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アクアマリンの決意

 財閥に向かう日が翌日に迫った。その日、青葉はサッカー部で、学校に来ている。



 青葉は、健と和人と共に練習に励んでいた。

「来年引退だな、俺達」

「来年って言っても、後一年も無いっスよ?」

和人はサッカーボールを蹴りながら、青葉にこう訊いた。

「青葉ってなりたい自分ってあるのか?」

「えっ?」

青葉は、和人から回されたボールを受け取れなかった。

「もしかして…、高校を出てからの事何も考えてないのか?」

「考えてない事…、無いよ」

青葉はボールを拾って和人に向かって蹴った。

「俺さ、警察官になりたいんだ」

「青葉が警察官か…、意外だな…」

「警察官に憧れてるって話全然知らなかったっス、どうしてっスか?」

疑問を抱く健に対して、和人は呆れたようだった。 

「幼稚園の時の将来の夢ならまだしも、俺達中学生だぜ?もういいかげん現実見えてくるだろ?それなのに…、現実主義だと思っていた青葉が、突然夢を語りだすって、俺は信じられないんだよ…」

「青葉って、元々お父さんの会社を継ぎたいって言ってたっスよね?」

「そうだけど…、でも」

「どうして今更夢を見る?それに、何で警察官になるんだよ?」

「それは…」

青葉は考えに考えて、和人にこう言い放った。

「自分の生き方を自分で決めただけなのに、何で人にあれこれ言われないといけないんだ?」

和人は青葉の方をチラッと向くと、何事も無かったかのように練習を始めた。



 練習が終わった後、青葉は健と二人で河川敷に向かった。河川敷には、向こう岸で野球やサッカーの練習に励んでいる小学生達が見える。

 二人は、近くにあるベンチに座って話し始めた。

「青葉が警察官になりたいなんてびっくりしたっス、何があったンスか?」

「えっ…?」

「俺が知らない間に、何があったっスか…?」

「それは…」

青葉は、自分がアクアマリンである事を健に話すべきか、躊躇った。いきなり明かせば健が驚き、その後の話を聞いてくれないかもしれない。

 青葉は、一呼吸置いて、健に別の話を振った。

「ピンクジュエルの事、健はどう思ってる?」

「えっ?」

「健はずっとピンクジュエルの事応援してたよな?」

「えっと…、純粋にカッコイイと思ってたっス」

「アクアマリンの事は?」 

「ピンクジュエルの事を諦めずに辛抱強く捕まえようっていう姿勢が、素敵だと思うっス」

「そうか…」 

 青葉は、健がアクアマリンをこのように見ていた事を初めて知った。少なくとも健は、アクアマリンをみっともない奴だとは思っていない。それが分かっただけでも青葉は嬉しかった。



 そして青葉は、一呼吸置いて健にこう言った。

「実を言うと…、アクアマリンは、俺なんだ」

「えっ…?」

「俺はずっとアクアマリンとして、ピンクジュエルの事を、千歳姉の事を陰ながら支えていた。俺達は二人だから何でも出来ると思ってた。

だけどこれからは…、俺自身の力を信じてみたい。

アクアマリンとしてじゃなくて…、俺として、鳳青葉として警察官になりたい。そして、自分の力を一人の人だけでなく、色んな人の為に使いたいんだよ」

「そうだったンスか…」

健は一瞬驚いたが、青葉の目を見て頷いた。

「その気持ちを伝えてくれて、ありがとうっス」

「俺達はずっと行方不明になった父さんと母さんを探してるんだ」

「ご両親を探す為に頑張ってたンスね…」

健は青葉に一歩近づいて、ねぎらうようにこう言った。


 すると、二人の元に和人がやって来た。和人は二人の事に気づくと慌てて駆け寄ってきて、青葉に近づいた。

「青葉、さっきはごめんな」

「和人…」

寄り添う三人の元に涼平が近づいてきた。青葉は、現実に引き戻されたようにハッとする。

「俺、涼平と話さなきゃいけない事があるんだ、またな」

青葉は二人から離れて、涼平の所に行ってしまった。



 残された健と和人はしばらくお互いから顔を背けていたが、健が突然泣き出した。

「青葉はずっとご両親を探してるンスよね…」

「そうなのか…」

「青葉がようやく決心して秘密を明かしてくれたのに…、俺は、この事実を自らの口で明かす事が出来なかったっス…」

「健!言うな、そして…、泣くなよ」

和人は健の両肩を掴んで顔を覗き込んだ。

「今健が泣いたら、これから頑張ろうとしている青葉が頑張れなくなるだろ?無理して言う必要は無い、知りながらもそっと見守るっていうのも大事だと思うぜ?」

「うん…」

健は涙を拭いて頷いた。 

 

