一話 氷の令嬢
この国には、『氷の令嬢』と呼ばれている伯爵令嬢がいる。
名前はシャーリン・エルフィナード。
誰が話しかけてきても冷たい態度であしらい、常に人を寄せ付けないオーラを纏っている。どんな男も女も相手にしない、それがシャーリンという美女だった。
____社交界では、そんな風に噂されているけれど……。
本当の私はそんな人間じゃない。ただ人よりも口下手で、人見知りなだけ。明るく笑顔で接しようとしても、顔が強張ってうまく動かない。
当然友人と呼べるような存在はいないし、そもそも私の年齢の令嬢は婚約か結婚をしてしまっているので、話が合うわけもない。だって私は、もう二十歳だもの。
行き遅れの私を両親が酷く心配しているのはわかっている。けれど、両親が紹介してくれた男性とお見合いをしても、絶対に相手から断りの連絡が来るのよ。
当然よね、こちらから話を振ることもなければ、受け答えだって単調。おまけにニコリとも笑わない可愛げのない女を、誰が妻にしたいと思うのかしら。
だから、私に幸せな結婚をしてほしいと願っている両親には悪いけれど……諦めているの。それでも最低限の貴族としての役目は果たさないといけないから、どこかの高齢の貴族に頼み込んで、後妻になったりしようかしら、なんて思っている。
……いいえ、思っていたのだけれど……。
「シャーリン・エルフィナード伯爵令嬢。私と結婚してくれないだろうか」
____今日の私も、いつも通り舞踏会に参加をさせられて……いつも通り壁の花になっているだけだった。
変わらない日常。それで終わるはずだったのに。一体私の身に、何が起こっているのかしら。
「私の名はヴィクトル・クラウゼン。クラウゼン侯爵家の当主だ。美しいご令嬢、あなたに結婚を申し込みたい」
「……私の呼び名を、知らないわけではないでしょう? 『氷の令嬢』ですわよ。侯爵様なら、もっと素晴らしいお相手がいるはずですわ」
「そんなことはない、私は君に一目惚れしたんだ。それに君は氷なんかじゃない、花のように美しい」
……これは、夢かしら。
生涯誰からも愛されないと思っていた私と、結婚したいと仰る男性がいらっしゃるなんて……。
それに相手はあのクラウゼン侯爵。
……いいえ、地位や権力なんてどうでもいい。私と結婚してくださるなら。
両親も喜ぶし、なにより私の心が弾んでいるもの。
「私などでよければ、喜んであなたの妻になりますわ」
____こうして私は、差し出された男の手を取ったのだった。




