五話 二度目の結婚式
身体が重い。
「……さま!」
私、殺されたのよね。じゃあ、今の私は魂?
「……お嬢様、シャーリンお嬢様! 目を覚ましてくださいませ」
「…………え?」
目を開けると、そこにいたのは伯爵令嬢時代の侍女。
私、夢を見ているのかしら……。
「うたたねなんて珍しいですね。ですが、今日は結婚式なのですから、しっかり起きていないといけませんよ」
____結婚式?
ハッとして、自分の服装を見る。
……ウェディングドレスだ。あの日と、まったく同じ……。
これは一体、どういうことなの。
「緊張なされていますか?」
そう侍女に問いかけられて、私は困惑しながらも「あの日」と同じセリフを返す。
「えぇ、少し……」
「大丈夫ですよ。クラウゼン侯爵はとてもお優しく素晴らしい方だと評判ですもの。きっと、シャーリンお嬢様のことも幸せにしてくださると思いますよ」
「そう、かしら……」
やっぱり、間違いない。同じセリフに、同じ仕草。今日は、私がヴィクトル様……いいえ、ヴィクトル・クラウゼンと結婚した日だ。
「お嬢様ったら、またそんな風に卑下なさって……。そろそろ入場のお時間ですよ、いってらっしゃいませ」
「…………ありがとう、いってくるわ」
夢なんじゃないかと自分の頬を軽くつねってみたけれど、痛い。
これは、現実なんだ。
意味が分からないけれど……でもこれは、人生をやり直すチャンスよ。
きっと、神様がプレゼントしてくれたのね。
……まさか私にこんな幸運が訪れるなんて、思ってもみなかった。
涙目の父と腕を組んで、会場に入場する。ウェディングドレスはこんなに重いのに、バージンロードを一歩ずつ歩くたび、心が軽くなる気がした。
そして、バージンロードの上で先に待っていたヴィクトル・クラウゼン……いいえ、あの男と目が合う。彼の優しい微笑みに隠された素顔を、私は知っている。
父から離れて、男に腕を絡ませる。
祭壇の前に着いた私たちに、神父が問いかけた。
「汝、ヴィクトル・クラウゼンはシャーリン・エルフィナードを妻とし、神の教えに従い、死がふたりを分かつまで共に生きることを誓いますか?」
「誓おう。どんな過酷な運命が待っていようとも、私は生涯シャーリンを愛し続ける」
「汝、シャーリン・エルフィナードはヴィクトル・クラウゼンを夫とし、病めると時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、愛し敬い、慈しむことを誓いますか?」
「……はい、誓います」
私も彼も、心からの愛なんて誓っていない。口先だけの誓い。でも、そのことを知っているのは私だけ。
わぁ、と会場に拍手と歓声が沸き起こる。
今から私は二度目の結婚をする。
____私のことを、殺した男と。
誓いのキスは、最悪な気分だったけれど。
そのキスの感触が、これは夢じゃない、私は生きているのだと……強く感じさせてくれた。
こうして私は、またしてもシャーリン・クラウゼン侯爵夫人になった。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
もし「面白いかも」と思っていただけましたら、☆をぽちっとしていただけると大変励みになります……!