  


 青葉は、涼平の道を塞ぐように、目の前に立ちはだかった。

涼平は青葉を見て一瞬驚いたようだったが、すぐに口元を緩めた。

「涼平、千歳姉が好きなんだろ?その気持ちは本当なのか?」

涼平は、決して遊びではなく真剣に千歳と向き合いたいと考えていた。

「ああ…、その気持ちに偽りは無いよ」

「そんなに千歳姉の事が好きなら…、お前のものにしたいなら…、俺を超えてからにしろよ!千歳姉が、俺よりも涼平の事が大切だ、って言ったら、それを認めてやる!」

「どうして今更そんな事を僕に聞くのさ?」

青葉は涼平に向かって真っ直ぐ指を指した。

「明日は最後の盗みだ、何としてでも成功させる。その前に、どうしてもお前の気持ちを確かめたかったんだよ」

「そうか…、でも、青葉一人の力で何が出来る?欠けてるものだらけの君に何が出来る?」

「確かに…、一人一人は欠けてるかも知れない。でも、俺達は二人で完璧になるのさ!だけど…、これからは俺自身の力っていうのを信じてみたいんだよ」

青葉が真剣な声のままそう言い放つと、涼平は大笑いをして、溜め息をした。

「やれやれ…、何で一人で抱え込むんだ?」

「えっ…?」

「青葉も、千歳以外の大切な人が見つかるといいね…そうだ、りんかも来るって言ってたよ?」 

「は?!呼んでないのに?!」 

「呼んでないのに来るのがりんかだろ?」

「全く…」

 青葉は、明日だけはりんかとは会わずに千歳の事に集中しようと思っていたが、それは無理なようだった。

「それじゃあ、また明日ね」

涼平は笑顔で手を振って行ってしまった。

 取り残された青葉はしばらく呆然としていたが、そのまま真っ直ぐ海洋邸に帰って行った。



 夜になり、千歳は自分の部屋で寝ようとした時、ドアをノックする音が聞こえた。開けてみると、そこには青葉が居る。

「千歳姉…」

「青葉、どうしたの?」

「今日は一緒に寝たい…」 

青葉は自分の部屋からベッドを持って来ていた。

「ハァ…、しょうがないなぁ…、入っていいよ」

青葉はベッドを千歳の部屋に運び込み、千歳のベッドの隣に置いた。


 そして、二人は並んで寝ながら、話し始めた。

「今まで色んな事があったね…」

「そうだな…」

「私達は、二人だったからここまで頑張れたんだよ…」

青葉は今までの事を思い出していた。

「千歳と青葉っていう名前は、産まれる双子がどういう組み合わせになってもいいように考えたって、父さんが言ってたな…。千歳が長生きの象徴で、青葉が若さの象徴、二つの名前は対比になってるって。」

「双子が産まれるって分かった時に思いついたって言ってたね…」

「俺は女だったとしても、男だったとしても青葉だったんだな…。俺は千歳姉の為に生きてるってずっと思ってた。それは千歳姉がもし、兄だったとしても、妹だったとしても、弟だったとしてもそれは変わらないぜ?」

 自分達は最初から双子として産まれる存在だったと、二人は思っている。二卵性双生児だったが、二人は二つで一つで、誰にもそれは分けられない。

「でも、これからは…、自分の為に生きようと思うんだ」

「青葉…、行っちゃうの?」

「双子だったとしてもずっと一緒に居られるとは限らない。でも…、恋人や夫婦をやめる時がもしあっても、兄弟である事はやめる事はないからな」

「そうだね…」

「明日は、絶対成功させような?」

 青葉はそう言った後、ぐっすりと眠ってしまった。一方、千歳の方は中々眠れそうにない。


 千歳は、青葉がだんだん自分の手から離れていくような気がした。親離れ、子離れという言葉は聞いた事があるが、兄弟離れという言葉は聞いた事がない。



 それでも、兄弟もいつか決別してお互いの道を歩まなければならない日が来るのだろう。青葉は正にそうなろうとしている。

 思えば観月を救ったのも、兄弟の決別だった。死んだ姉の未練を絶ち、姉が居なくなった世界で生きていこうという決意、それが観月に伝わり、観月の魂は二人から離れる事が出来たのだ。


 千歳は、自分は青葉のように決心出来ないと思った。青葉は自分の力で、自分の手で道を拓こうとしている。一方、千歳はピンクジュエルが終わった後は何をすればいいのかすら考えていなかった。


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