宝物は冥界製?!
それから二日後、ピンクジュエルは雨宮邸に侵入した。屋根裏に行った時、先に侵入していたと思われる人影が、ピンクジュエルの方を向いていた。その人影は、涼平だった。
「来てくれたのか、千歳」
「涼平…、何でこんな所に?」
「何って、千歳の事が心配だから」
千歳は涼平から目を反らした。
「さっさと行って、今日は探偵なんでしょ?」
「やれやれ…、せっかく来てやったのに、冷たいね」
涼平は、赤縁の眼鏡を上げて、何処かに行ってしまった。
雨宮邸は、雨が降る屋敷とも呼ばれる。中庭を囲むように建物が建っていて、雨が降ると建物の中に雨が降るように見えるからだ。中庭には、大木の雨の木が植えられてあって、今でも成長している。
アクアマリンは、りんかと一緒に主人の雨宮春樹の話を聞いていた。春樹は、今までの富豪達とは違い、物腰が柔らかく、話が通じるようである。
「この『霊水晶のグラス』は、部下が偶然手に入れた代物なのです。とても美しいので、特別な時に使う盃として使おうと思ったのですが…、そこから災いが起こり始めたのです」
「災い、ですか?」
「ここにだけ雨が降ったり、謎の怪物が彷徨いているようなのです…。
しかしアクアマリンさん、いつもむさ苦しい制服で、窮屈ではないですか?向こうのクローゼットで素敵なドレスに着替えてきたらどうですか?」
アクアマリンは慌てて断ろうとした。
「私は、警備に来ただけですし…」
「アクアマリンさん!ピンクジュエルは私が追い掛けますし!ここはお言葉に甘えて!」
「や、厄神警部は…、」
厄神警部はと言うと、臼井刑事や他の警官達と話している。どうやら、今はアクアマリンやりんかの事まで手が回らないようだった。
「りんかの頼みなら…、仕方ないか…」
アクアマリンは、仕方なく一人でクローゼットに向かった。
クローゼットには、女性らしいドレスやスカートが沢山掛けられてあった。アクアマリンは、恐る恐るその中の一つに手に掛ける。
青葉は、女装をして、アクアマリンとして活動しているが、元々女装趣味がある訳ではない。女警官であるのは、低い身長を活かす為だった。青葉の身長は男子の中では低い方だが、女子としては高い方だった。念の為にシークレットブーツを履いて、身長は誤魔化している。
富裕層の家系に産まれた青葉だが、こんな服装を着たいとも、女性に着せたいとも思わなかった。青葉は、普段着ている地味なジャケットとズボンが好みなのだ。実際、初対面の人に、お金持ちの坊っちゃんらしくないと言われた事がある。
服装だけで判断されたくないと、青葉はいつも思っていた。
アクアマリンは、その中で一番地味な、それこそ令嬢ではなく侍女が着ている茶色いロングスカートを持った。丁度横にスリッパもある。アクアマリンはそれを着ようとした。その時、服の山から女性の声が聞こえた。
「ねぇ、そこの君!」
女性は服の山から飛び出して、アクアマリンに近づく。女性は、フリルが着いたオレンジ色のドレスを身に纏っていた。
「駄目だよ、こんな地味な服きちゃ…」
アクアマリンは、その女性から遠下がろうとするが、ロングスカートに足を滑らせてしまった。かつらとブーツが脱げ、青葉の姿が顕になる。
「あっ!これは…」
「ねえ、君はもしかして…男の子?」
「えぇ…、は、はい…」
「可愛い!ねぇ、君、何処から来たの?」
女性は目を輝かせてアクアマリンに近づく、アクアマリンは慌てて逃げようとしたが、女性に腕を掴まれてしまった。
「しょうがないなぁ、私がいいの選んであげるよ」
アクアマリンは、女性から逃げようとしたが、逃げられそうにないので仕方なく乗る事にした。
そして、アクアマリンは見ず知らずの女性の手によって、着替えさせられた。アクアマリンは水色のブローチが着いているドレスを纏っている。
「可愛い!」
「(これじゃあ着せ替え人形だよ…)」
アクアマリンは、とんだ仕打ちを受けたと思った。そして、逃げるようにその女性から離れ、りんかの所に戻った。
