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第12話 盗賊団・ゴライアス

 不死鳥が祭壇に降り立ってから3日が経過した。


「もしもーし。不死鳥さんや。聞こえてますか?」

 北の祭壇の中で煌々(こうこう)と燃え盛る炎にトワが声をかける。

 相変わらず中の様子はうかがえないし、もちろん返事はない。

 トワは毎日のように祭壇へ通い、不死鳥に声をかけている。


「ピヨピヨ、ピヨピヨ」

 趣向を変えて雛の鳴き声を出してみる。

 やはり返事はない。


「不死鳥はそんなに可愛い鳴き声じゃなかったと思うよ。もっとキエエーって感じだったような」

 背後からの声を受けてトワはびくりと跳ね上がる。

「クリス! いつから聞いていたんだ」

「い、今来たところだよ。お昼持ってきたんだ」

 クリスの手には弁当箱があった。

「そうか」

 顔を真っ赤にしながらトワは弁当を受け取る。


「みんなには内緒にしておくよ」

 クリスは笑ってみせる。

「何のことだ」

 トワは何事もなかったかのように弁当を食べ始めた。


「あのさぁ……」

 クリスは何かを言いたそうにトワの横に座る。

「この前のことならもう言いっこなしだと話しただろう。私は生贄(いけにえ)を志願した。それをクリスに認めてもらいたかったんじゃなくて報告しただけだ。だからクリスに止められても私の意思は変わらなかった」

「だとしても」

「それに結果として私もジェシカも無事なんだから、過ぎたことなんだよ。顔を合わせるたびにそんな辛気臭(しんきくさ)い顔をされたらたまったもんじゃないからもうやめにしよう」

「……うん」


 あの朝トワに何と言葉をかければ良かったのか、クリスにはまだ答えが出せなかった。

「さて、ジェンセンの家に戻るとしようか。ほら、クリスもぼさっとしてないでいくぞ」

 今はただ、トワの優しさに甘えることしかできなかった。



***



 その晩、ジェームズが3日ぶりに村へ帰ってきた。

「……お頭、大変です」

 ジェームズは扉を開けるとその場に倒れた。

 顔は大きく腫れ上がり、手足に青あざができている。


「おい! ジェームズ! しっかりしろ。何があった?」

 ジェンセンは慌ててジェームズを抱き起して体を揺する。

「ゴライアスが……村を……」

 ジェームズの目は(うつ)ろで焦点が定まっていない。

「ジェンセンさん、体を揺すらないで。ベッドに運びましょう。エマは氷を準備して」

 クリスは指示を出すとすぐにカバンの中から応急手当ての道具を取り出す。


「不死鳥が……」

「ジェームズさん、無理して(しゃべ)らなくて大丈夫です」

 上着をナイフで切り裂き、患部を確認する。

「全身あざだらけだ」

「なあクリス、ジェームズは大丈夫なんだよな?」

「命に別状はないと思います。傷を冷やして軟膏(なんこう)を塗っておきましょう。それで安静にしていればおそらく大丈夫だと……でもこんな酷い傷、一体誰に」


「ゴライアス……不死鳥……」

 ジェームズはうわ言のようにその言葉を(つぶや)く。

「わかった。わかったからお前はもう黙って休んでくれ」


「不死鳥はまだわかるが、ゴライアスとはなんだ? ジェンセンは言葉に聞き覚えはないのか?」

 レオンハルトの問いかけにジェンセンは少し悩んだ後、あっと何かを思い出したようだった。

「そういう名前のでかい盗賊団がいるって話は聞いたことあるぜ。つってももっと北で活動してるらしいし、噂程度しか知らねえ。……そいつらにやられたのか」

 ジェンセンがジェームズに詰め寄ると、小さく頷いた。


「ジェンセンさん、優しく。優しくしてください」

「おお、すまねえ」

 ジェンセンはすっとベッドから一歩退く。

「そのゴライアスという組織にやられたのであれば、ゴライアスはこの近くにいるということではないのか?」

「そこまではなんとも。俺も噂程度しか知らねえんだよ……フロウさんなら諜報員って話だし何か知ってるかもしれねえ。聞きに行ってくる」



***



 ジェンセンは10分程で戻ってきた。

 傍にはフロウとリゲルが一緒だった。

「ジェンセンさんの言う通り、ゴライアスは大規模な盗賊団です。元々はソネラよりもかなり北部の地域で活動していた賊ですが、ここ数年で活動拠点をこちらに移してますね。とは言ってもベルイスト近郊では被害を聞きますが、ソネラ近辺での報告はこれまでありませんでした」

