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厄呼ぶ警部

 りんかは、家の中ではずっと一人だった。父親は警部で、忙しく、母親はシンガポールに単身赴任していて、一年に一度しか帰って来ない。りんかは、家に居る間はずっと退屈だった。父親とアクアマリンと一緒にピンクジュエルを追う、その瞬間が楽しかった。


 千歳と青葉は、また伸人から手紙を受け取っていた。

「次の呪宝は何なの?」

千歳がそう言って広げた依頼状には、手紙と、ダイヤモンドで出来た骸骨の写真があった。

「『ビッグダイヤモンドスカル』です、百カラットで、値段を付ければ億は下らないと言われる価値があります」

「それ、大丈夫なの…?」

「ですが、依頼ですので…」 

伸人が恭しくお辞儀をすると、何処かに消えてしまった。

「ずっと呪宝を追ってるけど、これで父さんと母さんは本当に見つかるのか…」

「そうだね…」

青葉は、パソコンを開いてある事を調べ始めた。

「宝石商の屋敷、白銀邸、その中で主人が一番大事にしているものらしい」 

「宝石商なら、売った方がお金になるはずなのに…」

「まぁな…」

千歳はそう疑問を感じていた。



 予告の日、ピンクジュエルは白銀邸に侵入し、宝物庫の中に入った。

「でも、何でそれを一番大切にしていたんだろう」

ピンクジュエルは、宝石が入っている袋で身を隠しながら、奥に向かった。


 一方、アクアマリンはりんかと一緒に、宝物庫の中の警備をしていた。

「ダイヤモンドを骸骨の形に加工するなんて…、相当の技術が必要ですよね?」

「でもさ、百カラットもある石をわざわざ加工するなんて…、あれの原石だけでも相当の価値があるはずだよ」

「う〜ん…、何ででしょうか」

「それは、私にも分からない」

アクアマリンは、そう言いながら『ビッグダイヤモンドスカル』を眺めた。すると、二人と一緒に行動していた、刑事が声を上げた。

「警部!ちょっと宜しいですか?」

「何だ?臼井刑事」

臼井刑事は、厄神警部を呼んで、こう話しだした。

「本当に、大丈夫なんですか…?」

「あれを盗まれたら白銀宝飾店にとって痛手ですよ?」

「だな、ここには最新鋭のセキュリティもあるし、警官もいつもより多めに配置しておいた」

「それだけじゃ駄目だと思うのですが…」

「…そうか」 

厄神警部が頷くと、更に臼井刑事がこう話を続けた。

「つかぬ事を伺いますが、何故一番重要な警備をあの二人に任せてあるのですか?」 

「アクアマリン君なら、りんかの事を任せられるし、ピンクジュエルを追い詰める事が出来る」

「ですが…、今まで一度も捕まえた事ないじゃないですか…」

「だな。だが…、俺はあいつに見込みを感じてるんだ」

「は、はぁ…」

 すると、厄神警部の前に、夏休みなのに制服に身を包み、赤縁眼鏡をかけた人物が立った。

「おや?君は中学生探偵の涼平君じゃないか」

「厄神警部、どうされましたか?」

「ああ…、ちょっとな」 

 臼井刑事は、何かか言いたいような顔をしているが、中々口に出さない。

「宝石商の船岡正敏です、本日は宜しくお願いします」

正敏は、厄神警部と臼井刑事に深々とお辞儀をしたが、アクアマリンとりんか、涼平には何一つ反応しなかった。

「あの『ビッグダイヤモンドスカル』だけは絶対に盗まれてはなりません、あれは預かり物なのです」

「預かり物?」

「詳しくは言えませんが…、お得意様のものなのです」

「えっ…?」

アクアマリンは、その言葉に引っ掛かりを覚えた。

「なにはともあれ…、お願いします」

正敏は、もう一度深々とお辞儀をすると、何処かに行ってしまった。厄神警部は、アクアマリン達と警官に向き直る。

「アクアマリン君、それから警察諸君ら頼んたぞ!」

「はっ!」

涼平以外は皆、厄神警部に敬礼をして持ち場に向かった。

 アクアマリンは、宝物庫にある大きな袋を指さして正敏にこう尋ねた。

「あれって、何が入ってるのですか?」

「ああ…、これは原産国から取り寄せた原石だよ。どれも天然のものばかりさ」

正敏は、手袋をして袋の中を開けた。中には、小粒の宝石が、何種類も入っている。

「これ、原石ですか?」

「最近は人工も増えたが、私は天然のものにこだわっております」

「アクアマリン君、君は警備に集中しろ」

厄神警部の声で、アクアマリンは現実に戻った。

「はっ!」

アクアマリンは、『ビッグダイヤモンドスカル』の前に立った。

