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唇の強奪

 しかし…小学生ライフか………。

 俺は輝かしい幼い頃の記憶を探る。

 校庭でこけて味わった砂の味。

 上履きの中に入ったコッペパン。

 消える筆箱。無くなる掃除道具。運動会で流れる「頑張ってください」の声。


 ……あんまりいい思い出がないな。だが!

 俺はファイティングポーズをとる。

 俺は今や美少女!並みの小学生には劣らん!

 頭脳は大人、見た目はロリって感じだ。きっと輝かしい小学生ライフを楽しめるハズ!

 目には燃える闘志。俺は勝つ!


「お〜いルノ〜?」

「ハッ!」


 そういえばクレセントと話している最中だった。

 俺はファイティングポーズを解いて座る。


「ごめんごめん…でなんだっけ?」

「そりゃこっちのセリフだって。お前なんか言いかけてただろ?」


 あぁそうだった。俺はルノに公園での出来事を話しているところだったんだ。


「それでさ、一体何が俺の身体…というかクレセントの身体に起こったんだ?」


 そう言うとクレセントは急にキョトンとした顔になる。


「え?気づいてやってたんじゃなかったのか?」


 気付くって…何にだよ?

 よくわかってない俺はクレセントにさらなる説明を要求した。


「えーとさ、ほら、お前…アタシに触れただろ?」


 たしかにベンチに座ってる時に色々スキンシップをしたが…。


「あれだよ」


 へ?


「あれ…ってどういうことだよ?」

「だーかーらー」


 クレセントが俺の顔の方に腕を伸ばす。そして肉球で唇をぷにっとやると言った。


「口づけだよ」


 く……くちづけ?っていうと…


「それって…キス?キッスのことだよな?」

「な、なんだよ気持ち悪いな…そうだよ」


 ええ?余計わからなくなってきた。

 なんでそれと俺のスーパージャンプと関係が?

 そんな俺を見かねたのか、クレセントがやれやれ、といった感じで立ち上がる。二本足で。


「はぁーしゃあねぇなぁ。一から説明してやる」


 トコトコと二本足でこっちに歩いてきた。カラスと仲良しだったりしないだろうなお前。


「まず私の身体に魂があるだろ?」


 にゃんこハンドで自分を指差すクレセント。


「それが口づけによってお前に渡る」


 そのままにゃんこハンドで俺を指差す。


「以上!」


 ………………。


「クレセント」

「なんだ?」


 俺はため息をついて言う。


「お前バカだろ?」

「なっ…!」


 心底驚いた表情のクレセント。逆にその説明で理解できる奴がいたら教えて欲しいもんだ。


「一番重要なところ。『なんで口づけで魂が移る』のかが

 説明されてないだろ?」


 クレセントはちょっと考えて。


「…あぁ!」


 コ…コイツ…。


「い、いやアタシが別にバカなんじゃないぞ?普段アタシの能力を知らない奴になんかなかなか会わないからさ…いやホントだよ?」


 ふぅーんどうだか。とりあえず能力とやらを説明してもらおうじゃないか。


「ええと…アタシの能力の名前は『強奪(デビルキッス)』。口づけで相手の能力…つまり魂を奪い取るんだよ」


 なんとも恐ろしいな。死の口づけか。


 しかし…強奪と書いてデビルキッスと読む。なんだか既視感がある。たぶん能力を名付けてる奴は相当な奴だろう。うん。


 …ん?ちょっと待てよ?そうなると俺はデビルキッスをずっと持ってたことになるのか?

 クレセントに聞いてみる。


「親父…ソロモンとアタシは特別でな。神に落とされた時に身体と魂をくっつけられたんだってさ。アタシらが転生して持ち前の能力を使われちゃ困るんだろうな」


 つくづく嫌な野郎だ。

 クレセントが続ける。


「しっかしお前がまさかあんなことするなんて…上手く取り入るつもりだったのに下手うったぜ…」


 それでさっきの反応か。キスしたら嫌がられたわけだ。ちょっと安心した。


「まぁそんなところだ。これで分かったか?」


 だいたい理解した。

 クレセントのところにあった魂を俺が『強奪(デビルキッス)』で奪い取ったわけだ。

 つまり…


「このジャンプ力はお前…その黒猫の中にあった魂の能力、ってことか」

「まぁそういうこと。あと、ジャンプ力だけじゃなくて他の身体能力も上がってるぜ」


 おお!マジか!明日試してみなきゃな。

 いやークレセントが魂を…


 …ん?ちょっと待てよ?


「お前さっき魂を天使にとられた〜って…」

「あぁそりゃとられたさ。でも考えてみろよ、天下のクレセント様だぜ?そんな簡単に全部取られるかよ」


 おお!!頼もしいな!

 俺の中のクレセントの下りきっていた株が微かに上がる。


「それでどのくらい残ってるんだ?」

「えーと…まずさっきお前が言ってた身体能力の向上、『梟の系譜(コード・アモン)』だろ?」


 うんうん…なんて?


「コード・アモン。アモンはウチの家臣団の中でも屈指の武闘派なんだぜ?いやーコイツを奪うのにも苦労したぜ…」


 アモン…っていうと悪魔の中でもたしか相当強い奴だったかな。そんな奴からも奪ってきてんのか…。

 てかどうやって奪ってきてんだろう。まさか「能力ちょうだい」なんて言ってくれるわけないしな。


「なぁお前ってどうやって能力奪ってたんだ?」

「え?だから言ったろ?口づけで…」

「いやそうじゃなくて、そこまでどうやって持っていったのかってことだよ」


 俺の質問を聞くとふーむと考えるクレセント。


「どうやって…って言ってもなぁ。なんか悪魔の奴らって私が近づくとやたらとガードが緩くなってさぁ…。特に何にもしなくても奪えちゃうんだよな」


 ………近づくとガードが緩くなる?


