最終話 人生最後の結婚式
教会の美しいステンドグラス。
遠くから聞こえる、人々の祝福の声。
煌びやかなウェディングドレス。
誰が見ても、幸せな光景だ。
今から私は、結婚式を挙げる。
____私のことを、世界一愛してくれる男性と。
「本当に……良く似合っているわ、シャーリン」
「あぁ、今日のお前は世界で一番美しいよ」
「もう、お母様にお父様ったら……私、これが初めてのウェディングドレスじゃないのよ?」
さっきから何度も私のドレス姿を褒めちぎってくる両親に、私は半ば呆れたように返事をした。
「違うのよ、もちろん前のドレス姿も綺麗だったけれど……今の貴方は、内側から光り輝いて見えるわ。きっと、素敵な相手と出会えたからよね」
「それは……確かにそうかもしれないけれど、なんだか恥ずかしいわ……」
単純に、ドレスが豪華になっただけじゃない?と思わないこともないけれど……。でも、今の私は確かにすごく、ドキドキしてる。
アレク様が私のドレス姿をみて、どんな反応をしてくださるのか……さっきからずっと、そのことばかり考えているもの。
でも、これは心配なんかじゃなくて……アレク様なら絶対に、私のことを褒めてくださるという期待よ。
「……そろそろ、時間だな。行こうか、シャーリン」
「えぇ、お父様」
父に腕を絡めて、私たちはゆっくりと、教会に入場する。
父とバージンロードを歩くのは、これで三回目。
そして、バージンロードの途中で待ちながら、こちらを慈しむように見つめているアレク様のそばまで歩く。
私は父から離れて、これから夫となる人に腕を絡めた。これも、三回目。
一回目は、私のことを愛していると思い込んでいた男性と。
二回目は、私のことを殺すと知っている男と。
そして三回目は……心の底から、私のことを愛してくれている大好きな人。
ゆっくりと、一歩一歩バージンロードを歩く。
そうして祭壇の前に着いて、司祭がにっこりと微笑みながら口を開いた。
「汝、アレクシス・レイン・フォルティスはシャーリン・エルフィナードを妻とし、神の教えに従い、死がふたりを分かつまで共に生きることを誓いますか?」
「誓います。今度こそは絶対に、シャーリンのことを守ってみせると」
「……? コホン、シャーリン・エルフィナードはアレクシス・レイン・フォルティスを夫とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、愛し敬い、慈しむことを誓いますか?」
「はい、誓います」
もう、アレク様ったら……!
司祭様が混乱しているじゃないの。
でも、これは神に対する誓いだものね。神はきっと、私たちの運命を知っているでしょうから……案外今頃、笑っているのかもしれないわ。
「それでは、誓いのキスを……」
司祭の言葉を聞いたアレク様が、おそるおそる私のウェディングベールをあげる。そうしてベールをあげおわった瞬間、アレク様は心底幸せそうな顔をしながら、「……とてもきれいだ」と呟いた。
私は思わず、その言葉に顔が熱くなる。
そうしてゆっくりと、アレク様の唇が近付いてくる。私は目を瞑った。
柔らかな感触が、唇に伝わってくる。
教会中で拍手が巻き起こった。みんなが、私たちを祝福してくれているんだわ。
それから、時間をかけて唇が離れていく。なんだかそれが、私にはひどく残念だった。
そうして結婚式の後には、国民への挨拶が待っている。
正直、王妃教育は……ものすごく、過酷だった。伯爵令嬢として恥ずかしくない程度のマナーは身に着けているつもりだったけれど、王妃に求められるものはそんな生易しいレベルじゃない。
何度も叱られる中で、王妃様のことを心から尊敬した。
ちなみに王妃様のことは、お義母様と呼ばせていただいている。これは、ご本人の希望によるものだ。
お義母様との顔合わせは、それはもう緊張した。だって、この国の王妃様とお茶会をする機会なんて、普通の令嬢には絶対にないもの。
怖い人だったらどうしましょう、息子との結婚は認められませんなんて言われたら……? そんな悪い想像ばかりが、頭を駆け巡る。
けれど、お義母様はなんというか……驚くほど、陽気な方だった。なんせ、第一声が「かわいい~~!! 私のことはお義母様って呼んで!!」だもの。呆気にとられるのも仕方ないわよね。
まぁ、そんなこんなでお義母様とは一瞬で打ち解けることができた。どうやらお義母様は娘に憧れがあったらしく、「娘ができるなんて本当にうれしいわ」と言いながら、たくさんのドレスやアクセサリーをプレゼントしてくれた。
私にはもったいないくらいだったけれど、アレク様が「母上は、本当に君と会うのを楽しみにしていたんだ。どうか黙ってもらってやってくれないか」とおっしゃるので、ありがたくいただいておいた。
今日のドレスも、なんとお義母様がオーダーしてくださったものだ。相変わらずコルセットは苦しいけれど、こんなに素敵なドレスを着ることができて、お義母様には本当に感謝している。
もしかしたら、私の前回の結婚を上書きしようとしてくれているのかもしれない。そうだとしたら、本当に頭があがらないわ。
「シャーリン、考え事かな?」
……そんな風に私が物思いに耽っていると、アレク様が拗ねたように私の頬を撫でた。これは婚約してから知ったことだけれど、アレク様は存外嫉妬深くて、独占欲が強い御方みたい。
そのおかげで、毎日とても愛されているなと実感できているわけだけれど……時々、甘すぎて少し恥ずかしくなる。
「ほら、シャーリン。民がみんな、私たちの結婚を祝福してくれているよ。君も手を振ってごらん」
「ふふ、はい。なんだか慣れませんね」
「慣れてくれないと困っちゃうな。だって、君には一生私の隣にいてもらうのだから」
アレク様はそう言いながら、私の頬にキスを落とした。民衆から一際大きな歓声があがる。
は、恥ずかしいわ……!
でもきっと、こういうのを幸せというのでしょうね。
「ねぇ、アレク様」
「? どうかした? シャーリン」
「……私の人生初めての結婚初夜、楽しみにしていますね」
私が耳元でそう囁くと、アレク様は顔を耳まで真っ赤にして、「今日の夜、覚えておいてね」と小さくつぶやいた。
私はその顔を見て、堪えきれずに声を出して笑ってしまったのだった。
____あぁ、私……世界で一番の幸せ者だわ!




