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野生の声

「ルノちゃん…天使ってどうしたの?」


 ハッ!や、やばい口走ってた!


「ええっ…とぉ…」


 …あ。別に天使が何かなんてハルには分からないから大丈夫か。


「いや、チナツちゃんが天使みたいにかわいいなぁっ…て思ってさ」

「あぁ!そうだよね〜綺麗な赤毛!赤毛の子ってみんなチリチリしてるのに、チナツちゃんってさらっさらだよね〜!」

「うんうん!」


 ふー危ない危ない。ノクに聞かれてたら困ったことになるところだった。

 ノクを見るとチナツの張り切った演説に目を輝かせて拍手していた。こ、こいつ純粋すぎる……。


「じゃあ次は…」


 チナツの手腕でどんどん委員会が決まっていく。


 …しっかしなぁあの子が天使か。

 俺は先生に代わって進行を始めたチナツをじいっと観察する。

 白い羽とかは見えない。そりゃそうか、人間社会で白い羽をパタパタさせるような天使はいないか。


 …そういやソロモンが言ってたっけ。『天使は上から人間社会を操る』。そう考えると確かに納得がいく。

 六年生でクラス長をやるということ。それはつまり全体会議のリーダー、委員長になることができることを意味する。

 クラス長全員、さらに担当の教師がたくさん集まる中で扇動すれば。


 それでも小学校単体じゃあ、そこまで大きな動きはできないだろう。だが神の視点から見ればまるでチェス版のようになっているに違いない。


 小学生の親達、クラブ活動、近所の老人…きっといろんな繋がりを経て大きな流れまでモノにしていく。

 そしてチェックメイト。人類は支配下に置かれる。そんなゲームがずっと続けられているのだろう。


 なるほどなかなかに狡猾だ。こうやって支配していけば一人一人を操ったりしなくてもいいってわけだ。ソロモンが警戒するのも頷ける。


「……ちゃん」


 俺は目を閉じて考える。このままではいけない。幼女達を天使…いや神の思い通りにさせてたまるか!待ってろ天使チナツ!すぐに……。


「ルノちゃん」

「へぇっ!?」


 驚いてへんな声が出てしまう。顔を上げると目の前にハルの顔。


「な、なに?」

「ルノちゃん、委員会好きなところ選ばなくていいの?」


 え?

 ふと黒板を見る。

 黒板に書かれた大量の委員会。もうすでに九割型が埋まってしまっていた。やっばい!

 こういう時の余り物の委員会ってたいていめっちゃ面倒な奴なんだよ!


 チナツが黒板を見ながら言う。


「えーと!今残ってるのは…図書委員、清掃委員、飼育委員の三つです!やってくれる人!」


 うわー!見事に役満だよ!最悪の三択だ。


 まず図書委員なんかは力仕事だらけだ。

 新しい本が入れば確実に本運びをやらされる。

 それに大事な昼休みの時間を仕事で潰されるのも惜しい。

 本は好きだがせっかくの美少女ボデーなんだ。外で活発に遊んだりおしゃべりしたいものだ。


 次に清掃委員。これも相当嫌な部類だ。

 何が一番嫌かってそりゃトイレ掃除に決まってる。もし決まってしまえば半年、いやもしかしたら一年トイレの管理をすることになるかも。小学校のトイレはなかなかに…こう、キツイ。

 俺は綺麗な幼女が好きだからトイレであれやこれやする趣味もないしな。


 最後に飼育委員。これは最悪だ。

 なんでかって?簡単な話だ。

 小学校の飼育小屋なんて断熱もまともにされていない。それにエサだって安くないからそんなに色々食べさせてやれない。ましてや病気対策の高いワクチンなんて打たれているはずもないのだ。

 気づけば瀕死の動物を看取って、墓を建てることになっていること請け合いだ。そして責任はもちろん飼育委員にのしかかる。悲しいところに二度目のパンチ。なんとも損な役回りだ。


 三つとも甲乙つけがたいほど嫌な仕事ではあるが…そうだな、三つの内なら図書委員が一番マシだろう。


「じゃあ図書委員をやってくれる人ー!」


 よしっ手を挙げ…ってえぇ!?

