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4-8

 思いの他、雨は早くあがった。

 雲の切れ間から星が瞬きはじめ、地表の水溜りの中にも、その光が映っている。

 オレリアスは、会議室の窓から外を眺めて、

(クイ姫の涙も、やんでくれるといいのだが。)

と、ため息をついた。

 クイは、すでに護衛の兵たちと館に戻っている。

 兵長たちの前で「クイ姫のそばに付く。」と言っておきながら、護衛の兵にクイを任せ、会議室に居座り続けて、もう一時間。

 さすがに観念したオレリアスは、完全に日が沈んだのを見て、重い腰を上げた。

(さて、謝りに行くか。)

 しかし、何と切り出していいものか。


 結局、オレリアスは、花を買うことにした。

 花を嫌いな女性はいないだろうという安直な考えだったのだが、花屋の主人が気を利かせすぎて、それは大きすぎる花束になった。

(……しまったな。……一本だけにすればよかった。)

 案の定、館に戻ると、護衛の兵たちがオレリアスをからかってきた。

「軍将、プロポーズですか?」

「……。」

 違うと言いたかったが、オレリアスは、それをのみ込んで二階に上がった。

 クイの部屋の前には、二人の護衛兵が立っている。

「あれ? 軍将、もしかして、入られます?」

 オレリアスが黙って頷くと、二人の兵は、困ったように顔を合わせた。

「あの~、姫さんは、もう休まれていらっしゃいますが……。」

「休む?! まだ日が暮れたばかりじゃないか?」

「はぁ、そう言われましても、部屋に戻られてすぐ「疲れたから休みます。」って、それっきり……。」

 オレリアスは、クイの部屋の扉の前で足を止めた。

 常識的に考えて、就寝後の未婚の女性の部屋に男性が入っていいわけがない。

「で、入られますか?」

 せかされるように問われて、オレリアスは唸った。

「……、……入る。」

 途端、兵たちはニヤリと笑った。

「じゃ、俺たちは一階にいますんで、用があったら呼んでください。」

「どうぞ、ごゆっくり~。」

 オレリアスは、

(何が「どうぞ、ごゆっくり~。」だ!)

と言い返したかったが、それを我慢して、黙って彼らを見送った。

 今は、冷静に彼女と向き合わなければならない。


 誰もいなくなった扉の前で、オレリアスは、ふうと息を吐いた。

「クイ姫。」

 優しく呼びかけて、ノックを重ねる。

「私だ、オレリアスだ。」

 しかし、いくら待っても返事がこない。

 耳をそばだてても、物音ひとつ聞こえない。

 オレリアスは、少し迷ってから、そっと扉を開けてみた。

「クイ姫、入るよ。」

 部屋は、真っ暗だった。

 明かりは消されていて、カーテン越しの月明かりだけが、ほのかに部屋を照らしている。オレリアスは、目を慣らしながら部屋の中に入った。もとは自分の部屋だったため、どこかにぶつかる心配はない。

「クイ姫、寝ているのかい?」

 オレリアスは、ソファのそばで立ち止まって、花束を下した。

「すまないが、こちらに来てもらえないだろうか。どうしても今、君と話がしたいんだ。」

 しばらく待ってみたが、反応がない。

 オレリアスは、仕方なく、机の上に会った燭台に火をつけた。

「クイ姫、頼むよ。」

 揺らめく炎に部屋が照らされ、窓の月明かりが消え失せる。

 すると、ベッドの中に、クイらしきかたまりが見えた。

「少しだけ、起きてくれないか。私に謝るチャンスを与えてほしい。」

 しかし、頭まで布団にくるまったクイは、少しも動いてくれない。

(寝たふりをし続けるつもりなのだろうか。)

 こんな早い時間から、眠れるはずもないのに。

 悩んだ末、オレリアスは、クイのいるベッドに近づいた。

「クイ姫、お願いだ。声を聞かせてくれ。」

 オレリアスは、手を伸ばしても届かない距離を残して、ベッドの端に腰を下ろした。

「クイ姫。」

 冷たいシーツの感触。

 それは、まるでクイの冷たい態度そのもので、オレリアスは、

(もう、口をきかないつもりだろうか。)

と、深くため息をついた。

 本当は、何か言ってほしかった。優しい言葉でなくても、冷たい叱責であったとしても、クイの声が聞きたかった。そして、話がしたかった。もっと彼女を知りたかった。それに、ずっと後でかまわないから、もっと自分の事を知ってもらいたかった。

 しかし。

「!?」

 不審に思ったオレリアスがバッと布団を引き剥がすと、そこには、人の大きさに丸められた布団しかなかった。

「クイ姫!?」

 オレリアスは、慌てて周りを見回した。陰になっているところや、人がもぐりこめそうな場所、バルコニーの外や、その周辺まで。しかし、いくらオレリアスが探しても、この部屋にいるはずのクイの姿は見つけられない!

「クイ姫! どこだ?! どこにいるんだ?!!」

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