 その時だった。セキュリティの作動音が聞こえて、宝物庫にサイレンが響き渡った。そして、警官達は一斉に動く。

「まさか、ピンクジュエルか?!」

「警部!それだけではありません!宝石泥棒が、原石を盗みました!」

「何だと?!」

「厄神警部、私がピンクジュエルを追います、その間に宝石泥棒を!」

「…分かった、任せたぞ」

 大勢の警官達は、黒い服に身を包んだ二人の宝石泥棒を追う。アクアマリンは、それとは違う方向を向いて、ピンクジュエルを追う。

「待て!ピンクジュエル!」

アクアマリンは、一人で追っているとおもっていたが、同じ方向を、りんかと涼平が追っていた。

「りんか、涼平、どうして?!」

「私、ピンクジュエルを追います!」 

「ってか、涼平は探偵だろ?警察じゃないだろ?!」

「別にそれは関係ないだろ?」

喋りながら追い掛けていると、いつの間にかピンクジュエルは何処かに消えてしまった。

「くっ…、逃してしまったか」

「アクアマリンさん、何で毎回追い詰めるのに、逃すんですか?」

「えっ…?」

アクアマリンは硬直して、何も話す事が出来なくなった。それを察したのか、涼平は、アクアマリンの袖を引っ張って、近くに寄せて耳打ちした。

「青葉、やっぱりピンクジュエルを庇ってるのか」

「お前は俺達が兄弟だって知ってんだろ」

「何でお前らは呪宝を狙う?」

「それは口が裂けても言えないな。ったく、りんかにバラすんじゃないぞ?」

「僕は、もうバレてると思うんだけどね」

涼平は、そう言ってほくそ笑んだ。

 そして、アクアマリンと涼平は、顔を離してりんかの方を見た。

「二人で何話してたんですか?」 

二人は、お互いの顔を見合わせて首を振った。

「いや、なんでもないよ」

「僕達は、ここで失礼するよ」 

二人は、そう言ってりんかから離れた。

 結局、ピンクジュエルは逃走したものの、宝石泥棒達は、警察達の尽力によって逮捕された。

 

 アクアマリンは涼平と別れると、青葉の姿になって千歳の元に言った。千歳はまだピンクジュエルの姿になったままで、茂みの中に突っ込んでいる。

「いい加減茂みに突っ込むのやめようぜ?」

「ううっ…」

千歳の腕の中には、『ビッグダイヤモンドスカル』が入っていた。

「なんとか…、盗めたよ…」

「それは良かったな、千歳」 

千歳は着替えた服で汗を拭いた。

「あの宝石泥棒は原石を狙ってた。『ビッグダイヤモンドスカル』を売れば、あの小さな原石を売る以上の儲けが出はずなのに、なんで売らなかったの?」

青葉は、『ビッグダイヤモンドスカル』を眺めてこう答えた。

「これ、人工ダイヤモンドだよ」

「えっ…?」

「昔は黄色っぽかったり、くすんでたりしていたけれど、技術が進歩して天然とほぼ変わらない輝きを放つんだ。あの宝石商は、天然の鉱石にこだわっていた、だからあれを売る事は出来なかっただろうな」

「じゃあ、なんで依頼主から『ビッグダイヤモンドスカル』を奪ったの?」

「それは分からない、ただ…、お得意様から預かったって言ってたから、あの財閥が関係しているかも知れない」

青葉は、一歩前に出た後、振り向いて千歳を見た。

「ダイヤモンドは砕けないって言うけど…、炭素の集合体だから燃えるんだよ、それは、天然でも人工でも変わらない」

「何カッコつけてんのよ…」

「とりあえず、これで盗めたな」

青葉は、『ビッグダイヤモンドスカル』を持った。

「それじゃあ、帰ろう」

「うん…」

二人は、茂みから抜け出して、迎えを待った。

 

 そして、二人は海洋邸に戻って、伸人に『ビッグダイヤモンドスカル』を手渡した。

「おお…、これですよ、ありがとうございます」

伸人は、恭しくお辞儀をすると、それを持って自分の部屋に戻って行った。

「何度やっても、お父さんとお母さんの手掛かりは掴めないね」

「でも、確実に近づいてるはずなんだ、もしかしたら、今までの呪宝もいくつかはあの五星財閥が奪ったものかも知れない」

「でも、あの奪った形跡なんてないし…」

「あるだろ?俺達の一番大切な宝物が取られただろ?!」

青葉の一言で、千歳はハッとした。

「ああ…、そうだった…」

「あの財閥だけじゃない…。涼平やりんか、警察達、子連れ刑事の事もある。まだ油断出来ない」

青葉は、ソファーに姿勢正しく座った。

「俺達を取り巻く(しがらみ)は、あまりにも大きい」

青葉の目は、千歳ではなく、もっと大きな何かを見つめているようだった。

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