 リゲルはカバンから取り出した書類を読み上げる。


 トワたちがソネラへ来る前に立ち寄った街、ベルイストはかなり大きな規模の街で、周辺町村への物流はこの街を経由している。

 そのためゴライアスのみならず、この地域の盗賊は大抵ベルイストを行き来する物資を狙う。

 一方で滅多なことがない限り人が寄り付かない東端の村、ソネラは送られる物流の量も少なく、大きな価値を持つもののやり取りも殆どないため、被害もほとんどなかった。


「ジェームズが他に喋ってたのは不死鳥と村だっけか? ゴライアスが不死鳥求めて村に襲ってくるってことじゃねえの?」

「でもそうなるとゴライアスが何で不死鳥のこと知ってるんだって話になりませんか? いくらここらに伝わる伝承だっていっても、ソネラの人間以外は不死鳥が訪れる正しい日付を知ってるわけじゃないですし。不死鳥だってかなりの大きさですけベルイストからじゃ流石に豆粒サイズで確認できないでしょうよ」

「ここに1人いるじゃねえかよ。正しい伝承を知ってて不死鳥の姿も確認して、おまけにゴライアスと繋がりのありそうな男がよ」

 フロウは気を失ったままのジェームズを見下ろす。


「ちょっとこいつ起こしてちゃんと吐かせようぜ。このまま推測してたって(らち)があかねえや」

 フロウはグイグイとジェームズに迫ると、乱暴に体を起こさせようとする。

「やめてください」

 間に割って入ったのはクリスだった。


「ジェームズさんは致命傷こそないですが全身傷だらけです。今は安静に寝かせてあげてください」

「お前そんなこと言うけどさ、これで俺の推測通りだったらどうすんのよ。この村は年寄りも多いし盗賊が本気で襲ってきたらまず太刀打ちできねえ。不死鳥がどうなろうと俺は知ったこっちゃないけど、国民は放って置けねえ。国を守るものとしてこいつには話を聞かなきゃならん」

 立ちはだかるクリスを右手でぐいと押しのけようとする。

 クリスは両手でフロウの右手を掴んで踏ん張った。


「ならせめて、優しく。手荒な扱いはしないでください」

 クリスは真剣な眼差しでフロウを見つめる。

「……わかったよ。優しくして起きなきゃ叩き起こす」

 フロウが一段強く力を入れると、クリスは軽々と後ろへよろけてしまった。


「おい、ジェームズ起きろ。起きて知ってること話せ」

「……うっ」

 フロウの呼びかけにジェームズが目を(わず)かに開く。

 右目はまぶたの上が大きく腫れ上がっており、ほとんど開いていない。


「スカー……さん……」

「ゴライアスとの間に何があった? これから何が起こるんだ?」

「ゴライアスが……村を……襲います」

「それは不死鳥目当てだな?」

 ジェームズは僅かに首を縦に動かす。


「時間や人数はわかるか?」

「多分……明日にでも」

「人数は?」

 今度は首を横に動かす。

「すみません……俺のせいです……」

「それについてはもうちょっとマシに話せるようになってからでいい」

 すくっと立ち上がると、フロウは足早に玄関へと向かった。


「リゲル、すぐに戦闘準備だ。今から増援は厳しいから俺たちだけでなんとかするぞ。あと、村人の避難について村長に話通してくる」

「俺たちにもできることありますかね?」

 おずおずとジェンセンが尋ねる。

「村のことはお前たちの方が詳しいからな。敵が攻めてきそうな場所とか、村人を集めるのにいい場所とかを教えてくれ。それと騎士殿、こちらの都合に巻き込んで恐縮だが加勢してもらえないだろうか」

「罪なき人々に危険が及ぶとあっては見過ごせまい」

「恩に着る」


「ちょっと待ってよ。僕も戦うよ」

 手を挙げたのはエマだった。

「これは遊びじゃねえんだ。盗賊だってジェンセンたちみたいな()()()じゃなくて本気で殺しにくるような奴らだ。前線に出すわけにはいかねえ」

「そうやって子ども扱いして!」

 エマは食い下がる。


「実際お前の剣技なんて子どもに毛が生えたようなもんだろ。どうしてもってなら避難所の警護を頼むわ」

 フロウはトワを相手することはなくリゲルと出て行ってしまった。

「……なんだよ」

 エマは悔しさに涙を浮かべていた。

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