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行く先が違っても

 

 それからの日々は流れるように進んで行った。連日五星財閥の不祥事や会見が流れる中、千歳達はその後の夏休みを慌ただしく過ごしていった。


 洋司の会社である鳳商事は、現在経営を任されている副社長が正式に社長になったが、二人は元々会社には関与していなかったので関係はなかった。

 


 千歳達の周囲でまず変わったのは、伸人が居なくなった事だった。伸人は盗品を送った事が罪になり、逮捕されてしまった。

 二人は、伸人は自分達を庇って捕まったんだろうと思っていた。

「元々私達がやった事なのに、なんか申し訳ないね…」

「生瀬さんだけじゃない、厄神警部も俺達を庇っていたよ」

「えっ…?」

「実はな…、俺、警察に事情を話したんだよ」

青葉は今まで千歳にその事を話していなかった。



 青葉は、警察署に行って話をしていた。両親の捜索と相次ぐ五星財閥の不祥事の調査を依頼してほしかったからだ。

 警察はすぐに動いた。青葉達以外にも五星財閥の被害者が居る事が判明し、盗品のリストも完成した。だが、幾ら時間が経っても両親は見つからない。そこで青葉は、厄神警部に頼み込んで、調査に同行した。


 鳳商事は五星財閥のお得意様であると同時に、恐れられていた存在だった。青葉が五星財閥を調査していると知ったら、財閥はどんな手出しをするか分からない。

 青葉がアクアマリンを名乗ったのはそういった事情もあった。

 

 


 泉ヶ丘警察署の一室では、厄神警部が仕事をしている。すると、勢いよく扉が開いて、中から複数の警官が現れた。

「上官、どうして奴らを庇ったのですか?!」

警官の一人が厄神警部の机を叩いて、こう抗議した。

「分かっていたのでしょう?!あんな少年達が犯罪を犯して、放っておかれるつもりなのですか?!」

「まぁ…、落ち着いて聞いてくれ」

警官は厄神警部から一歩離れて、話を伺った。

「あの子達が大人になっても犯罪を繰り返すような奴になるとは思えん。それに、この件は私達の責任もあると思うんだ。

もっと早くに五星財閥を摘発しておれば…、このような事にはならなかった。」

「そうですか…、ですが、私は納得いきません。罪を犯したなら罰を与え、償わせるべきです」

「罪を償うのももちろん大切だ。だが…、今のあの子達にはそれ以上に大切なものがあるように思えるのだよ」

警官達は納得いかないようだったが、渋々頷いて、扉を閉めて出ていってしまった。

 ピンクジュエルとプリンス・トパーズを逮捕しようと思えばする事が出来た。だが、厄神警部はそうしなかった。

 一つは、財閥の件で泳がせていた事、もう一つは二人の今後を案じての事だった。


 ピンクジュエルとプリンス・トパーズは姿を消した、と厄神警部は伝えた。マスコミにはそのまま報道され、人々はそのように信じていた。

 


 次に変わったのは海洋邸を売却する事が決まった事だった。洋司は急死なので、千歳達には遺産は残されていない。

もちろん、竜野夫妻の資産や年金、手当などはあるが、二人の今後を考えて売る事にしたのだ。

 海洋邸は新たな買い手が付いて、今は別の人が暮らしている。

 二人と竜野夫妻は、海洋邸よりも一回り小さい一軒家を借りて、生活する事になった。


 『クリスタルオルゴール』は無事に二つとも小百合の元に返った。だが、ピンクジュエルの安否は何も伝えられていない。


 この五星邸の件でピンクジュエルは消えたと報道されたが、大抵の人はまだ何処かに居ると考えていた。



 ちえりは両親と一緒に過ごせるようになった。もちろん、平穏な生活とは程遠いが、もうしばらくしたら、きっと訪れるだろう。 

 健と久美とは別れる事になるが、友達である事に変わりはなかった。これからも何度も会って、一緒に遊ぶのだろう。


 りんかと涼平はピンクジュエルの事が終わっても、相変わらず二人に絡んで来た。二人共、好意があるのは良い事だが、それが空回りしてきる気がする。りんかは変わらず警官を目指していて、涼平は本物の探偵になりたいと言っていた。



 暫く経って、千歳達の両親のお葬式があった。葬式は大規模で、家族以外に会社の重鎮や従業員の姿もある。二人は唯一の遺族として参加している。


 葬式には智の姿もあった。智の横には何故か健が付いている。

「智さん!あれ?他の皆さんは…?」

「みんな忙しくてな…。俺は二人を見届けたいって思って来たんだけど…」

「健、どうしたんだ?」

健は青葉の前に現れて、こう言った。

「実は…、知ってたっス、青葉のご両親が亡くなっていた事。智さんが教えてくれたっス。だけど…、俺は青葉を止める事が出来なかったっス。青葉の決心を聞いたから…」

「そうだったか…」

今更だが、青葉は健に止めてほしかった。


 青葉は周囲を見渡した。両親の遺影は遠くからでも見えるようになっていて、青葉の位置からも見る事が出来る。

「そういえば、姉ちゃんみたいに二人の幽霊は見なかったな…。」

「俺は知らないな、恐らく、自分で行ったか他の死神に送ってもらったんだろう」

青葉は、両親とちゃんと別れる事が出来なかった事を悔やんだ。かと言って、観月のように現世に留まりつづけるのは、可哀想な気がする。

「そう都合通りには視えないものですね…」

 二人はお葬式では泣かなかった。悲しみがここまで持たなかったからだった。他の参列者達は別れを惜しんで泣いていた。


 

 葬式には九条家の姿もあった。小百合は千歳の姿に気づくと、すぐさま駆け寄って来た。

「洋司様のお葬式ですか…、実力者でしたのにこんなに早死とは…、惜しいですね」

「そうだね…」

「ですが…残念ですね、海洋邸が売られてしまって…」

「まぁ…、今の家も気に入ってるよ」

「今度九条ホテルにご招待しましょうか?」

「えっ、良いの?友達も連れて来ていい?」

小百合は朗らかに笑った。

「良いですよ、是非ともいらして下さいね!」

小百合は両親の元へ帰って行った。



 その後、千歳と青葉は二人きりで歩いていた。いつまでも二人で居れない。決別すると決意した今でも、二人で居ると何でも出来るような気になる。

 青葉は、これからは自分で自分の事を決めていこうと思っていた。

「青葉、警察官になりたいっていうのは今も変わらないの?」

「ああ…、変わらないよ、千歳姉はこれからどうするんだ?」

「私は、不確実な未来を生きていくよ。その中で自分の道を見つけていく」

「そうか…」

青葉の目線の先には、赤蜻蛉が飛んでいた。

「行く先が違っても、俺達は双子だ」

 千歳と青葉は夕日を眺めた。空の赤は河川敷や街を染め上げていく。その景色は、観月や両親がいた頃と変わらないように見える。  



 以前よりも日が短くなった。夏が終わり、秋の訪れが近づいて来る。ひと夏の思い出はいつか幻となり、現実から遠ざかっていく。

「もうすぐ終わるね、この夏休み…」

「長かったようで、あっという間だったな…」

 ようやく平穏になった二人の日常、だが、その中に女怪盗と女装警官の姿は無かった。



 二人の話を引き続き書きたい気もする。だが、ここからの物語はピンクジュエルの話ではない。

 二人のこれからはそっと見守る事にしよう。これからの物語は二人の為にあるのだから。

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