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第10話 たったひとつわかったこと

どれくらい時間が経っただろうか。

ーーわからない。

モネは何か言ってただろうか。

ーーわからない。

なぜあんな軽はずみな行動をとってしまったのだろうか。

ーーわからない。


走り去っていくモネを追いかけることはできなかった。

力無く左手を小さく伸ばして見せたが、届くはずもなくモネは小さくなっていく。

項垂れると、視線の先には溢れたての鮮血と傷ひとつない左手。

これが恨めしくてたまらなかった。


怒りに任せてガラスの破片で左手を何度も突き刺す。

その度に血飛沫が舞う。

握りしめた右手からも静かに血が垂れ、白く細い手をつたう。

何度も何度も、疲れて右手が上がらなくなるまで突き立てても、そのうち左手は元通りになる。

トワの体は何事も無かったように平然と元の姿を取り戻す。

しかしながら記憶も、心も元には戻してくれなかった。


やがて陽が落ち、冷たい風がトワの髪を撫でる。

依然として冷静さは取り戻せていないが、それでも放心状態から立ち直ることはできた。

トワは重い足取りでモネの幻影から逃げるように路地裏の暗い方へ歩いていった。

生気のないその動きはまるで死んでいるかのようだった。




それでもすぐにこの街をでなかったのは、未だにモネに対して淡い期待を抱き、縋っているからだろうか。

これまでなら素性がバレた翌日には町を後にしていたトワは今日も路地裏を彷徨っている。

家を知っている以上、その気になれば会いに行くことはできるが、それは憚られた。

出会ったあの日のようにモネが自分のことを追いかけてきてくれるのではないか。

そう思って取り止めもなく足を動かす。


少しでも目に止まるように、活動範囲を広げようと、広い街の路地裏を隈無く歩く。

いや、違う。

本心ではモネに会うことを恐れているのだ。

もう一度会ってしまったら、きっとまた拒絶されるから。

それは耐えられない。

だから、前向きな理由にかこつけてモネとの思い出にもない路地裏にまでやってきているのだ。


淡い希望に縋っているようで、深い絶望から逃げているだけ。

トワの未だままならない頭の中で、思考が混沌と化していた。


期待などしなければ、今日もモネと笑って過ごせたかもしれない。

そう思うと自然と涙が流れ始める。

細い道の先に見える大きな通りでは、活気にあふれた声が響き、広場では子供たちがはしゃいでいる。

モネが成長した最近でこそ、広場で遊ぶことは減っていたが、それでもトワにとっては馴染み深く、思い出深い場所だった。




たった一目でいいから姿を見たかった。

会うのは怖い。

けれどもこのまま別れるのはきっと後悔することになるから。

もしもその優しい少女の姿が見えたなら、きっと救われると思った。

されども毎日のように見てきたその少女の姿はどこにも見当たらず、嗚咽のようなため息が溢れる。

自分の軽率で浅はかな行動が、2人で積み上げた全てを台無しにしてしまった。

あの子を傷つけてしまった。

だから怖いけど、会わなきゃいけなかった。




すれ違っているのか、そもそも探してもらえていないのか、どちらにせよトワはモネを見つけられなかった。

さらに1日が経った頃、街中で噂が流れ始めた。

『街に化け物が巣食っている。人気のないところには行かないように』

(ああ、これは私のことだ)

トワは小さくありがとうと溢す。

おかげで未練は無くなった。

これ以上、無様に過去に縋らなくてすむ。

だから、拒絶してくれてありがとう。

迷いも不安も無くなったトワは、深い悲しみだけを胸に街を出た。




私を理解してもらうには5年でも足りなかったんだ。

だからもっと長い時間を共に過ごしてもらう必要があるな。

では、姿形の変わらない子供に何の疑問も抱かず何年まで過ごせるだろうか。

結局答えなど決まっていたのだ。


私は1人で生きるしかない。


たったそれだけのことしかわからなかった。

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