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思い出を探して

 千歳は、青藍邸の中に侵入した。壁や床は真っ青で、深海や青空の中に居るような錯覚を覚える。部屋は入り組んでいて、『メモリアル・リング』はその奥にあるといわれた。

「でも、何で結婚指輪なんか奪ったんだろう…」

青葉が調べた話によると、この『メモリアル・リング』には、ダイヤモンドよりも希少な石が入っているという話だった。宝石ではないが、人智を越えた力をを持つ為に、様々な富豪が狙う石があるという。その話は伸人からも聞いた事があった。

 だが、千歳はそれ以外にもきっと理由があるだろうと、睨んでいた。そこで、千歳はただ奥の部屋ではなく、様々な部屋を見て回った。


 青葉は、アクアマリンの姿になって、りんかと厄神警部と行動していた。怪盗の方に行ったのか、あの中学生探偵の姿はない。その代わり、子連れ刑事が横に立っていた。

「結婚指輪を盗むなんて…、どう思うか?」

アクアマリンは、青葉に好意を抱いているりんかに、あえてこう尋ねた。

「全く、酷いですよね!指輪泥棒は、指輪だけでなく、二人の思いや約束までも奪ったのですから!」

アクアマリンは、その答えを聞いて、りんかなら大丈夫だ。と心の中で頷いた。

「アクアマリンさんは、もし結婚するなら、指輪欲しいですか?」

「えっ…?まぁ、くれるなら…」

自分はあげる側、などとりんかには言えるはずがない。かと言って、結婚指輪をどんな人にあげるのか、想像したくても、それは中々出来ない事だ。


 警察達の前に現れたのは、青藍邸の主人、藍川宗だ。藍川は、見た目は若々しい紳士だったが、何処か不気味な雰囲気が漂っていた。

「警察の方々には…、お引き取り願いますが…」

「ですが…、怪盗どもが」

「小鼠が一匹二匹居ようと…、この『メモリアル・リング』は絶対に取られませんよ…。この片方は私の中に、もう一つは…、フフフっ、これは警察の方々には教えられませんね…」

藍川の左の薬指に、銀色の指輪が光っていた。

「この指輪は、誰のものなんですか?」

藍川は笑うが、答えは言わない。

「(なんだろう…この人)」

アクアマリンが藍川を見ると、背中に何かを打ち付けられたような鈍い痛みを感じた。

「厄神警部、私が藍川氏を見張ってよろしいでしょうか?」

「あぁ…、『メモリアル・リング』の見張りか、丁度俺もする所だが」

「いえ、警部には、"もう一つ"の『メモリアル・リング』を探してもらいたいのです」

厄神警部は考えてからこう言った。

「…分かった、では他の警官どもに探させよう。俺はこの『メモリアル・リング』が心配なのと同時に、りんかも心配だから、ここに残る」

「厄神警部…」

「(厄神警部も、りんかの前では父親の顔をするんだな)」

そう思うと、ふと自分の父親のことを思い出したアクアマリンは、胸の中に何かが詰まったように苦しくなった。


 千歳は、思い出したようにピンクジュエルの格好に着替えた。この青藍邸では反対色でどう考えても目立つ。だが、この格好をしないと、誰もピンクジュエルだとは気づいてくれないのだ。

 ピンクジュエルは、小部屋の中に入った。中には見張りはなく、部屋の中はしんとしている。ピンクジュエルは

すると、何処かから潜めるような声が聞こえた。

「…助けて…」

声がする方に行くと、床が沈んでいた。板を取ってみると、マンホールの蓋のようなものがある。

「これ…、地下室?」

ピンクジュエルは蓋を外すと、縄梯子があり、そこから下に降りる事が出来た。


 地下室は真っ暗で、何も見えない。ピンクジュエルは、ポケットの中からペンライトを取り出して、周囲を照らした。歩いていると、奥の方から、鉄を叩く音が聞こえる。

 ピンクジュエルがそこに向かうと、鉄格子があり、その向こう側に女性が座っていた。

「あなたは、まさか、怪盗レディ・ピンクジュエルなの?」

女性はピンクジュエルの存在に気づくと、小さな声で叫んだ。

「ご主人様に監禁された、今すぐここから出して…!」

女性は薄汚れた服を着ていて、髪は長い事洗ってないのか、ボサボサだった。ピンクジュエルは、得意のピッキングで鍵を開け、女性を開放した。ピンクジュエルが女性をもう一度見ると、左手に、キラキラと光る何かが見える。

