変わらない日常(3)
いつもと変わらない日差し、今日は少し曇りだった。
下の階から話し声が聞こえる。
奏多は起き上がるといつも通りリビングに行く。
「紫苑ちゃん、これ持っていってもらえる?」
「わかりました。」
「ありがとう、紫苑さん。」
「いや、どういう状況?」
奏多は母親と紫苑が一緒に料理を作って、父親に振る舞っているこの状況に疑問を持った。
「いえ、泊まらせていただくわけですしこのくらいはやらせてください。」
奏多は固まった。元々動いていたわけではいのだがその場に固まったのだ。
「聞き間違いか?今、泊まるって聞こえたような気がするんだけど。」
「それにしても、嬉しいわ。また、泊まりに来てくれるなんて。いつも通りあまり賑やかじゃないけれど、気にせず過ごして良いからね。」
「ありがとうございます。お世話になります。」
「気のせいじゃなかった....。」
そう話しながらテキパキと食事を準備していく、紫苑と母親の姿を見て奏多はソーファーに寝転がる。
「ま、泊まるってことはしばらくの間紫苑の顔を家の中で見られるわけだし俺としても気が楽だから良いんだけどな。」
奏多はそんなことを言いながらいつもの調子で天井を見上げる。
ダイニングの方では紫苑と親の話声がしていて奏多のいるリビングの方は静かだった。
いや、リビングとダイニングは場所の大差がないので結局同じ空間で声は響いているのだが、自分のことに気づいていないこの状況ではリンビングとダイニングに境界線でも張られているんじゃないかと思うほどだった。
「....」
奏多は話し声をBGMにして軽く目を瞑る。こういう時よく思うことがある、それはこの時間がもっと続けばいいのになということだ。そしてたまに自分を題した話で急に振られしどろもどろしたり、自分から混ざって軽い自分語りをしてみたりする。そんな当たり前な時間を過ごしたいなと思うだけで、いまの奏多からするとただ恋しいだけの何者でもなかった。
「そうだ、紫苑ちゃん。今日のお夕飯は何がいいかしら。」
「そうですね、お義母さんの手料理はなんでも美味しいので悩んでしまいます。」
「あら、嬉しいわ。なんでも作っちゃうわよ。」
時間帯的にお昼の時間ではあるのだが、昼食を食べながら夕飯の話をする光景に奏多は何もいえなくなる。
結局死人に口無しの状態で口を挟めないのでとやかくは言わないのだが奏多が苦笑していると紫苑が、「...魚の煮付けが食べたいです。」と悩んだ末に出した答えを言う。
「わかったわ。じゃあ良さそうなお魚買ってくるわね。」
「私も行きます。」
「ありがとう。でも大丈夫よ、私たちに任せてね。」
「いや、でも...。」
「そうだね、紫苑さんの気持ちもわかるけれどね。紫苑さんはお客様でもあるからね、ここは僕たちに任せてくれないかな。」
紫苑は申し訳なさそうな顔をするが、奏多の両親は頑なに引こうとしなかったので、紫苑はお礼を行って身を引いた。
昼食を食べ終え片付けを終えた奏多の両親はスーパーまで行ってしまい。家に残された紫苑は奏多の部屋まで移動していた。
「当たり前のように俺の部屋を使うのね。」
紫苑からの返事は返ってこないが、普通に会話できた時なら「何を当たり前のこと言っているの」と返されただろう。
紫苑は少し大きめの鞄の中からノートを取り出すと、そこに何か記載していく。
奏多は何を書いているのか気になりはしたがのぞきの趣味がないので無理やり見ることなく、傍で紫苑の横顔を見続けた。
少し照れたような顔をしている気がするがそんな些細なことは気にならない。
特等席で彼女の顔を見ていられるのだ。キモいかも知れないし、当然のように引かれるだろうが言ってしまえば奏多に失うものはないのでいつも通りの感覚で紫苑を見る。
「さてと、こんな感じでいいかな。....、でもやっぱり奏多が用意してくれて、お義母さんも使ってって言ってくださったし、このチケットは使った方がいいわよね...。」
紫苑はノートに書くのを一度やめると、鞄から紙切れを取り出しながら言った。その紙切れはよく見てみると、確かに俺が用意したテーマパークのチケットだった。
奏多はそういえば、前回母がチケットを渡していたなと思い出す。そのチケット自体は確かに紫苑が使ってくれて構わないと思っている奏多だが、流石に1人で行かせるのは申し訳ないと思った。
前回の水族館ですらあんな感じだったのだ、家族連れや学生カップルなんかが集まりやすいテーマパークなんて望んで1人で行かない限りかなりキツイものがあるだろう。
別にダメだとか、やめたほうがいいとかそう言う話ではなく、自分も誰かと来られたらなとか、本当だったら一緒に来る人がいたのになとか思うと精神的心のダメージがあるだろうと言うことだ。
紫苑はまたペンを持つといくつか線を引いて、また何かを記入した。
記入した文字は見えていたが奏多は見て見ぬふりをした。
その日の夜、紫苑はお風呂から出たあと奏多の部屋からベランダに出ると星空を見ていた。
今日の夜は珍しく冷たい風が吹いていた。
「そろそろ、ちゃんと言うべきよね.....。ほんと、許さないあわよバカッ.....。」
誰が聞いているわけでもない、この場に自分しかいないのを確認しているからこそつける悪態だった。
紫苑はポケットの中からスマホを取り出して画面をつける。
パスコードを入力してホーム画面を開くとそこにはいつもと変わらない奏多がいて、こちらに視線を向けている。
紫苑はその写真を見てしばらくするとスマホの上部を自分の額に当てて動かなくなる。
「バカッ.....。」
そう溢した紫苑は、流石に冷えてきた体を少し摩りながら部屋の中に戻る。
寝る準備を整えると、部屋の電気を消して横になる。
青白い月光がカーテンの隙間から覗いていたが、それに背を向けるようにして眠りについた。
誤字脱字ありましたら教えていただけると幸いです。




