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人と似て非なる者

 青葉がようやく海洋邸に帰ると、リビングの机に依頼状が置いてある事に気づいた。手に取って読んでみると、そこには、"この世界にはあるべきではない"ものが盗まれたと書かれてある。そして、盗まれたとされる『霊水晶のグラス』の絵が横に描かれてあった。

「こんなグラスがどうして、"この世界にあるべきではない"んだろう…」

青葉は立ち上がって、依頼状を受け取ったとされる執事の伸人の所に向かった。

 青葉が執務室に行くと、扉には札が掛けられてあった。どうやら伸人は手が離せないらしい。そういえば、青葉は遅くにお祭りから帰ってきた。リビングに千歳の姿が見えないから、もう自分の部屋に居るのだろう。

青葉は、風呂に入って自分の部屋に行った。そして、依頼状の事は明日千歳と一緒に聞きに行こうと考えながら眠りについた。


 翌日、早速青葉は千歳と一緒に執務室で仕事をしている伸人のところを訪ねた。伸人は驚いた様子だったが、依頼状の事と聞くと、頷きながらお茶を用意しに行った。

「生瀬さん、私たちはただ依頼状の事を聞きに行っただけでして…」

「せっかくですしお茶しながらゆっくり話しませんか?竜野ご夫妻はもう朝食を済まされましたが、お二人はまだですし…。二人とも寝間着のままですね、着替えてきたらどうですか?」

二人はお互いを見合った後、脱衣室に着替えに行った。



 そして、着替え終わった二人は、リビングのテーブルの前に座った。その上には、伸人が用意した朝食とお茶がある。三島ベーカリーのフランスパン、ハチミツとバター、ベーコンエッグにミックスサラダ、お茶の横にはミルクとレモンが置いてあってどちらも選べるようになっていた。

「レモンとミルク、どちらにしますか?」

「私はレモン」

「俺はミルクティーが良いな」

「承知いたしました」

伸人は一礼した後、千歳のカップに輪切りのレモンを入れ、青葉のカップには冷やした牛乳を注いだ。

二人はそれを飲みながら、朝食に手をつける。

「さて…、今回の依頼の件でございますか…」

伸人は、テーブルの上に置いてあった依頼状を手に持った。

「そこに書いてあった通り、"この世界にあるべきではない"ものなのです」

「どうして、あんなグラスが"この世界にあるべきではない"の?さっぱり分かんないんだけど?」 

「そうですか…、そのグラスの話をしましょうか。ですが、その前に、昔ある人から聞いた話をしましょうか」

伸人は、自分のカップを置いて、姿勢正しく座り直した。



 伸人が語りだしたのは、摩訶不思議と言うしかないような内容だった。どうやら、伸人の知り合いが、昔体験した話らしい。だが、千歳も青葉も信じられないと思った。

「この世界には、人と似て非なる者が存在するって、ご存知ですか?」

「は?!」

「つまり…、見た目は人間だけど人間じゃないって事?」

伸人は頷いた。

「はい…。私の知り合いである怪奇小説作家が、そういう者に出会った事があるというのです」

「生瀬さんは会った事はないのですね?」

「はい…」

「いや…、信用出来ん」

千歳ら大きなため息を吐いて、呆れ顔で伸人を見た。

「今回の呪宝『霊水晶のグラス』は人と似て非なる者が落としたものかもしれません」

青葉は、依頼状をもう一度見て伸人に質問した。

「ところで…、霊水晶って何なのですか?」

「霊水晶というのは、霊や魂の力で出来た水晶の事です。自然に発生する事もありますが…、ある一族がそれを創り出す事が出来るようです。霊水晶は、その一族達にとってはお守りのようなものなのです」

