兄と妹の思い出
結菜は、アクアマリンとピンクジュエルに縫いぐるみを渡した後、嬉しさのあまりベッドの上に突っ込んだ。
「あぁ…、二人に直接会えた…、嬉しい!」
この縫いぐるみも、裁縫部の合間や、家に帰ってからの時間を使って、作り上げたものだった。
「さて、この夏休みも裁縫部あるんだっけな、文化祭の出し物完成させないと…。後は…」
結菜は、ベッドに寝転びながらカレンダーを見た。
「そうだ、お兄ちゃんの応援に行かないと、地方大会の日程いつだったっけな…」
結菜は、兄である祐一郎の野球大会の応援に行こうと考えていた。
結菜と祐一郎は、三つ離れた兄妹だ。父親の影響で、野球を始めた祐一郎、元々のセンスや努力によってめきめきと上達していった。裕一郎は、地元では天才野球少年として知られている。そして、高校でも活躍しているそうだ。
推薦で入った古池高校は、県でも有数の野球の強豪で、祐一郎は寮に入っている。結菜も一度行った事があるが、電車で何時間も掛かる為、到底通えそうにない。
その為、結菜は泉ヶ丘公園である練習や、野球場である地方大会を見学する事が多かった。結菜は裁縫部の合間に、よく最前列で応援をしている。
祐一郎は、結菜の事を誰よりも気に留めていた。
結菜は、野球の事には詳しかったが、運動するのが苦手だった。その代わり、手先が器用で、裁縫や料理をするのが得意だった。結菜は、祐一郎の為に料理を作ったり、破れたユニフォームを繕っていた。二年生になって、裁縫部部長になって、忙しい日々が続いているが、それでも、結菜は、兄の為に何かしようと思っていた。
ある日の事、裁縫部のない日に、結菜は祐一郎の応援に駆けつけた。結菜は最前列で応援した後、休憩時間に汗吹きタオルを持っていった。
「お疲れ、お兄ちゃん」
「ああ…」
祐一郎は、結菜からタオルを受け取って、身体全体の汗を拭いた。
「頑張ってるね」
「俺はそこまで裕福じゃないのに私立の高校に行かせてもらってる。だから、これ以上迷惑をかけられない」
「私、頑張って公立の高校に行くよ」
結菜は、次に水筒を持って祐一郎に渡した。
「比良って、出世しなさそうな名前って、いつも思うよ」
「出世してやるさ、俺はいつかプロになる」
「プロに?」
「それに似合う程上手くなってみせるよ、そして、結菜や父さん母さんに色々返したいんだ」
「そうなんだ…」
結菜は、大きなクーラーボックスを祐一郎の足元に置いた。すると、誰かが階段を駆け上ってこちらに向かってくる。
「祐一郎先輩!」
結菜が振り向くと、誠が祐一郎の元に駆けて来ていた。
「俺、先輩の事を応援してますよ!」
「お前も頑張れよ」
「はい!」
誠は結菜と祐一郎を見て、こんな事を呟いた。
「お前さぁ、高校で野球のマネージャーしたらどうだ?野球の事詳しいし、色々と面倒見れるし」
「そう、かなぁ…」
「裁縫部よりも向いてると思うんだけどな」
「そうなんだ…」
ピンクジュエルの話題には批判的だが、野球の話題に対しては、結菜と誠は話が合うようだ。
結菜は、最前列の席に戻って応援をする。誠も、その横に立って応援していた。祐一郎は二年生で四番バッター、ポジションはショートだ。それは誠にとっては永遠の憧れだった。野球に詳しい地元の人は皆、祐一郎に注目している。祐一郎は、そんな地元の期待にも応えようと頑張っていた。
そして、その地方大会で古池高校は、祐一郎とその仲間達の活躍によって、優勝し、初めて全国大会への駒を進める事が出来た。