「これ、『メモリアル・リング』じゃ…」

ピンクジュエルが手を出すと、女性はさっと腕を引っ込めた。

「取らないで…!これは、私の指輪!彼が依頼主なの…」

「彼…?それは、主人とは違う人物なのですか?」

女性は、こくんと頷いた。

「はい…、私は、この青藍邸の侍女をしております、坂田美羽と申します。私は、主人の秘書をしている彼の事が好きになりました。ここは仕事場で、中々話すことが出来ませんでしたが、お互いが休暇の時に、親睦を深めました。そして、結婚の約束をしました。あの指輪職人の所に行って、『メモリアル・リング』を造ってもらい、式の日時も決めて後は待つだけだったのです。ところが、この結婚を祝っていたはずの主人が、突然手の平返したように、私に詰め寄り、強引に結婚させろと言うのです。そして、彼の『メモリアル・リング』を奪い取り、私を牢獄に入れました。私と彼は、それを取り返してもらいたいと思って、手紙を書いたのです。」

美羽は涙を流し、ピンクジュエルに救いを求めるような目で見た。

「お願いです、どうか、彼の『メモリアル・リング』を取り返して下さい!」

「美羽さん…、分かりました、私に任せて下さい!」

ピンクジュエルが地下室を出ようとすると、そこに、プリンス・トパーズの姿があった。

「先に"もう一つ"の『メモリアル・リング』を見つけるなんて、大手柄だな、ピンクジュエル」

「まっ、偶然だけどね」

ピンクジュエルがそう得意気に言うと、トパーズは美羽を指さした。

「お前はそいつは盗らないのか?」

「この『メモリアル・リング』は彼女のものよ、奪ったら許さないんだから!」

「君は呪宝を盗むのが目的じゃないのか」

「まぁね」

「で、お前はこれからどうするんだ?」

「何って、美羽さんの彼氏さんを探しに行くのよ、そして、主人を説得する」

「自分で怪盗名乗ってる割には、真っ当な手段を取るんだな?」

トパーズはそう言って何処かに消えてしまった。

「全く、バカみたい!」

ピンクジュエルがトパーズに腹を立て、顔を真っ赤にした。それを見て、何故か美羽はクスクスと笑っていた。

「仲睦まじいですね」

「は?!あいつと?!意味分かんないんですけど?!」

「喧嘩する程仲が良いって言いますよね?私と彼も、良く喧嘩をしますが、喧嘩をするというのは、お互いの思いをぶつけられるという事ですよ。」

「あいつなんか、恋人でも、友達でもないし」

ピンクジュエルは、そう言いながら、頭の何処かでトパーズの事を考えていた。


 ピンクジュエルと美羽は、警備の目を掻い潜って、浴室に向かった。ピンクジュエルは、美羽と彼を何とか出会わせたいと思ったのだ。彼はきっと、美羽の事を心配している。もし、今の薄汚れた姿では、何があったのかと不安がられるだろう。美羽は、シャワーを浴びた。だが、クローゼットは別の部屋にあるのか、着替えがない。

「私ので良ければ、ありますが?」

ピンクジュエルは、ピンクのボストンバッグを取り出して、中から着替えを出した。白のチュニックに、茶色のズボンだ。

 美羽がそれを着た。見た目に違和感はない。だが、サイズが小さいのか、美羽は苦しい顔をしている。

「大丈夫…ですか?」

「胸が…苦しい」

中学生であるピンクジュエルと、二十代の美羽では、身長と体型に明らかな差があった。ピンクジュエルは、身体は発達段階だが、全体的にまだ幼く見える。

「クローゼット…、遠いんですか?」

「はい…、でも、着替えを探すよりも、彼を、(いつき)を探さなきゃ」

 美羽は駆け出すと、扉を開いて、廊下に出た。ピンクジュエルも後を追うが、見張りを気にしなければならないので、動きが遅い。


 ピンクジュエルは、美羽を追って再び地下に降りた。そこには、さっきと同じように、牢獄があって、そこに誰かが座っていた。美羽は、その人物を見ると、鉄格子を持って向こう側を覗き込んだ。

