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第16話 新撰組の刀狩り

【元治元年 五月十六日】


「力さん!松原!また付き合ってくれ!」


「はいよ!例のやつやるか?」


勘吾は隊士数名で変わった稽古をしていた。土方に


「お前等、何やってんだ?」


と聞かれると勘吾は


「塀や二階から飛び降りてくる奴らを仕留める稽古です。」


と話し、土方は


「ほお、中々考えてるな。面白い。万太郎も一緒か?」


と新入隊士の谷万太郎や新田、松本も勘吾達文久組と混ざって実戦形式の工夫された稽古を行っていた。それを見ていた斎藤が


「・・・あの時の死番の復習か。なら俺が上から飛び降りる役をやってやろう。」


と珍しく輪の中に入るが、軍学師範の武田に


「だめだ!だめだ!全然なってない!もっとこうするんだ!」


と彼らを否定するが、斎藤に


「・・・あんた死番の時後ろから指示出してるだけで全然動かねえだろ?こいつらの方がマシだ。こいつらはあんたと違って京での実戦経験豊富だからな。講釈は結果出してから言えよ。」


と隊士の前でばらされ


「普段口も開かん奴がべらべら喋りやがって!」


と怒りだし、松本に


「あんた軍学師範なんだろ?やって見せろよ。」


と同期入隊の平隊士にも舐められる始末。そして傷が大分良くなった馬越も


「良かったらご一緒に・・・」


と誘われるが、格好悪い所を見せられた武田は怒って八木邸に引っ込んでいった。


「何だあいつ?何であんな奴が助勤になれるんだ?」


と不思議がる隊士達に土方が


「近藤さんはああいう奴に弱いんだよ。根が素直だからな。」


と説明すると藤堂が


「つまり狢になってしまったって事さ。上に立ってしまうとああなるもんさ。」


と溜め息を付く。この藤堂は戦国武将・丹羽長秀の三男で藤堂高虎の養子、藤堂高吉の子孫で、大身旗本五千石の藤堂家の生まれ、父の藤堂高猷は顔も見たこともないが落胤の証拠に「上総介兼重」という大変高級な刀を腰に下げている。だがこの藤堂は助勤の中でも一番死番を買って出る


「魁先生」


という渾名で親しまれており、藤堂も


「戦わなきゃ刀が泣くだろ。私の場合この刀に見合うくらい働かないと示しがつかないんだ。誰かの上なんてなるもんじゃない。誰かの前に立ってこそ武士だろ?私はそうありたいだけなんだ。」


