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数時間後、オレリアスたちは、ウテリア領に戻った。
外界で夜を明かす予定だったので、領内の兵たちが何事かと集まってきたが、オレリアスたちは、罠の道具を背負ったまま黙っている。そのうち、兵たちを割って、青い顔のスフィアがとび出してきた。
「どうしたの?!」
問われても、説明する言葉が見つからない。何か言おうにも、腹立たしさが先に出る。
オレリアスは、仕方なく、会議室を指差した。
詳しいことは会議室で説明する、という意味だ。
だが、オレリアスは、そこに行くまでに、この腹立たしさを飲み込んでおかなければならなかった。十対一で逃げられた、その事実が未だにオレリアスの内臓を焼いている。
会議室は、詰め所の二階にある。
会議室といっても、いつも三人で会議をしていたので、ほとんどの机と椅子は壁際に寄せてある。オレリアスは、いつもの椅子を引きよせて腰を下ろすと、長く息をはいた。気持ちの整理がつくまで時間がほしかったが、スフィアは、オレリアスの言葉を今かと待っていたし、ゴドウィンも、オレリアスの代わりに説明する気はないらしい。
「……あのな。」
オレリアスは、最大限、気持ちを抑えて、
「……逃げられた。」
と明かした。
「え?」
夜中に行動しているはずの男が、今日は昼間に現れた。そして、この人数から逃げることができたということは。
「何人いたの?」
当然の問いに、オレリアスは首を振った。
「いや、俺たちが見たのは、一人だけだ。」
「一人?!」
「ああ、だが、ムンガリに乗っていた。」
「え? ムンガリ?」
スフィアは、意味がわからない様子で、ゴドウィンの顔を見た。ゴドウィンもまた、言葉にはしないが、「見た。」という目で頷いている。
「……ねえ、それって、本当に人間なの?」
通説によれば、魔獣と人とは相容れないらしい。かつて、魔獣をなつかせようとした人間がいたらしいが、それが成功した例は一つもない。
「さあな。人型の魔獣がいたなら、あの男は魔獣なんだろう。」
そうだったら、どれほどよかったか。
「だが、あいつは人間だ。」
服を着て剣を使う魔獣など、いるはずもない。
「俺は、あいつは、アムイリア領の人間だと思っている。」
オレリアスの考えに、スフィアは眉間にしわを寄せた。
「間違いないの?」
「ああ、少なくとも、俺はそう確信している。」
あの男の服も、あの男の目の色も、そうとしか考えられないことが多すぎる。
オレリアスは、スフィアに剣を差し出すと、
「この剣の出所を洗ってくれ。」
と頼んだ。
「何これ?」
「あの男が投げてきた剣だ。」
「投げてきた?」
それは、明らかに量産型の剣だったが、他に手がかりはない。
「それから、ゴドウィン。」
オレリアスは、小さく息を吐いてから立ち上がった。
「しばらくウテリア領軍の指揮を預かってくれ。俺はこれから、クイ姫のそばにつく。」
「分かりました。」
二人の兵長が頷くと、当面の対策は決まった。
「クイ姫は?」
オレリアスが問いかけると、スフィアは、
「クイなら、まだ社にいるわ。」
と答えた。
「そうか。」
クイの居所がハッキリしただけで、こんなにも気持ちが和らぐ。
「ありがとう。」
オレリアスは、スフィアに礼を言うと、そのまま会議室を後にした。
いずれ、自分は、あの男と戦う事になるだろう。そのとき、クイとウテリア領の両方を守ることができるのか。オレリアスは、その方法を考えながら、クイの待つ社へと向かった。