 気づけばノクが黒板の前でチョークを持って立っていた。

 な、なんで?

 ふと見れば黒板の端の方に

『副クラス長 寺堂ノク』

 と書かれていた。

 ノクを見る。目をキラキラさせて楽しそうに仕事をしている。

 …ノクさん。

 現世の小学校の委員会とか初めてで、楽しみだったんですね?わかりますわかります。

 …でも横に立ってるのは宿敵の天使なんすよ、ノクさん。


 なんて思っていたら。


「あ…私やります」


 あっ。誰かが手を挙げてしまった。


「じゃあ図書委員は貴方に決まりね!えーと残りは…」


 や、やばい!最悪の三択から超最悪の二択になってしまった!

 うーん清掃委員と飼育委員…これはどちらも嫌だな…いや、待てよ?

 そういやここ、百合ヶ丘小学校は結構最近できた学校だったっけ。となればトイレがまだ綺麗な可能性は十分にある。

 よーし次は声がかかった瞬間に…


「あ、じゃあ私清掃委員やりまーす」

「あ!貴方やってくれる?じゃあ決まりね!」


 オオーイ!フライング!審判!ジャッジして!


「えーと…残りは飼育委員ね!えーと委員会は皆やることになってるから誰かがまだ…」


 どうやら相手にフェアプレーの精神はないようだった。

 …敗けた……。俺は力なく敗北の右手を挙げる。まさに白旗だ。


「あ!ルノさんまだだったんだね!じゃあ…ルノさんが飼育委員!これで全員かな!」


 俺の輝かしい小学生ライフが…うっうっ…。

 墓を立てる場所決めとくか…。

 先生が出てくる。


「はーい、じゃあチナツさんありがとうね!おかげでとてもはやく終わったわ!」

「いえいえ!効率良くて何よりです!」


 きっと皆からは模範的な優等生にしか見えないのだろう。俺には先生に取り入ろうとしている悪どい天使に見える。

 このドロボウ猫。いやまぁドロボウされたのはウチの猫なんだが。


「それでは一度、各委員会で顔合わせをしてもらいます。えー体育委員は体育館。図書委員は…」


 そうして教室から次第に人が出て行く。ノクもチナツの後ろを秘書のようについていく。とても軽やかな足取りだ。

 …天使を倒すときに躊躇ったりしないだろうな…。もう既に懐柔されてるような。


 しかしなかなか呼ばれないな。

 ふと横を見るとハルもまだ座っていた。アレ?


「ルノちゃんよろしくね!」

「え?もしかして…」

「そう!私も飼育委員なの!」


 どうしよう。生き物が死ぬかもしれないという圧力に、友人が泣くかもしれないという圧力が重なって最凶に見える。ハルは生き物が死んだら大泣きしそうな気がする。気が重い…。

 というか結局最後まで呼ばれずに俺たちだけ教室に?


 と思っていると先生がこっちに歩いてくる。


「二人ともよろしくね!飼育委員会メンバーはこれで全員だけど…」


 え?俺とハルは顔を見合わせる。

 これで全員って…ここには俺とハルと先生しかいない。


「あ、言ってなかったわね。今年の百合ヶ丘小では六年A組が飼育委員、B組が防災委員って決まってるのよ」


 ちょっと待て。六年A組?

 俺は変に思って聞く。


「せ、先生?六年生だけなんですか?」

 

 明らかに俺たち二人の負担が大きすぎる。逆にB組の負担は小さすぎる。防災委員とかほとんど活動がないようなもんじゃないか!


「実はね…ウチの飼育委員会、今年で終わりなのよ」


 ほぅ?


「どうも動物達の躾が上手くいかないらしくてね…ついに去年とある生徒が骨折させられちゃって」


 ……骨折?