「樹!無事だったのね…!」

その人物は、美羽の婚約者である今宮樹だった。ピンクジュエルは、ピッキングで鍵を開け、樹を出した。樹と美羽は手を取り合って喜び、抱き合った。

「美羽!もう会えないかと思ったよ…」

「でも、樹の『メモリアル・リング』が…」

樹の指には『メモリアル・リング』が無い。藍川に取られたままなのだ。

「せっかく造ってもらったのに…」 

二人は、同時にピンクジュエルの方を見た。

「お願いです、私達の思い出を取り返して下さい」

ピンクジュエルが、樹にこう聞いた。

「説得は出来ないんですか?」

二人は首を振った。

「恐らく聞く耳を持たないでしょう…」

「そうですか…」

ピンクジュエルは、二人と一緒に藍川の所に向かった。


 アクアマリンとりんかと厄神警部は、藍川にピッタリと付いて歩いている。

「これなら、ピンクジュエルは絶対に近づけないな!」

「でも、どうして結婚指輪を盗むのでしょうか?」

「彼奴らの考えなんぞ知らぬよ」

厄神警部は、藍川を見ながらそう言うと、一人の警官が、こちらに向かってくる。

「警部!もう一つの指輪が見つかりません!」

「なぬ?!もう一度探すのだ!」

「いや、私はこの指輪を安全な所に隠しに来たのです」

警官は藍川の腕を持った。

「汚れてるじゃないですか…、拭きましょうか?」

警官が指輪を外そうとしたその時、アクアマリンが警官の腕を掴んだ。そして、警官を睨みつける。

「やっぱそうなんだな…、プリンス・トパーズ」

警官は、不敵な笑みを浮かべると、一瞬でプリンス・トパーズの姿になった。

「やっぱりアクアマリンにはお見通しなんだな?」

「お前意外にも大胆なんだな?」

「くっ…!待て!トパーズ!」

 厄神警部が自らトパーズを追おうとする。だが、トパーズは煙幕を投げて一瞬で消えてしまった。

「くそっ、なんという奴だ」

「まぁ…『メモリアル・リング』は奪われませんでした、良いではありませんか。怪盗が居なくなるまでこうして見てもらえませんかね?女警官アクアマリン?」

「へっ?」

「くれぐれも離れないで下さいね?アクアマリン?そうだ…、あなたには特別に手に取らせてあげましょう」

 藍川は『メモリアル・リング』を外して、アクアマリンの手に乗せた。指輪は写真で見たのと同じ銀色で、名前は、藍川のものではなく、『itsuki Imamiya』と彫られている。だが、石は写真と同じ透明ではなく、黒く濁っていた。

その石を見た瞬間、アクアマリンは酷い寒気に襲われた。

「えっ?!」

 アクアマリンは『メモリアル・リング』を持つ事に耐えきれず、手を離してしまった。指輪は、意思を持ったように藍川の手に戻ってきた。

「私はこれで美羽と結婚出来る…、まぁ、もし美羽と結婚出来なかったとしても、貴方がおります。アクアマリン…、貴方の為なら『メモリアル・リング』の職人を連れて来ましょう」

「(この人、俺を普通に女性だと思っている…?!)」

アクアマリンは藍川を恐る恐る見た。藍川は、にやりと笑っていて、アクアマリンの意見に耳を貸そうとは思っていないようだ。

 アクアマリンは、藍川から一旦離れ、りんかの方に向かった。何をするか予測が立たない人間よりも、災厄を招く厄神の近くに居た方が今は安全に思える。それくらい、アクアマリンの心は疲れ果てていた。

「どうしたんですか、アクアマリンさん」

「あの人…、気味悪くない?」

「まぁ…、言われて見れば…」

すると、ずっと動きがなかったちえりが突然、藍川に近寄って来た。

「お兄さんって、結婚してるの?」

藍川は、少し困った顔をして、こう答える。

「ああ…、居たよ。でも、事故で亡くなって…」

「それで、美羽さんと結婚しようとしてたんだ」

「ああ…」

藍川は頷くと、急に落ち込んだ顔になった。

「私は…、何としてでも美羽と結婚したいんだ…、この『メモリアル・リング』があればそれが叶う!」

藍川は『メモリアル・リング』に口づけをして、アクアマリン達を見た。だが、その様子は、さっきまでと違った。藍川の目は赤く見開き、人間の正気が全く伺えなくなっている。

 

 藍川は、厄神警部達を振り切って駆け出し、階段を駆け上がった。『メモリアル・リング』から黒い靄のようなものが発生して、藍川に絡みつく。だが、それはアクアマリンの目にしか映っていなかった。

