボス部屋が狭いとかどういうセンスしてんだよっ!!もっとこうさぁ、広くするべきだろ!?エルデンリン〇とかやったことねぇのかよ!」
「無茶苦茶言い上がってこのクソゴブリンが……っ!!」
前世で39歳まで配送業者をやっていた(1日)アルデバランの『元トラック乗り魂』精神が激しく燃え上がった。
『お任せください!喜んでっ!私共は皆様ゴ〇〇リ共のねぐらをゴージャスに!より快適なダンジョンライフの手助けに参りましたので!』
――と、ヴァイオラは悪びれもせず悪徳リフォーム業者のようなペテンの営業トークを全開でまくし立てた
「え?そうだったの…?」
(正直なにしに来たのかよくわかってなかったわ)
前世から物覚えが悪く、仕事の要領を得ないままなんとなく職業を転々としてきたアルデバランにとってはここでようやく点と点が繋がった。
「そうだよ!!いいか、俺らのおかげでお前ら人間だの冒険者はな――」
話を聞きながら
「ええ、そうですよねぇ、わかりますー」
と適当な相槌を打ちながらスキルツリーを操作するアルデバラン。
「お、これなんか良さそうじゃん
ポチッとな」
《スキル【アタッチメント・ブルトーザー ブレードバケット】を選択しました》
「ほらよッ! バリアフリー化してやるぜぇぇえええッ!!」
**ドガガガガガガガガッ!!**
アルデバランはトラックに飛び乗るなりアクセルをベタ踏みし、突っ込みついでに数十匹のゴブリンを盛大に跳ね飛ばしながら、
ゴブリンキングのお気に入りと思われる自慢の岩山(玉座)をバンパーに
アタッチメント補強されたブレードバケットで木端微塵に粉砕!
見事なまでに平らな更地へと地ならししてみせた。
そしてそのまま入口まで細かなトラップや隠し部屋をゴブリン事粉砕しながら一本道にしてしまった。
「ご覧ください!手狭で圧迫感のあるボス部屋が、ホラッ !こんなに広く開放感が広がる風景に変わりました!巧の手によって!」
「てめぇ!! おお、俺の、玉座をーーー!! 入口から一本道になっちまってんじゃねぇか!!」
「えっ?でも人間の雌が裸で100人スタンドバイミーみたいに横並びに入って来ても来れるくらい広くしろって言いませんでした?」
「言ってねぇーわ!!100人乗っても大丈夫みたいな言い回ししてんじゃねぇ!100人裸って横並びに入って来るって怖いよ!もうそれ進軍だよね!!拡大解釈だよ!!」
「まぁまぁ、また10年かけて作ればいいよ」
トンっ、と肩に手を置くアルデバラン。
なんだかんだで小一時間。
理不尽な現場の無茶振りに対応(?)し、設営物資の荷降ろしを終えたアルデバランは、額の汗を拭いながらトラックの運転席へ戻った。
「チッ、足元の砂利が靴に入るんだよ! 掃除機かけとけ!」
不機嫌なゴブリンキングは他のゴブリンを怒鳴りつけていた。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……! BANされないとはいえ、魔物相手に接客業させられるとは思わなかったぜ……」
『お疲れッス、クソジジイ。早く前進して出庫させて戻るッスよ』
「おうよ! 毎度どーもー!!」
「二度と来んじゃねー!!」
ゴブリンキングはなぜかご機嫌斜めなようだ。
アルデバランは窓から顔を出し、シフトをバックに入れてアクセルを踏み込んだ。
**ピーッ! ピーッ! ピーッ!(バックブザー)**
『あ』
「グボッ? なんだこの音――」
**ガササッ……ゴリッ!!**
**ドッガァァァァァンッ!!**
「グボバァァァァァァッ!!??(潰れる音)」
20トンの超重量を誇るリアタイヤが、ちょうどトラックの後ろで腕を組んでゴブリンキングを、**何の躊躇もなく真上から踏み潰した。**
「あ、間違ってバックしちゃった。」
アルデバランとヴァイオラが同時にフリーズする。
ミラー越しに見えるのは、潰れたカエルみたいにぺしゃんこになってピクピク動いているゴブリンキングの無惨な姿だった。
洞窟内に静寂が訪れ――直後。
「「「グボガァァァァァァァァァッ!!??(キングが殺されたァァア!?)」」」
周りにいた数千匹のゴブリンたちが、目を血走らせて武器を掲げ、怒号を上げ始めた!