着飾ったアクアマリンは、りんかの所に戻ってきた。
「ただいま、りんか」
「えっ、ええっ?!アクアマリンさん?!」
りんかはアクアマリンの周囲をくるくると回って、正面に来た。
「か、可愛いです!」
アクアマリンは恥ずかしくなって、赤面した。まさか、あのりんかに可愛いと言われる日が来るとは、いくらドレスを着ているからと言って、あんまりだ。
「な、なんで…」
アクアマリンは、さっきの女性を呼びつけて、文句を言いたかった。
あの女性はアクアマリンの正体が男だと知ってドレスを無理矢理着せていた。アクアマリンはどう考えても腑に落ちない。
「あっ、そういえば、先程女性と、それから探偵が二人やって来ましたよ?」
「女性?!」
りんかが指差したのは茶色いジャケットを来た女性だった。髪の毛は短く、中性的な印象を与える。アクアマリンが、先程出会った女性とは別人物のようだ。
「何者…、なの?」
「さぁ…?雨宮さんが招いたみたいですけど」
アクアマリンはその女性を事をじっと見つめた。女性は春樹と親しげに話している。アクアマリンは、警官達が集中している所へ向かった。
涼平は、紺色のシャツを来た男性と話していた。その男性も、雨宮が迎えた人の一人らしい。涼平が、中学生探偵と聞くと、その男性は感嘆の声を上げた。
「探偵かぁ…、いや、懐かしいな」
「あなたも探偵なんですか?」
男性は壁にもたれてこう答えた。
「まぁ…、"元"な。昔、仲間と探偵団やってたんだ」
「仲間ですか…、僕はずっと一人ですね」
「俺の見解でしかないんだけどな、時期にアイツが現れる頃だぜ?」
「あいつ…、もしかしてピンクジュエルの事ですか?」
「さぁな…、」
男性は腕を組んでニヤリと笑った。
一方、ピンクジュエルは屋根裏から降りて『霊水晶のグラス』があると言われる地下室にやってきた。警備は手薄で、人の気配は伺えない。ピンクジュエルは、懐中電灯を着けて辺りを見渡した。
「呪宝は何処にあるんだろ…」
すると、
「お前もこれを狙いに来たのか?」
背後の闇から現れたのは、黒いパーカーを来た男性だった。男性はランタンを付けて何かを注意深く探っている。
ピンクジュエルは、その男性に見覚えがあった。『夕焼けの中の古城』を盗んだ時に声を掛けられた人物と同じだった。
だが、ピンクジュエルはそれには触れず、男性にこう言う。
「狙いに来たって、あなたはまさか…」
「気をつけろ」
先に進もうとしたピンクジュエルの腕を男性は掴んだ。すると、ピンクジュエルが行こうとした場所から、水も無いのにしぶきが噴き上がる。
二人の前に現れたのは巨大な魚の怪物だった。怪物は二人を狙い、襲ってくる。ピンクジュエルは目を疑った。怪物なんて居るはずがない。以前の黒い影も、きっと狸か鼬だろうと思っていた。だが、怪物は目の前に居る。目を擦っても、頬を抓っても、視界から消える事は無かった。
「えっ?!」
「下がってろ」
男性は何処からともなく大鎌を取り出して、その怪物を斬った。怪物は大きな音を立てて倒れ、蒸発するように消えていく。それで一段落着いたと思った矢先、更に怪物が現れ、男性を襲おうとする。
ピンクジュエルはその場から逃げ、地下室の更に奥へ向かう。他の屋敷の宝物庫と異なり、宝は少なかったが、その中に光るものを見つけた。
それが『霊水晶のグラス』だった。ピンクジュエルはケースごとそれを持ち出そうとする。
だが、警官や警備隊、アクアマリンやりんかを含め、誰も追い掛けて来ない。ピンクジュエルは不審に思ったが、『霊水晶のグラス』を持って屋敷から抜け出した。
一方、警官達はピンクジュエルを捕まえるどころではなくなっていた。アクアマリンとりんか、それから臼井刑事は、春樹の案内で『霊水晶のグラス』がある地下室へ向かっていた。春樹がいつも通りに進もうとしたが、先には進めない。どうやら、階段を何かが塞いでいるようだった。懐中電灯でそこを照らすと、そこには巨大な蛇が居た。