「待ってろ美羽!」

アクアマリンは藍川を追いかけ、腕を掴んだ。

「その指輪はあなたのものではない!『メモリアル・リング』に掘られた名前は違う人のものだった!」

「それは関係ない!」

「その指輪を捨てなさい!」

「アクアマリン君!何を言ってるんだ…?!」

藍川への態度を突然変えたアクアマリンに、厄神警部は戸惑いを隠せなかった。

「厄神警部、指輪泥棒は藍川です!藍川は、美羽さんの本当の婚約者から指輪を奪い、自分と結婚させようとしました!」

「何だと?!」

りんかと厄神警部も、アクアマリンに加勢する。りんかはふと、さっきの事を思い出して、ちえりの方を見た。

「ちえりちゃんの言葉が引き金になって、こうなったの?」

ちえりは、自分は何も知らない、と言うように首を傾げた。

「ちえりちゃん、ただの小学生ではなさそうですね。アクアマリンさん」

「ああ…」

アクアマリンは頷き、ちえりを横目で見た。


 そして、アクアマリンは藍川から『メモリアル・リング』を外そうとした。だが、さっき藍川の指から外れたはずなのに、いざ強引に抜こうもしても、抜く事が出来ない。まるで、見えない力に引かれているようだった。

「何で…、さっきは外れたのに?!」

「滑るものがあれば良いんだけど、石鹸とか」

りんかがそう言うと、急に振り向いて走り出した。

「私、取って来ます!」

「りんか?!」

そして、りんかは何処かに消えてしまった。何人かの警官が後を追いかける。アクアマリンと厄神警部、勇吾とちえりは、残されたように立ち尽くしていた。


 警察達の様子を、物陰からピンクジュエルは覗いていた。隣には何故かトパーズまで居る。美羽と樹は異様な行為に走る主人を見かねているのか、藍川に近付こうとしない。

「さて、お前はどうするんだ?」

「どうするって…」

「グラマラスキャットならこういう時、腕や指を強引に斬ってまでも奪いそうな気がするな」

「私はそういう残虐行為はしないもん」

ピンクジュエルは、トパーズから離れ、警察達の様子をみた。

「そういえば…、りんかちゃんが石鹸って言ってたな。そうだ、さっき浴室に行ったはず…」

ピンクジュエルは立ち上がって、辺りを見回す。

「私…、行ってくる!」

「行くって…何処へ?」

「さっき行った浴室へ!」

ピンクジュエルは、誰も居ない事を確認して、浴室に向かった。

 浴室は、狭く、浴槽はなかったが、シャワーが一つあった。棚にはシャンプーとリンス、それから固形の石鹸があった。ピンクジュエルは、石鹸を手に取り、水で濡らした。石鹸はバラの香りがするものだった。

 そして、滑る石鹸を手袋で押さえながら戻ってきたピンクジュエルは、アクアマリンに向けてそれを投げつけた。 

「(受け取って、青葉…!)」

アクアマリンはそれに気づいて石鹸を受け止めた。そして液を少し指に付けて、藍川の指に塗ると、石鹸の滑りで指輪を外す事が出来た。


 アクアマリンは、指輪を拭き取って大事にしまおうとすると、指輪の石が外れた。アクアマリンがそれを拾おうとすると、石は、突然爆発して、粉々に砕け散ってしまった。

 その衝撃で、藍川は正気に戻った。

「あっ…、私は何を」

「無事で良かったですよ、藍川氏」

藍川は、虚ろな目でアクアマリンを見た。

「…最初は…、興味本位だったのだ…。幻の存在と呼ばれる『メモリアル・リング』を私も付けてみたかった…。だが、付けた瞬間に、侍女で婚約者が居るはずの美羽を、自分のものにしたいと思ってしまった…、もしかしたら、私は人ならぬ力に囚われていたのかも知れない…」

アクアマリンは辺りを見回して、持ち主らしい人物を探した。

「この『メモリアル・リング』の本来の持ち主は…」

「それは…、僕達の事でしょうか?」

すると、物陰から一組の男女が現れ、深々とお辞儀をした。

「この思い出を、お返しします」

アクアマリンは、『メモリアル・リング』を丁寧に取り出し、樹の指に付けた。

「石が外れてしまいましたが…、許して下さい」

「いいえ、外れても私達の思い出である事に代わりはないですよ」

美羽は、じっくりと樹の『メモリアル・リング』を見つめた。

「うん?石鹸の匂いがするわね」

「あっ!それは…、色々あって…」

アクアマリンは頭を掻いて、愛想笑いを浮かべた。

「私達の思い出を取り戻してくれてありがとうございます、あなたも頑張って下さいね、アクアマリンさん」

アクアマリンは二人に感謝され、深々とお辞儀をした。

「どうか、お幸せに」

二人は笑って手を振り、警官達の元へ向かった。


 それから樹と美羽は、厄神警部に、自分達が藍川にされた事を全て話した。真実を知った厄神警部は、藍川を取り囲み、毅然とした態度でこう言った。

「藍川宗、署まで行きましょうか。力に囚われてたとはいえ、あなたの罪は大きい」

そして、藍川は、警察達に連れられ、パトカーに乗せられた。

「りんか、先に帰ってくれ。それから…、アクアマリン君、子連れ刑事君達、協力感謝するぞ」

そして、パトカーは走り出した。りんかは、残っていた警官と一緒に帰り、勇吾とちえりは、いつの間にか消えていた。

 

