専門用語登場(2)
二ヶ月に及ぶ療養――その実態は、情報漏洩を防ぐための完全な監禁生活に、ようやく終わりが告げられる。
季節は九月になっていた。
この二ヶ月、何もしていなかったわけではない。
未知なる力について自分なりの仮説を立てて実験する日々。ベッドの上で、体内の未知の力を自在に動かせるよう何度も訓練した。
そのおかげで、自分なりの基礎が出来上がっていた。
『ピッ』
電子ロックが解錠される、聞き慣れた音が室内に響く。
入ってきたのは、あの黒スーツの政府の男だった。
「終わりですか?」
ベッドの上に胡座をかいたまま、俺は少し嘲るような笑みを浮かべて問いかけた。
男は手にした資料に目を落としたまま、近くのパイプ椅子に腰を掛ける。
「今日をもって、鈴木様の自由行動を認めます。自宅に帰っていただいて構いません」
淡々と、事務的な声が響く。
「ですが、経過観察と安全確保のため、外出中は政府の人間を一人、同行させていただきます」
その声には、二ヶ月前にはなかった微かな「警戒」が混ざっていた。
国ですらまだ全貌の掴めていない未知の力。
彼らが俺を『危険分子候補』として扱っているのは、俺でもなんとなく察しがついた。
「いいですよ。で、学校にもついてくるんですか? というか、俺の高校受験はどうなるんです?」
俺の質問に対し、男は自分で答えず、後ろに控えていた人物に声をかけた。
ここからは自分の管轄外だ、と言わんばかりの態度だ。
代わりに一歩前に出たのは、一人の女性だった。
当然、彼女も政府の人間なのだろう。
だが男とは違い、少しラフなオフィスカジュアルに身を包んでいる。
小柄で童顔、可愛い系の人だ。
「……本日より、鈴木様の外出中のお世話を担当させていただきます、田村と申します」
どこかぎこちなく、かしこまった様子でお辞儀をする。
まだ現場に慣れていない新人のようだ。
(なんか可愛い系の人が来たな)
心の中でガッツポーズをしつつ、
「よろしくお願いします」
と、愛想よく微笑み返した。
挨拶を済ませた後、その田村さんから今後の詳細な説明を受けることになった。
彼女はさっきの質問に答えるように、資料をめくる。
「まず、通常の学校生活への同行はいたしません。明日からは以前通り、通常の中学校へ通っていただけます」
「ただ……高校進学については、各国が新設した特別な学校へ進学していただくことになります。全寮制です」
差し出された資料の頭には、物々しいフォントでその学校の全貌が書かれていた。
――国際リアクター育成高等専門学校。
「五年制の高専です。カリキュラムの中には、一般教養のほかに『魔力』についての講義や実技訓練が含まれます」
田村さんは、今現在の段階では世間に一切公表されていない国家機密を、一気に並べ立てていく。
身体能力を上げる力を新器官から観測し、その力の正式名称が『魔力』、あの新器官の正式名称が『魔力炉』に決定したこと。
その保持者を『リアクター』と呼ぶこと。
人間の枠を超えた力を持つ二人の『超越者』が存在すること。
そして、これらすべての真実を、来年――二〇二七年には世界へ全面公表するということ。
「学校の目的は、危険な力が暴走した際の即時対処、および同じ境遇の若者を集めることによる精神的ケアです。」
「各国の莫大な国家予算が注ぎ込まれており、設備や環境は国内のあらゆる高校を圧倒しています。場所は太平洋の真ん中に建設された、巨大な人工島の隔離学園都市です」
表向きは保護と安心。
だが裏を返せば、一箇所に集めて一網打尽にできるようにするための「隔離」であり、「管理」だ。
どうせ拒否権などなく、強制入学なのだろう。
だが、不満は一切なかった。
むしろ、これ以上ない最高の環境だ。
自分以外のリアクターと出会えれば、魔力の可能性の幅をさらに広げられる。
それに、実験で異常値を叩き出したという『超越者』を間近で観察できるチャンスだ。
「ここにサインをいただければ、入学の手続きは確定します。一旦ご自宅に帰宅されて、親御さんと相談した上で結論を出してください」
田村さんは、ベッドの上にサイン用の書類を置いた。
俺は素直に頷き、二ヶ月ぶりに病院の外へと一歩を踏み出した。
一歩、外の空気を吸った瞬間、視界が爆発するように鮮やかに色づいた。
つい二ヶ月前までは、何の変哲もない、退屈で平凡な世界だったはずなのに。
超越者か……。
正直、俺の頭じゃ世界がどうなるとか、国がどう動くかなんて難しいことはよくわからない。
だけど、一つだけ確かなことがある。
――俺は、誰よりも、何よりも強くなりたい。
誰かに搾取されるのは御免だ。
強くなれる環境があるなら何だっていい。
使えるものはすべて使う。
俺は、未来への希望と、胸の奥で煮え立つような強さへの渇望を抱え、ゆっくりと歩き出した。




