プロローグ
初心者です。
出してみたいなーと思っただけですが気に入られてくれれば幸いです。
2026年5月。
太陽系第三惑星・地球は、ある日を境に転換期を迎える。
発端は、アメリカの著名な大富豪の子供が、のたうち回るような激痛を訴えて聖ルカ病院に担ぎ込まれたことだった。
世界最高峰の医療チームがあの手この手で原因を探るが、一向に掴めない。
奇妙なことに、血液検査も細胞組織も「完全なる健康体」を示しているのに、彼だけが絶叫を上げ続けているのだ。
現代医学の常識は、最初の時点で早くも通用しなくなっていた。
だが一週間後、その激痛は嘘のように消失する。
医師たちが彼の体を隅々まで再検査した結果、恐るべき事実が発覚した。
彼の体内、心臓のすぐ裏側に、人類の歴史上、一度も観測されたことのない「未知の器官」が形成されていたのだ。
驚愕が冷め止むうちに、奇妙な現象は連鎖する。
同じ激痛を訴える患者が、アメリカ、欧州、アジアと、世界中で同時多発的に現れ始めた。
異変から一ヶ月後の六月。
アメリカの先進科学研究チームは、この奇妙な器官の全貌を暴くため、新器官を持つ人々を被験者として極秘裏に集め、大規模な実証実験を開始した。
防壁と各種センサーに囲まれた広大な実験施設で、実験は開始される。
様々な実験を行い、最初のデータは研究者たちの想定の範囲内に見えた。
だが、身体能力テストにて被験者たち全員が驚異的な身体能力を見せた。
それは「オリンピックの金メダリスト」級。
人類の限界値の最上級ではあるものの、既存の科学データで測れる枠組みを大きく超えるものではなかった。
だが、その中に「例外」が二人だけ存在した。
研究者たちが最初に息を呑んだのは、ある一人の身体能力テストだった。
彼が軽く床を蹴る。
その瞬間、ハイスピードカメラを置き去りにして三階のテラスへと垂直に飛び上がった。
さらに軽く拳を振るうと、分厚いコンクリート壁を文字通り粉々に粉砕したのだ。
人間の肉体強度を完全に逸脱した、圧倒的な「力」。
しかし、研究者たちが真に戦慄したのは、もう一人の被験者が行ったテストだった。
そこでは、時速三百キロでランダムに射出されるテニスボールの群れ。
並の人間なら認識すらできず、ましてやそれらを見切ることなど到底不可能な空間。
だが、その被験者は微動だにせず、ただ「目」を動かしていた。
魔力によって脳の視覚処理速度が極限まで引き上げられたその目は、超高速の世界をまるでスローモーションのように捉えていたのだ。
彼は最小限の動きで、すべてのボールを素手でキャッチしてみせた。
他の被験者たちにも「伸びしろ」は感じられた。
だが、この二人だけは完全に別の次元へ至っていた。
研究者たちは畏怖を込め、人間の枠を逸脱したこの二人のような存在を、仮称として『超越者』と呼んだ。
彼らの身体能力や脳の処理速度は、新器官によってもたらされたエネルギーの恩恵だと考えられた。
研究者たちは、かつて空想の産物として描かれた漫画や小説の記述にちなみ、これを――『魔力』と、新器官を『魔力炉』と命名した。
この未知の力の隠蔽と管理のため、アメリカをはじめとする世界各国の首脳、および専門知識を持つ特使たちが極秘裏に集まり、人類の命運を決める国際会議が発足した。
そこで新たに共有されたのは、ある事実だった。
――『魔力炉』が発現するのは、肉体も細胞も若い、特定の少年少女のみであるということ。
世界のパワーバランスが「若者」へとシフトする悪夢。
破滅的な内乱や、魔力を兵器利用した第四次世界大戦の勃発を恐れた国家間により、以下の「密約」が交わされた。
・2027年までの一年間、魔力の存在を世間から完全に隠蔽すること。
・その期間内に、魔力炉を持つ若者を国が設立した特殊施設へと強制的に集めること。
・魔力を使った兵器研究はしないこと。
表向きは教育と保護。
だがその実態は、魔力炉を持つ者の隔離であり、実験と記録のための収容であった。
国家の威信と人類の秩序を守るため、絶対の不戦と管理が世界中で誓われたのだ。
そして――。
2027年まで、あと僅か。