 アクアマリンは、茂みで着替えようとすると、ある事を思い出して冷や汗をかいた。

「(あれ…?さっきの女の人、千歳姉の服を着てた…?!)」

普段、宝を盗んだ後茂みに突っ込んでいるピンクジュエルだったが、今回は、宝を盗む行為を働いてないので、ここに居るはずがない。

「何処行ったんだ…?!」

アクアマリンは、急いで着替えて青葉の姿になると、青藍邸に戻って行った。



 ピンクジュエルは、無事に仕事を終わらせた事にほっとして、壁にもたれた。

「ふぅ…、疲れた」

「君は呪宝を持ち主に返してるのか…」

トパーズはそう言ってピンクジュエルを見ると、王冠を外した。

「それじゃあ、僕は帰るからな」

トパーズは、何処かに消えてしまった。

 残されたピンクジュエルは、ボストンバッグを探して着替えようとした。ところが、着替える服が無い。ピンクジュエルは、ついさっき美羽に服を貸していた事をすっかり忘れていたのだ。

「うっ…、帰れない…」

ピンクジュエルが行く宛もなく立ち往生していると、ジャケットに着替えた青葉が駆けつけて来た。

「千歳姉!」

「青葉、どうして…」

「このままじゃ、帰れないだろ?」

「うん…」

「俺が美羽さんに言って返してもらうから、着替えて待っとけよ」

青葉は、ピンクジュエルの周囲に誰も居ない事を確認して、美羽達の元へ向かった。

 その間、ピンクジュエルは、仮面と帽子を外して髪を解いて結び直した。髪の毛は汗で蒸れ、今すぐにでもシャワーを浴びたい気分だった。

 青葉は、その姿のまま美羽に近づき、こう話した。

「あの、ピンクジュエルに服を借りましたか?」

美羽は、丁寧に折り畳まれた服を青葉に見せた。

「これの事?」

「はい、実はそれをピンクジュエルに返したいんです」

美羽は、青葉に服を手渡した。

「返すわ、ありがとうってピンクジュエルに伝えといて。洗ってないから、汚いかも知れないけど…」

「はい、ありがとうございました」

「ちなみに、君はピンクジュエルの何なの?」

「へっ…?」

「ファンなの?もしかしたら…、恋人だったり?」

「こ、恋人じゃないです!」

「恋人じゃないなら…、何?」

「た、ただの兄弟です!」

青葉は、深々とお辞儀をして、逃げるようにその場を去った。


 青葉は服を持って、千歳の元に戻った。千歳はすぐに着替えてボストンバッグを持ち、窓から立ち去った。

「何で最後まで泥棒のように…」

「いいじゃん、私は元々泥棒する為にここに来たんだから」

青葉は千歳に続いて窓から青藍邸を出て行った。

「テストがある事忘れてない?」

「忘れてないよ、帰ったら勉強しなきゃな」

青葉は、カバンの中にあるアクアマリンの制服のポケットの中に手を突っ込んだ。すると、爆発した衝撃で飛び散った石の破片らしき硬いものがあった。

「千歳姉、この石、ただの石じゃないよな?」

「みんなはそう言うけどね、でも、呪宝でもその宝自体に力がある訳じゃないよ」

「あの石、爆発したんだ。それに、あの藍川氏が力に囚われたって言ってたけど…」

「青葉はそんな事信じるの?」

 千歳は、超常現象や霊などの話は、怖がらないし信じてもいなかった。その真逆で、青葉はそういうものを恐れる傾向がある。

「見たんだ、石から黒い何かが飛び出て、藍川氏に纏わりつく光景を…」

「また変なの見たの?青葉ってもっと現実を見る人じゃなかったの?」

千歳は、青葉の話を全く聞こうともせず、先を歩いて行く。

「本当なんだって!」

「ハァ…、どうせ嘘でしょ。それにしても、藍川氏はあの財閥とは関わりなかったみたいね」

千歳はそう吐き捨てた。

 しばらく経って、伸人からの迎えが来て、二人は、自分達の屋敷である海洋邸に戻って行った。

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