第三話 優しさ
結婚してからの日々は幸せそのものだった。
美味しいご飯に親切な侍女、快適なベッドに何不自由ない生活。
実家である伯爵邸よりも大きな屋敷で、私は愛されていた。
一番大きな変化は、初対面の人間の前でも笑えるようになったことだ。
友人とまではいかなくとも、少しぎこちない会話だとしても……人と話して、コミュニケーションがとれるようになった。
ヴィクトル様や侍女の皆さんが優しくしてくれたから、私も人を愛することが少しずつできるようになったの。
両親や伯爵邸の皆以外の対して、優しく接することができるようになった。
ヴィクトル様が、私に自信をつけてくれた。
舞踏会に出れば、「自慢の妻なんです」と紹介してくれる。
気付けば、私を『氷の令嬢』と呼ぶものはいなくなっていた。
私は、『クラウゼン侯爵夫人』と呼ばれるようになったのだ。
でも、そんな日々の中で、一つだけ……不安なことがあった。
それはヴィクトル様が、私のことを抱いてくださらないこと。
それも、ただの一度も……。
結婚初夜ですらそうだった。
「君を大切にしたいから」
そんな優しい言葉をかけられて、血の痕だけを偽装して初夜をやり過ごした。
けれど、いくら月日が流れようとも、ヴィクトル様は私に手を出してくださらない。
香水をつけてみても、少し恥ずかしいランジェリーを身につけても、ヴィクトル様は「ダメだよ」と困ったように笑うだけ。
私にはそれが不満だった。
だって、私はヴィクトル様に優しくされる度……彼を愛してしまっていたから。
だから、身も心も全て捧げてしまいたかった。
彼の子供が欲しかったのだ。
社交の場で「跡継ぎの方はいかがですかな」と尋ねられても、「授かりものですから」と躱す彼のことがわからなかった。
____そして結婚式から一年経っても、とうとうヴィクトル様が私を抱いてくれることは一度もなかった。