地下室に繋がる階段を巨大な海蛇が占拠していた。海蛇はとぐろを巻いていたが、アクアマリン達に気づくと、威嚇して、牙を剥いた。
「えっ?!これは…」
「みんな!ひとまず逃げて!」
女性は警官達を逃して一人海蛇の前に立った。そして、腰のポケットから御札を取り出すと、爆風で海蛇を払った。
アクアマリン達はそこから逃げた。このままでは、ピンクジュエルを追うどころではない。アクアマリンは、自分が着ているドレスを見ながら、ため息をついた。
しばらく経って、地下室を警備していた警官達が、厄神警部の所に駆け寄って来た。警官は皆傷だらけになっていて、ある人は何かに噛まれた跡がある。
「厄神警部!大変です!『霊水晶のグラス』が盗まれております!」
「被害届は出さないのですか?」
「そういえば…、ピンクジュエルは?」
一同か辺りを見渡したが、ピンクジュエルの姿は何処にも居なかった。
「それより君達…大丈夫か?」
「はい…、闇の中で何かに襲われました」
春樹は警官達を心配して、厄神警部にこう言った。
「被害届は出さないし、『霊水晶のグラス』を取り戻すような真似はしませんよ。そもそも部下が勝手に拾ってきたものです。」
「しかし…」
「本来の持ち主が居るようでしたら、その人に返して下さい。」
厄神警部と臼井刑事は、渋々ながらも頷いた。
「大丈夫だった?!」
遠くから、ドレスを着た女性が駆け寄って来る。アクアマリンは、慌ててそこから逃げる。その女性は、アクアマリンにドレスを着せた人物だ。言いたい事は山程あるが、今はその場から逃げ出したい気分だ。
「あっ!アクアマリンさん!」
「お疲れ様でした、厄神警部!」
「アクアマリン君?珍しいな…」
りんかと厄神警部は、アクアマリンは止めようともせず、ただ呆然と眺めていた。
そして、アクアマリンは青葉の姿になって、千歳の所に戻った。千歳の手には、しっかり『霊水晶のグラス』がある。
「青葉、早かったわね…?」
「こんな目に合うなんて…、もうドレスは懲り懲りだよ!」
「何があったのさ」
青葉は、『霊水晶のグラス』をじっと見つめた。
「凄い…、力を感じるな…」
「ただのグラスでしょ?」
千歳は何も感じないが、青葉には、そのグラスの周囲に青いオーラのようなものが見えた。
「にしても、これどうするんだよ」
「どうするって…、いつも通りに返すしかないでしょうが」
すると、茂みを掻き分けて、四人組が現れた。その中の一人は、先程現れたドレスを着た女性である。だが、今はドレスを着ていない。その女性の横には、黒いパーカーの男性が居た。
「その持ち主って、私達の事?」
女性は青葉に近づいて、『霊水晶のグラス』を持ってこう言った。
「何であなたがこんな所に居るんですか?!」
「何って…、これ返してもらう為だよ」
慌てふためく青葉に対して、千歳は毅然としていた。
「ピンクジュエルに宝を返してもらうように依頼しましたよね?何でわざわざ現地に赴くような真似をしたんですか」
黒いパーカーの男性がこう答えた。
「あぁ…、実はな、お前らに話があってやって来たんだ」
「話、ですか…」
「まぁ、ここで立ち話もなんですし、屋敷に戻りましょうか。いいよね?青葉」
「え、えぇ…」
嫌そうにしている青葉を置いて、千歳は電話で迎えを頼んだ。
そして、四人を連れて千歳と青葉は海洋邸に戻って行った。
突然現れた四人組に驚きながらも、伸人は温かく迎えてくれた。どうやら、彼らがピンクジュエルに『霊水晶のグラス』を取り返して欲しいと依頼したらしい。
二人は、依頼人に直接会った事はあるが、こういう形で出会えるとは思っていなかった。
「『霊水晶のグラス』を依頼したのはあなた達でしたか」
伸人は四人にお茶を用意しながら、話を聞いている。
「えぇ…、そうですよ」
四人は同じソファーに並んで座って、二人に自己紹介をした。
「初めまして、私は風見梨乃と申します」