「へぇ…、それ出来たらボロ儲けじゃん」

千歳がそういう一方で、青葉は自分のお守りの事を思い出していた。

「その一族はお金目当てで霊水晶を作ったりする事はしませんよ?」

「なんで…、私だったら絶対にそうするのに〜」

伸人は、その流れで依頼状の話を始めた。

「グラスに出来る大きさの霊水晶はこの世では取れません。もしかしたら、これはこの世界のものではないのかもしれません」

 ずっとオカルトチックと思われる話を我慢しながら聞いていた千歳だったが、とうとう痺れを切らして机を叩いて怒鳴った。

「何で私がそんなインチキの為にピンクジュエルをやらなきゃならないのよ!」

「千歳姉…」

「青葉は、その話信じるの?!」

「し、信じるよ…、本当なのかは分からないけど…」

「分からないのに何で信じるのよ?!」

千歳は勢いよく椅子から立ち上がった。

「ごちそうさま」

千歳は、食べた皿も片付けずに二階へ上がってしまった。


 残された青葉と伸人は、やれやれと言って、残った皿を片づけ始めた。

「やれやれ…、千歳様が乗り気じゃないなら…どうしましょうか…」

「どうしよう、このままじゃ依頼を果たせないよ」

青葉は、依頼に乗り気ではない千歳を、なんとかしようと考えた。

「そうだ、涼平ならなんとかしてくれるかも」

皿を片付けた後青葉は、二階に上がって、自分の携帯電話で涼平に電話し始めた。

「涼平、ちょっと協力してくれないか?」

「どうして君に協力しなければならないんだ?」

電話越しの涼平は、青葉の提案に不満そうだった。

「前はお前が俺達を利用しただろ?今度は俺がお前を利用するんだ。千歳の為だと思って…頼むよ〜?」

涼平は、電話越しでも良く分かるようなため息を吐いて、重い腰を上げた。

「そっか…、千歳の為なら、中学生探偵出動するよ」

「おっしゃあ!そう来なくちゃ」

「君は、りんかを呼んだ方がいいのか?」

「りんかは呼ばなくても来るんだよ!ってかあいつと厄神警部はもう皆勤賞で良いんじゃないか?!」

「そっか…、まぁ頑張れ」

そして、電話は切れてしまった。

「全く、あいつって奴は…」

青葉は、携帯電話をテーブルの上に置いて、パソコンを開いた。

 『霊水晶のグラス』はどうやら雨宮邸にあるらしい。青葉は、そこの場所を調べた。序に、霊水晶の事についても自分で調べようとしたが、検索しても、出てこなかった。

「千歳姉、本当に行かないのか?」

「行く訳無いでしょこのバカが!」

「涼平が行くって行っても…?」

涼平という名前に反応して、千歳はピクッと驚いた。

「何で?!あいつグラマラスキャットの事は終わったからもう探偵も怪盗も辞めるって言って!」

「千歳姉の為に来てくれるんだってよ?それでも行かないのか?」

「ハァ…、しょうがないなぁ…」

千歳は、仕方ないと思って、重い腰を上げた。そして、青葉と一緒に次の作戦を考えた。



 一方その頃、泉ヶ丘の地に降り立った四人組が、町を見渡していた。

「いや〜、やっと来たよ!綺麗だね、この町は!」

「こらこら、遊びに来た訳じゃないんだよ?」

 二組の男性と女性、見た目は大人だが、瞳の奥には子供のような輝きを残している。オレンジのベストを着た一人の女性が、興奮気味な声で、隣の男性にこう言う。

「でもでも、せっかくだし楽しまないと!」

 その女性を横目に、もう片方の茶色いジャケットを着た女性が、黒いパーカーの男性にこう聞いた。

「確か、この町って指輪商人が来てたんだよね?」

「ああ…、あの後すぐに捕まって、帰らされたんですが」

紺色のシャツを着た男性が、黒いパーカーの男性に話し掛ける。

「智、どうしてこの町に来たんだ?」

智と呼ばれた黒いパーカーの男性は、健が夏祭りに出会った人物と同じ人物だった。

「ああ…、一つは、新婚旅行のお土産を取り返す為、もう一つは…、ある兄弟に会う為だよ」

智は、一枚の写真を取り出した。

「宝を取り返すプロに一応頼んでるけど、心配だから…」

 智を始めとしたこの四人組、どこか別の場所で見覚えがある。この四人は、果たして千歳達に出会うのか、出会ったとしたらどういう反応をするのか、次回以降が気になるところだ。

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