「いや〜不思議だったな〜。ちょっと誘い出して薬でも盛ってやろうと思ってたら、変な顔して突っ立ってたりさぁ。中には自分から能力を渡してくるような奴も」


「クレセント」

「ん?」


 もしかして…いやたぶんきっとそうだ。

 俺は疑念を確信に変えるべくクレセントに問いかける。


「もしかして…ノクもそんな感じだった?」

「あ〜!そうそう!ノクの時も皆同じような反応だったぜ!なんかやたらと優しくてさぁ」


「クレセント」

「お?」


 俺は肩に手を置いて言う。


「…現世ではその話、あんまり広めるんじゃないぞ?」

「お、おう…なんだよ急に…」


 これは俺だけの心に留めておくべきことだ。

 決して現世での悪魔の誇り高いイメージを損なってはいけない。

 もしかしたら…いやほぼ確実に『同類』であること。親近感を抱くからこそ、俺は決して他言しないことを心に誓った。


「アモンだけやたらとガードが硬かったんだよなぁ」


 アモンさんはきっと常識人で苦労人だろう。俺は勝手にそんな想像をしていた。


「そんなことより他の魂、聞きたくないのかよ?」


 おお、前の話のインパクトで忘れるところだった。


「そんで他の魂は?」


「ふふーん…今アタシがお前と喋れてるのはなんでだと思う?」


 おお!まさか!?


「そう、そのまさか!『鶫の系譜(コード・カイム)』!これさぇあればなななんと!動物とも会話できちゃうんだぜ!」


 おお!!今なら魂五千年分!

 他のヘンテコ能力も付いてくる!


「え?何言ってんだ?」

「すまんこっちの話。そんで他には?」


「フフフ!そしてそしてぇ!」


 そして!?


 スッとクレセントが立ち上がって後ろを向く。

 ん?どうした?


「………以上になります…」


「……………………え?」


 あの、天下のクレセントさん?


「ちょっこれで終わりッ!?俺もしかしてこれだけで天使と戦うの!?」

「だってさぁ!急だったんだぜ!?いくらアタシだからってそんなに保持できるわけないだろぉ!?」


 逆ギレするクレセント。上がっていた株は一気に下がってもう価値もないに等しい。

 なんかこう『爆発ドカーン』とか『相手は死ぬ』みたいな能力ないのか!?というか…


「もしやお前…猫の身体の方にイイ感じの能力残してるんじゃないだろうな?」

「はぁ?そんなわけないだろ?お前が公園で口づけした分で全部だよ」


 どうだか…しかし確かめる方法もないしな…ん?いや、あるのか!


「おいクレセント…キスするぞキス」

「おいマジかよ!嘘ついてないってホントだよ!」


 俺は有無を言わさずクレセント…黒猫の口に迫る。


「ええ…お前そういう趣味とかあるんじゃないだろうな…」

「そんなわけあるか!俺は生粋の少女趣味だ!」


 生暖かい目を向けてくるクレセントに自分の唇を近づけていく。

 あと十センチ。五センチ。三センチ……。


 ギィ。

「ふぇ…ルノさん…なんか物音がしたとおもっ」





 パタン。

「ノク!違うんだこれは!これには深ぁ〜い訳が!」

「大丈夫ですよルノさん、分かってますから」


 おお、よかった!


「人にはそれぞれ趣味嗜好がありますから。だ、大丈夫ですよ?別に軽蔑したりしませんよ?こう…そういうのを理解し合うのも、また人付き合いって言いますし…」


 あダメだなこれ。



 ───────────────



 その後ノクがドアを開けてくれることはなく、俺は悲しく自分のベッドに戻ろうとしていた。


 あ、そういえば負のオーラみたいなのについて、ノクに聞くつもりだったんだっけ。しかし今はもう聞けそうにないな。

 クレセントでも知ってるかな。


「なぁクレセント」

「ん〜?」


 眠りかけていたクレセントを起こす。


「なんかモヤモヤ〜っとしたオーラみたいなのが見えるんだけどさ…」

「んー?…ああ、それは『強奪(デビルキッス)》固有の能力。魂の量が多い奴から漏れ出るオーラを読み取れるんだ、凄いだろ…ふあぁ…」


 おお!負のオーラじゃなかったのか…そういやノクに対して見えてたし納得だ。


「まぁ魔界だと悪魔だらけでよっぽど役に立たない能力だけど…現世だと十分に使える能力みたいだな〜…」


 確かにこれがあれば、危険な存在から身を隠したり、逆に強奪すべき対象を見つけるのに重宝しそうだ。


「なるほどな、ありがとう…おやすみ」


 尻尾を振って答えるクレセント。随分と馴染んでるな。

 俺も寝よう。そう思い部屋のドアノブを握る。


 …なんか違和感があるような…忘れているような…。


 ま、いっか。今日は寝よう。

 俺は部屋に入り、パタンとドアを閉じた。



 ───────────────



 夜の街を一人の幼女が歩く。

 鼻歌が夜道に響く。


「全部頂いたって思ってたけど…まだ残ってたのね…」


 ニヤリ。幼女らしからぬ笑みを浮かべた。


「フフ…結構楽しめるかも…」


 彼女は、()()を片手に夜の街を往く。

 月に照らされぼんやりと。


 白い翼が浮かびあがった。



次は2/10夜投稿です。

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