「やっべぇぇぇぇえええええッ!? ボス踏んづけちゃったぁぁあ! 事故! 事故だからこれぇぇええッ!」
アルデバランはパニックになってシフトを1速に叩き込み、アクセルをベタ踏みした!
**グォォォォォォンッ!!**
「逃げろ逃げろ逃げろぉぉおおおッ!!」
『あーッ! おいオッチャン逃げるッス! 逃げるッス!!』
助手席(脳内)でヴァイオラが青ざめた顔で絶叫する。
『BANはされないッスけど、この数のゴブリンに囲まれたら普通に物理でボコボコにされてトラックボロボロに破壊されるッスよーーーっ!!』
「それが一番やべぇだろぉぉおッ! 俺の愛車になんてことすんだぁぁあ!」
追いかけてくる数百のゴブリンの大群にが石を投げつけ飛び掛かってくる。
「ああああーーー!!お、俺の愛車がーーー!!」
**ギギギギギギガガガガガガッッ!!**
狭い洞窟の中で、アルデバランは勢いよくサイドブレーキを引き抜き、10トントラックを180度豪快にドリフトUターンさせた!
ヘッドライトの最大光量ハイビームが、追いかけてきていたゴブリンたちの顔を真っ白に照らし出す。
「お客様ぁぁぁあああッ!! 注文内容の変更(皆殺し)が入りましたぁぁぁあああッッ!!」
アルデバランは窓から火をつけた酒瓶を投げつけた!
「ほらよッ! お詫びの品だ持っていけぇぇえッ!」
**ドカッ! バキッ!**
「グボァッ!?」
洞窟は燃えあがり火の手が上がる。
**プァァァァァァァァアンッッ!!(爆音クラクション)**
**ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!**
狭い洞窟の壁と20トンの鉄塊の間に挟まれ、ゴブリンたちが壁画のように次々と押し潰されていく。
「またつまらぬ物を跳ね飛ばしてしまったぜ……(白目絶頂顔)」
『だから格好つけて言おうとしてんじゃねぇッス!! 確信犯の轢き逃げUターン殺戮劇ッスよ!!』
『住まいの提案と改善しに来て住人を全員消してどうするんスカ!!』
「そんな事より、車が燃えちまうぜ!帰るぜよ!!先生!!」
「よし! 亜空間ロード開通! 脱出だぁぁあ!」
時空間のトンネルへと飛び込む10トントラック。
◇
数分後。
自室のベッドに倒れ込んだアルデバランは、冷たい麦茶をあおりながら天井を見つめていた。
「……結果オーライってことで、よくね?」
『どこがッスか。ダンジョン設営じゃなくて完全に更地と虐殺になったッスよ』
「いや、よく見ろ。『ボス部屋のバリアフリー化』と『動線の一本化』は完璧に完了しただろ?それにダンジョン設営キットとかわけのわからない備品とかも設置したし、
なんか別のダンジョンとかになってんじゃないの~?」
『あ……言われてみれば確かにそうっスね』
「だろ? つまり俺は『無茶振りの現場を完璧に納期通りに納品した優秀なドライバー』ってわけだ。はぁ、今日もよく働いたぜ!」
『システムの穴を突いただけな気がするンスけど……。まあ、贖罪ポイント+40はちゃっかり入ってるし、いっか』
デスクトップの画面に光る【贖罪ポイント:+40】の文字を眺めながら、アルデバランは満足げに爆睡の体制に入るのだった。
ブラックな労働環境に魂をすり減らされた元トラック乗りは、今日も元気に明日へ向けてハンドルを握る――かもしれない。
(第10話・おわり)




