第34話 エギルの銀 前編
さて、ピサールたちとの旅にも慣れてきたころ、ゲイルも戻ってきた。みんなが一生懸命に今後のことを考えている間、僕は自分の仕事をしていた。お足がなければ生活できんのだ。
「なあなあ、パン。さっきからネットで何を見てるのだ?」
「エヴァか。まとわりつくんじゃない」
「教えてくれないと、もっとまとわりついてやるぞ」
「わかった、わかった。別に面白いものでもない。ただのネットオークションだ。偽物や詐欺も多いが、掘り出し物も多いからな。時々とんでもないものが売られていることもある」
ふーん、と話に入ってきたのはオイフェだ。ぐてっと机に突っ伏したまま、眠たげな様子だが、一応起きてはいるらしい。
「とんでもないものってなぁに? 例えばぁ?」
「そうだな。都市伝説と事実と入り混じった話だが、ムッソリーニの脳、ナポレオンのペニスなんてものが出品されたこともあるというぞ。ナポレオンのペニスは、わずか三センチほどの干物みたいなものになっていたらしいぞ。はっはっはっ」
「ペニスってなんだ?」
「えーと、あとでピサールに聞け。おや?」
とある出品物の写真に目が釘付けになった。値段を見て、詐欺でもいいと覚悟した上で即決購入した。
「むむ、似ている」
「なにがぁ?」
「北欧写本だ。メズルヴェドリル本の異本、あるいは続編かもしれん」
「ふぅん」
「ふぅん、じゃない! 本物だったら、とんでもない代物だ。人類の失われた歴史が取り戻せるかもしれないんだぞ。人類の財産だ!」
「よくわかんな〜い。オイフェさんにもわかるように話してぇ」
「う、おまえにわかるようにか。なかなかの難問だな。えーと、北欧のエッダやサーガなどを含む北欧写本に、アウルトニ・マグヌッソン写本コレクションというものがあって……」
「ぜんぜんわかんな〜い」
「我もわからん。パンは教え方が下手だなぁ」
「う、エヴァまで来たか。おまえら二人にわかるように話すのは難題だな」
「ふぅん、まあいいや。どうせたいしたことないだろうしぃ」
「んぬぬ、本物だったら世紀の発見だというのに。よし、わかった。この価値を、もっとわかりやすく言ってやる。コレクションAM132fol、メズルヴェドリル本の関係であり、エギルのサーガについて新たな記載があれば、財宝が見つかるかもしれないのだ」
「な〜んだ、胡散臭い宝の地図を見つけたよ〜ってことかぁ」
「んぐぐ、そうなのだがそうじゃないのに」
「財宝ってなんなのだ?」
「エギルの銀と呼ばれるものでな。宵の狼と呼ばれた祖父に、人間離れした怪力の父を持ち、数々の戦いを生き抜いた英雄エギルが、アイスランドのモスフェットルスバイルに財宝を隠したとされているのだ。いまだに地中に眠っている可能性は十分にある。ふっふっふ、お宝が僕を待っている!」
「もし見つけたらぁ、美味しいチーズケーキを奢ってねぇ」
「我はバナナマフィンで良いぞ」
「……バカにされてるような気がするが。まあいい、本当にエギルの銀が手に入れば、ケーキだろうがマフィンだろうが、いくらでも奢ってやるわい」
「やったぁ、一生食いっぱぐれないねぇ」
「我も養われてやっても良いぞ」
「こいつら本気で言ってるのか?」
などと、わけのわからん話に落ち着いた。数日して届いた写本にはエギルの銀について別の場所に埋め戻されたと記載があり、その場所は、
「シルフラだ! シルフラに行くぞ!」
「いきなりどうしました?」
困惑気味にゲイルが応じる。今後の行き先に頭を悩ませているロッテたちを説得にかかったのだ。
「アイスランドのシルフラだ。北米プレートとユーラシアプレートの境い目、地球の裂け目に行くのだ。神秘といえば、これほど神秘なところもないぞ。さあ行こう。いますぐ行こう」
「どうしたのかしら」
「おお、ロッテか。どうだ、地球の裂け目こそ魔剣の行き先としてふさわしいだろう? 決して、そこにエギルの銀があるとかそういうことじゃないからな」
「……あきらかに、そういうことじゃないの」
「ですな。御嬢様、あの目をみてください」
「わあ、すごい。銀だ、銀だ、銀だ。って書いてあるみたい」
「目が腐ってますな」
「うん。いつも腐ってるけど」
「えーい、うるさい! どうせ、どこへ行くか決まらんのだろうが。行くぞ、アイスランドへ」
「ん〜、これも縁かもね。貴重な写本がパンの元に届いたのも、神様の御導きってやつかな」
「よーし、行くぞ。財宝の元へ! じゃなかった、アイスランドへ!」




