07-15 人々の遺伝子に刻まれていく
ジジー。
無限収納ファスナーのつまみが内側から引かれ、解と永久、繭の三人は火の街、城塞都市コーフダンジョンの十一階層『奈落』の隠し部屋へと戻る。
「如月創、返すぞ」
解は六 振の一つ、妖刀『鬼神創』を創に向かって放り投げる。
創は片手でそれを受け止める。
「「「……」」」
「見てたんだろ。人魚族の黒魔術師セイレーンの水晶玉で」
解は如月創、セイレーン、そして繭の魂のバックアップである大聖女の精神体に向かってニヤリ。
「現世の富士山大噴火は当分起きないぞ。これで『怨嗟』が異界に流れ込み、帝都トキオの地下に眠る魔都トキオが復活することもなくなったんじゃないか。繭のガンも完治したし、どうする。それでも最終決戦をするか。……大魔王プロトニ、いや勇者プロトニ」
解は如月創の中の勇者プロトニに語り掛ける。
「世界は歪むから、人は未来を夢見て生きれるんじゃないか。与えられた決まり切った幸せなんてつまんないだろ。魔都トキオが復活ねえー、いいじゃないか。楽しそうだ。なあ、永久、繭、そうだろ」
解の言葉に並び立つ永久と繭は胸を張る。
「まいったな。影に追い越されるなんて思いもしなかった。お陰で計画が全部オジャンだ。魔都トキオに眠る悪魔サタンは強いぞ。配下の堕天使ですら覚醒すれば勇者プロトニと融合した俺以上だ。足元に爆弾を抱えた帝都トキオを守り切れるのか。天乃解」
スチャリ。
如月創は妖刀『鬼神創』を鞘から引き抜き刀身を見詰める。
「その為のダンジョンを含めた異界の娯楽化だ。現世の欲望、悲しみ、憂い……、『怨嗟』を処理できるのはファンタジーだけだ。そうだろ、黒魔術師セイレーン。セイレーンの塔の膨大な書物。あれを俺達に見せたのはその為なんじゃないか」
「……」
セイレーンは答える代わりに如月創を見る。
「そうか。セイレーンは天乃解に賭けるんだな。わっかった」
創は妖刀『鬼神創』の刃を自らの右胸に突き立てる。
「ぐあっ……。ふははは。久しぶりに感じる人の痛み。解……。勇者プロトニの魂を貫いた。今なら俺を吸収できるぞ。どうした、早くしないと二人とも死んじまうぞ」
創は口から血の塊を吐き出す。しかし、その顔は笑っていた。真っ白だった髪と瞳は黒く色を取り戻す。
「それは違うんじゃないか、創」
解は静かに首を振る。
「創ー、私の愛しい創ー。生きて、私と共に」
その言葉は、魔王プロトニを倒した時に繭が創に最後に告げた二人だけしか知らない言葉だった。繭は如月創の元へと駆ける。
「大聖女マユ……、記憶が戻ったのか?なぜだ、なぜ、天乃解と歩む道を選ばない。俺はこの世界を守るためにお前を、現世に捨てたんだぞ」
吉澤繭の手が光る。妖刀『鬼神創』を引き抜き、その傷を癒していく。
「ダメだな、創は。全然、成長してないんだもの。やっぱり、創は私がいないと、ほんと、がっかりなお子様になるんだから」
繭は黒魔術師セイレーンの方を見る。
「セイレーン、お願い。プロトニの全てを引き受けて。元勇者プロトニのパーティーメンバーでしょ。そして、あなたが最初に愛した男、最初に憎んで敵になった男、創と一緒になってあなたを裏切った男。悪魔サタンと契約して、あなたに足をプレゼントしたバカな王子」
セイレーンは静かに頷き、一歩前に歩み出る。
吉澤繭は静かに語り、創の横に佇む大聖女マユのバックアップ用の精神体に手を差し伸べる。
「神の御霊よ、我が魂の分離を贄に光となりてプロトニの魂を分かち給え。『復活』」
大聖女マユのバックアップ用の精神体が勇者プロトニに変化していく。
「創、今だよ。創の力、全てをコピーする力を使い切って」
繭は創の手を握る。
二人の手から光の粒が幾千、幾万と生まれて人の形を形作る。その中にプロトニの魂が吸い込まれていく。
如月創の横に立つ一人の男、プロトニ。
「あぁーあ。お互い、力を失って、ただの人になっちまったな」
プロトニは苦笑いしながら如月創に手を差し出す。
その手を握って笑う如月創。
「しょうがないさ。この世界は我流六気操師の天乃解に押し付けるとするよ。せいぜい人としての生を全うするさ」
黒髪、黒目に戻った如月創は爽やかに笑う。
「繭、いいのか。天乃解の元に戻らなくて。俺なら気にしなくていいぞ。まあ、あいつも俺だしな」
創は繭の手を取って、背中を押す。しかし、繭は動こうとしない。
「ふふふ。私も今ので大聖女マユとしての力を使い果たしたみたい。それにね。解君にはもっと相応しい人がいるんですもの。ずっと嫉妬してたのに鈍感な小娘がね。それに解はもともと創だから……。それなのに解はどうしてあんなにひねくれたのかしらね」
繭は永久を見て頷く。
「繭ちゃん……。師匠、繭ちゃんにフラれた上に、現世に続いて異界まで押し付けられましたよ」
永久は苦笑い。
「師匠、私のことは気にしないで、如月創をボコって繭ちゃんをさらいましょうよ。それが男ってもんですよ」
永久は涙目の空元気。
そんな永久を解は引き寄せる。
「解、繭。木の街、城塞都市ミートの最上級ホテル・フロンティアでドワーフ族の女支配人メリナ・アーキアが帰りを待ちわびてたぞ。約束は守るもんだぞ」
天乃解は真面目な顔になる。
「師匠。師匠の真面目な顔はけっこう男前ですよ。ふふっ。しょうがないなー、ボッチで、オタクで、ヘタレな師匠の老後の面倒でも見ようかな」
永久はニッコリとほほ笑む。
プロトニとセイレーン、如月創と吉澤繭、天乃解と九尾永久。
螺旋のように気相で繋がる物語は現世と異界の人々の記憶と遺伝子に刻まれていく。
END




