第9話 今度こそ
1年、2年と時が流れていき5年が経った。
一緒に遊んでいた子供たちは成長し、大人になっていく。
そんな中でやはり、トワは取り残されていた。
それでも1人じゃなかったのは、いつも隣にモネがいたからだ。
「トワは全然身長伸びないね。ちゃんとご飯食べてる?」
モネは心配そうにトワの顔を覗き込む。
出会った頃は同じ高さだった目線がずいぶん高いところに離れていってしまった。
「知ってるだろ。それなりにちゃんと食べてるよ」
「じゃあ、今日もうちこない?お母さんもトワがうちに住んでくれたらいいのにって言ってるよ」
最初の頃はたまに広場で一緒に遊ぶだけだったが、そのうちモネの家に呼ばれるようになり、今では頻繁にモネの家でご飯をご馳走してもらっていた。
「いや、昨日もご馳走になったから。あんまりお邪魔したら迷惑だし……」
「そんなの気にしなくていいよ。だって、ご飯のお礼にっていっつも家事手伝ってくれるから、お母さんも大助かりだって言ってるよ」
「それなら良かった。けど、またそのうちな」
「ちぇっ残念」
モネは足元の小石をコツンと蹴り飛ばす。
これまでの町で仲良くなった友達は、成長と共に自然とトワを離れていったり、成長しないトワを不気味がって近寄らなくなったりと、理由は様々あれど長い年月を過ごすことはなかった。
こんなにも長い間、自分のそばにいてくれたのはモネが初めてで、それがとても希少な存在であることはトワが一番自覚してる。
モネならば自分を受け入れて、彼女自身が大人になっても側にいてくれるんじゃないかという、淡い期待を抱かずにはいられなかった。
これまで同じような感情を抱いても受け入れられなかったのは、過ごした時間が短かったせいだ。
5年はおろか、1年同じ街で一緒に過ごせた友人が何人いただろうか。
それじゃ短すぎたんだ。
不老不死、一緒に時間を歩めない、そういったマイナスを受け入れてもらうには、もっと歳月が必要だったんだ。
モネに対してトワは期待感を高まらせていた。
これまでの失敗や裏切りの全てに年月という理由をつけて、それらを逆手にモネを肯定した。
「でもなんで身長伸びないんだろうね?」
まさに今、不老不死の話を切り出すにはまたとない話題に、トワは焦って声を上ずらせる。
「あ、あの、そのことなんだが、実はモネに聞いてもらいたいことがあるんだ」
動揺を誤魔化そうと俯いて、長い髪の毛先をいじりながらモネの返事を待つ。
返事は一つしかないに決まっていると思っていたし、思った通りの返事をもらえた。
周りに人がいないことを十分確認する。
奇しくも初めてモネと出会った時と同じ仄暗い路地裏だったので、人影はふたつきりだった。
「モネ、実は私は不老不死なんだ」
準備していた言葉はすんなりと出てきたが、それでも僅かに声が震える。
「え?」
驚きと動揺、疑念が混じった表情をモネは見せる。
それでもそこに敵意や悪意、嫌悪が見られなかったのは、トワの好意的な解釈によるものではなかった。
それでも、もっと明るい顔を見せてほしいと思い、トワは言葉を続ける。
「こんな突拍子もないことを言われてふざけてると思うかもしれないが、本当なんだ」
モネは未だ目を丸くしていたが、それでもトワの本気を汲み取ったようで、真面目な表情になって質問を投げかける。
「じゃあ、証拠見せてほしいな。疑ってるってわけじゃないんだけど、やっぱり見てみないと信じられないから」
「わかった」
モネが言葉のままに信じてくれないことはなんとなく予想できていた。
こんなこと、言葉だけで信じられるはずがないのだ。
だからモネはちょうど足下に落ちていたガラスの破片を右手に取ると、左の手首を切りつけた。
血がドクドクと溢れ出し、足下にポタポタと滴り落ちて小さくできた血溜まりを作る。
しかしそれも経った数秒の話で、出血の量はすぐに減っていき、やがて傷口もみるみる塞がっていった。
それはおよそ常人が理解しきれる範疇を超えている。
「どうだ、これで信じてくれるか?」
トワは左手から目を離すと、再び期待の眼差しをモネへ向けた。
しかし、その瞳が写したのは、トワの左手と足元の血溜まりを交互に見比べる、焦燥した表情のモネだった。
トワはここにきてようやく自分が浮かれすぎていたことに気がつく。
ああ、またやってしまったのか。




