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大切な人と、ものを取り戻す為に

 

 そして、ピンクジュエルは、いや、千歳は池の中にゆっくりと沈んでいた。目の前は真っ暗で、何も見えない。


 藍色の景色だけが次々と流れていく。これが夢なのか、夢ではないのか、千歳には全く分からなかった。

「何もかも…、終わった…」

千歳はこの池から抜け出す気力すら残っていなかった。


ずっと探していた両親が亡くなっていたのだ。千歳の心と身体はどんどん沈んでいく。

 池は見た目以上に深いようだった。

「このまま捕まるのなら、いっそ、死んだ方が楽かな…。お父さん…、お母さん…」

千歳は目を閉じて、自分の身を水に任せた。



 両親が突然消えた時、千歳は酷い絶望に襲われた。姉の観月が亡くなった時の事を思い出して、また大切な人が亡くなったという深い悲しみに襲われた。

 大切な人を、物を次々に失っていく。本当は嫌だったが、それだけは自分の思い通りにはいかなかった。


 それでも、千歳は今まで両親が生きていると信じて行動してきたのだ。そうする事で、自分の精神を保っていた。本当はもう助からないだろうと心の隅の方で考えていたが、それでも、僅かな希望を信じて生きていた。

 だが、それはただの自己暗示にしか過ぎなかった。




 嫌な予感が現実になったと思った千歳は、その現実から逃げようとしている。両親が居ない事が分かったのなら、自分が頑張る意味はない。


 千歳はこのまま死んでもいいと思った。すると、誰かが千歳の元へ泳いでいくのが見える。

「千歳姉!」

 それは、千歳を迎えに来た青葉だった。青葉は千歳の元へやって来て、手を伸ばす。

「帰ろう、俺達が居るべき場所に」

「私は…、帰れない…」

「どうして帰れないんだ?」

「私は…、青葉とは違うよ。青葉は自分の生きる道を自分で決めて行動してる。でも…、私は」

千歳は青葉から目を背け、どんどん沈んでいく。

「千歳姉、待ってよ!」

青葉は千歳を追いかけた。

「俺達は同じ夢を見てたんだな」

 青葉は千歳の手を掴んだ。千歳は青葉の手を振り解こうとしたが、身体が動かない。そして、千歳の意識は少しずつ遠のいていった。


 



 もう一度千歳が目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。天井は白く、無機質な印象を与える。自分が何処にいるのか分からず戸惑っていると、青葉の声がすぐ近くから聞こえた。

「千歳姉!やっと目を覚ましたんだな!」

「青葉…?」

千歳は起き上がって辺りを見渡した。どうやらここは病院らしく、自分はベッドに寝かされている。

「もう目を覚まさないかと思った…、千歳姉まで居なくなったら、俺…」

青葉は千歳の腕を掴んで泣きじゃくった。



 周囲を見渡すと、青葉以外に花恋や結菜、りんか、小百合、それから健に和人に涼平、竜野夫妻に伸人まで居た。

「丸二日目を覚まさなかったんだ、まさか千歳姉までって思ったけど…。」

「あれ?私は池に突き落とされて…?」

「俺が助け出したんだよ」

「そっか…」

 千歳はさっきまでの事が、いや、今までの事が夢のように思えた。長かった夢からようやく醒めて、ようやく現実に戻った気がする。


 だが、それは千歳だけが見た夢ではなかった。青葉と一緒に見てきた夢だった。

「青葉…、私達、同じ夢を見てたの?」

「ああ…、きっとそうだな…」

千歳と青葉はお互いを見て頷いた。

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