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このころ、軍将オレリアスは、詰め所の一階にいた。
普段は何もない広々としたホールだが、今はクイ捜索の本部が置かれていて、多くの兵たちが情報の収集にあたっている。
オレリアスは、その光景を眺めながら腕組みをして座っていた。
領外へ続く街道は既に封鎖してある。非番の兵をできるかぎり召集して、人海戦術で捜索をしている。なのに、クイはなかなか発見できなかった。もしかしたら、逃げたのではなく、どこかに隠れているのか。あるいは、誰かに連れ去られてしまったのか。しかし、それを推測しようにも、クイの目撃情報はほとんど上がってこなかった。
(……一体、どこに行ってしまったんだ。)
これ以上見つからないようなら、外界にも捜索範囲を広げた方がいいかもしれない。だが、あのムンガリに乗っていた男に連れ去られたなら、もう追いつくまい。夜の外界の捜索は危険を伴うだけに、それを見極めるのが難しい。
そこに突然、スフィアが、不機嫌そうな顔で入ってきた。
スフィアは、開口一番、
「何か、したのね。」
と、オレリアスに言った。
スフィアの鋭い目。
この勘の良さ。
「……う……。」
オレリアスは、ぐっと息をのみこむように頷いた。
(ああ、これだから、女というものは恐ろしい。)
途端、スフィアは、クワッと目を見開いた。その視線ビームは、もう、殺傷能力があると言っていい。
「……うぅ。」
一応、軍将に仕える兵長として、黙々と働く兵たちの前では罵ったりはしなかったが、それでも、スフィアの目は、雄弁にオレリアスをなじっていた。
“ああ、これだから男は嫌なのよ。どうせ、「今日も三日後も同じこと。」とか何とか言って、結婚式を待たずにクイを傷つけたんでしょ?”
大方当たっているだけに、返す言葉も見つからない。
“本当に男って最低ね!“
聞き慣れたセリフが、幻聴なのにハッキリと聞こえてくる。
「……。」
オレリアスは、無言の責め苦に目を伏せた。
今はただ、クイが見つかるのを祈る事しかできない。
程なく、
「軍将、見つかりました。」
と、クイ発見の報が入った。
「いたか?!」
「はい。」
「どこに?」
兵が机上の地図に近づいたので、オレリアスも、それを覗き込んだ。
「ここです。」
兵が指差したその場所は、中心街から、かなり離れていた。
それは、障壁の近くの農道で、ちょうど今日罠を張っていた場所にとても近い。
(……まさか、こんなところまで。)
今日たまたま通ったので、それが、どれだけ遠いか実感できる。
「一人か?」
「はい。我々が発見したとき、クイ姫は農道の脇に立っていました。」
「農道? ……様子は?」
「落ち着いています。こちらの呼びかけにも素直に応じていて、抵抗する様子もありません。」
オレリアスは、それらを想像して唸った。
これほどの距離を、人目を避けながら逃げ続けたクイ。暗い夜道を一人きり、どれほど心細い思いをしたことだろう。しかも、すでに街道は封鎖されていたはずだ。やっとのことで、たどりついた最東端の地で、故郷アムイリア領への道を閉ざされ、クイは、一体、何を思っただろう。
(可哀想に……。)
きっと、クイは今、深い絶望の底にいる。




