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第15話 レオンハルトの油断

「副隊長は最前線での戦闘中に姿が見えなくなり、そのまま……」

5年前、騎士団に入る前のレオンハルトは兄のように慕って、師のように従っていた人間を失った。

当時の衝撃は今も克明にレオンハルトの記憶の中に残っている。

それ以上の言葉は何も理解できず、ただ大切な人を失った事実だけが頭の中に焼けつき、消えてくれなかった。




代代騎士団に身を置き、皇帝に忠義を尽くしてきた一族において、レオンハルトも例に漏れることなく幼い頃から騎士を志し、文武に励んでいた。

騎士団でも高い地位に立つ父親はたびたび部下の騎士たちを家に招いて食事をしていた。

幼い頃のレオンハルトは憧れの騎士を目の前に、質問攻めをしたり自分の剣を見てもらったりととにかくはしゃいでいた。

その中でとりわけレオンハルトの話に耳を傾け、相手をしてくれたのがクレイグという若い騎士だった。


クレイグは他の騎士と比べて頭一つ上背が高く、それに比例するように手足は太く筋肉は大きかった。

堂々とした振る舞いは威厳を感じさせるが威圧感はなく、丁寧でハキハキとした喋り方が好青年の印象を強めた。

将来を嘱望されたクレイグは頻繁にレオンハルトの家に招かれ、その度にレオンハルトの戯れに付き合っていた。

レオンハルトは彼の姿を一つの目標と定め、日々の研鑽にはより一層の力を注いだ。


それから月日が経ち、クレイグは騎士団内でも重要な任務を引き受けるようになり、レオンハルトもまた幼い時のように接するのは気恥ずかしくなり、2人が顔を合わせる時間は減っていった。

それでもレオンハルトの目指す騎士像がクレイグを骨格に作られていることには変わりなく、クレイグもまた、レオンハルトが騎士となって共に皇帝に仕える日を心待ちにしていた。


しかしその日が来ることなく、クレイグはレオンハルトの前から消えてえしまった。


クレイグが最後にどこで戦っていたか、どんな命令を受けていたか、それらの記憶は正確ではない。

そのため、今こうしてかつて帝国と連邦がぶつかり合ったこの街にクレイグがいた確証もない。

たとえそうだとしても5年も歳月が経って何かが残っているとはとても考えられない。

ただ、それでも自然と足は動いていた。




「よう、聡明な騎士殿。お散歩ですかな」

急に背後から肩を叩かれ、レオンハルトは自らの気の抜けように嫌悪した。

いくら感傷に浸っていたとしても、警戒を怠るなどあってはならないことだ。

振り返るとあまり得意ではない、にやけ顔がいた。

「フロウか。そっちの仕事はいいのか?」

「ん?ああ、それなら大丈夫だ。それで何?生真面目な騎士殿は帝国がこの街でしたことを受け止めにきたのかな?」


フロウの言葉の意図は考えるまでもない。

帝国と連邦はこの連邦に属する街で5年前まで戦っていた。

そしてその傷跡は未だ残り続けている。


「実戦経験のほとんどない騎士殿はこういう街並みを見るのは初めてか?」

その言葉にレオンハルトは虚をつかれ思わずフロウの顔を凝視してしまった。

「図星だった?かまかけてみるもんだな。にしてもやっぱり騎士殿はバカ真面目で助かるよ」

悪戯っぽいフロウの笑顔はレオンハルトの感情を逆撫でする。


「だったらなんだ。私が正式に騎士になったのは和平が結ばれてから。国内の暴徒が相手でも無闇に命を奪ったりはしない」

自分の口調がどんどん早口に、捲し立てるような話し方になっていることに気が付き、そこでスッと

言葉を区切る。

そして一息入れてからゆっくりと落ち着いて一言だけ添えた。

「だから、別におかしいことはないだろう」


「そうだな」

からかいすぎたと反省しているのか、フロウもそれ以上余計な言葉は加えなかった。

「どうしてそう思ったんだ?」

フロウと過ごした時間はあまり長くない。

その中で自分の実戦経験の乏しさを見抜かれたことが不思議だったし、そう悟られるような動きをしていたのであれば改める必要があった。


「ソネラで盗賊と戦ったろ?あん時の動きとか、なんとなくな。1対1の模擬戦っぽい動きだと思ったし。あとはこの街の風景に慣れてなさそうだったから」

「そうか……いや、ちょっと待ってくれ。あの時剣を渡してくれたタイミングからだと最後の一太刀しか見てないだろう?」

「あー、そうかそうだったわ。いや、実はエマが乱入する直前から見てたんだわ。敵国の若手のホープがどんなもんかって……流石に不死鳥がやられそうになっちまったからそのタイミングで介入したんだよ……すまん」


フロウはあまり悪びれる様子もなく手を合わせる。

小声でしまったなぁとこぼしていたが、レオンハルトは聞こえないふりをした。

それよりもあの時の戦いを思い出すのに必死だった。


確かにあの時、レオンハルトは敵の首領が1人で来たと言ったことを鵜呑みにしていた。

敵と背後の不死鳥だけを意識しすぎて潜んでいたエマの気配にも気づいていなかった。

もしあれが敵だったら、奇襲されたのが自分だったらそう思うと自分の甘さに猛省せざるを得なかった。

「エマに偉そうなことを言っておきながら、自分が実践できていないとは情けないな……フロウ、それに気づかせてくれてありがとう」


思いがけない感謝の言葉にフロウは目を丸くした。

「いや、別に聞かれなきゃ答えるつもりなかったし。感謝されるようなことじゃねえよ」

フロウは居心地悪そうに身をよじると、思い出したように手をポンと叩いた。

「俺、この後行くとこあるんだわ。ということでまたな」

それだけ言うとフロウはそのまま早足で駆け去った。


「帰るか」


ソネラでの戦いだけではなく、帝国にいた頃の僅かな実戦の記憶も呼び起こしながら、レオンハルトはその経験の少なさを補う術を考えながら帰った。

周囲に、背後によく気を配りながら。

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