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第5話 門前払い

大股で前を歩くフレッドを小走りになりながらクリスが追いかける。

その手にはバケツとスコップが握られていた。

弟子入り志願に対する返事はなく、フレッドはただ荷物を渡すと無言で来た道を引き返し始めたのだ。

「ちょっと、早いですよ、フレッドさん。待ってください」

クリスの声など意に介さずフレッドは1人突き進み、終始返答は無いままフレッドの家まで辿り着く。


「ほら」

くるりと振り返るとフレッドは両手を前に出す。

「えっ?ああ、どうぞ」

クリスは少し息を切らしながら、バケツとスコップをフレッドへ返した。

「じゃあご苦労さん」

荷物を受け取るとフレッドは何事もなかったかのように家の中へと消えていく。

それを慌てて止めようとクリスはフレッドの腕を掴んだ。

「弟子入りの話、答えもらえてないんですが?」

筋骨隆々とした腕を握力を振り絞って掴むと、フレッドは小蠅を払うように軽く払う。


「あのな、昨日今日あっただけのやつを弟子にするなんて平和ボケすぎるだろ。お前が何を狙ってるのか知らねえが、俺はしがない老いぼれジジイだ。なんでも治せる医者でもなけりゃ、金を持ってるわけでもない。突っ掛かられても迷惑なんだよ」

フレッドの顔は心底面倒臭そうで、乱暴に頭を掻いている。

真っ直ぐ伸びた背筋と張りのある健康的な肉体の印象で忘れがちだが、彼の顔に寄った皺や手でたった今くしゃくしゃに乱された白髪が彼の生きてきた年月を実感させる。


「そういうつもりはありません。ただ、フレッドさんは時間が無いそうなので……少しでも僕が力になれれば時間作ってもらえるかと思って」

フレッドの全身から発せられる嫌悪感を一心に受け止めるうちに、クリスの言葉尻は徐々に萎んでいく。

「あれは言葉のあやだ。体良く断ろうとしただけ。そんなこともわからねえのか?」

今度は呆れたようにため息をつかれ、クリスの心はなおのこと消沈する。


もちろん、昨日からの時間が無いという言葉が遠回しな拒絶であることはクリスも自覚していた。

それでも他の方法がないから、額面通りに言葉を受け取る愚か者のふりをしてでもクリスはフレッドとの関係を保とうとしたのだ。

「わかってますよ!でも、それでも、そんな言葉に縋ってでも聞いてもらいたい話があるんです!」

疲労とやるせなさにどん底まで沈んだ心をヤケクソに奮い立たせて、素直な気持ちを伝える。


「あの嬢ちゃんの話か?だったらお前さんが汗水垂らす義理はねえだろ。あの子が今のお前みたいにあくせく働いて自分の話を聞いてってんなら話もわかる。もしくはあの子が本当に病人で、肉体労働は無理だっていうんならそれもまた、わかる話だ。でもあの子は健康体だろ?それなのにお前だけが頑張るのは全くもって理解できん」

昨日、少し見ただけでトワを健康だと判断したフレッドにクリスは怒りが込み上げてきた。

見た目が、体が健康だからといって彼女が何も抱えていないと思っているフレッドの傲慢さに文句をつけてやりたくなった。

それでも堪えた。

数少ないトワの不老不死解決に繋がるきっかけを、クリスの一時の感情で失うわけにはいかない。


「それは……半分は僕のわがままだからです」

フレッドに対する怒りを鎮め、クリスは偽りのない理由だけを伝える。

この街に来たのも、フレッドと会話したかったのも、トワのためだけではなかった。

クリス自身、万能の名医に会ってみたくて最初の目的地をここに選んだのだ。

だから、トワのために身を粉にしているわけではない。

トワのためであり、何より自分のためでもあるのだ。


「僕も医者を目指して勉強してたんです。だから、フレッドさんの噂を聞いて、少しでも真似できる部分があればと思って」

拳を握りしめて、クリスは思いの丈をぶつけた。

「なんだ、やっぱりスパイじゃねえかよ」

わざとらしく首を横に振ってフレッドは肩をすくめる。

悪意のないクリスの考えでは、知識や技術を盗むという発想に至っていなかった。

フレッドに指摘されて初めて、自分が望むものにはそういう負の側面があることに気がつく。


「いや、そういうわけでは……確かにそう言われるとそうなんですが……あの、僕かなり遠くから来てて、ここら辺だと生えてる植物とか薬の配合とか全然違うんですよ。だから、フレッドさんにも僕の知識をお伝えするのでそれじゃダメですかね……?」

一度自分の言動に自信がなくなると、途端に言葉に迷いが生じる。

フレッドはそんな綻んだ言葉をバッサリと切り捨てた。

「この辺に生えてな植物の知識が何になるってんだよ。俺はこの街から出るつもりもねえから、そんな知識いらねえよ」


言われてクリスは納得する。

確かに、ヴェスティガッセを旅していくにつれ、自身の身につけた知識が役立つ場面は減っていった。

だからこそ、この土地で使える知識を得たかったのだが、その代価として遠く離れたアルフの村で学んだ知識はフレッドにとって価値のないものだった。


「じゃあどうすれば」

「どうしようもねえよ。じゃあな」

そしてフレッドは家の扉を閉じた。

頑なに閉ざされた扉を前に。クリスは一時撤退を余儀なくされた。

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