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全ては復讐の為に

 翌日、千歳と青葉は涼平に呼ばれ、家にやってきた。涼平の家は、住宅街にあって、小さな庭には納屋がある。

 涼平は、二人を自分の部屋に招くと、カーペットに座らせた。

「どうして、家に招いたんだ?」

「大事な話をしたいからかな」

「大事な話…?」

 涼平は、部屋の戸棚から、この前盗んだ『プリンス・キーストーン』を取り出して二人に見せた。

「君達今まで僕に質問したがってただろ?今そのチャンスをあげるよ、質問したいならなんなりとどうぞ」

それを聞いて、青葉は悩み考えたが、千歳はすっと手を上げた。

「じゃあ、盗んだ呪宝はどうしてるの?」

涼平は『プリンス・キーストーン』の箱に手を置きながらこう答えた。

「君達と同じように持ち主の所に返してるよ。これはある訳があるから今持ってるんだけどね」

涼平は眼鏡を拭いて青葉を見つめた。

「じゃあ今度は俺から、どうして探偵と怪盗という相反するはずのものを一人でやってるんだ?」

「それは…」

 涼平は立ち上がって眼鏡をケースの中に仕舞った後、本棚から古いアルバムを取り出した。その中には、涼平と弟の港平が写った写真がある。

「そう、それは全て復讐の為なんだ」

涼平は、その写真に触れながら、誰にも話した事の無かった過去の話を始めた。



 涼平と港平は四つ離れた兄弟だった。何処に居る時もずっと一緒で、誰が見ても中の良い事が分かった。

 涼平が十歳になったある日の事だった。涼平と港平は、親と一緒に博物館に行った。博物館に来た時、港平は偶然何かの鍵を拾った。

「お兄ちゃん、この鍵何?」

鍵は、金色で、豪華な装飾が着いている。涼平は、それが何の鍵か分からなかった。

「何だろう…、とりあえず、博物館の人に返してよ」

「分かった」

港平はそう言って、博物館の職員の所に向かった。だが、職員はその鍵の事を知らず、受け取ってもくれなかった。


 その時、海外の王子に関係する展覧会をやっていて、その目玉は、『アシスカ四世のクラウン』だった。二人は、時間を忘れてそれをうっとりと眺めていた。

 その時、博物館の照明が急に落ちた。二人は両親の所へ戻ろうとするも、何処に居るか分からない。そして、博物館の扉が閉まって、二人は展示室に閉じ込められてしまった。

「お兄ちゃん!」

 暗闇の中、港平が叫ぶ声が聞こえる。涼平は、姿見えない港平の腕を何とか掴んで、扉の方に向かった。だが、扉は押しても、叩いても、動かない。涼平の鼓動はだんだんと激しくなり、息がしんどくなった。それでも、涼平は、二人でここから脱出しようと、何度も何度も扉を叩いた。

「お兄ちゃん!早く!」

港平は暗闇の中で何かに怯えていた。涼平は、そんな港平を早く楽にさせてあげたいと、必死になって、扉を抉じ開けようとした。

 その時、背後から何かが被り去ったと思うと、港平は甲高い悲鳴を上げて、大きな音を立てて倒れた。涼平は、慌てて駆け寄ったが、既に息はしていなかった。

「まさかこの子が鍵を持ってたなんてね…」

 すぐ近くの暗闇から、女性の声が聞こえる。涼平は、その声の方を向いた。女性は港平から鍵を奪い、照明を付けた。

 猫の耳と尻尾を付け、レオタードを着た女性は、ゆっくりと『アシスカ四世のクラウン』のケースに近づく。だが、涼平はそれに目はいかなかった。すぐ目の前で、身体を打たれて倒れた弟の姿に釘付けになっていたからだ。

 涼平は、すぐ近くに居たのに港平を助けられなかった自分を恨んだ。そして、宝の為に弟の命を簡単に奪ったあの女性の事を憎んだ。

 後に涼平を保護した警察の話で、あの女性が女怪盗であるグラマラスキャットだと分かった。涼平は、自分が欲しい物の為なら他人の命を簡単に奪ってしまう人間が居る事に、激しい憎しみを覚えた。

 涼平は一人になって初めて涙を流した。朝、博物館に行く事を楽しみにして笑っていた弟は、今はもう居ない。その事実を突然突きつけられ、どうしようもなくなっていた。

 

 弱い自分には何も出来ないと思っていた。だが、何もしないと、また自分のようにグラマラスキャットの被害者が出てしまう。そこで、自身も怪盗になってグラマラスキャットから呪宝を奪い、探偵としてグラマラスキャットの悪事を暴く事にした。そして、人を信じる事はなくなり、信じられるのは自分だけと思って生きていた。

 探偵と怪盗という相反する仕事を一人でこなすその原動力は、グラマラスキャットへの激しい憎しみと、それに対する復讐だった。

 

 涼平は、そこまで話して二人の方を見つめた。

「これが、僕の思いの全てだ」

千歳と青葉はお互いを見合わせた後、涼平を見つめた。

「今日二人を呼んだのはそれを言う為だけじゃない、二人に頼みがあるんだ。『アシスカ四世のクラウン』を盗むのを協力して欲しい。これが僕の最後の盗みだ。ここでようやくグラマラスキャットと決着をつけてやる」

 二人は、涼平が自分達に協力を願っている事に驚いた。二人は今まで盗みの時はお互いの事しか信じていなかった。だが、ここまで真剣に頼む涼平に、二人の心は動いた。

「本当に、それが最後の盗みか?」

青葉が念を押すようにそう聞いた。

「ああ…!」

「分かった、協力する」

青葉はそう言って腕を組んだ。

「ありがとう…」

青葉は、もう一度千歳の方を向いた。

「なっ、千歳姉、いいだろ?!」

「は?!私何も言ってないけど?!」

千歳は、青葉が勝手に話を進めた事に怒っていた。

「ダメか?」

「別に…、ダメじゃないけど…」

千歳の方は、半分不服そうだった。

「なぁ、何で今まで勝負ばかりして、俺達を試すような真似をしたんだ?」

「君達がどれ程の実力か試す為さ」

「で、俺達はお前に合う程の実力があったのか?」

「あったよ」

涼平はそう言って頷いた。

「じゃあ、決まりだね、場所は紅蓮荘だよ」

涼平は立ち上がって二人を見つめた

「宜しくね、二人とも」

「こちらこそ、よろしくな」

二人はそう言うと、涼平の家から出た。


 そして、二人は海洋邸まで歩いて帰った。

「俺達の実力を涼平が認めてくれたなんて、驚きだよ」

「まさか、涼平の弟さんがあんな理由で亡くなったなんて、酷すぎると思う…」

千歳は俯きながらそう呟いた。

「紅蓮荘、『ブラッドルビー』を盗みに行った屋敷、そして初めてグラマラスキャットにあった場所でもあったよな」

「うん…、ってかまたあの屋敷行くの?!」

「涼平が言い出したんだろ?しょうがないだろ?」

「ええ…、またあの屋敷行くの…?」

千歳は、屋敷にあったおぞましい罠を思い出していた身震いがした。

「仕方ないか…」

千歳はそう言って背筋を伸ばして空を眺めた。

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