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第3話 大陸が分たれた日

2人が皇帝に呼び出され、次期皇帝について話してから3日が経過した。

そして今、マルスとカイルは再び皇帝に呼び出されている。

この3日間、親子の間に会話はなかった。

普段から皇帝は多忙で丸一日会話を交わさないことも少なくないが、この3日間は皇帝が意識して避けてきたように2人は感じていた。


「今から話す内容は本来、お前たちが20歳を迎えた時に話す内容だ。帝国でも知っているのは儂と極々一部の臣下だけで、民には決して知られてはならぬ。他言は禁ずるぞ」

皇帝は厳かに告げる。

その姿に2人はこれから聞かされる内容の深刻さを感じ取り、息を呑む。


なぜ、本来20歳で聞かされる話を今、2人同時に聞かせるのか?という疑問が頭をよぎったが、2人とも口にすることはできなかった。

ただ皇帝の佇まいに気圧されたのではない。

心の底では、原因が何か無意識に理解していたからだ。

先日、カイルが話した人並外れた記憶力と、その話を聞いて突如として態度を変えた父親の姿、それがこの話の核になることは自明の理だった。


「我がセルメギス帝国がヴェスティガッセ連邦と戦争をしているのは知っているな」

「もちろんですよ」

大陸の半分を領土とするセルメギス帝国、そしてもう半分を領土としているのは5つの国で構成されるヴェスティガッセ連邦だった。

帝国との争いに対抗するため、5つの国が同盟を組んで連邦を名乗ってからずいぶん長い月日が流れている。

こうした帝国とそれを取り巻く環境や、今日に至る歴史的経緯は読み書きができるようになってすぐの頃から教えられていた。


「では、大陸が2分された経緯は知っているか?」

皇帝は答えの知れた問いを投げかける。

2人とも少し考えるような態度を取る。

マルスは過去にそう言った内容を教わっていなかったか、記憶を呼び起こそうとしている。

一方カイルは習ってきたことを一通り思い出して、マルスより先に結論に至った。

カイルはマルスをちらりと確認すると、黙ってマルスが結論を出すのを待った。


「すみません、記憶にありません」

マルスは自分が思い出せていないだけではないかと半信半疑で自信なさげに答える。

「俺も記憶にないです」

カイルはマルスの返事を受けて堂々と答える。

その言葉を聞いてマルスも自身の出した結論が正しいことを確信したのか、表情が少し和らぐ。


「うむ。教えていないから当然、知らなくて問題はない。今から話す内容こそが大陸を分つ2大勢力が生まれた経緯だからな」

そこで皇帝は一つ息を吐く。

2人は固唾を飲んで次の言葉を待った。

「今から数百年前、とある能力に対する考え方とその扱いによって2つの派閥が生まれた。その派閥がそれぞれ寄り集まっていき、次第に国の形を成していった。そしてお互いの思想を否定するように争いが生まれたのだ」

「能力ですか?」

言われてマルスはすぐにカイルのことを思い浮かべる。

それはカイルも同様で、緊張で強張っていた表情に恐れが加わる。


「そうだ」

皇帝は深く頷く。

「人や動物、物や自然、あらゆるものが稀に授かる超常的な力がある。それは時に唐突に、時に遺伝的に、時に成熟とともに発現する。人知を超越した選ばれたモノのみが持つ奇跡。それを『祝福』と呼んでいた」

そしてカイルに目線を合わせる。

「例えば、カイルが持っている記憶力もその一つだろう」


「『祝福』……初めて聞きました」

カイルは何故その言葉を聞いたことがないのか、不思議に思いながら呟くように発した。

「それもそのはず。我がセルメギス帝国は『祝福』の存在を否定する勢力が作り上げた国家だ」

「『祝福』の存在を否定、ですか?何故そのようなことをする必要が?」

「余りある力というものは人々を嫉妬させ、時には恐怖させる。我らの先祖は『祝福』を授からぬ多くの人民のために、『祝福』という考え方そのものを抹消したのだ」


「それはおかしいです!」

大きく声をあげて割って入ったのはマルスだった。

「先祖のことを悪く言いたくはないですが、父上の言う通りであるなら『祝福』は確かに存在してカイルもそれを授かっている。それなのに存在を抹消するということは、カイル自身を否定しているようなものです。俺はそんなの許せません」

「兄さん……」

自分を庇うような兄の態度を嬉しいようなこそばゆいような気持ちでカイルは受け入れていた。


「マルス、お前の言っていることは間違っておらん。ただ、人々が皆お前のように強いわけではない」

「強い?」

皇帝の選んだ言葉がうまく理解できず、マルスは思わず首を傾げた。

「先程も話した通り『祝福』は人々の嫉妬を生むには十分すぎる強力な力だ。お前はカイルのことを素直に誉めていたが、カイルの力を羨み、妬み、苦しむ人間もいるのだ」

「……それは、わかります」

それは決して褒められた感情ではないと知りながらも、その感情は15年生きてきた中で幾度となくマルスの中に生まれていた。

そして、同様の感情が自身に向けられたことも少なくなかった。

特別な力こそなくとも、マルスが一般的に見て羨望や嫉妬、絶望を与える立場になりえる能力を持っていることは、マルスは自覚していた。

だからこそ、マルスはそうした後ろめたい思考を否定することはできなかったし、そのような考え方が一般的であることも理解できた。


「じゃあ、もう一つの思想は『祝福』を認めるという考え方だったのですか?」

マルスは現ヴェスティガッセ連邦の根底にある考え方を問いかけた。

「その通り。最も、認めるとは一言で言っても認め方に違いがあった。『祝福』を授かったものを特別視して崇め奉る者たち。その能力に合った要職を与え、国家の繁栄に最大限貢献させる者たち。存在は認めるが先に話した負の感情から忌避する者たち。普通の人間と変わらぬ扱いで接する者たち。そして『祝福』を持たぬものにもその力を分け与えようと研究する者たち。この5つの勢力が5つの国になった。そして帝国に対するため、連邦という形を取った」


「考え方の違いからくる諍いは激化していったが、争いはお互いを疲弊させ、次第に収まっていった。しかし一度いがみ合った両勢力は戦力が回復するたびに、当初の理由など忘れて争いを始めた。今ではきっかけを知るものなどほとんどいないのに未だに争いは終わらん」

皇帝は今尚続く戦いと一時的な安寧の日々にうんざりしたように言葉尻を弱めた。

その眼差しは次代を担うマルスを憂うようにも見えた。


「父上、これだけのために俺たちを読んだわけではないのでしょう?」

カイルの声は僅かに震えていた。

自身が持つ力と、その存在さえも否定する祖国、自身が『祝福』を授かっていることを知ってから今日までにできた父との空白の3日間、それらが導く答えはカイルにとって恐ろしいものだった。


「その通り。ここまでは前提の話だ。ここからが本題になる……覚悟はいいか」

皇帝はカイルとマルスそれぞれと目を合わせる。

2人もそれを受けてゆっくりと頷いた。


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