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4-12

 その後、クイは、しばらく呆然としていた。

 ぼんやりとした表情は、まるで、ここがどこかも分からないようだったが、クイは、ゆっくり辺りを見回してから、唐突に、

「な!」

と叫んだ。

(な?)

 それは「何をしているんだ、公衆の面前で!」の「な」だったが、そんなことをオレリアスが分かるはずもない。クイは、人前でキスしていたことに気付くと、耳まで赤くなってこの場から逃げ出そうとした。

「待て!」

 オレリアスは、咄嗟にクイの腕をつかんだ。

「どこへ行く?!」

 ついさっきまで、クイを捕まえるために、どれだけ苦労したことか。

 しかし、クイは暴れた。

「いや! 離して!!」

 クイは、つかまれた腕を引き抜こうとした。

「落ち着け!」

 オレリアスは、力づくで床に押さえつけようとした。

 が、その瞬間、クイは、

「離して、変態!!」

と叫んだではないか。

「へ?……へん?」

 今、変態と言ったか?

 一瞬の隙をついて、クイが腕を引き抜いて逃げ出す。

「待て!」

 その瞬間、ゴドウィンがクイのローブのすそをふんだ。

 すると、前進するエネルギーは行き場を失い、クイは足を滑らせて前のめりに倒れ込んだ。

 ゴッ。

 鈍い音がして、クイはそのまま動かなくなった。

「クイ! 大丈夫?!」

 クイに一番に駆け寄ったのは、スフィアだった。

 気絶したクイをひっくり返すと、クイは額に怪我をしていた。触ってみると、大きなたんこぶになりつつある。たんこぶの中央は、紫色に内出血していて、相当強くぶつけたようだ。その色は見るからに痛々しい。

「何てことをするのよ!」

 スフィアが怒鳴りつける。

 が、その矛先は、なぜか、オレリアスの方を向いていた。

「俺じゃないだろ?!」

「あなたが変態だからいけないんでしょ?!」

 隣で、ゴドウィンが「思わず裾を踏んでしまって、申し訳ありません。」と謝っていたが、そんなこと、二人の耳には入っていなかった。

「どこが変態だ!」

「クイにそういうことをしたんでしょ?!」

「俺は何もしていない!」

 だが、本当は何もしていない訳でもないので、語尾が少し泳いだ。それをスフィアが「それ見たことか」とばかりに責め立てる。

「ほらごらん、最低ね!」

「何だと! お前こそ、クイに変な事吹き込みやがって!」

「別に本当の事でしょ?!」


 お決まりのののしり合いが始まって、兵たちは帰り支度を始めた。

「姫さんが、見つかってよかったな~。」

「ああ。面白いものも見られたし。」

「今日は酒が美味そうだ。」

 ウテリア領は、今日も一日、平和に終わった。

 そして、事の顛末は、一晩で領内を駆け抜けたのだった。


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