 俺の中の飼育動物のイメージに人間を骨折させる動物は該当しない。


「それでPTAから文句が出て。それで最後の年はできるだけ被害を少なくするために、六年生だけでやることになったのよ」


 恐ろしい貧乏くじを引いたことを目の前で宣言された。

 骨を折る凶暴な動物をどうして二人だけで制御できようか。


「じゃあ二人とも!頑張ってねー!」

「あ、ちょっと先生!先生ーッ!」


 先生は笑顔で職員室に向かって音速で消えていった。

 教室にポツン…と残された俺とハル。



「とりあえず…飼育小屋に行こうか…」

「うん…」


 ハルの返事には覇気がない。

 さっきまでお日様みたいに輝いていたハルの目からハイライトが消えていた。



 ───────────────



 俺たちは正門の反対側、今は使われていないらしい裏門へ向かった。裏門の横に飼育小屋があるらしい。


 お!思ったより飼育小屋は綺麗だ。良かった。そして思ったより遙かに大きい。良くなかった。


「うわぁ!凄い、凄いね!」

「おおー…!」


 だがこれは中々に壮観だ。いったいどこから集めたのか、ペットショップに居そうなものから居なさそうなものまで、実に様々な種類の動物が檻の中に居た。

 これも金のなせるわざなのだろうか。まるで小さな動物園だ。


「でもここに…人の骨を折った動物いるんだよね…」


 ハルが噛みしめるように言う。


「ああ…」


 急に楽しい気分が終わりを告げる。気分は動物園からジャングルの奥地へ早変わりだ。

 二人してゴクリと唾を飲み込む。



「とりあえず…どの動物が怪しそうか見ていこうか」

「う、うん」


 俺の提案にハルが頷く。二人で動物達を刺激しないように近づいてみる。

 まずは…


「ル、ルノちゃん…!絶対あれ!あの子だよ!」

「ん?どれどれ…うぉ!」


 一つの檻の中の太めの幹に捕まって、ものすごく大きくて厳つい鷲がこちらを横目で睨んでいた。

 これはきっと相当なやつだな。多分こいつで…。


(…で…)


 ん?なんか変な声が聞こえるような…。


 あ!そうか!忘れるところだった。俺はクレセントから受け取った能力で動物と会話できるんだったな。

 俺は耳を澄まして聴いてみる。すると。


(可愛いなぁマジで…)


 は?


(いやぁ最高だよホント。いやマジで。俺鷲に生まれてここまで生きてきたけどロリからエサをもらう瞬間がやっぱり最高なんだ…マジで。なんでもっと早く連れて来てくれなかったかなぁ…いやホント)


 ……………。


「ハル。大丈夫だ。多分こいつじゃない」

「え?…そ、そうなの?」


 鷲を放置して俺とハルは次の檻に進む。


「ひっ!」

「おぉこりゃまた…!」


 今度はでっかい狼みたいな奴だ。シベリアンハスキーとか言うんだったかな。

 グルルルと唸ってこちらを睨んでいる。

 今度こそか?


 俺は耳を澄まして聴いてみる。


(うおおお!!今屈んだ時に胸元からなんか見え)


「ハル、こいつじゃないわ。絶対ない」

「う…うん…?」


 俺たちは次の檻に向かう。


 …俺にふと疑念が生まれる。

 ──もしかしてここの檻にはロリコンしかいないのか?

 小学校に来る教師はロリコンが多いとか聞いたけど、飼育されてる動物までロリコンを集めたのか?


 とりあえずこいつらが小学生に暴力を振るうとは思えない。同類の感だ。


「あっ可愛い!」


 どうやら次の檻はウサギのようだった。

 数体のウサギがこちらの方に向かって耳を立てている。

 おお!中々に可愛いじゃないか!もふもふしてて愛らしい。


 ぴょこぴょこと一体のウサギが近づいてくる。


「わー!なんかこっちじっと見てるよ!」


 ハルはテンション高めだ。

 ん?なんかキュウキュウ言ってんな。

 どれどれ…?耳を澄まして…


(…ぶっ殺すぞ…)


 ……………………。



 骨折り犯が見つかった。


次は2/18夜投稿です。

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