「俺は荒川勤、この四人で集まるのは久し振りなんだ。二人に会えるのを楽しみにしてたよ」
「私は渡辺玲奈、絵本作家をしてるんだ。あなた達の執事の生瀬さんがお祖父ちゃんの知り合いって言ってたから、会えて嬉しいな!」
「俺は剣崎智、二人とは何度か会った事あるな?」
「私達は小学生の時に死出山怪奇少年探偵団っていうのをやってて、その繋がりで今も仲良しなんだよ!」
二人は、四人に驚きながらも、自分達の自己紹介を始めた。
「あ、私達の自己紹介もしなきゃいけませんかね…?私は鳳千歳と申します」
「俺は鳳青葉、千歳姉の双子の弟です」
いつもなら智と出会した時、震えが止まらなくて声すらも出せない青葉だが、今は何故か平気だった。
青葉は、今まで気になっていた事を、ようやく智に明かした。
「あの、何で智さんは今まで俺を付け狙ってたのですか?」
「付け狙ってたって…、俺は、ただ青葉が心配で…」
神妙そうに話す智の横で、玲奈は千歳と話していた。
「あの、玲奈さんのお祖父さんと生瀬さんが知り合いってどういう事なんですか?」
「お祖父ちゃんはね、ペンネームは闇深太郎、本名は渡辺茂っていうんだけどね、怪奇小説家だったんだ。生瀬さんが、お祖父ちゃんのファンで、話をした事があるんだって」
「どんな話をされたのですか?」
「えっと…、小説に出てきた『人と似て非なる者』の話だったっけ…?」
千歳と青葉はその話を本当とは思っていなかった。
すると、智が手を上げてこう言った。
「それは…、俺の事か?」
「えっ?!やっぱり、智さんは…」
「俺、実は死神なんだけど…。茂さんその話で小説書いたからな…、多分その事だと思う」
青葉は目を白黒させながら、智を眺めた。
その横で、伸人は、梨乃と話をしていた。
「梨乃様は、小説に出てきた風見の一族なんですか?」
「ええ、そうですよ」
梨乃はポケットの中から小さな水晶玉を取り出して、千歳と青葉と伸人に手渡した。
「霊水晶を造り出せる者がまさか本当に居るなんて…、思いもしませんでした」
「まぁ、一族の中でも造り出せるのは私だけですがね…。霊水晶は強い思いを持った魂の力が結晶化したものなんです。私みたいに造り出したり、稀に、人が亡くなった時に生まれたりもしますね。後は…、冥界で自然に出来るものもあります。
この『霊水晶のグラス』は、冥界で出来た霊水晶で造られてるんです。」
「この『霊水晶のグラス』は、冥界に行った時に智君が買ってくれたものだけど…、落とした時に何者かに拾われたんだ。」
「俺も、霊水晶で造られたものを持ってるんだ」
智はポケットの中から小瓶を取り出した。瓶は透明だが、中には赤黒い液体が入っている。
「これ、まさか血じゃないですよね…?」
「違うからな!これは、玲奈の霊力、力を液体にして溜めてるんだよ」
智は小瓶をしまって、梨乃の方を見た。
「確か、この前ピンクジュエルが盗んだ『メモリアル・リング』、あれって霊水晶が填められていたんだよね?」
「ああ、死神の商人が勝手に売り捌いてたんだろうな。その商人はもう冥界に連れて帰れたぞ」
青葉は、『メモリアル・リング』を盗んだ時にオーラを感じたり、怪物の影らしきものが見えたり、主人が何者かに操られたりする様子を見た。指輪に填められていた石が、小さいのに強い力で砕け散った事も、青葉は不審に思っていた。
それが、死神が持ってきたもののせいだというのを知って、青葉は妙に納得している。
「力を感じたのは、気のせいじゃなかったんだ…」
梨乃は視線を青葉に移した。
「力を感じた?」
「はい、呪宝からオーラが出ていたり、怪物が見えたり…。俺、霊感があるかもしれないんです」
梨乃は、青葉のオカルトチックと思われる話を疑いもせず、うんうんと納得した様子で聞いていた。
「そうなんだ…、実は、風見の一族は陰陽師の力を持っててね、そういうものを機敏に察知するのよ。私も、そういうのよく見るよ」
「信じてくれるんですか?」
梨乃は深く頷いた。
