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第15話 いまだ約束は果たされず

青春時代を過ごした村での思い出の終わりと共に、宰相・カイルを乗せた馬車が城の前に到着した。

(この城に戻ってからもう30年経つのか……私も衰えるわけだな)

足元に注意しながら、馬車から出る。

太陽はすっかり沈んだ暗闇の中で、しっかりと大地の感触を確かめながら降り立つ。

取手を握る指先はシワが増え、握力も弱まっていた。

カイルが宰相になって30年、約束は未だ何一つ果たされていない。


兄である皇帝・マルスと共に帝国を治めてからの30年で、変えられたものはほとんど無かった。

時の流れと共に変わっていったものばかりが、カイルを責め立てる。

カイルは自室へ戻ると、写真の中のアリスに目を向ける。

ついぞ成しえなかった村の解放も、連邦の支配も記憶の中のアリスは笑って許してくれた。


扉が叩かれる。

「入れ」

カイルは写真を伏せると、襟元を正す。

「こちらクラウディア様からでございます」

差し出された便箋には宛名が無く、書かれていたのは暗号文だった。

「ご苦労」

内容を紐解くには時間がかかりそうだと判断し、カイルは棚から茶葉を取り出す。


「何をしている、用が住んだなら早く出ていかんか」

便箋を渡したきり、その場で立ちっぱなしだった兵士を睨みつける。

「し、失礼いたしました」

兵士は慌てた様子で部屋を出ていく。

勢いよく閉められた扉が立てる音が、ひどく耳障りだった。


今出ていった兵士を含め、宰相直属の兵士はごく少数存在している。

所長への食糧配給や今回のような皇帝の目を盗んでのやり取りはそうした兵士の協力あって成しえている。

今出ていった兵士にも皇帝に従って帝国のために尽くすよりも、全容の知れぬ宰相の企てに協力することを選ぶ理由があった。


しかしそんなものはカイルにとってはどうでも良い。

カイルが彼らを利用するように、彼らもまたカイルの存在を利用すれば良いだけだから。

カイルにとっては約束を果たすことだけが重要であり、所長もまた彼の悲願成就にカイルを利用しているだけで、カイルの目的などどうでもよかった。

そうした利害だけが一致した、ごく稀薄な、しかしある種強固な関係は小規模ながらも横に大きく広がり、帝国では収まっていない。


クラウディアもまた、カイルと彼を取り巻く思惑の連なりを利用しようとする存在で、その所属は連邦にあった。

彼女からの手紙は、カイルが実行している計画の遅延を知らせるものだった。

一通り内容に目を通すと、カイルは軽く舌打ちをする。

周到な用意をしたとしても、その多くは意図しない結末に終わることをカイルは自身の人生でひしひしと実感していた。

それでもやはり、自分のあずかり知らない場所で計画が綻ぶことは許せなかった。


「これ以上は失敗できない……今回だけは……今回こそは……」

言い聞かせるように呟きながら、返事の手紙を書き進める。

「あの不死の少女だけは何としても手にせねばならんのだ……」

太陽のいない夜空は暗く、寂しく、カイルの背中は影に沈んでいた。

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