六話 もう前までの私じゃない
結婚式が終わり、教会を出る。外にいた人々から祝福の声を浴びて、私はふわりと微笑みながら軽やかに礼をした。夫も愛想のいい笑みを浮かべながら手を振っている。
「シャーリン、手を」
「……えぇ、ありがとうございます。紳士ですのね」
私と夫は、教会の前に停められていた華美な馬車に乗り込む。一度目の人生ではドキドキして嬉しかったエスコートも、今は寒気しか感じない。
結婚式事は思えないような重苦しい空気が流れる中、夫が口を開いた。
「それにしても、さっきは驚いたな。シャーリン、君は初対面の人々に笑顔なんかふりまかないと思っていたよ」
「ふふ、私も侯爵夫人になったんですもの。いつまでも『氷の令嬢』じゃいられませんわ。これからは社交の場でも沢山の方といろいろな話をして……公私ともに、ヴィクトル様を支えられる妻になりますわ」
「……それは、頼もしいな」
私の言葉を聞いた夫は静かに笑みを浮かべたが、その笑みが少し引き攣っていたことに私は気付いていた。
そうよね。あなたは愛想がなくて社交性もない、友人もいない私だから結婚したんだものね。ふふ、困るでしょう? 私が急に笑うようになったから、驚いているのよね。
でもこの笑顔も社交性も、教えてくれたのはあなただったのよ? ヴィクトル・クラウゼン侯爵。
……再び、重い沈黙が流れた。
ちなみにだけれど、私たちが乗っているこの馬車は侯爵邸へ向かっている。
侯爵邸で披露宴を行うためだ。これも、一度目の人生とまったく同じ。違うのは、私の中身だけ。
私の両親はもちろん、夫の親族や友人、有力貴族も多く参加する。名門侯爵家にもなれば、その規模だって段違いだ。豪華な食事、おいしいお酒、優雅なダンスに音楽の生演奏……。
誰が見ても幸せで、きっと普通の令嬢なら人生最高の日を更新できるのでしょうね。
けれど、この披露宴は大切な社交の場でもある。一度目の人生の私はその重要性もわからずに、誰に話しかけられても新婦とは思えないような態度でしか話せなかった。まぁ、実際は緊張しすぎてかたまっていただけなのだけれど……きっと、私の印象は最悪だったでしょうね。
でも、今は違う。
一度目の人生で結婚してから一年以上社交の場に出続けて、偽物の愛を知った私は……淑女の仮面を簡単に被れるようになったのよ。もちろんそんなこと、夫は知らないだろうけど。
ガタン、と馬車が揺れて、ゆっくりと止まった。どうやら、侯爵邸に到着したみたい。
……なら、ここからが本当の始まりね。
私はもう二度と失敗しない。そのために、まずはこの披露宴で『シャーリン・クラウゼン侯爵夫人』という存在をみんなに印象付ける。
笑って、話して……今度の人生では友人を……いえ、「味方」を作るのよ。すべては、夫が私を殺した理由である「夫の愛人」の正体を探るため。そして、その不貞の証拠を掴んで、一年以内に夫と離縁するために。




