第16話 誰かと過ごす明日
「それでさ、せっかく交換条件でフレッドさんのこと教えてもらえることになったのに、エドってば教える前に帰っちゃったんだよ」
夜、4人で食事をとりながらエマは悔しそうに日中の出来事を話していた。
「ま、こけて足を痛めちゃったからそれどころじゃなかったんだろうけどさ。もったいなかったなあ」
「確かにそこまでして骨折り損っていうのは辛いな」
トワは慰めるようにエマの方をポンっと叩いた。
「だがクリスが無事に弟子入りできたみたいだし、あまり気に病む必要も無いだろう」
レオンハルトもまた、エマをフォローしていた。
過去を思い出し感傷に浸っていたことで、たいしてエド探しをせずにいたため、若干バツが悪そうだった。
「確かに!まあ昼間はそれはそれで楽しかったし、気にするのはやめとくよ。にしてもクリスはお手柄だね」
視線は一斉にクリスに集まる。
3人はそれぞれバラバラに宿に戻り、その度にクリスは今日の事の顛末を嬉しそうに説明していた。
「本当にラッキーだったよ」
改めて注がれる賞賛の声にクリスは照れて顔を赤くした。
「私のためにすまない。助かるよ」
自分の問題をクリスに丸投げしている形のトワはやはり少し決まりが悪そうだった。
「気にしないでよ。僕が好きでやった事なんだから。それにフレッドさん、多分噂通り良いお医者さんなんだと思う。だから身近で色々勉強できるのは純粋に楽しみなんだ」
クリスの素直な言葉を聞いて少し気は紛れたが、それでも心のしこりは残ったままだった。
「明日から早いみたいだし、今日はそろそろ寝ることにするよ。みんなはどうするつもり?」
食事を終えたクリスは食器を片付けながら尋ねる。
「僕はレオンハルトと稽古の予定だよ。エドと立ち会った時に人の少ない良い場所教えてもらったから、そこで目一杯相手してもらうんだ」
エマはエドとのやり取りの中で、レオンハルトの教えを実践できた成功とそれを悟られてしまった失敗の両方を抱えていた。
成功によって得られる努力が身になっているという事実、失敗によって浮かび上がる自信に不足している技術、その両方がモチベーションを高めるにはピッタリで、エマは今すぐにでも稽古をしたくてうずうずしていた。
レオンハルトもまたフロウに背後を突かれたことから自戒を込めてエマの申し出を受けていた。
「そうだったのか」
意外そうだったのはトワで、エマの言葉を聞くと考え込んでしまった。
「私は明日特に何するか考えてなかったんだ。だからエマたちと買い出しにでも行ければと思ったんだが」
買い出しなんて最初から考えていたわけではないが、漠然ながらもエマと過ごすものだと決めていたことにトワ自身驚いた。
「あ、それだったらちょっと早めに切り上げて買い物にも行くよ」
「いや、まだ食材とかも余裕はあるし無理に明日行く必要もない。思う存分鍛錬してきてくれ」
言葉にしながらも明日1日をどう過ごすかトワは困惑していた。
少し前だったら、1人で過ごすことは当たり前でどうしようか考えるまでもなかった。
それが今では誰かと過ごすことが前提になってしまっている。
100年前とは違うと信じたいが、トワは今再び裏切りや失望に弱い状態に陥ってしまっていることを自覚した。
このまま信頼が深まっていっていつかモネの時みたいな別れが来るなら、やはりここが潮時なのかも知れないと日中の決意も強くなった。
「エマは騎士になりたいんだったよな?」
藪から棒に尋ねたせいで、エマは少し不思議そうに首を傾げた。
「……?そうだよ。でもいきなりどうしたの?」
「いや、だったらやっぱり少しでも多く、稽古しておいた方が良いと思ってな」
「そうだね。じゃあ明日はトワのお言葉に甘えようかな。レオンハルトもよろしくね」
トワは笑顔で頷き、レオンハルトも静かに首を縦に振った。
明確な夢を持ち、それに向かってひた走っているエマ。
やはりこれ以上トワの終わりが見えない旅に彼女を同行させてはいけない。
エマは正しい人生に戻り、トワも不要な傷を抱えなくて済む。
これが最良だと今の永遠は疑わなかった。
そしてそれはクリスにも言えることだと確信していた。