「呪宝には怪が寄り付いてくる事があるからな…、俺や梨乃さんが倒したから今回は大丈夫だよ」
「怪物って本当に居たんだ…」
千歳は、怪物は居る訳無いと思っていたが、今日の事や、梨乃達の話で、実際にあるものだと分かった。青葉の話も今まであるはずがないと思っていたが、梨乃が深く頷く様子を見て、
ようやく信じてみようという気もちになった。
そして、長らく話していた四人はようやく話を終えたように黙ってしまった。
「それで、話って終わりですか…?」
智はまた口を開いた。
「いや、まだ本題に入ってない。実はな、二人の姉さんの鳳観月のドレスが見つかったんだ。
俺は、観月を成仏させようとしてるんだが、未練があって青葉に憑いてる。その未練の一つが二人を心配している事、もう一つが自分が死んだ後、何者かによってドレスを盗まれた事なんだ。俺が調べた結果、そのドレスが見つかった」
「えっ?!」
「『ムーンシルクドレス』、まさか見つかるとは…」
『ムーンシルクドレス』とは、生前の観月が着ていたドレスだ。絹製で、仕立て屋によって造られたこの世でただ一つのドレス。純白で美しいそのドレスは、観月の魅力を更に引き立てていた。この海洋邸には数多くの宝物があるが、二人はそれよりもこの『ムーンシルクドレス』と観月が何にも変え難い宝物だった。
だが、その『ムーンシルクドレス』は、観月が亡くなった後、何者かによって盗まれてしまった。千歳は五星財閥が盗んだと考えている。二人は、『ムーンシルクドレス』を取り戻して観月に返したいとずっと考えていた。
それが、まさかこういう形で見つかるとは、千歳も青葉も思わなかった。
「俺の役目は観月の霊を成仏させる事、だが、観月は頑なに俺を拒否するんだ。理由を聞いた後、俺はずっと成仏させる手掛かりを探していた。
その為に俺はお前達の事をずっと見てたんだ…。ごめんな青葉、ずっと怖がらせて。俺が怖かったのはきっと、青葉に観月の霊が取り憑いてたからだろう」
「いえ、こちらこそ…、俺の事を思ってるのに、勝手に怖がってごめんなさい…」
青葉は智と顔を合わせた。今まで怖がっていたのが嘘のようだ。今ははっきりと智を合わせる事が出来る。自分の思いをしっかりと伝えられる。
いくら人間じゃないからと言っても、根本の部分は変わらないのかもしれない。
そう思う二人を見ながら玲奈はクスリと笑った。
「もしかして…、二人の前に出るのが恥ずかしかったんじゃない?」
勤は玲奈に続いて智をからかう。
「お前相変わらず恥ずかしがり屋なのか?」
すると智は二人に向かって怒鳴った。
「う、うるさい!勤!玲奈!俺を弄るな!」
智の顔は火が点いたように赤くなり、湯気も出ている。
「まぁ、そうして照れてるさとにゃんは可愛いんだけどな」
玲奈は赤面している
「うっ…恥ずかじい…、ってかお前らジロジロ見るな!」
智は顔を伏せて、全員の視線から逃れた。
「智さんって、こういうキャラだったのか…?」
「なんか、意外」
二人は、呆然としながら智を見ていた。
「でも、何で観月さんは千歳ちゃんじゃなくて青葉君に憑いてるんだろ?」
「そうだね…」
何故観月は、同じ女姉妹である千歳ではなく、弟の青葉に取り憑いたのだろうか。青葉に霊感があるせいなのか。いや、青葉が妙なものが視えるようになったのは観月が亡くなってからだ。観月の話になってから、千歳はずっと疑問に思っていた。
すると、青葉のポケットの中からお守り袋が落ちた。青葉は慌ててそれを拾う。だが、拾ったのは袋だけで、中に入っていた珠は転げ落ちていた。青葉は、椅子から降りてしゃがんでそれを拾った。
梨乃は、その珠を見て驚いた。
「ねぇ、これって霊水晶じゃない?!」
「えっ?これが…?」
梨乃はその珠を観察していた。月の紋様が浮かび上がったその珠は、仄かに温かく、光を放っている。
「これは、観月さんの霊水晶…」
青葉は立ち上がって正面から千歳と顔を合わせた。
「千歳姉、『ムーンシルクドレス』を取り戻そう。そして、姉ちゃんに返そう」
