第11話 仕掛けられた罠
「色々と試してくれてありがとう」
「まだ、村に戻って火とかの準備ができればもっと本格的なことができるから……」
小一時間程試行錯誤してみたものの、結局トワの不死は解消されなかった。
念の為にとクリスは花をいくつか摘んで帰ることにした。
「これまでも幾度となく空ぶっているから、クリスが落ち込む必要はないよ」
「逆に慰めてもらってちゃダメだよね」
クリスは自嘲気味に笑った。
「ところで、この花が万能薬になるって話はどこで聞いたの?」
「あぁ、この山の反対側にあるヘイダと言う町で聞いたよ。町では最近もっぱらの噂らしいぞ」
「変だなぁ。この花自体はここら辺の草花を記した本に書かれているし、万能薬なんて眉唾な噂、一体誰が言い始めたんだろう?」
「俺だよ」
一本道の向かい側から突然アンダーソンが顔を出した。
逃げようと身構えるが、左手には高い岩壁、右手には崖で引き返した先も山頂のため、追い詰められた形になっていた。
アンダーソンはその状況を知っているのか、余裕そうに話を続ける。
「トワ、お前が俺の管轄区域に入ったことは隣の区域のやつから聞いたよ。それでチャンスだと思ったのさ。帝国が数百年追い求めているお前を捕まえることができれば、俺も晴れて帝都へ栄転できるってな。そのためにも『俺』がお前を捕まえる必要があった」
「だから嘘の噂で私をここに誘き寄せたと?」
「そう言うことだ。ここ数日に渡る捜索も本気で捕まえるつもりは無かった。全てはこの逃げ場のない道にお前が辿りついた時に俺が1人で捕えるための撒き餌だったわけだよ。そしてどうだ、案の定袋の鼠じゃないか!」
アンダーソンは両手を上げて高らかに笑った。
「ふざけるな! トワの思いを踏み躙るような嘘をついて、そんなにしてまで手柄が欲しいのか!」
クリスは柄にもなく声を張り上げて怒鳴り散らした。
「当たり前だろ! 帝都の連中は辺境の田舎なんて碌に見やしない。だから俺みたいな優秀な人材に気がつかないんだ。この手柄を持って俺は帝都に実力を認めさせるんだよ! それになぁガキよ、お前のおかげで想像より早くトワがここにたどり着いたんだ。感謝してるぜ」
「貴様! トワの事情を知っていてよくもそんなことを!」
「なんだぁ? やろうってのか? よくよく考えたらさっきトワを捕まえるの邪魔されたんだったなぁ。あれは棚ぼただったとはいえ、あそこで捕まえられてりゃこんな山道登らなくてすんだって考えるとやっぱりテメェには腹が立ってきた。どのみち事情を知っている以上、殺すんだがな」
そう言い放つと背中に担いだハンマーを両手で持ち、素振りを始めた。
アンダーソンの筋肉質な両腕は軽々と持ち上げているが、ハンマーは丸太のように太く、当たって仕舞えばひとたまりもないことがクリスたちも一目でわかった。
それを一度岩壁に打ち付ける。
壁は大きくへこみ、細かく砕け散った岩がボロボロと崖下へ崩れ落ちていく。
「さっきは剣だったけどよぉ、今回はこいつだ。これで足の骨粉々に砕いてやりゃあさっきよりは回復も遅くなるんじゃねぇのか? ガキもこいつでミンチにしてやるよ」
アンダーソンは2人目掛けて一気に駆け寄り、ハンマーを振り下ろす。
「危ない!」
トワはクリスに覆い被さるように突き飛ばした。
「さすがは300年逃げ続けてるだけあって、避けるのは得意そうだなぁ。だが、お前たちは袋の鼠。無駄な抵抗はやめて大人しくハンマーの餌食になりな」
再びハンマーを振り下ろす。
今度はトワとクリスそれぞれが後ろ下がって避けた。
「俺も暇じゃねぇんだよ。さっさと観念しろよ!」
アンダーソンは頭を掻きながら、苛立ちを露わにした。
(何か逃げる手段はないのか?)
クリスは周りを見渡したが、前方にはアンダーソン、左右にはそれぞれ岩壁と崖しか見えない。
後ろにはまだ道が続いているが、いずれそれが逃げ場のない花の群生地に繋がることは既に周知の事実だった。
(一度群生地まで戻れば少し開けて動きやすくなる。そこでなんとか逃げ出すしかない)
トワも同じ考えのようで、目配せしてきたので軽く頷いた。
「なんだ、無駄な相談か? ほらほらほらほら」
アンダーソンは苛立ちから乱雑にハンマーを打ちつけた。
ふとクリスは自身の足元に違和感を覚えて足元に目をやると大きめな亀裂があった。
「アンダーソン待て! ハンマーの打ち付けすぎで足場が壊れるぞ」
「あぁ? うるせぇよ。そうやって油断させる気だろ?テメェ」
聞く耳を持たないアンダーソンは怒りのままにクリスへハンマーを打ちつけた。
クリスは寸でのところでハンマーを避けた。
しかし、クリスの予想通り亀裂は広がり、アンダーソンの足場が崩れた。
「何?」
体制を崩したアンダーソンは崖の下へ落ちかけ、出っ張った小岩に片手で捕まる形になった。
「うおぉ、おい、助けろ!」
先程まで殺そうとしていた相手にアンダーソンは躊躇いなく助けを求める。
「今行く!」
クリスは崩れた体制を立て直し、すぐさまアンダーソンの元へ駆け寄った。
「おら、急げ!」
クリスは腹這いになり、アンダーソンへ躊躇なく手を差し伸べた。
「この手を掴んで!」
しかし手が届く前にアンダーソンの掴んでいた岩は崩れ去った。
「嘘だろ! おい! この、くそ」
なんとか捕まろうと岩肌にしがみつくが、重力には逆らえず、アンダーソンは徐々に加速しながら遥か下方へと落下していった。
「おい、すぐにそこから離れろ!そこも崩れるぞ」
トワの声にハッとしたクリスは立ちあがり、後方へと退いた。




