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亡き兄弟の話

 花恋の誕生会が終わって一段落ついた頃だった。最近は、ピンクジュエルの依頼も来ず、二人は中学生の夏休みらしい生活を送っている。

 そんなある日、青葉は自分の部屋から出て、屋敷の奥の部屋に向かった。重々しい扉を開けて、青葉は中に入る。窓には白いカーテンが掛かっていて、アンティーク調の机やベッドは、全て綺麗にしてある。千歳や青葉の部屋と違って、ゴチャゴチャとした印象はない。

 そこは、月の部屋と呼ばれる部屋だった。亡くなった青葉の姉が使っていた部屋で、調度品などは今もそのまま残してある。青葉は、そこを掃除して、ベッドに腰掛けた。

「姉ちゃん…」 

青葉は、いつもポケットに入っているお守りの袋を開けた。中には、小さな水晶玉が入っている。水晶玉は透明で、よく見ると、月の模様が入っていた。

 それは、姉が亡くなった時に青葉が拾ったものだった。青葉は、ピンクジュエルの依頼で、いつかその玉について言われるだろうと思っていたが、未だに来ない。だが、青葉は、その玉を拾ったのはたまたまで、何処かに本来の持ち主が居て、ずっとそれを探しているのだろうと思っている。

 青葉がその玉を手の平に載せると、仄かに温かく、光を放っていた。この玉を持っていると不思議と安心する。だから青葉は、お守り袋に入れて、常に持ち歩いているのだ。

 青葉はその玉をお守り袋の中に入れた。そして、シーツをもう一度敷き直して部屋を出た。


 その後青葉は、家を出て河川敷に向かった。すると、川岸に健が居て手を振っている。

「青葉!お〜い!」

「健!どうしたんだ?」

「ただの散歩っスよ〜」

健は、珍しく久美や他の友達と一緒ではなく、一人で居た。

「向こうの音楽店でギター見てたっス!いや〜、憧れるっスね」

「確かに、健似合ってると思う。いっつも売れないミュージシャンみたいな格好してるし」

「売れないが余計っスよ!」

「でも、健はそういう仕事じゃない方が良いと思うな」

 健と青葉が話していると、向こうから、涼平が近づいてきた。涼平は、二人を見るとすぐ様蔑んだ目で見つめ、高圧的な態度を取ってくる。

「なんだ、またくだらない友達ごっこでもしてたのか?」

「ごっこじゃないっス!俺達は本気っス!」

「向こうがどう思ってるのか知らないのになぁ?なぁ、青葉」

青葉は、涼平の態度に腸が煮えくり返りそうになったが、ここは抑えて冷静になった。

「俺は、健は親友だと思ってるよ。涼平は、そうじゃないのか?」

「トリオは解散したはずだろ?なのになんで君達は未だつるんでるんだ」

「解散なんかしてない、お前が勝手に抜け出しただけだろ」

感情を押し殺して言葉を返す青葉だったが、昔の事を何度も掘り返す涼平に、苛立ちを感じていた。

「そうか…、君は健の優しさに甘えてるんだねぇ?あいつの優しさは偽善だろ?そうやってみんなに優しくして、いい気になってるだけだろ?それに付き合う青葉も似たようなもんだなぁ?良いからお前らはさっさと現実を見ろ!」

涼平は怒りを剥き出しにして、そう怒鳴った。

「涼平は…、優しくされて、嬉しくないっスか?」

「同情なんていらないんだ、状況も、僕の気持ちも分からないやつにどうこう言われたってしょうがないだろ。だからさ、何も知らないのはずなのに、勝手に同情してくる奴が一番嫌いなんだよ!」

温厚な健でも、涼平の言葉に苛立ちを覚えたのか、突然涼平の目の前に立って、両腕を広げた。

「ごめんっス、全部俺が悪いっス。俺の事をとやかく言うのは全然構わない…。だけど、青葉の事を悪く言うのはりょうへーでも許せないっス、だから、青葉に手を出すなっス!」

「健…」 

青葉はそんな健を自分の事のように思った。今は冷静に淡々とした言葉を返すよりも、自分の気持ちをそのまま伝えた方が良い。そう考えた青葉は健にそっと近づき、肩を叩いた。

「さっき言われた言葉、そのまま返すな」

「青葉…?」

「健に手を出すな!」

それを聞いて、涼平は一瞬キョトンとしたが、その後何故か大笑いを上げた。

「そうか…、やっぱりお前らの腐れ縁は筋金入りだよなぁ…。そういうのに付き合ってる暇は無いんだよ!」

涼平はそう吐き捨てて、二人の目を見ずに早足でその場を去ってしまった。


 青葉と健はその場に立ち尽くし、何かをする気力を失っていた。

「変化を受け入れなければ…、明日なんて来ないっス。だけど…、変化を受け入れられないのは、りょうへーの方かも知れないっス」

「そう…?」

「こうへー君は何で亡くなったっスか…?りょうへーの両親に聞いても、何も分からないって言ってたっス」

「なんでだろう…」

涼平と関わって疲れ果てた青葉は、健に言葉を返す元気が無かった。


 涼平の弟、港平が亡くなったのは、涼平が三年生の時だった。四歳離れていた港平は、その時六歳で、まだ幼稚園に通っていた。昨日まで元気だった港平が突然消えた。その衝撃は、青葉と健もショックだった。そして、涼平の態度も変わってしまった。今までは、優しい性格で、青葉と健と三人仲良くしていたが、今はその優しさも温かさも思い出せない程に冷たい態度を取っている。

「今日からこのトリオも解散な」

そう言って別れてから、涼平は青葉と健を敵対視するようになった。


 青葉は、健の事をもう一度見つめた。

「りょうへーはあんな事言ってるけど、こうへー君が亡くなって悲しんでるのはりょうへーだけじゃないっス」

「なぁ、健、健はどうしてみんなに優しく出来るんだ?あのりょうへーにも、どうして優しくしてるんだよ?」

すると、健は当たり前のようにこう答えた。

「俺は、みんなから受け取った優しさを返してるだけっスよ」

健はそう言って微笑んだ。その顔は、青葉の母や、壁画に描かている神のように穏やかだった。





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