「私は…、別にいいよ」
千歳は青葉の言葉を素直に返せなかった。
ピンクジュエルの目的は両親の行方を探る事だが、盗む事自体は、依頼を叶える為のものであり、私欲の為には使ってはならないと千歳は考えていた。だが、この『ムーンシルクドレス』は姉のものだ。ピンクジュエルの力を私利私欲の為に使うのどうかと思う。
だが、千歳にだって観月を助けたい、観月のドレスを取り返したいという思いはあった。千歳は、ピンクジュエルの信条と自分の思いの狭間で迷っていた。
「えっ?でも、ピンクジュエルは自分の為には動いてはいけないのよ?」
「千歳様、お願いします。我々の思い出を取り返して来て下さい」
「生瀬さん…」
伸人は千歳に向かってこれまで以上に深々と頭を下げている。いくらピンクジュエルの信条だからと言って、これを断る訳にはいかない。
千歳は、今回限りだと思って、自分達の為にその力を使おうと思った。
梨乃達も立ち上がって、千歳にこう言った。
「私達も協力するわ」
「『ムーンシルクドレス』があったのは月波邸だ。恐らく呪宝のせいで怪が湧いてるかもしれない。俺達も付いて行くよ」
「皆さん、ありがとうございます…」
青葉は四人に向かって深々とお辞儀をした。
窓の外を見ると、日はすっかり沈みきってしまった。外は暗くなり、他の灯りは見えない。市街地から少し離れているここでは尚更夜が暗く感じる。
伸人は四人の顔色を見て、手を叩いた。
「皆さん、遅い時間になりましたので…、ぜひとも泊まっていって下さい。部屋は人数分用意出来ます。食事とお風呂を用意してきますね」
「あっ、ではお言葉に甘えて…、宜しくお願いします」
伸人は襟元を正して、台所へ向かう。
「三人がお世話になっているのでしょう?これは私に出来るほんの少しのお礼です。『ムーンシルクドレス』を取り戻すまでは、ここに居てよろしいですからね。」
「ありがとうございます!」
伸人はリビングから出て行ってしまった。
夕飯の準備が出来るまで、千歳と青葉は元探偵団の四人と作戦を立てていた。
普段、二人で色々と考えているが、それを六人という大人数でするという事に、千歳と青葉は新鮮味を感じた。
「月波邸の見取り図って分かりますか?」
「いや、そこまでは…」
青葉の作戦ノートやパソコンを見て、玲奈は驚いた。
「凄いね、ここまで考えてるとは…」
「ええ、そうですよ」
「でも、現地に行かないと分からない事もありますからね」
千歳は、ノートを見ながら次の盗みのシュミレーションを頭の中で何度もしていた。
その後、伸人は夕飯を乗せたワゴンをリビングに持ってきた。今日の夕飯は、ご飯とささみのすまし汁とほうれん草の胡麻和え、鰤の煮物だった。伸人は洋食だけでなく、和食を作るのも上手いと、竜野夫妻は言っていた。千歳と青葉、伸人と探偵団の四人、それから竜野夫妻も合わせて、夕飯を取る。
千歳は、四人の事で気になっていた事を質問した。
「つかぬ事を伺いますが、玲奈さんと智さんって恋人なんてすか?」
「へっ?」
玲奈は智の事を見た後、手で智の肩を強く叩いた。
「もうっ!智君と私が恋人だなんて〜!」
智は顔を真っ赤に染めて玲奈から目を反らした。
「な、なんだよ!結婚を前提にお付き合いしてるって玲奈が…!」
「それは智君のセリフでしょ?」
「なんだよもうっ…、その話を人前でするな!ううっ…」
照れている智を横目に、青葉は梨乃と勤にこう尋ねる。
「梨乃さんと勤さんはどんな関係なんですか?」
梨乃と勤はお互いを見合わせて考えた。
「私達はそこまでって訳じゃ…、ねぇ勤君?」
「え、ええ…、そうですね…」
勤は照れている智を他人事のように眺めながら、箸を休む間もなく進めていた。
そして、順番に風呂に入り、それぞれ部屋の中で過ごした。
『ムーンシルクドレス』を盗むのは明後日だ。それぞれ準備をして、それに望む。この日の六人の夜はあっという間に過ぎてしまった。