と偉ぶる様子もなく説得力のある言葉に勘吾達平隊士は思わず拍手をしていた。


 一方その頃、八木邸に逃げた武田だったが、近藤が谷三十郎が周平と一緒に


「我が弟を先生の養子にしませんか?」


と話しているのに聞き耳を立てていた。三十郎は


「先生は御子息がおらぬと聞きましたので、是非我が弟を養子に迎えてくれてはござらぬか?」


と話していた。近藤は周平を睨み


「御主はどうなんだ?」


と尋ねると周平が


「あ、いや、その・・・兄上が無理なことをおっしゃいまして・・・」


とはっきりしない様子。武田が盗み聞きしている所に沖田と山南がある新入隊士と共にやって来て


「おい、お前今稽古の時間だろ?こんな所で何してやがる?」


「永倉君も原田君も稽古してるだろう?君と同じ助勤になった松原君も安藤君も励んでおるのだぞ?あれは実戦を想定した稽古じゃないのか?君が指導したのか?」


と山南が尋ねると武田が咄嗟に


「そうなんですよ!私の学んだ甲州流軍学にある・・・」


と話そうとするが沖田に


「どうでもいいから稽古に戻れ。こないだの死番でおめえ全く動かなかったそうだな?ちゃんと耳に入ってるぞ。動くのはその口だけか?」


と図星を突かれ


「は、はい!ただいま!」


と慌てて稽古場へ戻るも、完全に蚊帳の外に置かれていた。それでも遠くから


「違う!違う!そっちだ!」


と誰にも相手にされる事もなく後ろで威張り散らすのを見て沖田は


「・・・何やってんだ?あいつ。全くかみ合ってねえぞ?」


と不思議がる。山南が


「それより沖田君。早く近藤さんと土方君に・・・」


と連れていた新入隊士に土方を呼ぶよう伝える。彼は中島登という隊士で、土方と山南の命で滅多に公に出ないが


「新撰組で一番忙しい隊士」


と呼ばれる別動隊士である。その中島から報告が入った。


「大坂西奉行所与力・内山彦次郎が足利屋等の商人と結託して米を買い占め、暴利を貪っている。先の大坂角力での相撲との乱闘騒ぎの一件を裁いたあいつですよ。」


という情報を聞いた土方は


「あの野郎か・・・勝っちゃん。ここは俺らと助勤で懲らしめよう。奴は新撰組に泥を塗った奴だ。示しが付かん。」


だが近藤は


「隊士を選ばせてくれ。おい、周平。お前も来い。」


と言って近藤が呼んだのは沖田、永倉、原田、井上、島田、山崎、そして勘吾も呼ばれた。


「島田と山崎は先に大坂に入って情報を集めろ。」


すると沖田が


「蟻通は?」


と聞くと土方が


「あいつは鼻が利く。こういう時に適任だろ。」


と簡単に言ってのけた。土方と勘吾は既に強い信頼関係で結ばれていたのだ。


【元治元年 五月二十日】


 大坂に入った八人は、先に探索に行っていた島田から


「今大坂では米価が高騰し民衆が困窮しているそうです。その値を釣り上げているのが与力の内山彦次郎。」


更に山崎も


「大坂に潜伏する長州藩等の尊王攘夷派の過激派浪士達を密かに庇護しらはって、わてら新撰組の動向を奴らに漏らしていらはるそうでっせ。それと志士達に資金や武器を提供していたという噂もありますさかいに・・・」


と新情報も掴んだ。あの大坂角力事件の当事者である沖田や永倉、原田、井上は


「大坂角力での相撲との事件といい、内山は俺達新撰組に対して喧嘩を売ってるようにしか見えん!」


「あの時も過剰に厳しい態度で取り調べを行って、俺達新撰組に非があるって処罰しようとしてたからな。」


「近藤さんと小野川部屋の親方が無礼講で沙汰止みにしようとしたのに、内山だけは最後まで手を引かず捜査を続けてたよな?」


「儂等のこと田舎侍呼ばわりしとったな?」


と恨み節を話しているが、土方に


「奴は相当の手練れだ。大塩平八郎の乱も奴が鎮めた。最も裏切りだがな。油断するな。ここは・・・」


と戦術を練る。そして土方が


「島田、山崎。奴の帰路はわかってるな。お前等二人で待ち伏せしてこの天神橋におびき出せ。残りは天神橋付近に隠れて一斉に斬りかかるぞ。それと蟻通。お前は・・・」


と相談し、一同天神橋付近に潜んだ。


 内山は駕籠に乗って護衛に剣客二人と力士二人を引き連れていたが、帰路を待ち伏せしながら上手く天神橋におびき寄せた大きい体躯の島田と山崎を見てその四人は逃げだし、そのまま島田と山崎が後ろを包囲し、前方に近藤、土方、周平が立ち塞がり、側を沖田、永倉、原田、井上が包囲する。その時勘吾は・・・


 内山はこの大坂では非常に優秀で骨のある与力だったが、尊皇攘夷運動を巡って新撰組と激しく対立していた為


「この田舎侍共が!まだ懲りんのか?尊王攘夷派への取り締まりは我が譜代御家人の儂がいる奉行所が取り締まる!貴様等なぞこの町に入らぬ!多摩の田舎へ帰れい!」


と高圧的な態度と新撰組を真っ向から否定する発言をしながら刀を抜こうとすると、土方が


「出番だ!新撰組の刀狩り!」


という一声から天神橋の欄干に縄でぶら下がっていた勘吾が突如内山の目の前に現れ刀を奪い


「二本頂き!橋と言えばこの蟻通勘吾の出番だ!橋は俺の庭みたいなもんでね。けっ!こいつどっちも無銘の刀だ!」


と言いながら内山の刀を奪うと勘吾は素早く欄干の下に戻ると、丸腰の内山に一斉に襲いかかり、壮絶な乱刀を浴びて沖田の一太刀を交わしたが


「大坂西奉行所与力・内山彦次郎!幕府の役人の皮をかぶった裏切り者め!天誅致す!」


と言い放つ近藤に平晴眼の突きに刺され、天神橋の上で命を落とす。だが遠くから気配を感じた勘吾は


「誰か来ます。長居は無用ですよ。」


と話すと近藤は紙の端に


「天下の義士之を誅す」


と書いた神を内山の死体の胸の上に置き、一同は姿を眩ました。


 その後、京都へ戻ってから内山暗殺の次第を詳しくしたため


「士風振興のため内山を改易せしめられるべく候」


と付記して老中の門前に貼り札する。後にこれが新撰組の所行と知れ、大坂の庶民は大いに喜んた。この事件により、新撰組は大坂の奉行所側を威圧し、大坂における独自の警察権力をさらに強固なものにしていった。そして、この僅か十五日後、京都にて歴史を揺るがす大事件を起こすことになる。


讃岐では渡ることの許されない橋で刀狩りをしていましたが、今回は普通の橋で戦った為、勘吾のやりたかった武蔵坊弁慶の刀狩りを書くことが出来ました。止めは上の人に譲るというのが平隊士であり続けた勘吾らしい一面です

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